仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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どうも、熊澤です。

今回は結構難産でした。


No.8 SEARCHER/罰を求める者

「おとうさん、かえってくるの?」

 

 私は無邪気な声を上げた。父は研究職で研究所に泊まり込むことも多く、月に数度しか家に帰ってこなかった。けれど家に帰ってきたときは私たちにしっかり構ってくれたから父を嫌うということはなかった。むしろ研究職の父というのは子供心をくすぐり、友達に自慢したのも一度や二度ではなかった。

 

「そうだよ。だから詩音も大人しくしてるんだぞ」

 

「うん!」

 

 兄に頭を撫でられる。母の方も仕事で忙しく、必然的に兄といる時間が多かった。自分よりも一段年上の兄は私の面倒をしっかりと見てくれた。

 

「・・・ねーね」

 

 妹がハイハイで私の元に近づいてくる。数年前に生まれたもう一人の家族。ふにゃっとした笑顔を浮かべられて私も兄もつい頬が緩んでしまう。妹の可愛さに魅了されないものはおらず、私たち家族は妹に構いっぱなしだった。

 

 場面は変わる。

 

 私たち家族は食卓を囲んでいる。妹だけはみんなとは違い離乳食で、それに不満なのかムスッとした表情で私たちが食べている料理に手を伸ばす。その度に父と母が慌てて妹の手を止めていた。

 

 いつもなら兄や私が小学校で起きたなんでもないようなことを話すのだが、父がいるときは家族みんなで研究について質問攻めにした。父は困った表情を浮かべながらも大雑把に研究について話してくれた。

 

 今になってみれば口外を禁止されていたのだろう、父は確信に触れるようなことは言わなかった。それでも父の話は面白く、兄や母と一緒に一喜一憂したものだ。そしてそんな私たちの表情の変化がツボに入ったのか、キャッキャッと妹も手を叩いて喜んでいた。

 

 絵にかいたような普通の家族。それでも私は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリ!

 

 耳元で鳴り響くアラームの音で詩音は意識を浮上させる。

 

「・・・」

 

 舌打ちとともに荒々しくアラームを止め、もう一度目を瞑る。しかし一度目覚めた頭はそう簡単に沈むことなく、数分後観念したかのようにゆっくりと起き上がる。日ごろの疲れが溜まっていたせいか、それとも寝入りが最悪だったせいか。詩音の体は鉛のように重かった。

 

 布団の周りは昨夜開けた酒の空き缶が埋め尽くしている。同年代よりも小さな歩幅で何とか飛び越え、最低限身だしなみを整えるために洗面台に向かう。

 

「・・・」

 

 下着姿の自分の姿が鏡に写る。夏の猛暑の名残がまだ残っているのをいいことにパジャマを着ずに寝ていたのだ。しかし成人女性から湧き出るはずの色気というものが子供体型から微塵も感じられず、詩音の気分は更に下り坂になる。

 

 目元に残る涙の後を水流で洗い流していく。

 

 今日詩音には休暇が与えられている。戦闘で疲弊する精神を休めさせようという魂胆だ。中でも詩音ら仮面ライダーはプレイスターを倒すことができる数少ない戦力なので、他の隊員よりも多く休みを与えられていた。

 

「・・・はあ」

 

 しかし詩音にとって有難迷惑であった。休みを与えられても詩音にはやることがなく、本部で訓練していた方が良いのではと考えるほどだ。事実、休みの日にも訓練場に籠りっきりになっていたせいで休日限定で詩音は訓練場を出禁になっている。

 

 床に転がっている酒缶を口元で傾ける。しかし夜に飲み干してしまっていたようで一滴も詩音の喉を通らなかった。小さな冷蔵庫の中を見ても一缶も入っていなかった。

 

 嫌々だが詩音は外出することにした。このまま部屋に引き籠っていたとしても罪悪感や嫌悪感で潰されるだけだ。

 

 だらだらと準備をしてボロアパートの階段を下っていく。詩音の子供サイズの体重でもギシギシと嫌な音が鳴る。持ち物は財布とスマートフォンだけ。夕夏と違ってドライバーとレコードカードは休暇に入る前に零課本部に預けてある。

 

 周囲にはスーパーどころかコンビニもない。月に数度しか帰らないことを理由に家賃重視で選んだのは自分なので文句は言えない。

 

 二日酔いの痛みを我慢しながら歩いていく。自転車は持っているがこの状態だと事故を起こす。なので片道二十分弱の道のりをひたすらに歩いていく。

 

 戦闘中や誰かと関わっているときには意識しないが、一人になった途端急に詩音の心に押し寄せてくる。

 

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 家族の中で唯一生き残った、生き残ってしまったという後ろめたさ。昔の夢を見るたびにここにはもう家族はいないという不安感。仇が今も生きているという復讐心。全てがごちゃ混ぜになって孤独になった詩音の心に襲い掛かってくる。

 

 だから休みの日は誤魔化すように酒を飲む。寝起きが最悪になるというデメリットはあるが、その間だけは孤独を、不安を、忘れることができる。

 

「―――ッ」

 

 言葉にできない不安感が再度詩音の心を蝕む。思考がどんどんマイナス方向に寄っていき、胸の奥から吐き気が込み上げてくる。

 

 唐突に家族の成れの果てが瞼の奥にフラッシュバックする。点滅するように消えては現れ、また消える。朝に見た夢も相まって更に吐き気が込み上げてくる。

 

 呼吸が浅くなり、視界もぐらついてくる。自分がどのように立っているのかも分からなくなる。

 

 耐えきれなり全身から力が抜ける。体が崩れ落ち、地面に激突する―――

 

「危ないっ!」

 

 ―――寸前に詩音の体が何者かに受け止められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~♪」

 

 光の届かない路地裏で少女が鼻歌を歌いながら警戒にスキップする。その表情は年相応で、そこだけ切り取れば微笑ましいものだ。鼻歌もどこか音程が外れており、その点からも愛おしさが感じられる。

 

「~~~~♪」

 

 しかし彼女の全身には赤い返り血が大量についている。それだけでなく彼女が通ってきた道も凄惨な殺人が行われた証として血や切断された体の破片がそこかしこに散らばっている。

 

「~~~~♪」

 

 少女は戦利品とでも言うかのように、殺した相手の首を掴んでいる。少女は時折髪を持って振り回したり、口を上下して弄んでいる。そこに死者に対する礼儀などはない。

 

「~~~~♪」

 

 荒事に慣れているはずの零課の隊員らですら、この光景に吐き気を催すだろう。そんな残虐な光景の中心で少女は思い出したかのようにクスクスと笑う。

 

「楽しかったな~姉さんと()し合うの」

 

 思い出しているのは先日のヒュームとの戦い。一貫して少女が圧倒していたが彼女にとってあのひと時は満足なもので、思い出すたびに少女の顔がだらしなく崩れる。

 

「また(ころ)し合いたいな~そうだ!今から姉さんのところに行こうかな?」

 

 飽きたのか弄っていた頭をポイっと捨て、地面に転がったそれを足で踏みつた。鈍い音と共に眼球や歯が飛び出し、たちまち肉塊に変わった。ウキウキとしながら海翔の元へと向かおうとするが、何かを思い出したのかピタリと止まった。

 

「・・・いや、もう少し強くなってもらってからの方が良いかな?そっちの方がもっと楽しめるし―――なにより、ボクの計画も進むというものだよね!」

 

 小さな腕を突き上げ、笑顔を浮かべて宣言する。相も変わらず年相応だが、彼女を知るものが見ると「またロクでもないことを思いついたな」と顔を顰めるだろう。

 

 少女は懐からレコードカードを取り出す。

 

「全く女王(クイーン)の奴、ボクには一枚もカードを渡してくれないんだからさ。くすねるしかなかったじゃん」

 

 警戒する気持ちもわかるけどさ、と少女は年相応の表情で不貞腐れる。先日軽く女王(クイーン)と戦った時に懐から抜き取ったのだ。例え自分が100%悪くともタダでボコボコにされるような少女ではない。

 

 腕を一本拾い上げ、レコードカードを挿し込む。

 

《CELL》

 

 腕は一つ痙攣し、周囲の肉片やパーツを取り込みながら膨張していく。怪物が生まれてくる様を眺めながら少女は目を細める。

 

「姉さん、喜んでくれるかな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 ふらふらと歩いているうちにデパートの目の前に来ていたようだ。詩音はその中のスタッフ用の休憩スペースで横になっていた。

 

「はい。少し良くなってきました」

 

 よかった、と胸を撫でおろしたのは偶然にも買い出しに来ていた海翔だ。店に入店する直前、視界の端で気分が悪そうな詩音を発見し、倒れかけたところを受け止めたのだ。

 

 椅子に腰かけながら自販機で買った水を少しずつ胃に流していく。誰かといるという事実が詩音の体から不快感を取り除いていく。

 

「おい海翔、その人大丈夫そうか?」

 

 ドアを開けて亮介が部屋の中に入ってくる。先日再開した二人は近況報告も兼ねて共に買い物に来ていた。海翔の傍らには大量の日用品が入ったマイバックが置かれていた。

 

「うん。大事にはならなそうだ」

 

「そりゃよかった。店長には話をつけてるからあと一時間はここを使えるからな」

 

「ありがとう、亮介」

 

「良いんだって。親父のコネなんてこういう時にしか使えないからな」

 

 二人の親し気な会話に

 

「改めてになりますが、見ず知らずの私を助けてくださりありがとうございます」

 

 詩音は立ち上がって二人に礼を述べる。どんな形であれ友人同士の時間に水を差したことになったはずだが、一人は安心させるように微笑み、もう一人はその様子に苦笑した。

 

「そんなに改まる必要はないです。それよりも無事で何よりですよ」

 

「だな。それに海翔が人助けするなんていつものことだから気にしなくてもいいですよ」

 

 亮介は何でもないように言う。学生時代から海翔の性格は全くと言っていいほど変わっていない。海翔の捨て身ともいえる行動に巻き込まれたのも一回や二回ではない。

 

「では私はこれで―――」

 

「いやいや、無理をしてはいけませんって」

 

「そうだな。念のために病院に行った方が・・・」

 

 亮介の言葉に詩音は本気で慌てる。零課からは一時的に身分証を与えられることもあるが基本的に任務中だけだ。休暇中の詩音は行政的に見ればゾンビと変わりはない。今病院に行ってしまうと余計な混乱が起こってしまう。

 

 詩音が無表情の下で慌てていると、亮介がスマートフォンを取り出し耳に当て始めた。

 

「本当に、本当に大丈夫なので!」

 

「お、おう・・・」

 

 亮介は食い気味に否定する詩音に若干気圧される。数歩後ずさり、海翔の耳元に口を寄せた。

 

「なあ、本当に大丈夫そうか?」

 

「うーん・・・」

 

 海翔の方も判断しきれていないところがある。改めて詩音の方を見てみると体調は万全そうだ。少なくとも立って歩ける、大声を出せる程度には回復している。しかし倒れたときの不安定感を見るとこのまま一人で帰らせるのは危険なように感じる。

 

 少し考えた後、海翔は詩音に妥協点として自分が自宅近くまで付き添うことを提案した。彼女は徒歩で来ていたのでここからそう遠い場所には住んでいないのだろうという判断もあった。

 

「また途中で倒れないという確証があるわけではありませんし・・・」

 

「そう、ですね。ではお言葉に甘えるとします」

 

 詩音の懸念は自分の身分、ひいては零課の存在がバレてしまうこと。自宅ではなく自宅付近なら上記の二つはいくらでも誤魔化せる。それに人の好意を無下にするわけにはいかないという思いもあった。

 

 三人が部屋の外に出ようとしたところで甲高い悲鳴がデパートに響き渡った。

 

「「―――ッ!」」

 

「ちょ、二人とも!・・・あーもう!」

 

 海翔と詩音の思考は瞬時に戦闘モードに入り、ドアを荒々しく開け音の発生源に向けて走り出した。二人は売り場へと躍り出る。デパートは地域の流通を一手に引き受けていることはありそれなりに大きい。

 

 いたるところで買い物客が異形の人型の怪物に襲われている。怪物の体は小柄で、液体からできている。体を形作るかのように膜で外界から隔てている。そのおかげで人型を保っている様だ。体に緑色の模様が浮かんでいるものや何も浮かんでいないものと個体差があるが、共通点として頭の位置にコアのようなものがプカプカと浮かんでいる。怪物は撲殺するように人々を殴りつけている。既に一帯には血が溢れており、何人かが力なく横たわっている。

 

 二人から見て奥側、デパートの入り口には彼らを一回り大きくしたような怪物が一体立っていた。怪物はその体から分裂するように小柄な怪物を生み出していた。

 

 詩音が呆然としていたのは一瞬。スマートフォンで本部に連絡を入れながら拳銃を取り出そうと懐を探る。このような有事に備えて休暇であっても武器の所持が認められているのだ。

 

「―――チッ」

 

 しかし求めていた感触が伝わってこず、舌打ちと共に通話を終える。詩音は簡単な準備のみで出かけており、拳銃は家に置いてきてしまったのだ。

 

「―――あ」

 

 そのことを思い出して顔を上げると怪物の一体が目前に迫っていた。腕を振りかざしながら迫る怪物に、詩音は咄嗟に後退しようとするが怪物は既に詩音の目の前にいた。

 

「―――ハアッ!」

 

 しかし怪物が詩音に傷を与えることは叶わなかった。詩音の頭上から海翔が怪物に向けて飛び蹴りを浴びせたのだ。意外にも耐久力が無いのか、頭に蹴りを喰らった怪物は少し吹き飛んだ後に跡形もなく消失した。

 

 詩音を助けた海翔は近くにいた怪物に向けて走り出した。怪物は老人に向けて襲い掛かっていたが、向かってくる海翔を捉えるとターゲットを彼に変更した。

 

 海翔は怪物の胴体にあたるであろう部分に拳を振るう。しかし先ほどとは異なり怪物は少し怯んだものの消失することはなく、返答代わりに怪物は触手に似た腕を海翔に向けて振るった。海翔は寸前でそれを避け、そのままの勢いで顔に浮かんでいるコアに向けて拳を振るった。すると怪物は少し痙攣したのち、先ほどの怪物と同じく跡形もなく消失した。どうやら頭にあたる部分にあるコアが弱点のようだ。

 

「早く逃げてください!」

 

 襲われていた老人は礼と共にデパートの奥へと逃げていく。それを見届けるや、海翔はまた別の怪物の方へと駆け出した。怪物の集団の中にはまだ息があるだろう人も倒れている。変身してしまえば巻き込んで殺してしまうかもしれない。そのことが頭をよぎって海翔はウエストポーチに入れているエヴィデンスドライバーに手を出せないでいた。

 

 生身で次々と怪物を消失させて回る海翔の姿に、詩音は白い仮面ライダーの存在を重ねた。彼の拳や蹴りを出す際の動きやワザと自分を目立たせるような戦い方がどことなく彼と重なって見えたのだ。

 

(いやでも・・・)

 

 しかし詩音はどうしても海翔と白い仮面ライダーを完全に結びつけることはできなかった。彼の態度が自分のような過去を持っているようには思えず、戦う理由が彼には無いように感じた。理由はそれだけではない。プレイスターは元は人間だ。彼らはプレイスターになった時点で元に戻すことはできないとはいえ、白い仮面ライダーは一切の躊躇なく撃破しているのだ。その点も目の前の男とは似つかない。

 

 詩音がそう思考している間も次々に海翔は怪我を負った人たちを救出している。

 

「―――ッ!」

 

 一体では敵わないと見たか四体が四方から海翔に向かって襲い来る。避けるような隙は無く海翔の顔が引きつった。

 

「こちらに走ってください!」

 

 海翔から見て後方、デパートの奥の方から声がかかる。それと同時に金属音と共に声のした方向にいた怪物が消失する。海翔はその隙間を縫うように包囲からすり抜ける。そして海翔と入れ替わるように小柄な人影が怪物に向けて疾走する。

 

 詩音は怪物の少し手前で跳躍し、逆手に持った包丁を一閃する。調理器具コーナーにあった包丁を一本拝借したのだ。先ほど怪物が消失したのも詩音が投擲した包丁が怪物の核を貫いたためだ。詩音の放った一撃は三体の核を正確に切り裂きまとめて消失させてみせた。銃だけでなく護身術も鍛えていたことが功を奏した。

 

「無茶しすぎですよっ!」

 

 海翔をそのまま後ろに下げ、詩音は包丁を構える。民間人である海翔がここまで尽力したのだ。これ以上は無理をさせるべきではないし、何よりも戦うのは自分だけでいい。

 

(それにしても・・・)

 

 海翔や詩音が怪物をある程度減らしたはずだが、詩音の目には数は全くと言っていいほど減っていないように見える。二人が小柄の怪物を倒す速度よりも早く、奥にいる大型の怪物が分身体を生み出し続けている。先に大型の方から倒すか発生速度を上回る速度で倒さねばならない。

 

(ドライバーを預けなければよかったですね・・・)

 

 今更ながらに詩音は過去の自分を恨む。手にあるのは一本の包丁だけ。これだけで怪物の群れに挑むのは心許ない。怪物たちは武器を持っている詩音を標的にしたようで囲むようにジリジリと迫ってくる。

 

「でも連絡を取ったからもうすぐ―――」

 

「呼びましたかー?」 

 

「―――うおっ、・・・って雪村さん?!」

 

 不意に背後から声が掛けられ、ついそちらの方向へ包丁を向けてしまう。しかしそこにいたのは怪物ではなく白衣を着た少女だった。

 

「いつからそこに?」

 

「ついさっきからですー。入口はー怪物で埋め尽くされているのでー私一人で来たんですよー」

 

「・・・この怪物の中を?」

 

「隠れてきたのでー。意外とーバレないものですねー」

 

 入口はノアの言う通り怪物で埋め尽くされている。しかしノアの身体には傷一つなく、怪物の壁を突破したとは考えづらかった。

 

「(雪村?何処かで聞いたことがあるような・・・)あの、貴方は?」

 

 疑問を抱いている詩音だったが、混乱しているのは海翔の方も同じだった。詩音の死角をカバーすべく全神経を張り巡らせていたが、数秒前には誰も居なかった場所に少女が忽然と現れたのだ。勿論怪物の仲間かと思ったが詩音と面識があるらしく、また少女から殺気や危機感も感じられなかったのだ。

 

 疑問符を浮かべる二人とは対照的に、ノアは海翔にどこか優し気な視線を向けている。

 

 怪物は隙だらけの三人を見逃さず一斉に襲い掛かる。腕を振りかざす彼らだったが、コアに包丁が次々と突き刺さり三人に届かせる前に消滅する。

 

「「・・・うそん」」

 

 疑問を浮かべていた二人は一転、唖然とした表情を浮かべる。どこからともなく包丁を取り出したノアがノーモーションで怪物たちに投擲したのだ。

 

「あの・・・」

 

「そんなことよりもーお届け物ですー」

 

 何か言いたげな詩音を無視してノアは傍らに置いていたアタッシュケースを詩音に押しつける。少々強引な仕草に疑問を持ちつつ渡されたそれを開ける。そこには預けていたはずのインベスティドライバーβとインベスティマグナム、ルビーレコードカードが収められていた。

 

 詩音はチラッとノアを見ると、視線に気が付いたのかコクリと頷く。

 

「お二人はここで。巻き込まれないようにお願いします」

 

 詩音は腰にインベスティドライバーβを装着し、二人を庇うように怪物たちの方へと向かっていく。歩きながらルビーレコードカードを差込口に挿入する。

 

《Set Ruby》

 

 紅い宝石が出現し、怪物たちの頭上に落下する。質量を伴ったそれは怪物を圧死させるには十分だった。宝石群はゆっくりと浮かび上がると護るように詩音の周りを旋回し始める。

 

「変身!」

 

 インベスティマグナムを正面に構え、符号(コード)と共に発砲する。紅色の弾丸は軌跡を描きながら宝石を砕いていき、詩音の体を変化させていく。

 

《Burning, Breaking, Victory!》

 

《Kamen-Rider Gares Mode:Ruby!》

 

《System All Green》

 

 変身完了を告げる機械音声と共に、ガレスがインベスティマグナムを奥にいる大型の怪物に向けて乱射する。しかし小柄な怪物の内の一体が光弾の射線上に割り込み、一発たりとも本命に届くことはなかった。

 

 小型の怪物が殺到するがガレスは動揺することなく一体ずつ撃ち抜いていく。銃弾は一発につき一体のコアを貫いただけではなく、その後ろにいる怪物のコアもそのままの勢いで砕いてしまう。

 

 変身前と比べて圧倒的な速度で怪物を屠っていく。しかし相変わらず全体的には数は減少しているように見えない。分身体を生み出す大元である大型の怪物に向けて歩みを進めるが、小型の怪物がガレスへと特攻を仕掛けてくるので思ったように前進できない。

 

「あーもう、鬱陶しい!」 

 

《1-Reading》

 

《Ruby Shooting Burning!》

 

 乱戦の中ルビーレコードカードを一度だけ読み込ませ、真紅の宝石の弾丸を怪物の群れにバラまいていく。扇型に一時的な空白地帯が生まれるがすぐさま新たに生み出された怪物が隙間を埋める。

 

「空賀君なら突破出来たんでしょうけ、ど!」

 

 銃弾を放ちつつガレスがぼやく。ガレスは装甲による防御力が三機の中で最も高いが、その代償か機動力は低い。一方の刃狼は防御力は三機の内ワーストだが、機動力は最高記録を叩きだしている。刃狼ならば先ほどの攻防で本体との距離を大きく詰めることができただろう。

 

 攻め切れていないガレスに何とか救援できないか、と海翔は周囲を見渡す。雪村と呼ばれていた少女の姿はどこにも無く、逃げていた人たちも猛スピードで敵を薙ぎ倒している赤い仮面ライダーに釘付けだ。

 

 今なら、と海翔はちょうど人々から死角となるデパートの端に滑り込んだ。

 

 しかし海翔の思惑は叶わなかった。頭から血を流している男性店員を亮介が救助していたのだ。男性は痛みのあまり時折呻いており、幸か不幸か命には至っていないようだ。

 

「ううっ・・・」

 

「大丈夫か?しっかりしろ・・・って海翔!悪いが手伝ってくれ!」

 

「(まだ助け損ねた人がいたのか・・・)勿論―――ッ!」

 

 亮介の元に駆け寄ろうとしたとき、二人の声を聞きつけたか怪物が現れた。海翔は不意打ちでコアに向けて蹴りを放った。その一体は消滅したが続々と怪物が現れる。

 

 亮介を後ろに庇い、怪物らの前に立つ。

 

「お、おい。無理するなって」

 

 亮介が怯えたように海翔を制止する。海翔はチラリと後ろを見ると男性店員は気絶しているようだった。息はしている様だがこれ以上時間をかけるとどうなるかは分からない。

 

「・・・亮介、今から見ることは秘密にしてほしい」

 

「・・・何する気だよ」

 

 亮介の言葉を無視して怪物に向かって大きく踏み出す。そして肩にかけていたウエストポーチからエヴィデンスドライバーを取り出し腰に当てた。

 

「―――嘘だろ」

 

 自動で装着されるドライバーを見て、何かを察したかのように亮介が呟く。海翔は内ポケットからレコードカードを一枚取り出してそのまま挿入する。

 

《SABER!REALLY?》

 

「変身!」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE SABER!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 生み出したエヴィデンスカリバーを一閃し、怪物をまとめて切り捨てた。消滅を確認する前に更に踏み出し、奥にいる怪物を次々と切り捨てていく。

 

 向かう先はガレスにの元。自分一人ではこの増殖速度を超える殲滅スピードは出せないだろう。そして小柄な怪物が増殖しないのを見ると、大型の怪物が本体であることは間違いない。ここは二人で協力して大型の怪物を一気に倒してしまうのが良いだろう。

 

(あっちが協力してくれるなら、だけどね)

 

 先日遭遇した刃狼のように、警察は警察で事情があるのだろう。だが今の状況はそんなことは言っていられない。彼女も協力してくれるだろうとヒュームは考える。

 

《ELECTRIC!》

 

《ALL RIGHT!ELECTRIC SLASH!》

 

「―――ハアッ!」

 

「―――ッ!」

 

 ガレスの目前に迫った怪物らに向けて雷の斬撃を飛ばす。ブレイズよりも威力は下がるが取り回しはこちらの方が良い。核を撃ち抜くだけならエレクトリックでも問題ない。ガレスとヒュームの間に道が開け、ガレスの元に駆け付ける。ガレスの方も敵の増援かと身構えたが、下手人の正体がヒュームだと分かると警戒心を引っ込めた。

 

「救援感謝します、白い仮面ライダー」

 

「・・・あの、その白い仮面ライダーって?」

 

 ヒュームは雷の斬撃を慎重に敵に浴びせながら、ガレスに気になっていたことを尋ねた。

 

「一応、貴方のことなのですが・・・」

 

「僕にもヒュームっていう名前・・・というか型番?みたいなのがあるので・・・」

 

「では私のことはガレス、と呼んでください」

 

 ガレス、と口の中で名前を反芻する。そういえば変身の時に機械音声がそんな名前を言っていたような気がする。

 

「改めてヒューム、何か作戦はありますか?」

 

「・・・」

 

「どうしましたか?」

 

「いや、僕のことを簡単に信じてくれるんだ、って思ってね」

 

「・・・あー」

 

 ガレスとヒュームは背中を合わせながら会話を続ける。ヒュームの言葉にガレスはそういえば、という風に抜けた声を上げた。その間にも二人の手は止まらず、次々と怪物を消滅させている。

 

「・・・その件に関しては同僚が失礼しました」

 

「いやいやいや!全然気にしてないから!」

 

 消え入りそうなガレスの声に、慌ててヒュームはフォローを入れる。ガレスは一連のヒュームの行動に何処か既視感を覚えたが、それが実を結ぶよりも早くヒュームが声を上げる。

 

「作戦なら・・・あの怪物を倒すぐらいしか思いつかないですね」

 

「敵を倒し続け相手の疲労を待つ、というのは?」

 

 一人なら不可能だが、二人いれば何とか分身体を倒し続けることができるだろう。そう思っての発言だったが、ヒュームは頭を振って否定した。

 

「多分ですけど相手のカードは細胞(CELL)です。今の時点で力尽きてないなら限界はないと思った方が良い」

 

細胞(CELL)・・・確かに言われてみれば」

 

 小柄な怪物を改めて観察すると、コアは細胞核に、浮かんでいるものはミトコンドリアや葉緑体にも見える。細胞の記録で怪物化したのだとするとプレイスターの増殖のスピードにも納得がいく。

 

「ガレスさん、あの大きい怪物に向けて一直線に道を作ることはできますか?一瞬でも開けたなら僕が一気に接近できますので」

 

 そういわれてガレスも思い出す。ヒュームは変身に使うレコードカード以外にも多くのカードを持っている。その中には高速で動くことを可能にするエレクトリックレコードカードも含まれていた。

 

「分かりました、ヒューム。では少しだけ時間稼ぎをお願いします」

 

「任せてください!」

 

《ALL RIGHT!ELECTRIC SLASH!》

 

 そういうとガレスは数歩後ろに下がる。ガレスが抜けた分ヒュームへの怪物の密度が分厚くなるが、ヒュームはそれを補うように雷を纏ったエヴィデンスカリバーを振るう。

 

《1-Reading,2-Reading》

 

 ガレスはインベスティマグナムの銃口に大量のエネルギーを充填していく。真紅のエネルギーはやがて巨大な宝石へと変化する。

 

「ヒューム、準備できました!」

 

「了解です!」

 

 ヒュームが横に避け、射線上に大型の怪物―――セルプレイスターが入る。小型の分身体が更に割り込んでくる前にガレスは引き金を引いた。

 

《Ruby Shooting Breaking!》

 

 銃口から放たれた巨大な宝石が分身体を次々と消滅させながらセルプレイスターへと迫る。本体を庇うべく分身体が射線上に殺到し、セルプレイスターに命中する寸前で宝石は消滅した。

 

 作り出した空白地帯にもすぐさま分身体が埋め尽くすが、一瞬道が開かれたならヒュームにとって十分すぎた。

 

「―――ハアッ!」

 

《AUTHENTICATION!WHAT'S HAPPENED?》

 

《ALL RIGHT!SABER ELECTRIC SLASH FINISH!》

 

 黄色い残光を残し、瞬きよりも早くセルプレイスターの間近に迫る。セルプレイスターの反応すら許さずにコアを両断する。

 

「―――ッ!」

 

 断末魔と共にセルプレイスターが爆散する。それと共に分身体である小型の怪物も次々に消滅していく。爆風と共に一枚のレコードカードがガレスの元に飛来する。

 

 それを見届けたヒュームはエレクトリックレコードカードを抜き取り、エヴィデンスドライバーにかざそうとする。それを見たガレスは声をかけてヒュームを制止する。

 

「彼らも元は人間のはずです。貴方はどうして彼らを殺すのですか?何故戦うのですか?」

 

 変身を解除しながらヒュームに問いかけた。この問いかけは半分以上詩音の興味だ。返答がなくても、激高されても構わなかった。

 

 ヒュームの言動や戦い方は先ほど出会った「彼」にとても似ている。しかし元人間に対する戦いと思えないほど躊躇いなくプレイスターを切り捨てた。そのことだけがヒュームと「彼」をイコールで繋がることを遮っている。

 

「・・・人間?」

 

 しかしヒュームの反応は詩音の予想とはまるで違っていた。まるで人が変わったように詩音に向けて静かに語りかける。

 

 混乱しているのはヒュームも同じだ。自分の意思に反して勝手に口が動き、それが当たり前であるかのようにどこか受け入れている自分もいる。

 

「・・・あれが人間とは言わせないわ。彼らは、あれらは、もう既に人間じゃない。私たち(人間)の尺度で測ること自体が間違っているの。それに―――」

 

 ヒュームは一瞬物憂げな雰囲気を醸し出す。どこか神聖さを思わせるような態度に、詩音はつい圧倒される。

 

「―――それに怪物(あれら)を人間と呼ぶのは、人間に対する侮辱よ」

 

《ELECTRIC!》

 

 そう言い残すと残光を残して消失した。その残り香を詩音は暫しの間呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――警視庁地下、零課本部にて

 

 騒動で多くの隊員が出払った地下の廊下を白衣の少女が通る。変身装備一式を詩音に届けるために機動部隊に同行したノアだったが、任務を終えた後彼らを置いて先に帰還していた。

 

 いつもより足音が響く廊下を一人歩く。必死に隠してはいるがどこか速足で、顔色も悪いように見える。

 

「ども、雪村博士。瀬良クンは大丈夫そうやったか?」

 

 向かいから歩いてきた景虎がすれ違いざまに声を掛ける。親し気な口調とは反対に、ノアは手を軽く挙げて応じるのみで足早にその場を立ち去った。

 

「・・・なんや。えらいしんどそうやったな。一応村上博士にだけ知らせとくか」

 

 無下に返されて不機嫌になることはなく、身についた観察眼でノアの不調を悟り開発研究部へと足を向ける。

 

 ノアは研究室に戻ることなく、女子トイレの個室へと駆け込んだ。誰もいないことを確認しドアをしっかりと施錠すると、緊張の糸が切れたように座り込んだ。

 

「―――ゴホ、ゴホ、ゴホ!」

 

 ノアはその体制のまま何度も何度も咳き込む。口元を抑え込んで漏れ出るものを全て受け止めきる。汗が滝のように流れ、表情は苦し気に歪んでいる。荒い息と共に深呼吸を繰り返し、手にへばりついたモノを確認する。

 

「―――はは」

 

 手にべっとりとついた血を見てノアは自嘲する。

 

「やっぱ、り、ノーリスク、というわ、けには、いかな―――ガ、アッ」

 

 胸を押さえて苦しみだす。心臓が直接揺さぶられるような痛みに、ノアは歯を食いしばって意識を失わないように耐える。

 

―――それが私の罪だから。意識を失うなんて贅沢、私には許されない。許される、わけがない。

 

 これが対価であるというかのように、痛みは一時間以上全身を蝕み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――同時間、管制室

 

 一日を通してキーボードの操作音が響く管制室では、いつもとは少し違った雰囲気が漂っている。作業していた隊員の一人が優成に向かって声を掛ける。

 

「司令、見つけました」

 

「表示しろ」

 

「了解しました」

 

 優成の声に応じて巨大なモニターの一部に写真が表示される。零課が得ている監視カメラの映像の一部を切り取ったもので、鮮明であるとは言い難い。映し出された写真は徐々に鮮明化され、全貌が把握できるようになる。

 

「これが・・・」

 

 写っていたのは一人の男が跨るバイク。フルフェイスのヘルメットで遮られており男の顔は分からなかったが、バイクはナンバーまで全貌が読み取れる。

 

 先日タイガープレイスターを探し回っている海翔(ヒューム)が零課の捜査網に引っ掛かったのだ。

 

「ようやく掴んだ白い仮面ライダーの尻尾だ、絶対に活かせ!」

 

「「「了解!」」」

 

 優成の号令に隊員が応える。零課の捜査の手が海翔へと迫る―――




あれ?ヒロイン枠って詩音ちゃんだったっけ?(幻覚)
いえ、違います(戒め)

というわけで詩音がヒュームの正体に気付き始めました。まあ海翔君あまり隠そうとはしてないので・・・自分のことより他人の命!の方針が早くも裏目に出ちゃいました。

そして海翔の正体を知るものがまた一人増えました。明奈の心労が加速する加速する・・・ホントそういうところだぞ海翔。

更にはノアにも何やら秘密があるそうで・・・

本当に伏線を回収しきれるんだろうな、作者。(呆れ)
します。(震え声)

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おまけ~CMその2~
『ヒューム!』

レコードカードを挿し込め!

『Set Ruby』

トリガーを引いて、変身!

『Kamen-Rider Gares Mode:Ruby!』

『System All Green』

DXインベスティドライバー&インベスティマグナム!(レコードカード1枚付属)

武器を入れ替えて、2人のライダーに変身!

『Kamen-Rider Ha-Rou』

『Kamen-Rider Sutorus』

DXインベスティセイバー!そしてDXインベスティランスも!
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