「なるほどな。だからいつもより賑やかなのか」
亮介はコーヒーを飲みながら呟いた。庭の方からは子供たちのはしゃぎ声が聞こえてくる。
監視役兼連携を深めるために日野森学園のスタッフになった三人だったが、まさかこれだけに時間を割かせるわけにはいかない。三人そろってここに来たのは初日だけで、それからは代わる代わる一人ずつ来ている。
幸運だったのは子供たちが三人を受け入れてくれたことだ。夕夏は子供の元気にも簡単についていく無尽蔵ともいえる体力で、景虎は
「なんか悪いな。忙しいのに来ちまって」
海翔の顔を見て、亮介が申し訳なさそうに言う。
「大丈夫だよ。そもそも僕が呼んだんだしね」
疲れは残っているが、三人を受け入れるための書類は全て書き上げている。これでもいくつかの書類は
「また倒れたって聞いてビビったぞ」
「大丈夫、ただの筋肉痛だから」
「ホント、自分の身体をもっと労われよ?ただでさえお前はオーバーワーク気味なんだからな」
「ウッ・・・」
何気なく放たれた一言は海翔の心に突き刺さった。その自覚はあるが、自分の性根はどうしても曲げられない。
「それで、聞きたいことがあるんだろ?」
亮介に促されて何とか立ち直る。
「ああそうだった。・・・『雪村アリサ』って人、知ってる?」
海翔は朧げな記憶を遡ってある女性の名前を問いかける。
ウォーリアープレイスターに重傷を負わされたとき、朦朧とする中垣間見た一つの記憶。そこに出てきた女性の名前だ。
恐らくは自分の出生に関わっている人物。この情報を逃すわけにはいかない。
海翔の言葉に亮介は驚いた表情をした。
「・・・どうしたの?」
「いや、な。海翔の口からその名前が聞けるとは思わなくてな」
そう言うと亮介はスマホの画面を海翔に見せた。
そこに写っていたのは日本人離れした金髪碧眼の女性。記憶の中に出てきた人物の顔と―――少し幼い気がしなくもないが―――同一のものだった。
「『雪村アリサ』。今から20年近く前に活躍した科学者だ。特例として東京大学の理科三類に飛び級で入学。若干20歳で卒業後、遺伝子学・機械工学・心理学・歴史学など様々な方面で活躍する。ノーベル賞を獲得するのも時間の問題とまで言われた人物だった」
亮介の言葉に合わせて海翔もスマホに写っている文章を読んでいく。その人間離れした功績に、海翔は言葉も出なかった。
「まあそんな反応になるよな。俺も最初聞いた時は『創作だろ』って思ったからな」
しかしながら実際に
「ただなあ・・・15、いや18年前だったか?唐突に行方をくらましたらしい。重要人物ってことで捜査されたようだが、今でも発見には至っていないらしい」
そこまで亮介が言ったところで、庭の方から景虎が戻ってきた。
「いやー疲れたわ。子供の体力ってのは無尽蔵かいな」
普段とのスーツ姿とは違い、ラフな私服に身を包んだ景虎は季節に似合わない汗を拭って床に座った。
「飲み物でも出しましょうか?」
「ええって、話折るのも悪いしな」
海翔が腰を浮かそうとしたが、景虎は手でそれを制した。
「ほら、これ飲みなさいよ」
一連の会話を見ていた明奈が景虎に向けて紙パックのジュースを投げつける。いいのか、と尋ねると明奈は悪い笑みを浮かべた。
「いいのよ。アンタのところからたっっっぷり支援金を貰ったから」
「ええ性格しとるで、ホンマに」
亮介は呆れたように呟き用心深く成分表を眺めた後、一つ頷いて口を付けた。
「それよりもちょっと聞いとったんやけど、―――ええっと、君も知っとるんやったっけ?」
仮面ライダーのことだろう。景虎は亮介に視線を向け、亮介は頷くことでそれに応える。
「ほなええか。雪村アリサの話しとったやろ?零課―――俺らの組織にその血縁らしき人間が在籍しとるんや」
「「「え!?」」」
思いもよらない情報に、三人の驚愕の声が重なり合う。その反応を予想していたのか、表情を変えることなく続ける。
「雪村ノアっちゅうんやけどな。苗字も
そこまで聞いて、海翔と明奈には心当たりがあった。
「
「そういえば話し合いの時に見かけたような・・・」
二人が記憶の底からノアの容姿をすくい上げていると、横から景虎が話を続ける。
「まあ確証はあらへん。雪村アリサの家族についての情報は不自然なほどにないからな。雪村ノアについても同様や。一番手っ取り早いのは本人から聞くことやけど―――」
それは難しいだろう。ノアは普段零課本部こと警視庁本部の地下深く、開発研究室に閉じこもっている。主任研究員と違ってたまに地上に姿を現すが、そのほとんどはドライバーを届けるためなど緊急時だけである。
もしも意図的に雪村アリサとの繋がりを隠しているのいるとするなら、馬鹿正直に面会を打診しても断られるだろう。理想的なのが不意の接触で拘束すること。しかし緊急時ではそんなことをしている余裕はない。
加えてノアは数少ないライダーシステムの開発に携わった人間だ。重要人物である彼女がそう簡単に外出するとも思えない。
「個人的な用事と称して呼び出す、って言うのはどうだ?」
「そんな簡単に行く?私なら警戒して絶対に行かないわよ」
「開発研究部に直接赴くっていうのは?」
「それがな、新アイテムの開発だどうとかで立ち入り禁止になっとるんよ」
それからも色々と案は出てきたが、どうにもしっくりくるものが出てこなかった。
「「「「う~ん・・・」」」」
行き詰まり、四人そろって唸り声をあげる。
と、その時―――
「邪魔するッスよ!」
「優月、慌てると怪我しますよ。・・・っと、お邪魔しますね」
扉を開けて一組の男女が入ってくる。
年季の扉が悲鳴を上げるほどの強さで扉を開けた優月だったが、最初に目に入ったのが大の大人たちが唸っている姿だった。
「・・・日を改めた方が良いっスかね?」
その空気感に圧倒され、そう言ってしまうのも仕方のないことだった。
「いやいや、そんなことないって!早く入って!」
流石は主人公。いの一番にに正気を取り戻した海翔が二人を中へと招き入れる。
海翔の言葉に優月は活力を取り戻す。そして少し逡巡した後どこか覚悟を決めたような表情を作り―――
「た、助かったっスよ、アニキ!」
「「「「―――!!!!」」」」
―――抱き着いた。
照れているのか、優月の耳は真っ赤になっている。
「え、今どきの子ってこんなに直球なん!?(小声)」
景虎も釣られて真っ赤になり、捜査対象であることも忘れて祈里に耳打ちした。
「ええそうですよ。優月君は海翔君のコレなので(小声)」
祈里は小指を立てながら言う。聞いてはいけないことを聞いてしまったような感覚になり、景虎は声が出そうになったのを慌てて抑え込んだ。
「いや何嘘吹き込んでるんですか」
横で見ていた亮介は思わずツッコんでしまった。
「四年後には真実になるであろうことを今言って何が悪いんですか?」
「全部ですよ。というか、四年ほど前にも同じようなことを言ってませんでした?」
「気のせいですよ」
祈里が臆面もなく言い、亮介はやれやれと溜息を吐く。
昔からそうだった。いつもは毅然としていてどこかミステリアスさを醸し出している祈里神父だが、海翔と優月の二人が絡んだことに対してはIQが著しく低下してしまうのだ。
呆れたような亮介とは真逆に、景虎は安心したように息を吐いた。
「本当に彼が
「まあアイツはそんなこと望まないけどな」
「確かになあ」
二人の会話に景虎も乗っかる。海翔の考えることがある程度分かるほどには彼と関わってきた。
小声で密談していた三人だったが、その平穏は束の間のことだった。
「「「―――ッ!」」」
濃縮された殺気のようなものを感じ、三人の背筋が震えた。歴戦の戦士である景虎さえも青ざめてしまうほどの殺気。その発生源を探して周囲を見渡すと、十秒とかからずにそれを発見するに至った。
「・・・」
ニッコリと微笑んで二人の様子を見つめる明奈。景虎にとって笑顔を恐怖の対象になったのは久しぶりのことだった。
抱き着いている優月と明奈の視線が合う。氷点下を下回る殺気を直接浴びて引き下がる―――
―――かと思いきや。
「―――フッ」
ゆづき は ちょうはつ した!
「―――ッ!」
あきな は ちょうはつに のってしまった!
殺気が更に鋭くなり、二人の間に火花が走る。戦場を思わせる重い空気に男勢は部屋の片隅で固唾をのんで見守るしかなかった。
暖房をつけているはずなのに、亮介の腕には鳥肌が立っている。にらみ合う二人に介入できる者は一人も―――
―――いや、一人だけいた。
「ごめんね、事前に連絡を入れてくれたのに。三人を呼んでくるからちょっと待っててね」
海翔は動揺したような様子は全くなく、優月を引き剥がして近くの椅子に座らせた。そして遊ぶ予定の高校生組の三人を呼びに行くために二階に上がっていった。
「「「「「・・・・・」」」」」
それまで充満していた緊張は嘘のように消え去り、あたりは沈黙に支配された。
「まあ、あれで堕とせるなら今頃とっくに身を固めてただろうな」
亮介がポツリと呟いたのがやけに大きく響いた。
当人である優月はまるで灰になったかのように、力なく椅子に身を任せていた。
「・・・」
燃え尽きた優月の肩を優しく明奈が叩く。その表情は勝ち誇ったようなものではなく、同情するような、慰めるようなものだった。
「・・・」
二人の間に言葉はいらない。差し出されたジュースをゆっくりと口にした。
「女の友情、やな・・・」
「なんですかそれ」
「聞かん方がええで、馬鹿正直に理解しようとするだけ損や」
景虎はしみじみと呟いた。その昔、景虎は探偵になるために人の感情について叩き込まれたのだ。確かに後に役立ったことはあったし、学校に碌に行っていない自分に貴重な時間を使って教えてくれたのにも感謝している。しかし、それだけに留まらず「女性の身支度の重要性」だの「女性をエスコートする方法」だの明らかに探偵業に関わらないことまで教えられたのだ。
『興味あらへんって。もっと本業のことを教えてぇな』
とは過去の景虎の弁。その日は地獄を見たのでこれ以降は大人しく聞いていた。
「それで、何の話をしてたんだっけか」
「本筋からめっちゃ外れ取ったもんな。雪村アリサのことやろ」
とっくに画面が暗くなっていたスマートフォンを再起動させる。
「雪村、雪村・・・?」
聞こえてきた名前に心当たりがあったのか、優月はしきりに首を傾げていた。
「知っとんのか?」
「知ってる・・・聞いた、いや見たことあるような・・・」
なかなか出てこないのか、少し前の大人たち四人のように首を傾げる優月。その様子を見て何故か祈里が冷や汗を掻いている。
「どうしたんですか、祈里さん」
「い、いや少し・・・先ほどの悪寒が拭えなくてですね・・・」
「?」
そう言いながら、祈里はそそくさと荷物をまとめ、どこか不安げに優月と出入口を交互に見ていた。
そして意を決して優月に声を掛けた。―――が、それは結局彼の命を縮める行為となった。
「優月君、そろそろ―――」
「あー!思い出したっス!義兄さんが昔行ってた墓、確か『雪村家之墓』って書かれてたっス!」
「「「「―――ッ!」」」」
祈里は即座に踵を返し、日野森学園の出入り口に向かって全力で走った。しかし彼が着ているのは神父服。ただでさえ走りづらく、加えてここにいるのは日頃から怪物と命のやり取りをしている仮面ライダーの一人。
結局簡単に取り押さえられ、明奈がどこからともなく取り出した縄で拘束された。
「大丈夫!?・・・ってこれどういう状況?」
騒がしい物音を聞いて慌てて二階から駆け下りてきた海翔だったが、縄で拘束され正座させられている祈里を見て思わずツッコんでしまった。
一連の出来事を口にしようとしたとき、一つのメッセージがが景虎のスマートフォンに届いた。
「・・・」
無言でそれを確認すると、景虎は海翔の手を引っ張って玄関に向かった。
「ちょっと用事思い出したわ!遅うなるけど勘弁してな!」
言外に海翔と明奈にプレイスターが現れたことを告げる。それを知らない亮介と優月は呑気に手を振って見送った。
「じゃあ俺も仕事に戻るわ」
二人の姿が見えなくなった後、亮介はポツリと言って立ち上がった。
「え、アンタ仕事中だったの?」
大企業の社長の息子という立場を悪い方に利用していないか?呆れたような視線を亮介に向けるが、当の本人はそれを華麗に受け流した。
「毎日勤勉に働いてたら、少しぐらいは融通が利くんだよ。とはいえそろそろ拙いからな。雪村アリサの件、こっちでもいろいろ調べとくわ」
そう言い残して亮介は帰っていった。出会ったころと比べて目覚ましいほどに成長しているが、少しよろしくない方向に傾いていると思わざるを得なかった。
何時の間にか優月も姿を消している。二階から足音が聞こえてくるところを見ると、これからの会話が聞かれるということはなさそうだ。念のため扉を全て締め切ると、明奈は拘束されている祈里を見下ろした。
「―――さて、洗いざらい話してもらいますよ。知ってるとは思いますが嘘は通じませんよ」
「―――ええ、知っていますよ」
半ば諦めたように、そしてどこか安心したように祈里が呟く。
同時刻、とある住宅街の一角。普段では平穏の象徴とされる静寂は数多のサイレンによって無残にも踏み潰されていた。何の変哲もない一戸建ては無残な事件の舞台に成り果ててしまった。
出入口は屈強な捜査員と危険表示テープによって封鎖されている。近隣の住民は不安そうな視線を事件現場へ向け、ひそひそと噂話をしている。
人混みの間を縫ってスーツ姿の女性二人が現場へ近づいてゆく。肩に下げている大荷物はそのままにトラテープを
既に管理は捜査一課から秘密裏に零課に委任されている。周囲ににらみを利かせている捜査員も、現場で証拠集めを行っている鑑識たちも全て零課の隊員たちだ。
解放されている玄関を通って歩みを進める。事件現場は奥のリビング。そこに到着するまでに夕夏はどうしても聞いておくべきことがあった。
「詩音ちゃん、本当に大丈夫・・・?」
一歩遅れて夕夏の後方を歩く詩音はピタリとその足を止めてしまう。
改めて何度か深呼吸を行い、顔を上げる。
「・・・いえ。大丈夫です」
そうは言うが顔は青いままだ。夕夏の労わるような顔は変わらない。
早く行きましょう、そう詩音が促してようやく二人は歩みを再開させる。足の震えを懸命に抑えながら。
(私が見ないと・・・あの事件で生き残った者として、そしてアイツの手がかりを得るために―――)
リビングからは吐き気を催すほどの死臭が漂っている。しかしそれは殺戮の残り香の一つでしかなかった。
血、血、血。黒ずんだ赤色が床に、家具に、壁に散らばっていた。元の色を容易く塗りつぶすほどに昏い赤が一面を支配していた。
単に刃物で切り付けたり銃で撃ち殺しただけではこうはならないだろう。まるで人間を直接絞って血を無理やり抜き取ったかのよう。それを証明するものなのか、乾いた血液の海のなかに細かな血管のようなものも散らばっている。
(落ち着け、私・・・)
詩音の頭の中で家族の最後がフラッシュバックする。込み上げる吐き気を必死に堪えていると、夕夏と詩音の姿を捉えた一人の捜査員が駆け寄ってきた。
無言で敬礼したのち、一束の資料を夕夏に手渡した。
「こちらが被害者と思われる家族です。今日の深夜、家族全員が寝静まった時間を狙って家屋内に浸入。その後犯行に及んだと見られています。第一発見者は早朝に通報を受けて急行した交番勤務の警察官です」
被害者たちの簡単な資料を一瞥する。通報が入るまで発見されなかったということは計画的な犯行、そしてこの惨状から人間が起こしたものとは考えられない。
「ご遺体は今どこに?」
プレイスターの犯行である以上、相手の正体の特定のために遺体は貴重な情報源の一つだ。
「ご遺体は既に回収しました。資料としてこちらを用意しているのですが・・・」
捜査員は一拍おいて続けた。
「・・・かなりショックの大きい写真になります。ご覧になる際はご注意ください」
惨状を何度も見ている零課の捜査官を以てしてそこまで言わせるのか。軽いはずの資料にズシリと重りが付いたような気がした。
「「・・・」」
息を呑み、手にした封筒をしばし見つめる。室内では捜査員がテキパキと活動しているが、物音ひとつ二人の耳には届かなかった。
意を決し、封を開ける。
―――忘れるはずが、ありません。
封筒の中には詩音の両親と同じ殺され方をした死体が写った写真が入っていた。
「良いのですか?
丸メガネを掛けた、軍服姿の青年が問いかける。
とある山間部の奥深く、人口減少によって誰も使わなくなった山小屋にて一組の男女が対面していた。
問いかけられた女性―――
「良い。殺しは奴にとっての
「―――仮面ライダーの視線を集めるため、ですか?」
青年はクイ、と眼鏡を整える。レンズの奥に浮かぶ目はまさに怪物と呼ぶに相応しく、温かさなどは微塵も見られなかった。
思考を先読みされたクイーンはますます表情を渋くさせた。
「・・・ああ。奴らの力は想定以上だ。まさかウォーリアーを弑するとは―――」
ウォーリアープレイスターの死亡、この件が怪物たちに齎した衝撃は零課が想定する以上のものだった。何せ彼以上の戦闘力を持つ者は数えるほど。それこそ
そもそも職業系のレコードカードで戦闘特化のカードが限られる。目の前の青年もカードの内容だけで言えば戦闘とは程遠い存在だ。
「だからこそ優先順位を変更する。奴がかき回している間に戦力を集め、人間どもの拠点を襲撃する。幸運にも
青年―――
「ところで彼女はどういたしましょう?」
「あれは放っておけ。あれに首輪は付けられんよ。それをすればアレの刃がこちらに向きかねん。それよりもジョーカーとして盤面を乱させた方がこちらにとっても動きやすい」
「了解しました」
そうして怪物たちのたくらみは水面下で進んでゆく。運命の日は少しずつ、しかし確実に近づいている。
「~~~~♪」
少女がご機嫌に繁華街を練り歩く。黒いドレスに身を包み、鼻歌を歌う姿は年相応だ。―――返り血を浴びていなければ、の話だが。
彼女の周囲はまさに地獄そのもの。地面から突如襲い来る影の刃に、人々は成すすべもなく倒れ伏していた。
「~~~~♪」
ほとんどが急所を外されている。腕を切り落とされ、足をズタズタに切り裂かれ、或いは影の刃によって内臓に損傷を負った人々が苦悶の叫び声を上げている。
「姉さん、早く来ないかな~♪」
彼女が有象無象に興味を示すことはない。彼女の狙いはいつもただ一人。残りは存在してようとしていなかろうと変わりない。まあ、今回は誘蛾灯としての価値くらいはありそうだが。
「―――う、うわぁぁぁぁ!」
異を決した様子で店の中から男が飛び出してくる。手には金属製のパイプが握られており、それを天高く振りかざしている。
まともに喰らえば、或いは彼女が人間であれば青年の蛮勇は報われたのかもしれない。
「~~~~♪」
しかし少女は目もくれない。それどころか鼻歌すら止めない。男は不意打ちが成功して安堵するが、その感情が長続きすることはなかった。
(―――え?)
体が動かない。それどころか空中で制止している。困惑する男だったが、その思考すら数秒で打ち切られることとなる。
「~~~~♪」
(―――)
視界がズレる。否、視界だけではない。腕、足、胴―――人体のあらゆるパーツが次々と切り取られてゆく。男が再び地面に触れたとき、人の形を保っていなかった。
「―――おっ、来た来た」
バイクの排気音を耳にし、少女の顔が更に崩れる。
気が付けば少女の目の前にはドライバーを装着した海翔と景虎が立っていた。少女は海翔の姿を見て満足げに頷いたが、景虎がいると知るや残念そうに溜息を吐いた。
「姉さん一人に来てほしかったんだけど・・・」
一方の二人は惨状を目にして顔を顰めた。道には苦しむ人々だけではなく肉片も幾つも転がっていた。死者は数えることが出来ず、また重病者も同様だ。おそらく幾つかの死者は遺族のもとに帰ることすら出来ないだろう。
「・・・厄介な娘に好かれるんやな、キミは」
「好かれようと思ってるわけじゃないんですけどね・・・」
呆れたような景虎の言葉に、海翔は苦笑いで反応する。
言葉を交わしている間も死線は少女から外さない。初めて直接少女を見た景虎だったが、既に彼女を人間とは思っていない。鍛えられた直感が彼女が自身の命を容易く奪う存在であると知らせている。その圧力は先日全滅一歩手前まで追いつめられたウォーリアープレイスターを遥かに凌駕している。
警戒する二人を他所に、少女は懐からレコードカードを二枚取り出し、人体の一部を切り取られ倒れ伏す人間に向けてそれぞれ投擲した。
「「―――あ、ア”ア”AAAAaaaa!」」
魂からの絶叫を放ち、その体が変容してゆく。
《BOOK》
一人は白と黒を基調とした怪物へと。頭部は巨大な開かれた本のような形状をしているが、ページは意図的に破られたように滅茶苦茶になっている。全身に刻まれた黒のラインは恐ろしく細かく刻まれた文字。現在地球上に存在するいずれの文字とも合致しないが、見る者は何故か文字であると知覚する。
《BRICK》
もう一人はオレンジを基調とした怪物。身体の表面を大量の土が覆い、一気に凝縮される。元が土だと侮るなかれ。人間の叡智によって生み出されたそれは重火器ですら壊すのは容易ではない。
三体の怪物が二人の正面に立ち塞がる。
「さあ、
少女は冷たく宣告する。
どうも、熊澤です。久しぶりの仮面ライダーヒューム、如何でしたでしょうか。
章の名前にもあるように、彼らは様々な存在と対峙していくこととなります。或る者は過去と、或る者は宿敵と、或る者は真実と。そして或る者は罪と。
彼らはどのような結末を選ぶのか、是非お見逃しなく。