明奈「とりあえず座りなさい」
熊澤「はい・・・」
明奈「これは何かしら?」
ハーメルンの作者のページを開く。
熊澤「・・・外伝です」
明奈「内容は?」
熊澤「・・・バッドエンドです」
明奈「百歩譲って外伝を書くのはいいわよ。でもバットエンドって。こういうのは完結してから出すものじゃないの?」
熊澤「・・・し、仕方ないだろ!書きたい欲求が出てしまったんだからよぉ!作家ってのはそういう生き物なんだよ!」
明奈「ひ、開き直ったわね、この作者!」
熊澤「ああそうだよ!(ヤケクソ)それよりもいいのか、俺にそんな口を利いてよぉ!出番を削ってやってm・・・グハァ!」
明奈のドロップキックが熊澤の顔面に直撃する。
外伝「どこかの世界のエンディング」更新中!
ストラスに変身した夕夏に向けタイガープレイスターが攻撃を仕掛ける。しかし、迫りくる鋭い爪をストラスは余裕をもって回避する。見かけによらず彼女の鎧は軽いようだ。回避に手間取る様子はない。
タイガープレイスターは負けじと爪を突き出してくる。ストラスの得物は槍。剣とは異なり接近されることが弱点となりうる。それを知ってか知らずか、タイガープレイスターは積極的にストラスに接近する。
もちろんそのことはストラスも理解している。獣のような複雑な爪撃を柄の中ほどを持ち払う、切る、叩く、と巧みな槍さばきで薙ぎ払っていく。
攻撃が届かず焦ったのか、不完全な体制で爪を突き出す。それを見逃すストラスではなく、インベスティランスの穂先で優しく爪撃の軌道を逸らした。たったそれだけでタイガープレイスターは大きくバランスを崩し、ストラスに隙を見せた。
ストラスは柄を長く握り、高速の突きを放つ。それも一度ではなく、流れるように二撃・三撃と懐に叩きこんでいく。
槍は他の武器と比べてもリーチが長く、払いや突きなど攻撃の選択肢がとても豊富だ。だからこそ、他の武器と比べても求められるレベルは高く、現代社会で実践レベルに鍛え上げる者は少ない。
ストラスの槍さばきはその一握りの技量にまで達している。腕だけでなく全身の筋肉を使ってインベスティランスを引き戻す。三十センチほど引き戻すと急停止させ、今度は再び全身を使ってタイガープレイスターに突き刺す。
十を超える連撃の末、タイガープレイスターは大きく吹き飛ばされる。ダメージは与えられているが、当たり所が悪かったか、未だ倒れる気配はない。
タイガープレイスターは正面からストラスを仕留めるのは困難だと理解したのか、トラ由来の筋力で縦横無尽にストラスの周囲を駆けまわり始める。
住宅の屋根や塀を生かして三次元的にストラスをかく乱する。トラは二メートルは跳躍するという。その筋力が人型に集約されたためか、屋根の上まで簡単に跳躍している。
身体能力に加え野生じみた複雑な動きが混じり合い、人の身では対応することはできない。しかしストラスは慌てることなくビートルレコードカードを手にする。
《1-Reading,2-Reading》
二度インベスティランスに読み込ませると、正面に構えなおす。トラはそのスペックの代償か、持久力は少ない。ならばその隙を狙うまで。
精神を研ぎ澄ませるストラスだが、タイガープレイスターは隙を晒したと受け取った。背後から一気に急襲する。
トラのメインの武器は爪ではなく強靭な顎。人の姿では先ほどのような攻防では使いづらいが、背後からの急襲ならば使用できる。
迫りくる顎。しかしそれを読んでいたストラスは、インベスティランスのトリガーを引く。
《Beetle Strike Strength!》
ストラスの目前へと迫っていたタイガープレイスターは横からの衝撃に大きく吹き飛ばされる。攻撃の主はデータで構成された緑色のカブトムシ。変身の際に現れるそれがインベスティランスから再召喚されたのだ。
小さい呻き声と共にタイガープレイスターは地面に転がる。ストラスは止めを刺そうと再びレコードカードを手にもつ。レコードカードを読み取らせようとするが、ふとその手が止まった。
「なに、この音・・・」
どこかから金属を打ち合うような音が聞こえてくる。それは徐々にこちらの方へ近づいてきており、ストラスの警戒心はそちらへ向かう。
ピシ、とストラスの近くの塀にヒビが入り、瞬間、轟音を立てて崩れ落ちる。
それと共に一つの白い人影が吹き飛ばされる。人影の正体はヒューム。少女と戦う中でここまで移動させられてきたのだ。
ヒュームは手に持つエヴィデンスカリバーを地面に突き刺し、何とかその場で踏みとどまる。
「白い、仮面ライダー・・・」
ストラスがポツリと呟く。一方のヒュームも視界の端でストラスを捕らえているが、生憎と彼女に思考を割く余裕はヒュームにはない。
瓦礫の中の中からゆっくりと少女が姿を現す。あれ以降もヒュームは攻撃を続けたが、少女の身体どころか服にすら傷一つ付いていない。体に見合わない刀を振るう彼女は、命のやり取りをしているとは思えない心底楽しそうな笑みを浮かべている。
笑みだけなら年相応の童女に見えるが、身にまとう殺気が頭からそれを否定する。
「ハハハハハ!イイねイイよスバらしい!もっともっと続けよう、姉さん!」
狂気的な笑い声と共に殺気を爆発させる。ストラスはタイガープレイスターどころではなく、目の前の少女に集中する。幾多の修羅場を超えてきたストラスであっても、少しでも切らせば意識を持っていかれない。幸いというべきか、タイガープレイスターは姿を消している。
《ARCHER...》
少女が影に手をかざすと再びおどろおどろしい声が響き渡り、影の中から一張りの長弓が生み出される。体に合っていないそれを少女は容易く引き絞る。そうしてできた弦と成りの間には黒い矢が幾つも生み出されている。
(―――ッ!アーチャーまで!)
ダメージが通らない少女を攻撃しても発射を止めることは不可能。そう確信したヒュームはエヴィデンスカリバーにブレイズレコードカードを挿入する。
《BLAZE!》
おどろおどろしい声とは真反対の軽快な声と共にエヴィデンスカリバーに炎が点火される。
《ALL RIGHT!BLAZE SLASH!》
ヒュームがトリガーを引くとともに、少女は弓を発射する。少女が狙うのはヒュームただ一人、他のものは最初から眼中にない。
ヒュームはエヴィデンスカリバーを横に一閃する。炎の斬撃が黒い矢を飲み込んでいく。
「イイよ!じゃあもう一度――」
少女が再び弦に手をかけたところで多数の遊撃車が到着し、ガチャガチャと重い装備を鳴らしながら零課の隊員が周囲を包囲していく。
「蘆屋さん!大丈夫ですか!」
「詩音ちゃん!」
先頭にいるのは仮面ライダーガレス。インベスティマグナムを油断なく少女に向けている。
冷静になったのか、少女はあたりを見渡しストラスとタイガープレイスターを視界に入れる。
「――なるほど。
はあ、と溜息をつく。先ほどまでの殺気は嘘のように消える。しかしながら、ガレスも含めて油断する者はだれ一人としていない。
この場にいる全員が武器を少女に向けて構える。しかし相も変わらず少女の視界にあるのはヒュームだけだ。
「白けた、やめだやめ。姉さん、また
「「「―――ッ!」」全員下がってください!」
少女が呟くとおもむろに片手をあげると同時に、三人の仮面ライダーの背中に冷たいものが走る。ガレスの声に隊員らが一斉に後退し、三人のライダーはそれぞれの武器にレコードカードを読み取らせる。
《AUTHENTICATION!WHAT'S HAPPENED?》
《 《1-Reading,2-Reading》 》
影の触手が四方八方から這い出、少女の周囲を囲むように縦横無尽に駆け巡る。それと同時に三人のライダーが必殺技を放った。
《ALL RIGHT!SABER BLAZE SLASH FINISH!》
《Ruby Shooting Breaking!》
《Beetle Strike Strength!》
黒の影に対して炎が、宝石が、槍がそれぞれぶつかり合う。発生した衝撃は、後退して宝石の壁に守られたはずの隊員を吹き飛ばすほどであった。
爆発事故が起きたと勘違いされそうなほど土煙が天高く昇る。漸く視界が晴れたときには既に少女は影も形も無かった。
「・・・逃げられたわ~」
それは少女を逃がしたことに対してかタイガープレイスターを逃がしたことについてか。いつものおっとりとした口調には少しの後悔が含まれていた。
変身を解いた夕夏に詩音が近づく。
「あれだけではありませんよ」
詩音が指さした方向を見ると、先ほどまでいたはずの白い仮面ライダーが影も形も無くなっていた。
日の当たらない廃ビルの中、グチャグチャと咀嚼音がやけにうるさく響く。音の発生源では中年の女性が生肉を貪り食っている。生肉は辛うじて人の形を保っている。女は腹に貫かれたかのような大きな傷を負っているが、生肉を呑みこむたびに少しづつ傷が塞がっている。
三人分の足音が近づいてくるが、女はまるで聞こえないかのように食事を続けている。生もとは長年苦楽を共にした自分の夫であったことは女にとって問題ではない。湧き出る空腹に身を任せて生肉を口に運んでいく。
「ふむ、やはり動物系は難ありか」
足音の主の一人は
「ああ。適応してもこの通り、獣の本能に飲まれる。先兵に使うなら問題ないが幹部としてはまるで使えんな」
精悍な男性が鋭い視線を女に向ける。女が警戒するように四つん這いになり喉を鳴らすが、男は気にしていないように「食事に戻れ」とだけ言い放つ。
「ならば打ち止めにするか?」
宝石系や動物系、昆虫系は種類が豊富にある。
「いや宝石系、昆虫系と同じく適応のハードルは低い。数を揃える点では悪くない」
「そうよの。相手がどれだけの戦力かまるで分らんからのう」
「フッ、
男が嘲笑するが、老人は気にした様子は無く苦笑する。
「儂は負ける趣味など持ち合わせておらんよ。戦うからには全力を尽くす、それで負けるなら文句などないわ」
理解できない、という風の男の態度を一蹴して老人は続ける。
「それで、こやつはどうするかのう?警察はこやつを把握した。下手に動けば儂等も発見されかねぬぞ」
一瞬だけ考えた後、男は冷たく言い放った。
「捨て駒にする。コイツはまだ替えが効く。ここで回収するよりもライダーどもへの試金石にする」
男の決定に異論はないようで、老人はその場から離れ始める。男もそれに同行し、二人から少し離れて立ちすくんでいるフードを被った人影に話しかける。
「お前はそれを見届けておけ」
男の声には思わず頷いてしまうようなプレッシャーが含まれていた。しかしグレイに動揺は見られず、返答の代わりに一礼を返す。二人の男が立ち去った後も
捜査第零課本部、開発研究部
狭すぎる部屋の中で優成、詩音、昭人、ノアの四人はプロジェクターで投影された映像を見ていた。内容はストラスの戦闘記録。仮面ライダーの情報は全て昭人が管理しているので仕方ないことだが四人が入るとやはり窮屈さを感じる。
ストラスの戦闘記録を見終え、優成は溜息を一つ吐く。
「瀬良、どう思う?」
優成は端末を操作して問題となっている部分を再生する。
夕夏が遭遇した少女は間違いなく敵の幹部の一人だろう。少女とは思えないほどの圧倒的なパワーを見せていたが、問題なのは少女が白い仮面ライダーに向けて親し気に会話していたこと。加えて彼女の言を信じるのなら二人は血縁関係なのだ。
今組織内では白い仮面ライダーは味方足りえるのか、という疑問が蔓延しつつある。その真偽を判断するために二人は開発研究部を訪れていた。
「私は有り得ないと思います。もしも二人が味方ならあのように派手にやり合う必要性を感じません」
少女と白い仮面ライダーの戦闘の被害は大きく、数軒の家が被害にあっている。近所で祭りの準備を行っていたためか住人は留守にしており、犠牲者が出なかったことが幸運だった。
怪物たちは末端も含めて社会の地下に潜って活動している。あちらから行動を起こさなければ零課も認識できない。それなのにあれほど派手に戦うということは彼らが協力関係にはないことを示している。
「加えて、もし二人が手を組んでいるならばあの場で我々は全滅していました。芦屋隊員や私が生きているという事実こそが、白い仮面ライダーが我々に敵対していない何よりの証拠です」
詩音は口に出さないが、もう一つ白い仮面ライダーが敵ではないという理由がある。
恐らくだが彼にとって譲れないことは「人を助けること」なのだろう。彼に助けられたとき、詩音はそう感じていた。
いくら高速で移動できる手段があったとしても、危険を冒してまで見知らぬ他人を助けるにはあまりにもリスクが高い。それに彼はダイヤモンドプレイスターとの戦いの最中、隊員たちを背にして立ち回っていた。効率を考えれば隊員らを囮にして必殺技を撃った方が良い。
にも関わらず彼は他人のはずの私たちを助けた。そんな彼が敵側に寝返るとは詩音には到底考えられなかった。
そんな考えを読み解けるはずもなく、優成は口を開いた。
「・・・なら、俺たちの方針は変わらない。この仮面ライダーとは友好な関係を目指す」
詩音が安堵したように一息つく。命の恩人に銃を向けることは流石にしたくない。詩音だけでなく、昭人とノアもどこか安心したようだった。
「では話を変えよう。この少女についてだ」
優成は引き続きスクリーンに目を向けている。戯れに繰り出した一撃でさえも必殺技で受け止めるのが精一杯だったのだ。刃狼が遭遇したという灰色の戦士と合わせて目下の脅威だ。
「あー、そうだったな」
「推定されるカードはー、
「でもよ、それだとアーチャーの力を使える理由にはなんねえだろ」
「ですよねー」
開発研究部の二人は色々推測しているが、結論は出ていないようだった。レコードカードを特定するにあたって障害になっているのは、彼女が見せた能力。アーチャーレコードカードは白い仮面ライダーが所持しているはずが、何故かその能力を少女が使って見せたのだ。
沈黙が部屋を支配する。そんな空気を変えようと優成が口を開く。
「昭人、今の戦力でアレを倒せるか?」
「・・・ムリだ。三人で協力して何とか撤退に追い込めるか、って感じだ。討伐を視野に入れるなら少なくとももう一人はいるな」
昭人は言外にあの仮面ライダーを仲間に引き入れろ、と言っている。
考え込む昭人に向けてレコードカードが放り投げられる。昭人が受け止めたそれは、先日詩音が確保したミュージシャンレコードカードだった。
「渡しとく。どんだけ時間をかけてもこいつは使えねえ」
「・・・戦力にはならんか」
零課が所有しているレコードカードはミュージシャンも含めて三枚だけ。幸運にも三枚とも戦力に落とし込めたが、相手はそんなレコードカードをいくつも所有している怪物の集団だ。
「これ以上は解析できねえ」
分かり切ってたことだがな、と昭人は小声で続けた。
「・・・ルビーやウルフも解析できなかった領域があると聞いた。それでもシステムに落とし込めていただろう?」
「まあな、ざっと八割がブラックボックスだ。それでも二割は今の技術でも解析できた。だが・・・」
一旦区切ってミュージシャンレコードカードに目を向ける。
「コイツは九割九分が理解できねえ。いや解析はできる。だがよ、何についての情報を掘り出したのか全く理解できねえ」
だからこれは渡しとく。ここで腐らせるよりかはもっといい使い道があんだろ、と優成に向けて続ける。
「これで例の仮面ライダーを懐柔しろと?」
「そうは言ってねえよ。多分この類のレコードカード―ジョブ系とでもするか。コレはアイツにしか使えねえ」
どこか遠い目をして語る昭人に違和感を覚え、詩音は口を開こうとする。しかし、強引に開かれた扉の音によってそれは叶わなかった。
「失礼します。芦屋隊員より通信!タイガープレイスターの居場所を突き止めたとのことです!」
―――1時間ほど前
ストラスが戦った跡地は通常の警備員に変装した零課の隊員によって封鎖された。「ガス管の爆発」という名目で封鎖されたそこを、近隣の住民は不安げな視線を送っている。中では隊員らよって事故であるという偽装とプレイスターがいた証拠の回収を徹底して行っている。
そんな現場から少し離れた路地裏でスーツ姿の景虎が座り込んでいた。小型の懐中電灯を持って地面を注視する景虎は不自然なことこの上なく、警察官が見たら職質してしまうだろう。
傍らではスーツ姿の景虎とは真逆に、ラフな格好をした夕夏が景虎をじっとのぞき込んでいた。
「・・・」
「・・・」
少しの沈黙の後、景虎は目当てのものを見つけた。手招きして夕夏にも見るように促す。地面には血痕と思われる赤い跡が数滴落ちていた。
「まだ乾いてそう時間は経っとらん。争った形跡もあらへんから間違いなくあのプレイスターのもんや」
「・・・よく見つけたわね~」
普通に通っただけでは見逃してしまう小さな痕跡。それを簡単に見つけた景虎に素直に感嘆する。
「相手が怪物とはいえ、力の根源にしとんのは動物や。ならそれを前提に探せばええ」
「それでもこんなに簡単に見つけるなんてすごいわ~」
謙遜する景虎に夕夏はここぞとばかりに褒めちぎる。ストレートな賞賛に景虎は少したじろぐ。揶揄するような雰囲気が微塵も入っていないことも居心地の悪さに拍車をかけている。
「ま、まあ昔取った杵柄や。そんな大層なもんやないわ」
口では否定しつつも本人は満更でもなさそうだ。
この調子で二人―探すのは主に景虎だが―は痕跡を辿っていく。血痕だけでなく爪痕、抜け毛、足跡と目ざとく見つけていく。そして辿り着いたのが―
「―――ここやな」
郊外にある、今は使われていない廃ビル。解体途中で放棄されており、周囲が有刺鉄線がついたフェンスで囲まれている。二人は知らないことだが、つい先ほどまで
どうやって入ろうかしら、と夕夏が悩んでいると、その隣で景虎は背負っていた竹刀袋からインベスティセイバーを取り出し、正面にあるフェンスを叩き切った。
「よし、いくで!」
大胆な侵入に夕夏はつい周囲を伺ってしまう。郊外とはいえ白昼堂々とカタナを振りかざしたのだ。幸いにも目撃者はおらず、夕夏は慌ててビルに入っていく景虎を追う。
二人がビルの中に消えた数秒後、一台のバイクが廃ビルの前に停まった。
「後はここくらいかな・・・」
呟きながらバイクから降りてきたのは海翔だ。
混乱に紛れて会場に戻った海翔だったが、祈里から「夏祭りが中止されるかもしれない」という話を聞いたのだ。少女の方はしばらくは現れないという感覚はある。ならば一瞬見えたトラのような怪物が原因だろうと考えてバイクに乗って周辺一帯を探し回っていたのだ。
トラの怪物はカブトムシのような緑色の仮面ライダーによって致命傷を負っていた。なら移動できる範囲はそう広くないと考え、潜伏できそうな場所を一軒一軒しらみつぶしにしていたのだ。
フルフェイスのヘルメットを被ったまま廃ビルに近づいていく。正面には先ほど景虎が切り付けたフェンスがあり、中に何かがいることは容易く想像できた。
エヴィデンスドライバーを装着し、躊躇いなくビルの中に突入する。長い年月で倒壊したのだろうか、二階の足元は崩れて吹き抜けになっている。長年放置されていたからかビルの中は埃まみれで、さらには所々錆びついていて戦闘の余波で倒壊してしまいそうな危なげがある。
―――しかし、今の海翔にとってそれは重要ではない。いや、それよりも問題すべきことが目の前に現れた。
「あ」
「あ」
「あ」
三人の間の抜けた声が静かなビルに響き渡る。
「「「・・・」」」
会談の手すりに手をかけていた二人が侵入者に気が付いたらしく、入口に立っている海翔の方を見ている。沈黙が一帯を支配する。海翔、夕夏、景虎の三人は唖然としてお互いを見つめて固まっている。
「「白い仮面ライダー!」」
最初に正気に戻ったのは夕夏と景虎の二人。敵地であることを忘れて二人同時に声を上げる。その声にで海翔も正気に戻った。
「・・・ヒトチガイデス」
「違わへんわ!人違いなら腰につけてるのはなんやねん!」
咄嗟に視線を逸らした海翔だったが、腰に身に着けているエヴィデンスドライバーを景虎に目聡く発見されすぐさま否定された。景虎はすぐにでもヘルメットを剥ぎ取りに行きたかったが、協力関係を維持するため、と寸前で押しとどまっている。
「あなたが噂の仮面ライダーね~。会いたかったわ~」
「あ、どうも」
「ちょ、芦屋サン!何やってるんや!」
「あら、ダメだったかしら?」
夕夏はあくまでマイペースに海翔に握手を求め、海翔は戸惑いながらもそれに応じる。
三人の声がビルの中に大きく反響する。静かなビルには煩いほどだ。ならば当然―――
―――敵も侵入に気が付く。
「「「―――ッ!」」」
三人から先ほどまでの空気を消し去り、その場から大きく飛びのく。元いた場所には四方八方から銃撃が浴びせられ、地面に火花が散る。
海翔と景虎・夕夏は真逆の方向に回避してしまい大きく距離が開く。その間を埋めるように上階からアントトルーパーズが下りてくる。見ると二階には多くのアントトルーパーがおり、三人に向けて銃を構えている。
海翔個人に向けて別方向から銃弾が放たれる。
「また君か・・・」
ヘルメットの奥でうんざりとした表情を浮かべ、攻撃の主であるグレイを視界に収める。
(二人の救出を優先させるべきか?いや・・・)
男の方は目の前のグレイと渡り合うほどの実力者。女の方も以前に見かけた緑色の仮面ライダーと同じ槍を持っていた。加えて無理に合流しても上手く連携が取れず事態が悪化する可能性もある。
(僕は目の前の相手に集中しよう)
決して戦いが終わった後に正体について言及されるのが嫌だから、という理由ではない。
「・・・」
グレイは海翔の呟きに反応することなく、プレイングスキャナーにクロウレコードカードを読み取らせる。それと同時に海翔も一枚のレコードカードをエヴィデンスドライバーに挿し込む。
《ARCHER!REALLY?》
《レコードカードを確認。読み取り開始》
軽快な音声と耳をつんざく不快な声が不協和音のように同時に流れる。海翔の変身を妨害しようと四方から弾幕が降り注ぐが、海翔の周囲を漂う幾何学文字がそれを防ぐ。お返しとばかりに半透明のヒトガタが手に持つ弓でアントトルーパーを牽制する。
「変身!」
「再生」
《ALL RIGHT!YOU ARE ARCHER!》
《再生完了。
《DON'T FORGET THIS ANSWER》
グレイがトリガーを、海翔がアクティブローダーを同時に押し込む。
幾何学文字が収束し、半透明のヒトガタが海翔に重なり合う。
グレイの体が内側から蝕むように徐々に変化していく。
二人は同時に変身を完了させる。白の
一方、分断された景虎・夕夏の前にはタイガープレイスターが現れる。ストラスが負わせた傷は完全に塞がっており、空腹を満たしたからか先ほど戦っていた時よりも力が増しているようにも見えた。
「GRUUU・・・」
唸り声をあげて威嚇するタイガープレイスター。景虎と夕夏は背中を合わせて全方位を警戒する。
「・・・どないする?あっちの救援に行くんか?」
「そうしたいのだけど・・・無理に合流すると敵も連携するかもしれないのよね~」
このプレイスターはレコードカードの影響か、本能のままに戦う癖がある。強いものに従うという野生の本能に基づいて、合流すればこちらよりもスムーズに連携を行うだろう。初戦の時にそれを見抜いていた夕夏は海翔とは合流せず、個別撃破を選択した。
景虎はインベスティドライバーのベルト帯の右側に、夕夏は後ろの腰側に、それぞれ手に持つ武器を収納する。そして懐から取り出したレコードカードをベルト上部から差し込む。
《Set Wolf》
《Set Beetle》
データで構成されたカブトムシとオオカミが出現し、周囲にいるアントトルーパーに攻撃する。注意がそちらに向かった隙に夕夏は槍を引き抜いて悠然と構え、景虎は居合抜きのような構えを取る。
「「変身」」
二人はトリガーを押し込んでそれぞれの得物を振るう。
《Chasing,Biting,Hunting!》
《Growing,Strength,Flying!》
《Kamen-Rider Ha-Rou Mode:Wolf!》
《Kamen-Rider Sutorus Mode:Beetle!》
《 《System All Green》 》
変身した二人はストラスを先頭にしてタイガープレイスターへと接近し、包囲網を突破しようと試みる。当然それを妨害しようと弾幕がストラスに向けて雨のように放たれる。
「―――フッ!」
ストラスはインベスティランスを柄の中ほどを持ち、高速で回転させる。正面からの銃弾はほとんど弾き返し、すり抜けた弾丸も身にまとう鎧が全て防ぎきる。
《Wolf Slash Chasing!》
二階からも銃弾が降り注ぐが、刃狼が放った青い斬撃が全て飲み込んでゆく。飛翔する斬撃は銃弾程度で止まることはなく、射線上にいるアントトルーパーを切り裂いた。
やがて包囲網を破り、ストラスはタイガープレイスターの間近まで接近していた。
戦闘は広いエントランスから部屋が並ぶ廊下へと場所を移している。ストラスは柄を長く握りなおす。外には及ばないがここでも十分にそのリーチを生かすことはできる。
打ち合う槍と爪。高速で突き出される槍をタイガープレイスターは鋭い爪で受け流す。フェイントを織り交ぜても引っ掛かるような素振りも見えない。初戦よりも遥かにスペックが上がっている。何がきっかけになったのかは知らないが、まるで別物だ。
突きを途中で中断し、薙ぎ払いへと移行する。芽生えた焦りからか先ほどまでよりも繊細さを欠いている。完全に不意を突いたはずだったが、タイガープレイスターは読んでいたかのようにその場に屈みこんだ。
薙ぎ払いは空を切り、ストラスは大きく隙を晒す。それを見逃すことはなく、タイガープレイスターは屈んだ体制のまま高速でストラスの懐に飛び込んだ。慌てて槍を引き戻そうとするも、当然間に合うはずもない。
「―――ッ!」
爪による一撃がストラスの装甲を抉る。ガレスなら無傷だったかもしれないが、生憎とそこまでの硬さはストラスの装甲にはない。痛々しい傷と共にストラスは大きく後退する。
「苦戦してるようやん」
「・・・不甲斐ないわ~」
後退した先には刃狼がおり、偶然だが最初と同じように二人は背中を合わせる形に戻る。
刃狼の方はというと順調にアントトルーパーを倒しており、目の前に集まっている数体を残すのみまでに追い詰めていた。
「・・・しゃあない。こいつ貸したるわ」
「あら、いいの?じゃあ私も」
背中越しに渡されたのはウルフレコードカード。ストラスは一瞬戸惑ったが、刃狼は困るだろうと考えてビートルレコードカードを手渡した。
「・・・いや聞いとったん?苦戦しとるから二枚使うてっちゅう意味やったんやけど」
「う~ん大丈夫かも。なんか行ける気がするし!」
「ちょ・・・あーもう!」
ストラスは刃狼の静止を待たずにタイガープレイスターに向けて走り出す。タイガープレイスターの方は構えたまま動こうとしない。どうやら先ほどのようにカウンターを狙っているようだ。
狙い通り、とほくそ笑みながらストラスはインベスティランスにウルフレコードカードを滑らせる。
《1-Reading,2-Reading》
機械音声を置き去りにしてストラスはタイガープレイスターとの間合いをどんどん詰める。ストラスが急停止し、薙ぎ払いの構えを取ったところでタイガープレイスターも低い姿勢でストラスに向かって駆け出す。
それをウルフレコードカードで強化された動体視力で完全に見切っていたストラスは、誘導目的だった薙ぎ払いを途中で止め、地面に向けて槍を突き刺した。そしてその勢いのまま、棒高跳びの要領で空中に飛び上がった。
「!!」
もちろんタイガープレイスターもそれを捕らえていたが、途中で停止することはもう不可能。何とか止まったのはストラスの真下。空中で爪撃を回避したストラスはインベスティランスのトリガーを引いた。
《Wolf Strike Biting!》
無防備になったタイガープレイスターの真横を緑色のデータで構成されたオオカミが高速で走り抜けた。その間にタイガープレイスターの右わき腹を食いちぎり、あまりの痛みにタイガープレイスターは悶え苦しむ。
「やるやんかっと!」
負けてなるものかと刃狼も次々とアントトルーパーを切り捨てる。狭い室内が災いしてか、相手は得物を満足に使いこなせていないようだった。
《1-Reading》
アントトルーパーを一直線になるように追い詰めた刃狼はインベスティセイバーにビートルレコードカードを滑らせトリガーを引く。
《Beetle Slash Growing!》
刃狼が繰り出したのは突き。インベスティセイバーは緑色のオーラを纏い、カブトムシの角を模した形をかたどっている。刃狼の突きはもろに喰らった一体だけでなく、その背後にいる全てのアントトルーパーを貫いた。
「ほい、返すわ」
「本当に助かったわ~」
二人を追ってきた全てのアントトルーパーを倒した刃狼はストラスと合流し、ビートルレコードカードを返却した。
「GRUUU・・・」
タイガープレイスターは依然として戦意が消えておらず、荒い息を吐きながらもギラついた目で二人を睨みつけている。
《1-Reading,2-Reading,3-Reading》
今度こそ止めを刺すべく、ストラスはビートルレコードカードを三回読み込ませる。高密度の緑色のエネルギーがインベスティランスとストラスの右足にそれぞれ集中する。そしてトリガーを引くとともに投げ槍の要領でタイガープレイスターに向けて投擲する。
「―――ガッ」
インベスティランスはタイガープレイスターの胴体に突き刺さる。ストラスはそれを見届けることなく駆け出していた。タイガープレイスターの手前で跳躍したストラスは、突き刺さったインベスティランスの石突に向けて蹴りを繰り出した。
《Beetle Strike Frying!》
蹴りはインベスティランスを貫通させるだけでなく、足に宿ったエネルギーを槍を介してタイガープレイスターに注入した。
「―――ッ!」
タイガープレイスターは大きく吹き飛び、断末魔を上げながら爆散した。着地したストラスはタイガープレイスターの残骸から飛来するレコードカードを受け止める。レコードカードには森林の中を駆ける一匹のトラが描かれていた。
一方のヒュームとグレイの戦いも佳境に入っていた。
ヒュームはエヴィデンスアローをボウガンのようなショートモードに変形させて持続的に矢を放っている。重点的に狙うのはプレイングスキャナーを持っていない方の手。グレイに対して警戒するべきはレコードカードによるヒューム以上の応用力。だからこそレコードカードの挿入を徹底的に妨害する。
エヴィデンスアローから白い矢が放たれる。妨害するには多少の威力も必要なのでエレクトリックレコードカードは使っていない。
しかしグレイの方も負けてはいない。残りのアントトルーパーに命令を出しヒュームを妨害させる。アーチャーフォームは装甲が少なく防御力が低い。一度主導権を握れば有利に動くことができる。
命令に基づいてヒュームの四方をアントトルーパーが囲む。しかし彼らが銃を構えるよりもヒュームがエヴィデンスドライバーを操作する方が早かった。
《AUTHENTICATION!WHAT'S HAPPENED?》
《ALL RIGHT!ARCHER FINISH ATTACK!》
アクティブローダーを押し込むとともに、ヒュームの体が一瞬にして消える。日の入りずらい廃ビルの中も目立っていたヒュームは文字通り影も形も無くなっていた。唐突な現象にアントトルーパーは戸惑いを隠せない。
それはグレイも同様で、レコードカードを取り出そうとした手が止まる。そんな無防備なグレイの背後からエヴィデンスアローによる射撃が襲い掛かった。
「―――グッ」
これこそがアーチャーフォームの能力の一つ。周囲の背景との同一化だ。決して透明になっている訳ではないので使いづらく対策も簡単にされるが、それを加味しても強力な能力だ。
《再生速度、加速開始》
ヒュームの想定外の力に焦ったか、グレイは無理やりに必殺技を放とうとする。しかしヒュームは冷静に一枚のレコードカードをエヴィデンスアローに読み込ませる。
《DIAMOND!》
《完了、三倍速。
同時にグレイがプレイングスキャナーの引き金を引く。カラスをかたどったエネルギーを纏った弾丸がヒュームに向けて高速で飛来する。一方のヒュームは発射口をヒュームの目の前の地面に向けて引き金を引いた。
《ALL RIGHT!DIAMOND SHOOTING!》
弾丸が飛来するよりも早く矢が地面に突き刺さる。それを起点に、白く輝く宝石の壁がヒュームとグレイの間に出現する。グレイが放った弾丸はそのまま宝石の壁に阻まれる。
しかし防ぎきることはできなかったか、宝石の壁は音を立てて崩れ落ちる。ならばもう一度、とプレイングスキャナーを構えるグレイだったが、次の瞬間驚愕に目を開くこととなる。
《ALL RIGHT!ARCHER DIAMOND SHOOTING FINISH!》
エヴィデンスアローをロングモードに変形させたヒュームがグレイに向けて標準を合わせていたのだ。グレイはとっさにアントトルーパーに盾になるよう命令を下す。
長弓に見合った巨大な矢が放たれる。何の変哲もない白い矢だったが、ダイヤモンドの壁の残骸を取り込み宝石の矢へと早変わりする。高速で迫りくる矢は二人の間に割り込んだアントトルーパーを全て串刺しにし、その奥にいるグレイにまで迫った。
「―――ッ!」
グレイは咄嗟に回避したが、質量を伴った矢が頬を掠めた。一方のヒュームも警戒心を解かない。アントトルーパーは全て倒したがグレイは未だに健在。相手がどれだけの手札を持っているか分からない以上、警戒するのは当然だった。
数秒間にらみ合っていた二人だが、その均衡は唐突に崩れた。離れたところからかすかに聞こえていた戦闘音が爆発音を最後に消えたのだ。
ここで二人は撤退の態勢に移った。グレイは三人同時に相手をするつもりはなく、またヒュームの方も二人から追及が来るのは避けたかった。
ストラスと刃狼が駆け付けたとき、二人の姿は既にどこにも無かった。
翌日、予定通りに開催された夏祭りは盛大な賑わいを見せていた。提灯で照らされた一帯は日常から隔絶されたかのような神秘的な雰囲気を醸し出している。広大な広場を存分に使って屋台が敷き詰められており、焼きそばや射的など王道なものから変化球のものまで幅広い種類が出展されていた。
「まなっち、光る腕輪っすよ!」
「お前幾つだよ。小学生の時から全く成長―――」
「(どやっ)」
「やっぱ夏祭りと言えばこれっしょ!」
「―――湊に葉月まで・・・。小遣いは限られてるんだからもっと慎重に使えよ」
「(愛斗は分かってないね)」
「祭りにそんな無粋なことはしないっスよ!」
祭りの非日常感に飲まれるのは子供だけだはない。
「―――なんやこれ。なんでたい焼きに本物の鯛が入ってんねん」
「おいしいでしょう?」
「まあマズくはあらへんけど・・・コレジャナイ感がすごいわ」
「沢山屋台があるわ。次は何処に行こうかしら」
「射的をしましょう。負けた人が今日の代金を全て持つというのは?」
「絶対嫌やで!君に有利すぎやろ!」
そんな祭りの喧騒を海翔は少し離れたベンチに腰掛けながら眺めていた。何をするでもなくその光景をぼうっと眺める海翔の頬に、不意に冷たいものが当たる。
「うわっ・・・ってなんだ明奈か」
振り返ると明奈がジュースの缶を持ってしたり顔を浮かべている。
「こんなに簡単に背後をとられるなんて気が抜けてるんじゃないの?」
「まあ気が抜けてない、って言ったら噓になるかな」
どこか嬉し気に答え、手渡されたジュース缶を開ける。海翔から少し離れた位置に明奈も座る。
「・・・ねえ、やっぱり戦うの辞めない?」
明奈がポツリと呟く。その言葉にジュースを飲む海翔の手がピタリと止まる。
「・・・」
「これまで無事だったとはいえ、何時までもこれが続く保証なんてない。それに警察も動いてるんでしょう?彼らに任せた方がいいんじゃ・・・」
「・・・そうだね。明奈の言う通りだ」
グレイは今回も攻めきれなかったほどの強敵だ。それに黒いドレスの少女には全力で向かってこられたら成すすべなく敗北してしまうだろう。
「それでも僕は戦うよ」
「・・・」
「誰かを助ける力を持っているのに使わないなんて、僕にはどうしてもできないや」
「・・・そう」
明奈は諦めを含んだ溜息を吐く。昔からそうだった。誰かを助けるために平気で危険に飛び込んで、傷だらけになりながらも帰ってくる。それだけならいい。問題なのは海翔は
例えば猛獣に襲われている人間がいるとする。普通の人間なら自分から助けようとはしないだろう。せいぜいが警察に電話するくらいだろう。それが当然だ。誰もが自分の命が一番だからだ。しかし海翔なら迷わずその人間を助けようと走りだすだろう。その過程で腕がもぎ取られても気にすることなく、目の前の命を救えたことに満足するだろう。
そんな海翔に戦ってほしくないと思いつつ、
「それに―――」
「それに?」
「どうしても知りたいんだ。僕の過去を」
普段はおくびにも出さない海翔の本音。人格の形成は三歳から始まり、十歳ごろには確立するという。その大半を忘れているということは海翔の奥底に不安として燻り続けている。
少女は海翔のことを昔から知っているような口ぶりだった。それに仮面ライダーとなって戦うときもウソのように体が動くのだ。普通なら命のやり取りに二の足を踏んでもいい。まるで―――
―――過去にも戦っていたことがあるかのようだ。
「大丈夫!」
パン、と手を叩いて漂っていた空気感を払拭する。
「心配しなくても僕は負けないし、無事にみんなのところに帰ってくるさ」
明奈の心配を振り払うように微笑みかける。不意打ち気味に向けられた笑顔を明奈は少しの間まじまじと見て、フッと笑って立ち上がった。
「・・・その約束、忘れるんじゃないわよ?」
「忘れないって」
「じゃあ、もし破ったら私の言うことを何でも聞いてもらおうかしら」
「何でも!?」
二人は軽口を言いながらもどこか楽しそうに祭りの喧騒へと足を向ける。祭りはまだ始まったばかりだ。
どうも、熊澤です。
というわけで今回と前回で夏祭り回とさせていただきました!
明奈の海翔に対する感情は単純なものではなく、尊敬や心配が入り混じった少し危険なものでもあります。
そして主人公である海翔君。こいつ作中で1、2を争うくらい狂ってます。それが他のキャラにどう影響を与えるのか・・・
また外伝も投稿しておりますので、良ければご覧ください!
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