仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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祝、二桁!


No.10 ENCOUNTER/炎、記憶、懺悔する者

 都内から離れたある場所。車の往来はほとんど無く、あたりは静寂が支配している。ビル群に代わって植物があたりを埋め尽くしており、そこに息づく自然の音だけが耳元に響く。高く育ち切った木は日光の侵入すらも許さない。

 

 生者にとっては恐怖すら感じるそれだが、ここは死者が眠る場所。墓所としては一種の理想形がそこにあった。構えられた墓石は十個あるかどうか。そのどれもが自然の猛威に晒されて少なからず劣化していた。

 

 死者の眠りを妨げるように一人の男が墓所に入り込む。神父服を着こなし、十字架(ロザリオ)を首から下げているその姿は日本式の墓所には全くの不似合いだ。

 

 男―――有村祈里は比較的新しい墓の前で歩みを止める。手に持っていた花束を古いものと入れ替え、手入れがされていない墓石の表面を軽く撫でる。文字が完全に露出したことを確認し、祈里は墓前で手を合わせた。

 

 神父服の男が日本式で死者の冥福を祈る。一見して奇妙な構図だが一心に祈る姿は本職の住職に見劣りするものではなかった。

 

 顔を上げる。いつもならすぐに去るところだが、今日だけは例外だ。

 

「・・・」

 

 同居している優月には万に一つも聞かれたくない。ここならば話せるだろうか、と考えてはるばる足を向けたが、心に溜まった言葉は喉につっかえて出てこない。

 

「・・・」

 

 『雪村家之墓』と刻まれた墓石をぼう、っと眺める。自分以外に定期的に訪れる者はおらず、設置されて二十年足らずとは思えないほど劣化が進んでいる。生前の彼女の話によると妹がいたようだが、墓の存在を知らないのかはたまた疎遠だったのか、ここを訪れてはいないようだった。

 

 ようやく口を開いたのは、それから十五分後のことだった。

 

「・・・やはり、貴女はこうなることを見越していたのですか?」

 

 祈里の言葉は冷たい風によって誰の耳にも入らないように何処かへと飛んで行く。

 

「だからこそ貴女は彼を育てた。兵器としてではなく、一人の人間として」

 

「当時は何をしているのか、理解できませんでした。しかし今なら―――」

 

 彼の言葉は誰にも届かない。それは死者に対しても同様だ。彼には死者の魂が見ることができる、などといった超能力は備わっていない。そもそもこの墓には誰も埋まっていない。彼の放つ言葉は文字通りの独り言。まるで告解のように、懺悔のように、誰にも届くことのない言葉を紡いでゆく。

 

 彼はふと時計を見る。定めていた滞在時間は当に過ぎ去っている。昭人ほどではないが長距離の外出は祈里にとって命取りと成りうる。もう一度だけ手を合わせてその場で踵を返した。

 

「―――」

 

 立ち去ろうとしたとき、一抹の風が祈里の耳をくすぐる。聞こえるはずのない声を耳にしたような気がして、つい振り返ってしまう。

 

 視線の先には相も変わらず時の波に揉まれる墓石があるだけ。そのことが不意に可笑しく思えて、祈里はここに来て初めて笑みを浮かべる。

 

「安心してください。可能な限り彼を見守り続けるので」

 

 最後の呟きは自然が発する音に飲まれて墓石にすら届かなかった。

 

「―――それがこのような有様になってまで生き残ってしまった、私にできる贖罪ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒールの音を鳴らして階段を下りていく。一つ一つの挙動が支配者然としていて独特のプレッシャーを放っている。身に着けている黒いドレスが風でなびく。

 

 コツ、コツ、コツ。

 

 甲高い音がやけに煩く響く。音が近づくほどに吐き出しそうなほど強烈な圧力を感じる。

 

 見た目は無力な一般人。しかし身にまとう存在感(プレッシャー)がそれを根底から否定する。これまで撃破してきたプレイスターに比べても圧倒的なソレに、この場にいる人間に寒気がするほどの恐怖を感じる。一般人であれば失神、最悪狂死してしまうだろう。

 

 突き刺すような圧力を目の当たりにして、仮面ライダーがとった行動は四者四様。

 

「「―――ッ!」」

 

 刃狼はインベスティカリバーを、ガレスはインベスティマグナムをそれぞれ女性に向けて構える。視線を彼女から話すことはできない。一瞬でも目を背けてしまえば首を絶たれてしまう。そんな錯覚をしてしまうほど彼女の圧力は強烈だ。

 

 しかしそれでも二人は怯まない。彼女は最初に確認され、そして最も目撃されている異常存在(プレイスター)。動向からしても幹部級であると推定されている。ここで引くという選択肢はない。

 

「―――え?」

 

 一方のストラスは二人の反応とは真逆。気の抜けたような声を出してその場に立ちすくむ。

 

 戦場に居る戦士としては余りにも愚劣な行動。女性が放つプレッシャーに飲まれたわけではない。彼女はそれに動じるような甘えた鍛え方はしていない。

 

 隙だらけのストラスだが、幸運なことに女性はストラスに関心を示していない。

 

 そしてヒュームは―――

 

「―――ガアッ!」

 

 女性の顔を視界に収めた瞬間、頭を抱えて苦しみ始める。忘れていた事実(トラウマ)を呼び起こすように、それを魂が、本能が拒絶するように、相反する力が脳の中でせめぎ合い、頭が割れるような感覚を覚える。

 

「~~~ッ!」

 

 あまりの痛みに叫び声をあげることすらできない。ただ押し殺した呻き声が仮面の奥から漏れ出る。意識を失うことを気力だけで防ぐ。

 

(―――は?)

 

 思わず閉じた瞼の裏に何かうねるものを幻視する。

 

 ―――ああ、

 

 それは赤黒いもの。熱いもの。広がるもの。飲み込むもの。奪うもの。

 

 ―――それ以上はいけない。

 

 頑丈に閉じられた扉からわずかに記憶が漏れ出る。

 

 

 

 

 

 木と葦で作られた原始的な家が次々と燃えてゆく。自然豊かな村は既に見る影もなく、家も、人も、田んぼも、炎は等しく飲み込んでいく。

 

 地面には人間だったものが転がっている。それは血塗れになったもの、炭と成り果てたものと死因は様々だ。転がっているのはそれらだけではない。一枚一枚が神のごとき力を持っている(カード)がそこかしこに落ちている。

 

 地獄に変貌した故郷を()は呆然と眺める。

 

 燃える。燃える。燃える。

 

 人間も怪物も全て平等に飲み込んでいく。

 

 何もかも全て手遅れ。後悔も既に意味を持たない。

 

 燃える。燃える。燃える。

 

 思わず乾いた笑い声が口から洩れる。

 

 分かっていたはずだ。この結末に辿り着くことは。

 

 (おまえ)はそれを知っていながら、目を背けていた。

 

 燃える。燃える。燃える。

 

 力があるのに使わなかった。()()()を人間だと誤解していた。

 

 情けをかけてはいけなかった。守るべきものを間違えてはいけなかった。

 

 ()の感情も全て、炎は平等に飲み込んでいく。 

 

 

 

 

 

 ―――思い出すな

 

 

 

 

 

 誰かに抱えられ、燃え盛る地下から脱出するべく出口へと向かう。最新鋭の技術が詰め込まれた研究所は影も形も無く、

 

 電気類はショートを起こし、瓦礫と炎で足元が不安定なのにも関わらず、()を抱える男は変わらぬスピードで出口へと向かっていく。

 

「―――ッ!クソ、クソクソクソッ!」

 

 男は口から悪態を吐き続ける。血反吐を吐きそうなほどの後悔を含んだそれは、()ではなく男自身に向けられている。

 

 ふと向かう先とは逆の方向、通路の奥を見る。

 

 元凶である怪物たちが二人に向けて恨めしそうな視線を向けている。しかし通路の奥、研究所の核となる広間から一歩たりとも出ることは許されない。

 

 二人の間、怪物の行く手を遮る一つの影。右半身に輝くようなオレンジ色の炎を、左半身からは黄色い電流が絶えず放出されている。

 

 どうしてか、その影を見ているうちに粘りつくような後悔が蛇のようにしつこく心を締め上げる。

 

 誰か知らないのに。

 

 分からないのに。

 

 思い出せないのに。

 

 そのことが心の締め付けを更に加速させる。

 

 

 

 

 ―――思い出すな

 

 

 

 

 

 何もかもが違うはずなのに、嫌なほどに情景が重なり合う。似ているのは焦げ臭い匂いか、それとも死に至る寸前の人々の魂からの絶叫か。

 

 

 

 

 

 

 ―――思い出すな

 

 

 

 

 

 それとも。

 

 

 

 

 

 ―――思い出すな

 

 

 

 

 

 魂にこびりついてしまった吐き気を催すような罪悪感か。

 

 

 

 

 

 ―――思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すな思い出すなッ!

 

 

 

 

 

「―――ッ!ハアッ、ハアッ、ハアッ」

 

 ヒュームの頭に浮かんだのは強烈な拒絶の意思。半分以上無理やりに思考の渦からはじき出され、何とか現実に戻ってくる。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ」

 

 荒い息を吐き、未だに張り裂けそうな頭を押さえつける。満身創痍ながらも残る気力を用いて女王(クイーン)を睨みつける。

 

女王(■■■)・・・!」

 

 ヒュームの口から言葉が漏れ出る。日本語のようでどこか違う発音。未知の言語を聞いた時のように耳を通り抜け、意味を考察するには至らない。

 

「―――ククッ、懐かしい名前を出してくれるな」

 

 しかし唯一、女王(クイーン)だけが心底愉快そうに顔を歪める。

 

「だが訂正してもらおうか。貴様も巫女(■■)と呼ばれるのは本意ではなかろう?」

 

 女王(クイーン)の口から出た名前も他の人間に、そしてヒュームにも理解できない。しかし同時にやけに懐かしい響きに何処か落ち着くものを感じる。

 

「私は女王(クイーン)。選ばれし人類の主にして、我らを謀った者どもに復讐する者。それ以外の何物でもない」

 

 女王(クイーン)の後に続いて一人の老人が現れる。皺だらけの身体に不相応な気迫を纏っており、それは目の前の女王(クイーン)やヒュームを圧倒した少女と比べても遜色ない。

 

 老人を見てヒュームは憤りを含んだ声を上げる。

 

戦士(ウォーリアー)だって・・・?女王(■■■)―――ッ!」

 

 ヒュームの慟哭を耳にして、女王(クイーン)の口から暗い笑みが漏れる。

 

「クククッ、容易く見破るとは腐っても巫女か。貴様もこの力を持つものに殺されるなら未練はないだろう?」

 

 そう言うと女王(クイーン)は身を翻した。立ち去ろうとする女王(クイーン)戦士(ウォーリアー)は念を入れる。

 

「ふむ、良いのか?」

 

 仮面ライダーとは極力関わらない方針だったはず。矛盾するような命令に困惑しつつも、強者である仮面ライダーと戦えることに喜びを感じていた。

 

「構わん、好きにしろ」

 

 そう言って今度こそ立ち去ろうとする女王(クイーン)。しかしまたしても待ったをかける者がいた。

 

「逃がすかいな!」

 

「空賀君の言う通りです!」

 

《Ruby Shooting Burning!》

 

 押しつぶされそうな存在感(プレッシャー)を跳ねのけて、刃狼が背を向けた女王(クイーン)に向かって駆け出す。オオカミ由来の身体能力を生かして猛スピードで距離を縮める。そして無謀ともいえる突撃を援護するために刃狼の背後からガレスが真紅の弾丸を放つ。

 

 完全に不意を突いた攻撃。しかし女王(クイーン)に届くことは無かった。

 

 少し話は逸れるが、プレイスターは皆人間離れした身体能力や異常な能力を兼ね備えている。それらと戦うために開発された仮面ライダーも当然人間離れしたパワーを設定されている。刃狼が放った剣撃も人間が受け止めることは不可能だ。

 

 その一撃は、老人がどこからともなく取り出した素朴な斧によって容易く受け止められた。枯れ木のような腕からは想像できない力を見せる。切りかかった刃狼はまるで岩に刃を立てているかのような錯覚を覚える。援護するために放たれた銃弾も開いた手で簡単に受け止められた。

 

 老人の右手から砕かれたルビーが無造作に捨てられた。刃や弾丸を容易く受け止める、プレッシャーから推測されていたことだが、見た目のようにただの老人ではない。

 

「その程度か、仮面ライダー?」

 

「なんや―――うぉ!」

 

 煽るように吐き捨て、老人が斧を振るう。鍔競り合っていた刃狼はその風圧で容易く吹き飛んだ。老人は体制を崩した刃狼に向かって高速で接近する。事前動作すらオオカミ由来の動体視力を持ってしても捕らえることができなかった。

 

「―――ッ!」

 

 上段から斧が振り下ろされる。老人の動きは洗練されており、老いというものを全く感じさせない動きだった。あまりの威力に斧の先端から風切り音が発生する。人外の一撃はまともに喰らえばライダーといえども無事では済まない。

 

《ALL RIGHT!YOU ARE SABER!》

 

《Beetle Strike Growing!》

 

 しかし、刃狼の身体に当たる寸前で二つの武器によって防がれた。一つはセイバーフォームにフォームチェンジしたヒュームの剣。もう一つはカブトムシの角のような緑色のオーラを纏ったインベスティランスだ。二つの武器は刃狼の両脇からクロスするように斧を受け止めた。

 

「―――グッ」

 

《BRAZE!》

 

《ALL RIGHT!BRAZE SLASH!》

 

(おっも)いっ・・・」

 

 パワータイプの二人を以てしても完全に受け止めることはできず、徐々に押し込まれてゆく。ヒュームがブレイズレコードカードを使用しても好転する兆しを見せなかった。

 

 ゆっくりと、しかし確実に刃が押し込まれてゆく。焼けつくすような炎も、強者を薙ぎ倒す角も等しく無価値だと嘲笑うように。

 

「―――喰らえや!」

 

《Wolf Slash Biting!》

 

 刃狼はタダで庇われて黙って見ているだけの男ではない。二人の更に下段から青いオーラを纏ったインベスティカリバーが支えるように突き出された。

 

「フッ!」

 

「よいしょっと!」

 

「ハアッ!」

 

 三人の攻撃を持ってようやく手斧を宙へと浮かせた。老人はすぐさま体制を立て直し斧を振るおうとしたが、最後の一人のライダーがそれを許すことは無かった。

 

《Ruby Shooting Breaking!》

 

 こぶし大の真紅の宝石が老人に向けて高速で飛来する。老人は三人への追撃を諦め、宝石に向けて拳を振るう。拳は宝石を正確に打ち抜き、宝石の中でも屈指の硬度を誇るルビーは見るも無残な姿へと変えられた。

 

 しかしその役割は十分に果たした。生み出された隙で三人のライダーは体制を整えていた。油断なく構える三人を見て老人は心底愉快そうに皺だらけの顔を歪める。

 

「やりおる!流石は同志を何人も屠っただけはあるのう。では―――」

 

 老人が構えるように前屈みになり、それと同時に手斧が老人の手から滑り落ちる。地面に衝突する寸前に斧は光の粒子となって消失した。現実では到底起こりえない事象。しかし四人は注視する余裕がない。老人が前かがみになった瞬間、纏っていた存在感(プレッシャー)が膨れ上がったのだ。

 

「―――儂も少し本気になるとしようかの」

 

 一本の槍が瞬時に形成され、老人は流れるような動作で手に持ったそれを投擲する。弾丸に匹敵するのでは、そう錯覚するほどのスピードで標的に向かって一直線に直進する。

 

「―――ッ!」

 

 照準に定められたのはガレス。遠距離担当から潰すというのは合理的な考えだが、まさか前衛の三人を完全に無視してくるとは想定出来なかった。必殺技で相殺するのは間に合わない。ガレスは腕に装着されている鎧を射線上に割り込ませる。

 

 正面から挑んでは鎧は容易く砕かれることは目に見えている。ガレスは槍の穂先が鎧に触れた、と感じるよりも早く外側に力を加える。何とか軌道を逸らすことができたが、衝撃で左腕の装甲が粉々に砕かれる。

 

 直撃を避けたのにも関わらずもこの威力。装甲の下にある身体にまで衝撃が加わる。想定外の結果にガレスは仮面の下で戦慄する。

 

 槍は手斧と同じく地面に突き刺さる前に消滅する。それと同時に老人の手に一振りの無骨な剣が生成される。それを持ってライダーらに切りかかる。

 

 受け身では迎撃どころか防御することすら難しい。そう考えてヒュームがエヴィデンスカリバーを持って一歩前に出る。頭痛は未だに収まっておらず、先ほど垣間見た記憶についても疑問しか残ってない。それらを一旦飲み込んで集中しなければ老人の攻撃は対処できない。

 

 老人は低い姿勢のまま直刀で攻撃を仕掛ける。一撃一撃に多大なる力を加えながらもそれに振り回されることはなく、むしろそれを利用して独特の剣筋を生み出している。一方のヒュームは全霊を持って老人の剣に喰らいつく。正面から打ち合うことを徹底的に避け、一太刀残らず全ていなしきる。

 

「カカカッ!良いぞ!」

 

 戦士(ウォーリアー)は嬉しそうに声を上げる。年季の入った身体に疲労という言葉は無いようで、ヒュームは仮面の下で顔を歪める。本調子とは程遠い体に加え、一度のミスも許されない綱渡りのような応酬。ヒュームは既に限界を迎えつつあった。

 

「変わるわ~」

 

「休んどき!」

 

「―――ッ!お願いします!」

 

 一瞬の隙をついてストラス、刃狼と入れ替わる。ストラスは槍の中間を握り、剣と比べて圧倒的に勝るリーチで老人の太刀を受け流していく。刃狼はストラスが受けそこなった攻撃をいなし、オオカミ由来の動体視力と経験から何とか見つけ出した隙を狙ってインベスティカリバーを振るう。

 

《ALL RIGHT!YOU ARE ARCHER!》

 

《1-Reading,2-Reading》

 

《BLAZE!》

 

 背後から聞こえた音声を合図に、刃狼とストラスの二人は左右に大きく距離を取った。老人がヒュームとガレスを視界に捉えるよりも早く二人はそれぞれ蓄えていたエネルギーを放出した。

 

《ALL RIGHT!BLAZE SHOOTING FINISH!》

 

《Ruby Shooting Breaking!》

 

「甘いわ!」

 

 熱エネルギーが凝縮された炎の矢と赤い巨大なエネルギー弾が襲い掛かる。並みのプレイスターならこれだけでも撃破可能だ。しかし戦士(ウォーリアー)が剣を一閃させただけで蜃気楼のように霧散した。

 

《 《1-Reading,2-Reading》 》

 

 これだけで目の前の怪物を倒せるとは誰一人として考えていない。刃狼とストラスが戦士(ウォーリアー)の左右から各々の武器を振るった。

 

《Wolf Slash Biting!》

 

《Beetle Strike Strength!》

 

 データで構成された青いオオカミと緑色のカブトムシが老人に向かって襲い掛かる。人間よりも一回り大きく、それぞれ首と心臓という人間の急所を狙う。

 

 しかしそれが老人に当たることは無かった。瞬間、目前へと迫っていた二体のエネルギー体の前から戦士(ウォーリアー)の姿が掻き消える。一瞬で空高く上昇した老人は上空から二本の槍を投擲する。それは二体の首を正確に貫き、クレーターと共にコンクリートへと突き刺さった。

 

 反撃には失敗したものの老人の身体は空中に投げ出されている。戦士(ウォーリアー)は空中を蹴って即座に地上に降り立とうとする。しかし―――

 

《ELECTRIC!》

 

「―――ほう」

 

 半透明の矢が老人の身体に次々と突き刺さる。落下はピタリと停止し、戦士(ウォーリアー)は空中で固定され、ようやく無防備な姿を晒した。

 

《 《 《1-Reading,2-Reading,3-reading》 》 》

 

 二度とは望めない好機。確実に仕留めるべく三人のライダーは危険を承知で戦士(ウォーリアー)に向かって駆け出した。

 

《Ruby Shooting Victory!》

 

《Wolf Slash Hunting!》

 

《Beetle Strike Frying!》

 

《ALL RIGHT!ARCHER ELECTRIC SHOOTING FINISH!》

 

 三方向から赤、青、緑の三原色が襲い掛かる。怪物を屠るには十分な威力を持つ必殺技が三乗となって無防備な戦士(ウォーリアー)に直撃する。そして少しのタイムラグの後に黄色のボウガンの矢が幾つも殺到する。

 

 黒煙の塊となって地上に落下する戦士(ウォーリアー)。しかし四人とも楽観視することは無い。確かに攻撃は直撃していたし、蹴りこんだ時の手ごたえもあった。しかしどうにも嫌な予感が拭えないのだ。

 

 そしてその懸念は現実のものとなる。

 

《WARRIAR》

 

「「「「―――ッ!」」」」

 

 黒煙が晴れた後には一体の怪物が佇んでいた。枯れ木のように細い身体は見る影もなく、強靭で使い込まれた筋肉とツギハギの鎧が全身を覆っている。目を引くのは全身に無数に刻まれた切り傷や銃創、そして突き刺さっている数多の武器たちだ。剣、斧、矢、槍―――世界各地の様々な武器が半壊、もしくは全壊した状態で全身に埋め込まれている。

 

『―――ッ!撤退だ!ここでお前たちを失うことはできない、すぐに回収部隊を向かわせる!』

 

 三人が身に着けている無線機から優成の焦った声が聞こえる。

 

「そんなこと言うたかて―――」

 

 刃狼が漏らした愚痴に残る三人が心の中で同意する。怪物から放たれている強烈な死の気配。引き際を見誤らないのは部下として嬉しいが、目の前のそれから無事に逃げられるというビジョンがどうしても見えない。

 

 怪物―――ウォーリアープレイスターは確かめるように手を開閉する。そしてどこからともなく取り出した戦斧(ハルバード)を一閃する。

 

 透明な闘気(オーラ)が斬撃のような形状となってそれに合わせて放出される。辛うじて回避に成功したのはヒュームだけ。斬撃は光速ともいえるスピードで残る三人のライダーを切り裂いた。

 

「「「―――」」」

 

 たった一撃。それだけでドライバーの安全装置が作動し三人の変身が解除される。ボロボロの三人が地面に倒れ伏す。あまりの痛みに五体満足であることが奇跡のように感じられた。

 

「皆さん!―――ッ!」

 

 ウォーリアープレイスターの目標は未だに無事なヒュームへと向かった。防御力が低いアーチャーフォームどころかセイバーフォームであっても攻撃を受け止めることはできない。それほどの圧を感じながらヒュームはエヴィデンスドライバーを操作する。

 

《ALL RIGHT!ARCHER SHOOTING FINISH!》

 

 ヒュームは透明化してウォーリアープレイスターの背後に回り込む。精密機械ですら見抜けないほど完全に周囲に溶け込んでいる。しかし―――

 

「な―――ッ」

 

 思わず絶句してしまった。ウォーリアープレイスターはヒュームの姿が見えているかのように顔を動かす。

 

 腹部に重い衝撃が加わり、ボールのように何度も地面を跳ねる。外套は光の粒子となって分解され、ヒューマンフォームに戻ってしまう。

 

 吹き飛ばされたのは詩音ら三人の正面。膝をついて何とか立ち上がろうとするが、上手く力が入らず地面に倒れ伏してしまう。

 

「ク、ソ―――」

 

 既にヒュームは限界だ。身体だけではない、精神状態も同様だ。突然垣間見た謎の記憶。それによってもたらされた混乱は大きい。その状態で無理やり戦っていたのだ。少しでも気を抜いてしまえば変身はたちまち解けてしまうだろう。

 

 悠然と四人に向かって歩くウォーリアープレイスターに一発の光弾が命中した。余りにも貧弱なそれは鎧に弾かれて容易く霧散する。

 

 満身創痍ながら何とか詩音は立ち上がる。

 

「・・・瀬良、さん」

 

「・・・ハア、ハア、一般人の貴、方が戦って、いるというのに、私が寝ている、わけにはいかない、でしょう」

 

 息は荒く、今にも倒れてしまいそうなほどに足元もふらついている。しかし、だからこそ詩音は立ち上がる。

 

「・・・先に、言われたわね~」

 

「分かっと、るわ」

 

 彼女に続いて夕夏、景虎もそれぞれの武器を杖代わりにして立ち上がる。回収部隊が来るのは何時か分からない。それまで何とか時間を稼ぐべくレコードカードを構える。

 

 そんな四人を見て、ウォーリアープレイスターは―――皮肉にも人間のように―――鼻を鳴らす。

 

「中々に楽しめたが、そろそろ仕舞いにするかの」

 

 そう言うなり剣を空高く掲げる。刀身には先ほど放った一撃とは比べ物にならないほどの闘気(オーラ)が収束してゆく。大気が震えるほどの圧倒的な重圧(プレッシャー)。透明のはずのオーラは収束しすぎた為か、太陽のように輝いてい見えた。

 

 体感時間ではゆっくりと、現実世界では高速で剣が振り下ろされる。眩い光が猛スピードで接近し、三人は思わず目を瞑ってしまう。

 

 しかし想像していた衝撃は何時まで経っても訪れず、詩音はおそるおそる瞳を開ける。

 

「―――は?」

 

「嘘―――」

 

「―――伊藤君?」

 

 目の前に立っていたヒュームの変身が解かれる。―――真下に血の池を作りながら。

 

 左の肩から袈裟懸けに、綺麗な、大きな刀傷が刻まれている。

 

「う、あ―――」

 

 虚ろな声と共に膝から崩れ落ちる。ビシャン、という水音と共に自らが生み出した血の池に顔から倒れこむ。

 

「ふむ、一人も殺せないどころか両断すらできないとは。―――老いたかのう?」

 

 ウォーリアープレイスターは燃え尽きてボロボロになった得物を捨て、新しく剣を創造し再び天高く掲げた。しかし―――

 

 ダダダダダダダダダ!

 

 突如現れたトラックの最上部から機関銃が放たれそれを妨害する。勿論人間離れした怪物の身体には効果は無いが、妨害という最大の目標は見事に果たした。続いて発煙手榴弾が次々と投擲され怪物の視界を完全に奪った。

 

 リアドアが開かれ、中に乗っていた隊員が三人に声を上げた。

 

「撤退します!早く乗って―――」

 

 呆然としている三人の視線を追って、隊員が倒れ伏した海翔の存在を目にする。

 

「―――ッ!彼も早く載せてください!中には医療班もいます、今なら間に合うかもしれません!」

 

 その言葉に少し活力が戻り、景虎が肩に血塗れの海翔を抱える。暖かいのは海翔の身体か、それとも血液か彼には分からなかった。

 

「―――フンッ!」

 

 ウォーリアープレイスターが剣を一閃し、霧を晴らした頃には既にトラックは影も形も無かった。




次回、一章ラスト

―――伏線を張り切ったか再確認してきます―――

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