仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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No.15 WIND/願えば風は吹き荒れる

 人間はどうしようもない生き物だ。心の底からそう思う。

 

 この考えは自分の育ちも関係しているのだろう。

 

 小学校の中学年ほどまでは何の変哲もない―――いやむしろ恵まれている方だっただろう。何時からか、何が原因だったか。父親が多額の借金を残して蒸発したとき?中途半端な正義感でいじめっ子を庇った時?兎も角6年生になるころには自分の居場所は何処にも無かった。

 

 それは中学生になっても変わらなかった。むしろ悪化したと言ってもいい。物を隠される、机に落書きされる、陰口を叩かれる―――これくらいは日常茶飯事だった。

 

 母親が首を吊った時、オレは警察に電話するでもなく、なけなしの金を持って夜逃げした。今思えば他にやり方が無かったのだろうか。少しでも母を支えていれば、もしくは朝に酷い言い合いをしなければこうはならなかったのではないか―――考えても詮亡きことだが。

 

 人間はどうしようもない生き物だ―――オレも含めて。心の底からそう思う。

 

 何の因果か探偵になった後もこの考えは変わらない。

 

 不倫の調査を依頼して、当の本人は平気な顔で不倫をしていたり。二人の人間がそれぞれ陥れようと依頼してきたり。ストーカーのために調査をさせてきたり。まあロクな人間がいない。

 

 人間は誰もが大なり小なり悪意を持っている。だがその闇はオレにとって少し暗すぎた。

 

 でも―――中にはいるのだ。利益など全くの度外視で、純粋な善意だけで人を助ける者が。

 

『これは酷いわ。・・・怪我してないだろ、って?いや身体やなくって心や』

 

『ウチの家に来おへん?こうやって座り込んでるよりは幾らかマシやと思うけどな』

 

『断るぅ?拒否権なんてあらへんで!おらッ・・・武術経験者なめんなや!ほら、行くで!キビキビ歩きや!』

 

 他でもないオレ自身がその善人に助けられたクチだ。ひどく汚れた人間たちの中で、宝石のように、どこまでも光の人間もいるのだと知った。

 

 だからだろう。得体の知れない人間である伊藤海翔を信用することが出来たのは。彼も師匠と同じだ。何の見返りも求めず、只目の前の人間を助けることのみを目的とする人。―――どこまで言ってもオレが成れない人間。

 

 だが海翔は彼女と比べて酷く不安定だ。

 

『分かりませんよ!何者かなんて、僕の方が聞きたい!一体僕は何を忘れているんだ?この焦燥感は、罪悪感は、どこから湧いてくるんだ!?』

 

 ・・・正直に言って、彼には戦ってほしくはない。民間人がプレイスターの事案に頭を突っ込んだ結末を、オレは最悪な形で知っている。

 

 だがあの彼女(ヒト)のように、知りたい、知らなければいけないという使命感は時に命を失わせる勢いで人間の背中を押すことも知っている。

 

 ならばオレにできることは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、開発研究部

 

「―――っしゃあ!完・成!」

 

 普段の三倍は散らかった部屋。数式が殴り書きされた紙や空き缶といったごみによって、足の踏み場どころかコンクリ―トでできている床すら見えない。

 

 木霊する男の声。目は充血しており、目元の隈は遠目からも目立つほど。本試験間近の受験生であってもこうはひどくならないだろう。

 

「ふぁ~・・・あ、やっとできたんですかー」

 

 昭人の声に、机に突っ伏していたノアが目を覚ました。半ば気絶するように眠っていた彼女だが、昭人のように目元に隈は見当たらず、印象的な金髪は不自然なほどに整っていた。

 

「流石ですねー、この短期間で完成させるとはー」

 

「世辞はいらねえ。比較的に解析が楽なレコードカード、どう強化するかの元ネタ(方向性)。こんだけ手札が揃って開発できねえほうが可笑しいだろ」

 

 ノアの素直な賞賛に、昭人が卑下するように言う。

 

 そんなことはない、と彼女は思う。「レコードカードを実用可能な技術に落とし込む」ということ事態がそもそも難題。レコードカードは未だに全容が解明できていないオーパーツ。今回使用したカードも解析できたのは多いもので二割。加えて安全性や費用といったしがらみもあるときた。「天才」、彼を表す言葉はこの一言に尽きる。

 

 しかし彼はこの称号を断固として受け取らないだろう。それは偏に本物を知っているが故。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

「んじゃ、あとは試運転をして―――」

 

「その前にー実戦で投下することになりそうですよー」

 

「あ?」

 

 訝しむ昭人。ノアは数回キーボードを叩くと、プロジェクターに一つの映像が映し出される。

 

 それは現在稼働しているライダーシステムが一機、刃狼のカメラからのリアルタイムな映像。大きく動いているので分かりにくいが二体のプレイスターを相手にしている様だ。

 

 視点が大きく後方へと吹き飛ばされる。それを見てとった昭人は机の上から完成したてのアイテムを手に取る。

 

「どうやら苦戦してるみてーだな。試運転できてねえのは癪だが―――ノア!」

 

 忌々しそうに呟くと、アイテムをノアに向けて放り投げた。綺麗な放物線を描いたそれを、ノアは慌ててキャッチする。

 

「ふう・・・あのー、これいくらしたと思ってるんですかー?」

 

「知るか。コイツを早く届けてこい」

 

「相変わらず人使いが荒いですねー」

 

 ぶつくさ言いながらもノアはアイテムを持ったまま姿を消す。昭人が目を離した一瞬の出来事だったが、彼は慣れているようで表情一つ変えなかった。

 

 静寂が訪れた室内で、彼はポツリと呟いた。

 

「レコードカードのデータを六枚分もぶち込んだんだ。―――上手く使いこなしてくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は再び戦場へと戻る。

 

 血の海と化した通りに出現した二体のプレイスター。二対一という状況に刃狼は苦戦を強いられていた。

 

 致命的なのは二体のプレイスター―――特にブリックプレイスターとの致命的なまでの相性の悪さ。今も刃狼の繰り出した斬撃を、ブリックプレイスターが生成したレンガの壁が容易く受け止めた。

 

「クッソ・・・」

 

 思わず悪態が口から出てくる。どうにかしてこの壁を突破しなければならないが、その思考を裂くようにブックプレイスターの頭部から文字列が飛び出してくる。

『Then the angel took the censer, filled it with fire from the altar, and hurled it on the earth; and there came peals of thunder, rumblings, flashes of lightning and an earthquake.』

 

 『thunder(稲妻)』と『earthquake(地震)』。辛うじてこの二単語を読み取った刃狼は慌てて地面を蹴り、その場から飛びのく。

 

 刃狼が行動するのと同時に文字は虚空に溶けるように消えていく。瞬間轟音が鳴り響き、刃狼が立っていた地面が陥没し、雷が降り注ぎ大地を黒く染めた。

 

「―――ッ」

 

 刃狼の首筋が寒くなる。判断が遅れていれば地面のような末路を辿ったのは彼の方。死神の鎌から逃れることが出来た幸運に感謝しながら地面を駆け抜ける。

 

「―――!」

 

 しかし怪物は様子見の一つも碌にさせてくれない。コンクリートの地面を突き破り、目の前に突如として出現したレンガの壁に進行方向が防がれる。

 

 避けるにも時間が掛かり、破壊しようにも刃狼の武器である刀では相性が悪い。ガレスであれば破壊できたのであろうが、ここで悔やんでいる時間もない。なぜなら―――

 

『On that day all the springs of the great deep burst forth, and the floodgates of the heavens were opened. 12 And rain fell on the earth forty days and forty nights.』

 

「―――またかいな!」

 

 ブックプレイスターが新たな文字群を展開しているからだ。

 

 同時に複数枚創造することが出来ないのか、それとも創造できる場所に何かしらの条件があるのか。刃狼の周囲には未だに逃げ道が存在しており、ブックプレイスターの効果範囲内から辛うじて逃れることに成功した。

 

 コンクリートを突き破って噴出する水。ただの水と侮るなかれ。高圧洗浄機の例のように、多大な圧力を受けたそれは下手な刃物よりも威力がある。その証拠に上空を飛んでいたであろう鳩が翼を切り落とされて地面に吸い込まれていった。

 

「―――ッ」

 

 刃狼は仮面の下で歯噛みする。このままではジリ貧だ。早急にブックプレイスターを倒したいところだがブリックプレイスターの壁を刃狼は突破できない。時間をかければ突破できるかもしれないが、それより早くブックプレイスターの攻撃が飛んでくる。

 

 ブックプレイスターの能力は『出現させた文字列の減少を超局所的に再現する』ものであると刃狼は推測する。恐ろしいのはその攻撃に対する回答が回避しかない点。文字列を見て推測することは出来るが、適切なレコードカードを使用するよりも文字列を再現する方が断然早い。

 

 だがその逃げ道もブリックプレイスターによって少しずつ制限されている。一人での打開が難しい以上、ヒュームの力を借りたいところだが―――

 

《SAVER...》

 

《ALL RIGHT!YOU ARE SAVER!》

 

「―――フッ!」

 

「いいよ!でもまだまだ足りないね!もっともっともっともっともっともっと!もっと一緒に踊ろうよ!」

 

 離れた刃狼にも聞こえてくる狂った笑い声。ヒュームはあの少女(バケモノ)を抑えるのに手一杯だ。その上に二体のプレイスターが加わればその拮抗も容易く崩れ去る。だからこそこの二体のプレイスターはここで倒さなければならない。

 

(せめて他のレコードカードがあれば・・・)

 

 今日までプレイスターの行動が沈静化していたこと、そして新たな兵器を開発するためにほとんどのレコードカードが本部に接収されていた。だが悔やんでも仕方ない。そう思いなおそうとしたとき―――

 

『―――どーもー、支援物資の到着ですー。間に合いましたかねー?』

 

 天使の福音が。通信機の機能が搭載されたライダーシステムの頭部から鳴り響いた、どこか気だるげな間延びした声。それと同時に小さい影がプレイスターに襲い掛かる。

 

「―――ええタイミングですわ!それで支援物資てなんですのん?武器?レコードカード?」

 

 急かすように言う刃狼とは真逆に、ノアは機械越しに冷静に告げた。

 

『もう届いてますよー』

 

「?」

 

 その言葉に訝しむ刃狼。それと同時に足を止めているのにプレイスターの攻撃が無いことに驚く。

 

 見るとなにやら小さな影がプレイスターの頭部にしがみつき、かく乱している。相当にイラついたようでブックプレイスターが雷を再現したが、小さな影はそれをひらりと躱して刃狼の下へ舞い降りた。

 

 それはデフォルメ化された動物を模した小型の機械。しかしその姿は現実世界には存在しない生物。頭部、胴体、前後肢、尻尾。四つすべてが別々の生物で構成された姿は―――

 

「―――鵺?」

 

 日本に伝わる妖怪、鵺のそれとそっくりだった。

 

『はいー。名付けてー『クアトロキメラガジェット』ですー。名前についてのご意見はー命名者である師匠にお願いしますー』

 

「それでこれで―――」

 

 どう戦えばええんや。そう問おうとしたときクアトロキメラガジェットが独りでに動き出し、インベスティセイバーの鍔の真上にしがみつく様に装着された。

 

《Armored、Set Up》

 

 無機質な音声がクアトロキメラガジェットから発せられる。何かあると察したのか、プレイスターたちも行動しようとする。しかしどこからともなくナイフが投擲され、それは妨害される。

 

『―――ッ』

 

 通信機の先から抱いた違和感。常人では気が付かないほど些細だったが、探偵として活動した経験がそれをすくい上げた。

 

「?どないしたんや」

 

『―――いえー。それよりもーガジェットの前足を押してートリガーを引いたら完了ですー』

 

「よっしゃ、なら早速―――」

 

『とその前に―――』

 

 間延びしたノアの口調がどこか厳しいものへと変わり、クアトロキメラガジェットの前足のパーツに伸びていた刃狼の手がピタリと止まる。

 

『こちらぶっつけ本番でー実戦に投入されることになりましてーテストプレイしていないんですよー。理論上では身体に害はありませんがー思わぬ副作用が出る可能性がありますー』

 

「・・・」

 

 副作用。その言葉が刃狼の耳に大きく響く。彼は戦いの中で何度も見てきた、人間が怪物へと変化してしまう瞬間を。そうなればもう終わり。知性をなくした化け物として暴れまわるだけだ。

 

『断言してやる、ムリだ。レコードカードを挿しこんだ時点で細胞が根底から別物になる。新種の生命体に変貌すると言ってもいい。人間に戻すことはできん』

 

 いつか昭人が放った言葉が脳裏によぎる。怪物になってしまったらもう戻らない。戦士(ウォーリアー)や今暴れまわっている少女もそうだ。見た目は人間でも中身は正真正銘の怪物だ。

 

「―――でもな」

 

 刃狼はポツリと呟く。ここで引くのは簡単だ。だがそうなれば―――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 甘ちゃんで、でも戦う相応の理由があって。どこか()()()に似たあの一般人。―――ああそうだ。どうやら自分は、彼をどうしても死なせたくないらしい。

 

「あいつが(タマ)張ってるんや!オレが引いてどうすんねん!」

 

 叫ぶと同時に一気に恐怖を拭い去る。仮初?短時間?まやかし?それでも結構。一つの過ちが取り返しのつかない事態を招くことは自分がよく知っている。その未来を変えられるのならばこれだけで十分―――ッ!

 

《Ha-Rou、Active!》

 

 クアトロキメラガジェットの前足を押す。それと同時に無機質な機械音声と共にデータ状の、青い半透明の粒子が無数に出現する。

 

 刃狼は静かにインベスティセイバーの刃先をプレイスターたちに向け、トリガーを引いた。

 

「―――再武装」

 

 粒子?―――いいや違う。それは細胞だ。そのサイズは目視では認識が不可能なほど。しかし幾つかの塊にまとまっていることで辛うじて認識することが出来る。

 

 細胞群が刃狼の身体に吸い寄せられる。彼の身体に着くかつかないかの距離を全ての細胞群が旋回していると、唐突に旋風が巻き起こり刃狼の姿を完全に覆い隠す。

 

 周囲を巻き込むほどの激しい風。その勢いはすさまじく、ブックプレイスターの攻撃を容易く無効化してしまうほど。だが止まない風は存在しない。内側から生えた刃が風を切り裂くと、先ほどの旋風が夢であったかのように跡形もなく消失する。

 

 代わりに現れたのは一人の剣士。元々オオカミを象ったかのような装甲が黒いアンダースーツの上に装着されているという姿の刃狼だったが、更にその上から青色の装甲を纏うこととなった。

 

 その意匠は戦国時代に用いられた甲冑のそれと似ている。しかし一点、肩の部分に装着されている大袖には噴出孔のようなものが地面を向く形で取り付けられている。

 

《Blowing My Wind!Ha-Rou Armored!》

 

《No Ploblem》

 

 無機質な機械音声が静かに変身の完了を宣言する。

 

 仮面ライダー刃狼アーマード。再臨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人になった部屋の中、昭人は静かに電子タバコをふかす。「健康に悪い」だのなんだのと横やりを入れてくる少女は隣にいない。薄暗い部屋の中、唯一明かりをともしている画面を見ながら昭人が独り呟く。

 

「・・・『ライダーシステムを強化する』。言葉にするのは簡単だが、実行するのは結構難しい」

 

 昭人は誰かに語り掛けている様だ。しかし前述のようにこの部屋にいるのは昭人ただ一人だ。彼の視線は画面ではなく虚空に向けられている。

 

「二枚目かつ適合率が低いレコードカード。素体にそのまま組み込んじまうと、システムが耐えられたとしても使用者の方が先に限界が来る」

 

 画面の先では見事変身を果たした刃狼アーマードの姿が。ライダーシステムの頭部からの画像ではなく、上空から俯瞰するように撮影されている映像。引きこもりには引きこもりなりの情報収集のやり方がある。

 

「だが、俺たちは既に適合していないレコードカードであろうと一定以上は使用できる技術を開発している。そこで気が付いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな」

 

「次に強化のために使用するレコードカードの選定だ。難易度が低いのは動物系か鉱石系、昆虫系あたりだ。こいつらはまだ現代科学が通用しやすいからな」

 

 画面の向こう、刃狼アーマードはインベスティセイバーを上段に構え、ブックプレイスターに向けて急速に迫る。重量が増加したにも関わらずその動きは遅くなるどころか俊敏になっている。

 

 ブックプレイスターに狙いを定めたのはブリックプレイスターが攻撃を仕掛けてこないからだろう。脅威度の高い方を先に排除しようとしている。

 

「でも既存の要素をただ組み込むだけじゃ大した強化にはならねえ。ならどうするか―――ヒントをくれたのはあいつ(ヒューム)の新しい力だ」

 

「あの力の全容は分からねえ。が、推測することは出来る。おそらくそれぞれのレコードカードと極限まで同調させているんだろう。無茶苦茶だな。常人なら一秒も耐えれねえだろうし、あいつの身体でも短時間しか持たねえ」

 

「アレと同じ現象を引き起こせるとは思ってねえ。が、ブレイズとエレクトリックの同系統であるウインドレコードカードなら、大幅な強化が見込めると踏んだ」

 

 ブリックプレイスターは本能で刃狼アーマードの行動を理解すると、即座に彼の進路方向に分厚い壁を生成した。スピードが上昇している刃狼アーマードは急停止できない。仮に衝突を防ぐことが出来たとしても短時間でこの壁を崩すことは出来ない。その間にブックプレイスターの攻撃が決まる。

 

 しかしそれは既に過去の話。刃狼アーマードは回避でも停止でもなく、そのまま突き進むことを選ぶ。

 

《1+(プラス)-Reading》

 

「結果は―――成功だ」

 

 ウルフレコードカードをインベスティセイバーに読み取らせ、トリガーを引きながら上段に構えた刀をそのまま振り下ろした。

 

《Wolf And Wind Slash Chasing!》

 

 肉を切り刻むような荒々しい竜巻を纏った刀。それが立ち塞がった壁に与えた被害は正に絶大。獰猛な獣の爪によって切り裂かれたが如く、三つの傷がレンガの壁を無残にも崩した。振るったのはたった一太刀であるはずなのに、である。

 

「だが、ここにきて新たな問題があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのまま外付けにしたとしても使用者が持たないという計算結果が出たくらいだ」

 

「だから、他のレコードカードで『型』を作ってやることにした。それぞれが適合しているレコードカードだけじゃ足りねえ。比較的三人全員に適合しているセルレコードカードを基軸に、これまで確保したレコードカードの内形質が似ている、或いは適合率が高いレコードカードまで動員してな」

 

 崩れ去る城壁。あたり一帯に破片が飛び散る。慌てたような挙動を取ってブックプレイスターは頭部から文字を出現させようとするが、それよりも早くオオカミの牙が喉元に食い込む。

 

《1+(プラス)-Reading、2+(プラス)-Reading》

 

《Wolf And Wind Slash Biting!》

 

 風が、吹き荒れる。最初はそよ風程度だったが、それほど時間をかけることなく悉くを切り裂く旋風へと変化する。どこか獰猛な猛獣のようにも見えるそれは、ブックプレイスターの喉を容赦なく嚙み切った。

 

「~~~!」

 

 叫び声を上げるかのような仕草をしながらブックプレイスターは地に伏せる。プレイスターの体内からえぐり取られたレコードカードが風に乗って刃狼アーマードの手元に渡る。

 

 状況は一対一、しかし既に勝負は見えた。昭人はノアに戻るように連絡を入れると、煙草を吸っていたという証拠を隠滅しながらモニターの電源を切った。

 

 暗闇に包まれる部屋。どこか安心感を覚えながら椅子にもたれ掛かり、何をするでもなく天井を見上げる。

 

「これで少しでもアイツの助けになるか?・・・なあ―――」

 

「―――アリサ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1+(プラス)-Reading、2+(プラス)-Reading、3+(プラス)-Reading》

 

 残るはブリックプレイスターのみ。獲物を屠るべく剣士は刃を研ぎ澄ませる。しかしプレイスターも簡単に殺されるつもりはない。自身の正面に何重と壁を出現させる。

 

「これで―――終いや!」

 

 しかし彼は全く怯まない。仮面に搭載されたモニターに表示された刃狼アーマードのスペック。その全てが展開された壁は障害ですらないことを告げている。

 

 トリガーを引き、刀を地面に突き刺す。すると両足の鎧が活性化したかのように淡く光輝き、刃狼アーマードはその場から大きく跳躍する。

 

 最高高度へと到達すると肩の鎧が自動的に動作、噴出口が刃狼アーマードの後ろを向く。モニターがブリックプレイスターをロックオンすると、噴出口からジェットのように風が放出され、刃狼アーマードの身体を標的に向けて押し出す。

 

 プレイスターに向けて伸ばされた右足。そこには青色のオーラが集っており、獰猛な肉食動物の牙のごとく様相を見せる。

 

《Wolf And Wind Slash Hunting!》

 

 すべての障壁を容易くかみ砕き、必殺の一撃がブリックプレイスターの身体を食い破る。当然耐えきれるはずもなく、プレイスターの身体は業炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 一方のヒュームと少女(怪物)の戦いは膠着状態を見せていた。鋼を打ち付けあう甲高い音は途切れることは無い―――が、その硬直は気まぐれによって唐突に破られる。

 

「う~ん。確かに楽しいんだけど、見たいのはそれじゃないんだよね」

 

「何?―――ッ!」

 

 鍔迫り合う二人。少女がポツリと呟いた言葉にヒュームは訝しみ、即座にその場から飛び退いた。太陽は大きく照っている。それによって生じた少女の陰から鋭い刃が飛び出し、ヒュームがいた地点に深々と突き刺さったのだ。

 

 警戒を強めるヒューム。そんな彼とは逆に少女はまるで戦いの最中であることを忘れたかと思うほど無防備に、ヒュームに向けて語り掛ける。

 

「ね~え、あるんでしょ?新しい力」

 

「―――ッ」

 

 手の内が見破られている。彼女のレコードカードの力を考えればおかしいことではないが、それでも「もしかしたら」という心はあった。

 

「ちょっと退屈かな。もっと本気に―――」

 

「いや、本気だよ」

 

 ヒュームの言葉に、少女の口角が不気味に吊り上がる。

 

「―――へえ。記憶が戻ったの?」

 

「いや、戻ってないよ。でも君は放置しちゃいけない存在な気がする」

 

 そう言いながらヒュームはE-ジェネレーションバックルを取り出す。これを使用すると短期決戦は避けられない。だからこそ彼女の弱点を探るべくセイバーフォームで戦っていたのだ。

 

 プレイスターの弱点は体内にあるレコードカード。しかし前回戦った際、人間体に傷を与えてもまるで無かったかのように再生されてしまった。

 

 目に見えている身体が本体ではないのではないか、という疑念さえ持っていたヒュームだったが、この戦いでその考えは覆ることとなった。切り結ぶなかで時折、掠り傷にすらならないであろう一撃を慌てて受け止める様子が散見されたのだ。

 

 欲を言えば場所の特定もしたかったが仕方がない。肉体にレコードカードがあると判断できたならば十分だろう。ブレイズヒューマンフォームの破壊力ならば届きうる。

 

 切り札を出したヒュームに対し、少女は不気味に笑い続ける。

 

「―――それでこそ、それでこそだとも!さあ、早くボクの心臓に刀を届かせてみなよ!」

 

 少女の叫びの返答代わりに、ヒュームはドライバーにE-ジェネレーションバックルを装着する―――

 

 ―――のを防ぐように、両者の間を弾丸が降り注いだ。

 

「キミさあ・・・」

 

 少女が視線を彼方へ向け、忌々し気に呟く。ヒュームも彼女を視線を追うと、そこにはプレイングスキャナーの銃口を向けたグレイの姿が。

 

 突き刺すような殺意があたりに充満し、それを発散させるべく少女が腕を振るおうとするのと、グレイがノイズ交じりの言葉を吐くのは同時だった。

 

「撤退しろ。女王(クイーン)の命令だ」

 

「・・・ちぇ」

 

 少女は不満げに口を尖らせると大人しく腕を降ろし、殺意を霧散させた。

 

「レコードカードを二枚も無断で持ち出した挙句、仮面ライダーに奪われたそうだな?大層ご立腹だったぞ」

 

「なーんだ、あっちは負けたんだ。これでも結構本気で殺しに行ったんだけどな。・・・仕方ない、大人しく怒られてくることにしようか。―――じゃあね、姉さん(にいさん)

 

 軽く手を振ると少女の身体は影に沈み込み、やがて完全に消えてなくなった。一番の脅威は去った、しかしヒュームは警戒を緩めない。

 

「―――」

 

「そう警戒するな。今日は貴様と戦いに来たわけではない」

 

「へえ。だったら後ろにいる人たちも撤退させてほしいんだけど?」

 

 ヒュームの指摘に、グレイは静かに笑った。

 

「何だ、気が付いていたのか。貴様には今からこいつらと戦ってもらう。勿論、拒否権は無いがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻を同じくして、東京都内某所。

 

 巨大な建物の一室。迷路かと間違えるほど広大な建物の奥深くで二人の男が顔を合わせていた。周囲は不気味なほど人の気配が存在せず、徹底的に人払いが行われている。

 

 一人はふくよかと言うには肥え過ぎた男。もう一人は―――暗がりにいてシルエットしか捉えられない。少なくともそこからはこれといった特徴は見当たらない。

 

「本日はお時間を頂き誠にありがとうございます。今井防衛大臣殿」

 

 暗がりにいる男は肥え太った男に向けて頭を下げる。そう、もう一人の男は現防衛大臣である今井(いまい) 広宣(ひろのぶ)である。

 

「ふむ、こう見えて私は何かと忙しい。そんな私を呼び出すとは、余程の要件なのだろうな。ん?」

 

「ええ、本日は我が社の研究の成果をご覧いただきたく」

 

 意地悪気な彼の言葉は意にも返さず、男はタブレットを男に差し出す。その態度に引っ掛かりを覚えた今井だが、当然態度には出さない。

 

「ふむ、先日の件か」

 

「ええ。不安定ですがようやく形になったので」

 

「なるほど」

 

 鼻を鳴らして今井はタブレットを受け取る。興味なさげな今井だが、心の内は真反対であることを男は知っている。

 

 タブレットにはリアルタイムの戦場の様子を映している。にらみ合う仮面ライダーたちとグレイ。何時の間に合流したのか、ヒュームの隣には刃狼アーマードの姿もあった。グレイの背後には迷彩服を着た人間が十人ほど、虚ろな目をして立っている。

 

 人間たちの特異な点としてもう一点、腰のあたりに謎の機械が埋め込まれていた。二つの風車のようなものが埋め込まれ、右側には指をかけられるリングが付いている。その形は仮面ライダーたちのドライバーのそれと似ているが、ベルト帯の類は見られず、如何やら体に直接受けこまれている様だ。

 

「ほう、あれが君が言っていた仮面ライダーか」

 

「ええ。ですが本日は彼が本題ではありませんので」

 

 そう言っている間に人間たちが行動を始める。その手に握られているのはレコードカード。しかし常のそれとは何か違う。レコードカードよりも厚みがあり、所々から配線が見え隠れしている。名付けるなら『ギジレコードカード』であろうか。

 

 人間たちはギジレコードカードをドライバーに装填し、リングに指をかけた。

 

『『『変換』』』

 

 画面の向こうの人間たちは一斉にリングを引っ張る。それは手榴弾で言うと安全ピンのようなものだったようで、紐みたいなものも一緒に装置から取り除かれる。と同時に風車が高速で回転し始め、人間たちの身体が変化する。

 

 その姿は一言で言えば人型のアンドロイド。しかし頭部には触覚や牙のようなものが付いており、腰には一対の腕が追加されているなど明らかに人間のそれからは逸脱している。

 

 想像以上のものが映し出され、今井は言葉を失う。

 

「これが―――」

 

「ええ。我が社が開発した人体兵器。名を、『アントトルーパー』と申します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都内から離れたある場所。東京だと言われると思わず首を傾げてしまうほど自然にあふれた場所。そんなところに明奈と祈里は立っていた。

 

「ここは?」

 

 「場所を移しましょう」そう祈里に言われるまま、車に乗ってきた明奈。分かってはいたがあちらに危害を加える意思はない。目の前には墓石が静かに並んでいた。

 

 祈里が目の前の墓を視線で差す。訝し気に思いながらも墓石に刻まれた文字を読み上げる。

 

「『雪村家之墓』・・・まさか」

 

「ええ、雪村アリサの墓です」

 

 最も死体はありませんがね、と悲し気に言う祈里。

 

「その名前が今出てくるのは―――」

 

「ええ、貴女が想像している通りでしょう。彼女は遺伝学的には、海翔君の母親です」

 

 海翔の実の母親の墓。それが目の前にあることに驚きながらも、もう片方では冷静に、祈里の言葉を分析する。

 

「本当にアイツの全部を知っている様ね」

 

「流石、冷静ですね」

 

「とぼけないで。なんでここに連れてきたの?あんたのことだから、優月には彼女のこと言ってないんでしょう?」

 

 雪村アリサはその天才性が故、数多の国家から狙われていたとも聞く。行方不明になってから相当な時間がたっているが、今でも血眼になってその行方を捜している人間もいると聞く。祈里とは十年単位で付き合いがある。彼が優月のことを自身よりも大切にしていること位分かっている。

 

 図星だったのか、祈里は少し口を閉ざす。

 

「・・・ええ。優月には知り合いの墓だと言っておきました。ここに貴女を連れてきたのは、まあ、私自身に対して発破をかけるためです。『これ以上逃げることは出来ない』というね」

 

「そこまでするなら、全部話してくださいよ」

 

「勿論です」

 

 祈里は頷く。如何やら嘘は言っていないようだ。いつものようなにこやかな表情はそこにはない。

 

「まず最初に明奈君、海翔君について不思議に感じたことはありませんか?」

 

「ありすぎるわよ」

 

「そうですよねぇ。例えばそう―――彼の万能性について」

 

 エヴィデンスドライバーが出現したことか、と思い込んでいた明奈は、祈里の発言に少々驚く。

 

「彼は万能です。どんなことをやらせても大概はプロ同然にこなします。料理、勉強、そして戦闘」

 

「・・・」

 

「不自然だと思いませんか?少々都合が良すぎるほどに彼は万能です」

 

 それがどうした、と思う程彼女にとっては当たり前のこと。改めて指摘されたことに「どうして」という感情が浮かび上がる。

 

 しかし、続く祈里の言葉に明奈は絶句することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし彼の万能性が『そうであれ』と望まれて与えられたものだとしたら?」

 

「―――ッ!まさか・・・」

 

「ええ。彼はある一組の男女の遺伝子を元に作られた人間。いわゆる人造人間(デザイナーズベイビー)です」




どうも、熊澤です。

というわけで零課ライダー達にも強化が入りました!先陣は刃狼に切ってもらいました。他の二人が強化されるのは・・・いつになるんでしょうね?

ちなみに零課ライダーは三人のはずなのに『クアトロ』なのはミスではありません。(今のところ)

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