仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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真・一章最終回。刮目せよ。


NO.12 ELECTRIC/「それでも」と彼は叫んだ

「ふむ、この方角だと思うがのう・・・」

 

 戦士(ウォーリアー)は先ほど戦った地点から数十キロの地点に移動していた。回収のトラックが去った方角に向けて一直線に進んできたのだ。しかし追いきれるわけもなく、老人は追い詰めた彼らを見失っていた。

 

「まあよい、少し騒ぎを起こせば出てくるであろうよ」

 

 そう言うと老人は手斧を生成し、近くの建物に向けて大きく振り上げた。

 

 監視カメラが老人を捕らえた時点で避難命令が出ており、人っ子一人いない状況だがそれは戦士(ウォーリアー)にとっても幸運だった。女王(クイーン)からは余り目立つなという命令を受けているが、人の気配がしない此処では存分に暴れることができる。

 

 振り下ろそうとした瞬間、一台の輸送車が老人の前に停まる。

 

「・・・ほう、来たか」

 

 三時間ぶりに三人は怪物と相対した。勝率は万に一つしかない。だが彼らにとって億が一でも十分すぎる。死を恐怖することも、惜しむこともない。もう既に、それ以上の地獄は乗り越えた。

 

 ボロボロながらも三人の目に恐怖は無く、諦めもなく、ただ勝利を望む渇望だけが残っていた。

 

「カカカカカッ!一人足りぬのはちと残念だが、十二分に楽しめそうよの!」

 

 老人は笑い、ウォーリアーレコードカードをどこからともなく取り出す。それに合わせて三人もレコードカードを取り出したところで、どこからかバイクの走行音が聞こえてくる。

 

 ここら一帯は封鎖されているはず。であるにも関わらず侵入するのは零課の隊員か―――

 

「良かった、どうやら間に合ったようだね」

 

 ―――仮面ライダーだけだ。

 

 先ほどまでの焦燥っぷりを全く感じさせないほど、軽快な足取りでバイクを降りる。どこから持ってきたのか、手にはエヴィデンスドライバーと6()()のレコードカードが収まっている。

 

 三人に並び立った海翔に気遣うような声が掛けられる。

 

「体は、大丈夫なのですか?」

 

「平気平気。何なら三時間前よりも好調までありますよ」

 

「そんなら期待してもええな・・・って、なんやねんその視線」

 

 景虎の態度に海翔は意外そうな表情を浮かべた。視線は戦士(ウォーリアー)から微塵も外してはいないが、何となく変な視線を向けられていることは分かったので、思わずツッコミを入れてしまった。

 

「いや、また切りかかられるんじゃないか、って思ってしまって・・・」

 

「「あー・・・」」

 

 海翔が発した理由に、詩音と夕夏は思わず納得してしまう。間抜けな声を出した二人とは正反対に、景虎は冷や汗が溢れ出ていた。

 

「それに関してはホンっマに申し訳ないと思っとる!・・・って、二人も何かフォローしてや!」

 

「でもそれは・・・景虎君にも非があるというか、ねえ~」

 

「空賀君が100%悪いじゃないですか。どうやってフォロー入れればいいんですか」

 

 夕夏はオブラートに包もうとしたが、詩音はばっさりと景虎の懇願を切って捨てた。

 

 戦場とは思えないやり取り。それを破るように独特な笑い声が一帯に響く。

 

「カカカカカッ!戦力は十分、士気も十分。お主らのような戦士を倒してこそ、儂は戦士(ウォーリアー)として、更なる高みへと至ることができる!」

 

《WARRIAR》

 

 老人の姿は掻き消え、全身を半壊した武器と鎧で覆われた、傷だらけの怪物が姿を現す。前回戦闘した際と比べても遜色ない重圧(プレッシャー)が四人を襲う。

 

 しかしこれしきで怯むものは一人もいない。四人はそれぞれのドライバーを腰に装着し、それぞれのライダーの象徴であるレコードカードを構えた。

 

「悪いけど、その望みは叶えられへんで」

 

「もうこれ以上、私のような悲劇を生ませたりしない」

 

「ついでに、幹部の情報を話してくれると嬉しいのだけれど」

 

「絶対に、君を止める」

 

《AUTHENTICATION! PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

《HUMAN!REALLY?》

 

《Set Ruby》

 

《Set Wolf》

 

《Set Beetle》

 

 半透明のヒトガタが、真紅の宝石が、青の毛皮を持つオオカミが、緑の装甲を纏うカブトムシが、それぞれのドライバーの音声に呼応して出現する。

 

 使用している(カード)も、取った構えも四者四様。背負う過去も戦う理由も似ているようで全く違う。示し合わせていたわけではない。しかし四人はほぼ同時に一つの言葉を口にした。

 

「「「「変身ッ!」」」」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE HUMAN!》

 

《Burning,Breaking,Victory!》

 

《Chasing,Biting,Hunting!》

 

《Growing,Strength,Flying!》

 

《Kamen-Rider Sutorus Mode:Beetle!》

 

《Kamen-Rider Ha-Rou Mode:Wolf!》

 

《Kamen-Rider Gares Mode:Ruby!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

《 《 《System All Green》 》 》

 

 人間(HUMAN)紅玉(RUBY)(WOLF)甲虫(BEETLE)。それぞれの力を宿した戦士へと変身が完了する。彼らはそれぞれに構えを取り、ウォーリアープレイスターに備える。

 

 戦場特有の緊張感が膨れ上がる。それが臨界点に達した時、双方は同時に駆け出した。

 

「では・・・行くぞ!」

 

 瞬きの間にウォーリアープレイスターが距離を一気に詰める。手斧ではなく、一振りの剣がその手に握られている。何の変哲もない直刀だが侮るなかれ、ウォーリアープレイスターの圧倒的な力でも折れることのないほど頑丈な武器なのだ。生半可な武器では受け止めることはできない。

 

 ライダーらの中で、真っ先にヒュームがウォーリアープレイスターに向かって踏み込む。狙うは剣では無く相手の腕。受け止めることはできないが、軌道を逸らすことはできる。

 

 ヒューマンフォームを選んだのはその為。他の姿とは違い固有の武器は持ってはいないが、その分両手足を自由に使うことができる。受け止める、反撃するのではなく攻撃をいなすことに関してはこの姿が一番適任だ。

 

 一度でもミスをすれば死に直結する。それどころかただでさえ不利な戦局は更にプレイスターの方に傾いてしまう。そんな極限状態で綱渡りを続ける。

 

《Beetle Strike Growing!》

 

 そんなヒュームを支援すべく、ストラスはデータで構成された人並みの大きさの緑のカブトムシを召喚する。出現したカブトムシはウォーリアープレイスターに向けて一直線に突進した。

 

 しかしウォーリアープレイスターはそれを一瞥すらしない。過信しているのは自らの技量か、それとも身にまとう鎧か。いずれにせよ脅威には感じていないようだった。

 

《Cell Shooting Multiply!》

 

 ならばその慢心を利用するまで。ガレスはセルレコードカードを読み込ませ、インベスティマグナムの引き金を引く。放たれた銃弾はウォーリアープレイスター―――ではなく、奴に迫る緑のカブトムシに命中した。

 

 弾丸が命中したカブトムシはその体を二匹、三匹、四匹・・・と分裂させてゆく。分裂したカブトムシは大きさはそのままに、ウォーリアープレイスターに殺到した。

 

「―――ッ!」

 

 予想外の事態に、ウォーリアープレイスターは一瞬そちらに意識が削がれる。その隙を狙ってヒュームは蹴りを放つ。ウォーリアープレイスターの異形の肉体の前にはビクともしないが、狙いはダメージではない。蹴りの反動の勢いのままヒュームは一気に後退した。

 

 カブトムシの群れは剣の一振りで一瞬で霧散した。しかしそれも織り込み済み。ヒュームと入れ替わる形で刃狼が怪物の懐へと飛び込む。

 

 獲物を捉えたオオカミのようにその牙をウォーリアープレイスターに突き立てようとするが、それを待っていましたと言うように、ウォーリアープレイスターは左手に手斧を生成し横なぎに一閃した。

 

《Monkey Slash Acrobatic!》

 

 斧は刃狼の胴体を切り裂くように一閃されたが、刃狼はその更に上を軽々と飛び越えた。その様は大地を駆けるオオカミというよりも木々を軽やかに移動する(MONKEY)のよう。

 

 怪物の意表をついた回避を魅せた刃狼は、そのままウォーリアープレイスターに向けて切り付けた。

 

 しかし、これで倒されるのなら怪物は怪物とは言われない。斧を振るった遠心力のままに独楽のように猛スピードで斧を一周させ、落下の最中で無防備な刃狼を仕留めようとする。

 

 だが相手にしている仮面ライダーは刃狼だけではない。

 

《Snake Strike Strangling!》

 

 インベスティランスの石突の方が意思を持った蛇のように、斧を持つ怪物の手に巻き付いた。ストラスは物理法則を完全に無視した伸縮したインベスティランスを利用し、怪物の腕を必死になって停止させようとする。

 

 しかし人間体の時点で三人でしか攻撃を受け止めることは出来なかったのだ。一人では到底敵わない。だが斧の速度を緩めることは出来た。刃狼の刃はウォーリアープレイスターの身体に突き立てられた。

 

 狙ったのは継ぎ接ぎの鎧の隙間、関節の部分。皮膚に当たったはずだが柔らかいそれを切り付けたとは思えない、甲高い金属音と手の痺れと共にインベスティカリバーは弾き返された。

 

 刃狼が大きく仰け反った瞬間、腕の拘束が振り払われた。その衝撃でストラスはウォーリアープレイスターの方向に大きく引き寄せられた。

 

「「―――ッ!」」

 

 隙を晒した二人に向けて放たれる斬撃。岩盤をも優に切り裂くであろうそれが繰り出されたのと三人がレコードカードを読み込んだのはほぼ同時だった。

 

《Diamond Strike Unchanging!》

 

《Wall Shooting Protecting!》

 

《Wind Slash Blowing!》

 

 二人の目の前に純白の宝石、高密度のエネルギー、圧縮された風でそれぞれ生成された三重の壁が形成される。本人たちの代わりに三つの壁が剣を受け止めるが、五秒と持たず無残に切り裂かれた。

 

《ARCHER!》

 

《BLAZE!》

 

《1-Reading》

 

 衝撃のあまり大きく吹き飛んだストラスと刃狼。しかしながら二人を生還させるという目的は果たした。崩壊する壁を隠れ蓑に、ヒュームはヒューマンフォームのままロングモードに変形させたエヴィデンスアローの弦を引き絞っていた。

 

 勿論ウォーリアープレイスターもそのことは察知している。対処すべく剣を構えた瞬間、自身の視線が意図していない方向に誘導される。

 

《Eye Shooting Jacking!》

 

 密かに放たれた銃弾はウォーリアープレイスターの防御網を突破して鎧の一部に命中した。非殺傷で人間に撃ったとしても怪我一つ負わせることのできないそれは、だからこそ戦士(ウォーリアー)に届いた。

 

《ALL RIGHT!BLAZE SHOOTING!》

 

 戦闘の流れはこちらが優位に進んでいるように見える。しかし怪物には決定打が一つも撃ち込まれておらず、こちらは着々と手札を丸裸にされつつある。少なくともここで一撃は入れたい。

 

 狙うは鎧の継ぎ目の部分。圧縮された炎の矢は本家本元の和弓と同じく、約時速216mを超えるスピードでウォーリアープレイスターに迫った。

 

 人間では回避どころか反応することさえ不可能。視界を奪われているのならばなおさらだ。そのまま怪物の胸元に吸い込まれ―――

 

「―――フンッ!!」

 

 突き刺さる寸前で真っ二つに切り裂かれた。構成していた炎の余波が怪物を襲うが、鎧どころかさらけ出されている皮膚にすら焦げ目一つ付いていなかった。

 

 視界が奪われているなか、高速で飛来する矢を切って捨てるという正に神業。しかし致命的な隙を晒したのも確か。機会はここしかないと、囲みこむように四方向からライダーたちはそれぞれ攻撃を仕掛けた。

 

《Pteranodon Strike Penetrate!》

 

 ストラスは上空からの急襲を。

 

《Tiger Slash Piercing!》

 

 刃狼は懐に潜り込んでの一撃を。

 

《Ruby Shooting Victory!》

 

 ガレスは真紅の宝石の銃撃を。

 

《ALL RIGHT!HUMAN FINISH ATTACK!》

 

 ヒュームは半透明のエネルギーを纏った飛び蹴りをそれぞれ繰り出した。どれもがそこらのプレイスターなら容易に撃破できる威力を秘めている。

 

 隙を晒しているうえ、四方向からの攻撃。一つに対処できても残る三人の攻撃がウォーリアープレイスターに襲い掛かる。完全な対応は不可能。そう思われていたが―――

 

 ガギンッ!

 

「「「「な―――」」」」

 

 四人はそろって絶句した。突如四方向に現れた盾が、それぞれの攻撃を受け止めたのだ。急遽生成したからかそれとも盾を生み出すのは不得意なのか、攻撃から主を守ったのちに粉々に砕けてしまった。

 

 だがストラス、刃狼、ヒュームの三名はウォーリアープレイスターの目前で完全な隙を生んでしまっている。怪物はここで三者を仕留めるべく、剣に闘気を練り上げる。

 

 急速に注入しているからか、剣に亀裂が走る。しかし砕けるまでには至らず、必殺の刃が三人に向けて放たれる―――

 

「―――ッ!」

 

《Exchange Shooting Tricking!》

 

 ―――寸前でガレスは三人に向けて銃弾を放つ。刃が届くよりも早く銃弾が直撃した三人は瞬間的にその姿を消し、代わりに入れ替わるように出現した小石が刃を浴びて跡形もなく消滅した。

 

「痛っ」

 

「危ないところだったわ~」

 

「死ぬか思たで」

 

 ウォーリアープレイスターからただ一人離れた位置にいたガレスの周囲に三人のライダーが出現していた。命からがら生き延びたが、安堵の表情は無い。もともとは止めの為に温存していたカードなのだ。見せてしまった以上、本命の目的では使えなくなってしまった。

 

 どうやって倒すか、四者が思案していると独特な笑い声が彼らの鼓膜を響かせた。

 

「カカカカカッ!やはりこの程度では殺せぬか!ならば―――」

 

「「「「―――ッ!」」」」

 

 ウォーリアープレイスターは新たに四枚のレコードカードを取り出した。

 

「―――儂も全力で行くとしよう!ふんっ!」

 

 そう言うなり自らの身体にレコードカードの束を突き刺した。拒絶反応からかウォーリアープレイスターは苦しむような仕草をするが、レコードカードは問題なく怪物の身体に飲み込まれていった。

 

《SWORD》

 

《SHIELD》

 

《AXE》

 

《SPEAR》

 

「アアアアアッ!」

 

 変質が、始まる。皮膚と鎧を突き破って、四本の新たな腕が背中から生える。もともと生えていた腕とは異なり、異様に長く関節が四つあるというまさしく異形の姿をしていた。手などと言うものも存在せず、それが収まっているはずの部分には赤黒く染まった武器が収められていた。

 

 先ほどまでの姿は辛うじて人間にも見えたが、今の姿は正しく怪物。人間離れしたその姿は見る人に平等に恐怖を与えるだろう。

 

「でハ、ユくゾ・・・?」

 

 掠れた声と共に同時に四本の腕が動く。自在に伸縮するそれは不規則に、それでいて高速にライダーたちを切り裂いた。その軌道を読むことは不可能。コンクリートすら容易く穿つ攻撃の雨が絶え間なく降り注ぐ。

 

「「「「―――ッ!」」」」

 

 土煙が巻き起こり、何もかもを覆いつくす。

 

「―――ふム、こンなものカ」

 

 怪物は一度攻撃の手を止める。粉々に砕けたコンクリートの煙が徐々に晴れてゆく。変身を解除された詩音、夕夏、景虎が力なく横たわっている。周囲の無残に打ち砕かれたコンクリートを見るに命があるだけ儲けものだろう。しかし―――

 

「・・・む?」

 

 ただ一人、ヒュームだけがその場に立っている。装甲に深い傷を刻みながらも致命傷を受けた様子はなく、息を切らしながらもしっかりと大地を踏みしめていた。

 

(回避しきったというのか?・・・あの攻撃の雨を?)

 

 自分ですら全て躱しきるのは不可能。ならばトリックがあると考えるのが自然だ。

 

「(まだレコードカードを持っていたか)・・・ならバ!」

 

 種があるなら見破ってしまえばいいだけのこと。そう考えた怪物は今度は横向きに四本の腕を殺到させた。

 

 3m、2m、1m―――ヒュームに動く気配はない。90cm、80cm、70cm―――未だ動く気配はない。30cm、20cm、10cm―――怪物が偶然で片付けようとした瞬間、ヒュームのが真横に移動した。

 

 ―――黄色い残光を残して。

 

「―――な」

 

 今度絶句することになったのは怪物の方。プレイスターの中でも上位に当たるウォーリアープレイスターの眼を以てしてもヒュームがどのように動いたのか分からなかったのだ。

 

 腰に身に着けているデバイスを操作したわけでもなく、レコードカードを新たに使用したわけでもない。

 

 湧き上がる感情をかき消すように、絶えることなく攻撃を続ける。しかし一撃たりともヒュームを捉えることは出来なかった。

 

(もっと!もっともっと速くッ!)

 

 ヒュームの―――海翔の頭には零課本部で授けられた言葉が何度も響いていた。

 

『お前はどんな自分になりたい?』

 

(まだ足りない!もっと速くッ!もっと強くッ!)

 

 そう想うほどに速度が指数関数的に増加していく。まるで海翔の望みを叶えるように。自らの身体を改変するように。

 

 怪物もそれに対抗するように武器を繰り出す速度が上がってゆく。しかしそれを置き去りにする速度で海翔の速度が上がってゆく。

 

『海翔、君はどんな大人になりたい?』

 

 いつか問いかけられた質問。それに当時の自分が何と答えたのか、今の自分は何と答えるのが正解なのか、どちらも海翔には分からない。ただ、今この場においてだけは海翔の答えは決まっている。

 

 攻撃の雨を全てすり抜けて怪物に迫ってゆく。

 

 ―――本当に、思い出していいの?

 

 どこかで聞いたことのあるような質問が再び海翔の脳裏に響く。それに対する答えももう決まっている。

 

(後悔するかもしれない、今までの僕を否定するようなものかもしれない。それでも―――)

 

「それでも!僕は!」

 

 遂に怪物の目の前に辿り着く。懐に潜り込んだ海翔―――ヒュームは振りかぶった拳をウォーリアープレイスターの腹部に向けて一気に振るう。

 

「―――ッ!」

 

 赤い炎を纏ったそれは、鉄の鎧も肉の鎧も貫通してダメージを与え、初めてウォーリアープレイスターを後退させることに成功した。

 

 ―――そう、それが貴方(わたし)の選択なのね

 

 頭に声が響くのと同時に、エヴィデンスドライバーからヒューマンレコードカードが排出される。独りでに浮かび上がったヒューマンレコードカードは、その表面から数多の幾何学文字を排出し始めた。

 

 文字が放出されると同時に、カードの表面が黒く染まってゆく。最終的には描かれている人間の手と足に当たる部分が黒に浸食された。―――まるで、そこには元から何も描かれていなかったかのように。

 

 幾何学文字は収束し、やがて一つの物体へと変化した。それはハンドルのついた白いバックル。のぞき穴のような小さな穴が開けられており、少しだけ見える内部には数多の歯車が組み込まれていた。

 

《E-ジェネレーションバックル!》

 

 手に取るのと同時にエレクトリックレコードカード、ブレイズレコードカードが海翔の手に収まる。―――まるで自分たちを使え、とでも言うように。

 

「ナんだ、なンなんだおマえは!」

 

 人外の怪物を以てしても理解のできない現象。何十年ぶりかに抱く恐怖と共に思わず叫んでしまった。

 

「さあ、僕にも分からないさ。だから証明して見せる。僕が何者かを!」

 

 その為にも目の前の怪物を倒す。気迫と共にエヴィデンスドライバーの上部に備え付けられているウェイクアクセッサーを押し込み、ヒューマンレコードカードを挿入した。

 

《AUTHENTICATION! PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

《HUMAN!REALLY?》

 

 幾何学文字が海翔の周囲に現れ、まるで魔法陣かのように図形のようなものを構築してゆく。しかしこれまでとは異なりまるで虫食い穴のように所々文字が欠損している。

 

 そのことには気にも留めず、海翔はバックルにエレクトリックレコードカードを挿入した。

 

《ENERGIZE!》

 

 E-ジェネレーションバックルは白色から黄色へと染め上げられる。海翔はバックルをエヴィデンスドライバーの右側―――アクティブローダーが付いていない方―――にはめ込んだ。

 

《SET UP ELECTRIC!》

 

 ドライバーが高らかに宣言すると同時に、海翔はE-ジェネレーションバックルのハンドルを回す。回す度にバックル中央部から黄色い幾何学文字が溢れ、海翔の周囲に展開している図形の虫食い穴を埋めてゆく。陣が完成したのを見て、海翔はアクティブローダーを押し込んだ。

 

「変身!」

 

《ALL RIGHT!》

 

 幾何学文字が海翔に収束し、ヒューマンフォームに姿を変える。従来の姿とは異なり―――まるでヒューマンレコードカードと対応しているかのように―――両手足のアンダースーツが黒く染まっている。

 

 そして変化はまだ続く。バチバチ、という痺れるような音と共に身体中から電流が放電される。同時に全身の装甲に黄色の雷のような紋章が刻まれる。

 

 最も変化が大きいのは脚部だ。脛には数多の歯車が鎧のように装着され、ふくらはぎにはコイルのような機器が片足に三つずつ生成された。

 

 体の両側面に刻まれていたラインは青色から痺れるような黄色へと変化した。

 

《THIS IS ARTIFICIAL POWER!YOU ARE HUMAN!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 変身が、完了する。

 

 人間(HUMAN)を名乗りながらも電気(ELECTRIC)の力を自在に操る戦士。

 その名も仮面ライダーヒューム エレクトリックヒューマンフォーム。新たな力を開花させた瞬間だ。

 

「フッ―――」

 

 ウォーリアープレイスターの前からヒュームの姿が掻き消え、瞬きの間に懐の中に再出現する。通ったと思わしき道には黒い焦げ跡が足跡となってついており、それと電流の残り香だけ実際にヒュームが移動したことを証明していた。

 

 対応しきれず、無防備な怪物の懐にラッシュを叩きこむ。一撃一撃の威力はヒューマンフォームを大幅に下回っているが、何の慰めにもならない。一秒につき百を超える連撃が懐に吸い込まれる。

 

 慌てたようにウォーリアープレイスターが剣を一閃する。しかしヒュームには掠ることすらなく右側面に回り込まれ、連撃が再開される。

 

 電気の速度は光の速度と同等の秒速30万メートル。人間どころか怪物にすら対応できる訳がない。

 

 しかし真に恐ろしいのは速度ではなく、光の速度を完全にコントロールしていることだろう。脳を高速で動かしても演算は終了しない。どれだけの負荷がヒュームにかかっているのか想像することすらできない。

 

 文字通り光速で動きながらウォーリアープレイスターにダメージを蓄積させてゆく。しかし、只でやられるようならばそもそも殺しに手を付けていない。

 

「アアアアアッ!」

 

 背中だけではなく、腹、手、足・・・全身から数多の腕を生成してゆく。それぞれの腕は鋭い凶器に変貌しており、自分の周囲一帯を一斉に切り付け始める。

 

 逃げる隙間は無く、文字通り武器の雨が降り注ぐ。

 

 ―――なら、その前に倒せばいい。

 

 ヒュームはウェイクアクセッサーを押し込み、E-ジェネレーションバックルのハンドルを回す。

 

《AUTHENTICATION!WHAT'S HAPPENED?》

 

 ハンドルの動きと共に、脚部に取り付けられた歯車が回転する。それと同時にふくらはぎに取り付けられているコイルから電流が放出されていく。

 

 そして必殺技の時に見られる半透明のヒトガタも生成される。しかし従来のように一つではなく、一つ、二つ、三つ、四つ―――数えきれないほど生成され、ウォーリアープレイスターの周囲を囲む。

 

「―――ハアッ!」

 

 アクティブローダーを押し込むと再びヒュームの姿が掻き消える。

 

《ALL RIGHT!ELECTRIC HUMAN DESTROY!》

 

 ウォーリアープレイスターから呻き声が漏れ、次々とヒトガタが消滅していく。人間どころか怪物でも追いきれない速度で攻撃を繰り返しているのだ。雨ともいえる密度で降り注ぐ武器たちは一度たりともヒュームを捉えることができない。

 

 しかし連撃は途中で止まる。エレクトリックヒューマンフォームの弱点は一撃一撃が大したことが無いこと。―――それこそ一般人と渡り合うほどには。それを見抜いたウォーリアープレイスターは急遽手が変化している武器群を盾に変化させ、城壁のようにして閉じこもったのだ。

 

 さてその推測は当たっており、ヒュームは展開された盾を一つも壊せないでいた。

 

「だったら!」

 

 ヒュームはエヴィデンスドライバーからE-ジェネレーションバックルを取り外し、エレクトリックレコードカードを抜き取る。

 

《IGNITE!》

 

 代わりにブレイズレコードカードを挿入すると、今度はオレンジ色へと変化した。それを確認したヒュームは再度E-ジェネレーションバックルをドライバーに取り付けた。

 

《SET UP BLAZE!》

 

「再証明!」

 

《ALL RIGHT!》

 

 ハンドルを回しアクティブローダーを押し込む。脛についていた歯車が取り外され、ヒュームの肩から腕にかけての正面に取り付けられる。コイルは光になって霧散し、代わりに小型のジェットエンジンのような機械が両肘に装着される。

 

 全身の装甲に炎を象った紋章が刻まれ、側面のラインは青から燃え滾るようなオレンジ色に変化した。

 

 変身が完了したことをドライバーが高らかに告げる。

 

《THIS IS NATURAL POWER!YOU ARE HUMAN!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 仮面ライダーヒューム ブレイズヒューマンフォーム

 

 エレクトリックヒューマンフォームと双璧を為す、ヒュームの新しい姿だ。

 

「時間がない、一気に決めさせてもらう!」

 

 ヒュームには一つの懸念があった。それはこの力を使うことができる制限時間。着々とそれが迫ってきているような感覚に襲われており、一気に勝負を決めることを選択した。

 

《AUTHENTICATION!WHAT'S HAPPENED?》

 

 ウェイクアクセッサーを押し込み、E-ジェネレーションバックルのハンドルを回す。歯車が回転し始め、それと共に肘についているエンジンに炎が灯った。

 

 そして盾の前にはヒュームを象った半透明のヒトガタが出現する。一体だけのように見えるがそれは間違い。何十ものヒトガタが重なり合い、一体に見えるだけだった。

 

 ヒュームは構えを取り、アクティブローダーを押し込んだ。

 

 ヒュームは盾に向けて両拳を突き出す。ヒトガタと重なり合った瞬間ジェットエンジンから大量の炎が噴き出し、盾を簡単に貫いた。

 

「―――ッ!」

 

 ウォーリアープレイスターは残る盾も全てヒュームとの間に配置した。しかしそれで延命できたのはほんの数秒。盾は紙くずのように貫かれ、その先にいるウォーリアープレイスターさえも貫いた。

 

《ALL RIGHT!BLAZE HUMAN DESTROY!》

 

「―――ッ!」

 

 断末魔もなく、ウォーリアープレイスターが爆散する。それと同時にヒュームの変身が解け、その場に倒れる。

 

「っと、危ないやんけ」

 

 しかし地面に接する瞬間、海翔の身体は景虎によって受け止められた。自分の力で立とうとしたが、あの力の反動か、全身に酷い筋肉痛のような痛みが走り上手く力を入れることができないでいた。

 

「全く、無茶するわね~」

 

「そうですよ・・・まあ、今回もその無茶に助けられたわけですが・・・」

 

 夕夏と詩音も二人に合流する。三人とも怪我は浅いようで、何なら無傷のはずの海翔が一番の重症ではないかという有様だった。

 

「・・・カカカ、カカッ」

 

 戦勝ムードを破るように独特の笑い声が響く。即座に臨戦態勢を取った三人は動けない海翔を庇うかのような布陣を取る。

 

「まだ生きて―――」

 

「いや、それは無いですよ」

 

 夕夏の言葉を遮って、海翔は自身の手を見せる。そこに収められていたのはウォーリアーレコードカード。ウォーリアープレイスターの身体を貫いた時に回収したのだ。

 

 炎の中から人間体の戦士(ウォーリアー)が姿を現した。海翔の言う通りに満身創痍で、胸に至っては大きな風穴が空いている。

 

「見事、見事よ巫女(■■)―――いや、仮面ライダーヒューム!よくぞこの儂を倒した!」

 

 老人の身体は光の粒子となり、徐々に虚空へと消えて言っている。消えかかっている指で海翔の持つレコードカードを指さす。

 

「そのカードも貴様に使われるなら本望であろう!では、サラバじゃ!」

 

 カカカカカッ、という独特な笑い声を残しながら完全に空へと霧散した。

 

 ―――ああ、良い一時であったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして笑い声をあげる人影がもう一人。黒いドレスを着た少女が薄暗い路地裏を軽やかにスキップしていた。

 

「~~~~♪・・・フフッ」

 

 鼻歌を途中で止め、押し殺していた笑みが口元から漏れた。

 

「まさか戦士(ウォーリアー)を倒しちゃうなんて!いざという特は助けようと思っていたのに無意味になっちゃったじゃないか!」

 

 批判的なセリフとは真逆に、どこまでも彼女は嬉しそうだ。

 

「ああ早く、早く(ころ)し合おう。二人っきりで、永遠に!」

 

 どこからともなくレコードカードを取り出す。

 

「ねえ、姉さん」

 

 そのレコードカードにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――双子(TWINS)、と。

 

 




というわけで、強化フォームのお披露目でした!
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