仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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本編。ちゃんと伏線拾っていきますよっと


No.18 CONFESSIONER/懺悔する者

「ゆうちゃん先生、これどうよ?」

 

「凄い!綺麗ね~」

 

「当然っしょ。伊達に『日野森学園の化粧王』を名乗ってないワケ」

 

 ネイルブラシを持って里奈は誇らしげに胸を張る。一時間以上に及ぶ格闘を見届けた夕夏は「おお~」と手を叩いていた。

 

「ゆうちゃん先生にも塗ったげようか?」

 

「ごめんなさいねぇ。私、ネイルはちょっと苦手なのよ~」

 

「またまたー。そうとは思えない知識量だったじゃん」

 

 優しく断る夕夏をうりうりと肘でつつく里奈。彼女の助言が無ければ倍の時間は掛かっていたはず、そう思わせるほどの知識量だった。

 

 里奈の追及に、夕夏は何処か遠い目をしながら答えた。

 

「―――昔ね、化粧に詳しい友達がいたの。その子から教えてもらったのよ~」

 

「・・・」

 

 まさかこの歳になって役立つなんて思わなかったわ~、と答える夕夏に、里奈はなんとか「そうなんだ」と笑みを作った。

 

(・・・やば、地雷踏んじゃった。あーもー!ウチの馬鹿ー!)

 

 海翔や明奈のお陰でその雰囲気は感じられないが、日野森学園は孤児院。いわば「ワケアリ」の子供が多く集まっている。高校生になるまで生活していれば嫌でもそういう空気には敏感になる。

 

 どうしようかと心の中で悩んでいた里奈だったが、想定外の助け舟が物理的に飛んできた。

 

「二人とも何してるんスか?・・・うわぁ!綺麗な色っスね!」

 

「っしょ?見る目あんじゃん」

 

(優月~!マジグッチョブ!)

 

 表面では平静を装いつつ、心の中で優月にサムズアップを送る。今度アイスか何か奢ってやろうと脳内で算盤を弾いておく。

 

「自分も付けてみても良いっスか?」

 

「いいよー。悪いけどゆうちゃん先生お願いしてもいい?ウチまだ乾ききってないからさ」

 

「勿論よ~。さ、手を出して~」

 

 手慣れたように優月の爪を整え始める夕夏を尻目に、里奈は何げなく問いかける。

 

「てか優月もマニキュアに興味持つんだね」

 

「個性なんて幾らあっても良いっスからね。ここらで自分の『くーる』な部分をアニキに見せつけていくっていう作戦っスよ」

 

「・・・まだ諦めてなかったんだ」

 

 呆れ混じりに里奈は呟く。恋愛に対する海翔の鈍感さはギネス級。ワザとやってるんじゃないかと疑うレベルだ。彼を未だに狙っているのは明奈や優月くらいだろう。

 

「当然っスよ!一つ屋根の下の今がチャンス、ここで一気に攻勢をかけるっスよ!」

 

 現在、優月は日野森学園で生活している。明奈と買い物に出かけた祈里だったが帰りに階段から落ちたようで、命に別状はないが念のため病院で入院している(ということに表向きはなっている)のだ。一人では何か不安だろうと明奈が提案したのだ。

 

「―――まさか、祈里っちは明奈姐さん派っスか!?」

 

 基本的に結束が強い日野森学園だが、構成しているのは人間。当然、意見の相違はある。目玉焼きにかけるもの、唐揚げにレモンは付けるべきか付けないべきか、今川焼きの名称問題など多岐にわたる。中でも激しいのは『果たして海翔とくっつくのは誰なのか』と言う問題だ。純愛至上主義の明奈派、大穴狙いの優月派、そもそも海翔は結婚なんてしない!派、海翔が幸せならオッケーです派など派閥は多岐に渡り日々暗闘を繰り返してい―――たり、そうじゃ無かったり、ラジバンダリ。

 

「いや、ウチはどっち派とかないし。まあ、とっとと身を固めて欲しい感はあるケド」

 

「青春ねぇ~」

 

 呑気に話す夕夏。そして話題に上がった明奈はと言うと―――

 

「―――zzz」

 

 机に突っ伏して見事に寝落ちしていた。疲れが溜まっているのだろう、最近こうして寝落ちいている姿がよく見られる。

 

「あきなー、おきてー」

 

「いっしょにあそぼー」

 

「駄目だよ、起こしちゃ。僕が代わりに遊んであげようか?」

 

「あきなじゃないとだめー」

 

「あそべてないもんー」

 

「そうか・・・じゃあ起きたら真っ先に遊んでもらおう。明奈には僕からも言っておくからさ」

 

「・・・ほんとー?」

 

「ほんとにー?」

 

「勿論、ほら指切りげんまん」

 

「「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」」」

 

「あきなにちゃんといっといてね!」

 

「やくそくまもってね!」

 

「大丈夫。ほら、キッチンにクッキーがあるから食べてきなさい」

 

「くっきー!?」

 

「たべるー!」

 

 急いで駆け出す二人の子供に「走っちゃ駄目だよ」と言葉を投げかける海翔。無事明奈の安眠を守り切った彼は、その足を夕夏たちの座る机に向けた。

 

 手には小ぶりな皿が抱えられている。

 

「三人とも、おやつの時間だよ」

 

「クッキーっスか!?」

 

「何だ、聞こえていたのかい。牛乳が特売だったからね。丁度残りの材料があったから手作りしてみたんだ。芦屋さんもどうです?」

 

「―――え、私も!?いいのかしら~?」

 

 まさか自分も声が掛けられると思っていなかったのだろう。素っ頓狂な声を上げる夕夏。

 

「勿論ですよ」

 

「そそ、遠慮は無しっしょ。―――うーん、美味し!」

 

「・・・(´・ω・`)」

 

 早速一枚つまむ里奈。美味しさのあまり思わず声を上げる彼女を見て優月も食べようとするが、ネイルを塗っている最中だということを思い出してその場に留まった。

 

「・・・!」

 

 明らかにテンションが下がった優月だったが、何か思いついたかのように口角を上げた。

 

「アニキ!自分は今両手が塞がってるっスよね!?」

 

「?そうだね」

 

 優月の質問の意図が分からないながらも素直に答える海翔。その答えを聞いて優月は少し赤面し、少し照れながらモジモジと話し始めた。

 

「え、えっとぉ~。で、できれば食べさせて欲しいなぁ~、なんて。まあ勿論じょ」

 

「いいよ?はい、あーん」

 

「―――うぇ!?」

 

 冗談。そう言おうとしたところを海翔の言葉に遮られる。思わず変な声が出てしまう優月。赤面する彼女とは真逆にいつもの微笑み顔を崩すことなく、優月にクッキーを運ぶ海翔。少し動かすだけで唇と触れてしまいそうな距離だ。

 

「・・・あれ、食べないの?」

 

「た、食べるっス!」

 

 首を傾げ、クッキーを皿へと戻そうとする海翔。沸騰する脳みそで何とか思考を纏めた優月は、恐る恐るクッキーを口にした。

 

「どうかな?」

 

「―――お、美味しいっス、よ」

 

「そう言ってくれるなら、作った甲斐もあるってものだよ」

 

(味なんてわかるわけ無いっスよー!)

 

 マジでこういうところなんだよな、と盛大に自爆した親友に合掌を捧げながら、里奈は二枚目を口にした。その視線に気が付いた海翔は里奈に尋ねる。

 

「―――?どうしたんだい、里奈」

 

「いや、相変わらずクソボケだなーっと」

 

「どこが!?」

 

「釣った魚を傷めつけて楽しいのかなーとも」

 

「一連の流れのどこを見てそんな言葉が!?」

 

「全部だよ全部」

 

 (海翔からしてみれば)謂れのない誹謗中傷に、思わず声を上げてしまう。不当だと言い張る海翔を一蹴し続ける里奈。それを微笑ましく見ながら、夕夏もクッキーを一口。

 

「本当、青春ねぇ~。・・・あら、本当に美味しいわねぇ。他にどんな材料を使ってるのかしら?」

 

 里奈の非難に釈然としない気持ちを抱えながら、海翔は夕夏の疑問に答える。

 

「レシピに乗っていた通りですよ。薄力粉とバターと砂糖」

 

「―――本当にそれだけ?」

 

 そう疑わしい目で見られても困る。本当にこれしか使っていないのだ。しいて言うなら―――

 

「―――愛情とか?」

 

「―――」

 

 海翔の回答にがっくりと肩を落とす夕夏と、それに心から同情する里奈。海翔の料理の原理を解明しようとしても無駄だ。高校生時代の明奈が夜な夜なキッチンで「あああああ!何で同じ材料で同じ手順でこんなに味が違うのよーーー!!!」と発狂していたのを覚えている。里奈は海翔の料理は料理ではなく、錬金術の一種であると解釈―――と言うか錬金術に全て丸投げして考えることを諦めた。

 

「本当、店が一つ建ちそうねぇ~」

 

「そうっスよ!アニキは凄いんっスよ!なんたってあの甲斐グループの社長から直々にお誘いがあったほどっスからね!」

 

(あ、復活した)

 

「甲斐グループって、あの大企業かしら?」

 

 幅広い分野で大成功を収め、今や日本で知らない人はいないほどの大企業である甲斐グループ。そんなビッグネームの登場に、夕夏は思わず聞き返してしまう。

 

 それに海翔は苦笑で返した。

 

「ええ。亮介には会ったことがありますか?」

 

「えーっと・・・ああ、あの子ね。確か海翔君と明奈ちゃんの幼馴染、だったかしら?二回か三回だけなら」

 

「彼とは長い付き合いでして、その縁で彼の父親とも交流があったんですよ―――まあ、ここ何年かは会っていませんけど」

 

「それで、何があったのかしら?」

 

 野次馬根性を発揮する夕夏に「困ったな」と首を傾ける海翔。本当に大それたことはない。ただ一言二言会話したのを周囲が大げさに受け取っているだけだ。

 

「特には・・・。『うちに来ない?』と言われて『お断りします』と会話して―――本当にそれだけですよ?」

 

 そこまで言ったところで、明奈が寝ている机に置かれたスマートフォンから着信音が鳴る。反射的に静かにする子供たちだったが、相手を確認した海翔が「大丈夫だ」と言うと、また変わらず遊び始めた。

 

「噂をすれば。―――でも仕事じゃないのかな?」

 

 画面には『バカ亮介』―――これは明奈が設定したものだ―――とあった。突然の着信に首を傾げながらも応答ボタンを押した。

 

「もしもし亮介?どうしたんだい?」

 

『・・・海翔か?今何処にいる?』

 

「何処って、日野森学園だけど」

 

 おかしなことを聞くと再度首を傾げる。

 

『そうか・・・今外に出られるか?』

 

 時計を見る。針は三時を指したばかり。風呂の用意も夕食の準備ももう少し先だ。辺りを見渡す。困っている様子の子供はいない。夕夏と明奈、それに優月もいる。20分程度なら問題ないと見た。

 

「大丈夫だけど―――もしかして緊急事態?」

 

『・・・ああ、正直に言うと困っている。近くに公園があるはずだ。今から来られるか?』

 

「直ぐに行く。待ってて」

 

 言い終わらないうちに電話を切る。大急ぎで自分の部屋に戻り、ウエストポーチにドライバーとレコードカードを詰め込んでゆく。

 

「すみません、少しだけここを任せてもいいですか?」

 

「どうしたんですか~?」

 

「急用ができました。遅くても30分は掛かりませんが、スマホを持っていくので何かあったら連絡を―――」

 

 再度一階に下りた海翔は夕夏に根回しをしておく。時間的に何か起こるとは考えにくいが、念のため。何かがあってからでは遅い。

 

 明奈には悪いが、彼女にも一言言っておかないと。そう考えていた時、

 

「―――ダメッ!」

 

 飛び起きた明奈が海翔の服をがっしりと掴んだ。冷や水を浴びせられたかのように、再び室内が静まりかえる。

 

「えっと・・・どう、し・・・だ、大丈夫?」

 

 突然の明奈の行動に呆気に取られてしまう海翔。思わず言葉も途切れ途切れになってしまう。そして困惑していたのは明奈も同じだった。

 

「あ・・・ごめん、なさい・・・」

 

 気が付いた明奈はパっと手を離した。しばらくの間二人の間に気まずい空気が流れる。

 

「なるほど、明奈ちゃんは海翔君が一人で出かけるのが不安なのね~?確かに、最近爆発事件があった(ということになっている)せいで不安に思うのは分かるわ~」

 

 凍りついた空間を溶かしたのは夕夏だった。その背中にはいつの間にか薙刀袋が背負われていた。そのせいか、少し部屋が狭くなったように感じる。

 

「なら私が同行するわよ~。これでも腕っぷしには自信があるから、少しは安心できると思うけど?」

 

 ふん!と力こぶを作って見せる。こう見えても夕夏は自衛隊上がりの武闘派。何なら零課ライダーが生身で戦ったら一番強いまである。

 

 弛緩した空気の中、明奈は深呼吸を一つ。寝ぼけていた頭を活性化させる。

 

「・・・分かったわ、こっちは任せなさい。但し、ちゃんと無事に帰って来なさいよね」

 

「勿論、ちょっとだけここをお願いね。あ、それと。今明奈の足元で遊んでほしそうにしてる二人とちゃんと遊んであげてね。じゃないと僕が針を千本飲むことになる」

 

「分かってるわよ。じゃあ、行ってきなさい。芦屋さんも」

 

「うん、行ってくる」

 

「(青春ねぇ~)直ぐに戻るわ~」

 

 二人が外に出て、扉が閉まる。それと同時に何事もなかったかのように、部屋の中の日常は動き出す。

 

「あきな、だいじょうぶ?」

 

「だいじょうぶ?」

 

「大丈夫よ。ちょっと変な夢を見ただけ」

 

「なでたげるー」

 

「なでるー」

 

 二人の子供に紙をもみくちゃにされながら、明奈は不安を必死に心の中に押しとどめる。

 

(そう、夢に決まってる。あんな夢なんて・・・)

 

 

 

 

 

(・・・海翔が死ぬ、夢なんて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全てが始まった―――いや再開してしまったと言った方が正しいですね。20年前のある日のことです。レコードカードが発見されてしまったのは」

 

 祈里が口火を切る。語り始めたのは全ての元凶。レコードカードが齎した全ての不幸の出発点。祈里に続いて昭人も言葉を紡ぐ。

 

「ああ、福岡北部で発見されたある遺跡。邪馬台国との関係が疑われていたことから、当時小規模だったある企業へ政府が極秘に出した発掘依頼。それが全ての始まりだ」

 

 昭人の言葉に祈里は驚いたかのような表情を作る。それが何故か妙に癪に障った。

 

「ンだよ」

 

「意外でした。貴方はレコードカードが発見されて暫くしてからあの研究所に来たはず。よく知っていましたね」

 

「アリサの奴が教えてくれたんだよ。アイツ、学生だったくせにその作業に呼ばれてたからな。まあ、肝心なことは全く教えちゃくれなかったが」

 

 続けるぞ、と昭人は促す。

 

「そうしましょう。我々が発見したものは三点。100枚ほどのレコードカード、発生源と思われる『根源』と呼ばれる空間。そして―――()()()()()()()

 

 静まり返る取調室。緊張の糸が限界まで張り詰める。再開させたのは祈里だった。

 

「順番に行きましょう。今では無数にあるレコードカードですが、発掘された当時は違いました。多くても200枚ほど。その気になれば中小企業でも管理しきれるでしょう。そしてその内訳は―――」

 

「殆どが剣士(セイバー)レコードカードのような職業(ジョブ)系列。違うか?」

 

「ええ、その通りです。危険性はありますが管理しきれないことはない。・・・そのはずでした」

 

「だがそうはならなかった訳だ。どっかのバカのせいでな」

 

「ええ。研究者の端くれ、好奇心には勝てなかったのでしょう」

 

「それが今の惨状な訳だがな。アホのせいで調査隊の半数が文字通り消滅。代わりに大量のレコードカードが残されたわけだ」

 

 取調室の外で誰かがゴクリと唾を飲み込む。咎めることは出来ない。優成もまた緊張を隠しきれないでいた。それと同時に、一種の不信感も。

 

(違う。この程度の話ならいつでも私に言えたはず。何故隠した?・・・まだ話は始まってすらいないのか)

 

 優成がそう考えたと同時に、昭人がパン、と軽く手を叩いた。

 

「んで、そっからその企業は一部政府要人の援助を受けながら、レコードカードの解析に躍起になったって訳だ。高校を卒業したばっかの俺に話を持ってくるほどにお熱だった訳だ」

 

「ええ。そしてその判断は間違っていなかった。二人の雪村の手によってレコードカードの研究は遥かに進展しました」

 

「・・・」

 

 昭人が一瞬苦々しく顔を歪めたのを、優成だけは見逃さなかった。そのことを顔の裏に隠しながら、昭人は姿勢を正した。

 

「さて、本題だ。アンタらはあそこで何を生み出した?生命の倫理すらも土足で踏みにじって。なあ、元遺伝子学の権威さんよぉ」

 

「答えてもらうぜ?今、ここで。伊藤海翔―――俺たちの息子が生まれた、その経緯を余すことなくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亮介が示した公園まで徒歩10分かかるかどうか。目的地に向けて海翔と夕夏は向かっていた。

 

「・・・」

 

 だが日野森学園を出てからというもの、夕夏は何か難しい顔をして海翔の方を見ている。そちらから聞かないのであれば、と踏み込まないでいた海翔だったが、この先で戦闘が起こるかもしれない。祖語は出来るだけ除いておこうとこちらから声をかけることにした。

 

「・・・どうしたんですか?芦屋さん。話があるなら聞きますけど?」

 

「―――!・・・あら~、顔に出てたかしら?」

 

 肯定すると、夕夏はひとしきり唸ったのちに意を決して口火を切った。

 

「・・・ウォーリアープレイスターと最初に戦ったときのこと、覚えているかしら?」

 

 彼女にとっても苦い記憶。目の前の青年を巻き込んだ末に大ケガをさせてしまった。だが、彼女はどうしても目を逸らすことは出来ない。それをしてしまえば自分の戦う理由が無くなってしまいそうで、もう二度と槍を持つことは出来ないと思うから。

 

 夕夏は海翔の回答を待たずに続ける。

 

「その時に敵対者(アバサリー)の首領・・・女王(クイーン)と話をしていたでしょう?彼女について知っていることを話して欲しいの」

 

 女王(クイーン)事態は関係ない。彼女が知りたいのはその()()の方。予想が正しければ、私は―――

 

「・・・すみません」

 

 だが海翔から帰ってきたのは謝罪だった。

 

「答えられません―――いえ、別に嫌だからとかそういうことではなくてですね!・・・何と言うか、その、あの時は記憶が混濁してて、何を話していたのか覚えていなくてですね・・・」

 

「そう・・・」

 

「芦屋さんの気持ちは分かります。何かを知りたいという気持ちは・・・。今の僕が答えても中途半端のことしか答えられないんです。だから・・・」

 

「―――大丈夫ですよ~。海翔君」

 

 言い淀む海翔の言葉を夕夏は遮った。

 

「貴方が誠実な人間だっていうことは、この短期間で十分分かったわ~。だからこの理由も本当なのでしょう?」

 

「・・・」

 

「だから大丈夫。でももし思い出したら教えてくださいね~?」

 

「―――はい!絶対!」

 

 海翔の返事を聞いて、思わず微笑んでしまう夕夏。それとは反対に頭の中で思考を重ねてしまう。

 

(嘘は言ってない。でもそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わね~)

 

(でも海翔君はそんな器用なことは出来ない。でもあの時、明らかに自我を持って話してた、はず、よね~)

 

 こういうのは向いてないと、思わず自嘲する。景虎や詩音ならもっと上手くやれるだろうに。とりあえず海翔の言っていることが正しいとして思考を続ける。

 

(例えば二重人格、同一性乖離障害とか~?うろ覚えだけど、幼少期のトラウマが主な原因だったような・・・あり得なくもない、かしら~)

 

(でもこういう病気って日常生活にも影響があるんじゃないかしら~?でも海翔君にそんな様子はない・・・)

 

 見せないようにしているなら話は変わるけど、と心の中で付け足す。

 

 堂々巡りで思考が終着点に向かわない。そうこうしているうちに隣から声がかかる。

 

「芦屋さん、ここです」

 

 海翔の声で思考が急速に浮上する。目の前にはどこにも有り触れた、小さな公園があった。

 

「お~い!亮介~!」

 

『・・・』

 

 何度か海翔が声を上げるが、反応する者はいない。夕夏が海翔に疑問を投げかける。

 

「海翔君、本当にここかしら~?」

 

「間違いないです。片道10分の公園はここしか・・・」

 

 そう言って辺りを見渡すが、亮介の姿はどこにも無い。それどころか―――

 

「人自体がいない・・・?」

 

 通行人一人も見当たらない。明らかに異常事態に困惑する海翔だったが、次の夕夏の言葉に思わず身体が動く。

 

「―――ッ!伏せて!」

 

「―――ッ!」

 

 その場に伏せる二人。次の瞬間、両者の二人の頭上を弾幕が掠める。

 

「おや、まさか避けられるとは」

 

 弾幕が止んだ隙を狙って、二人は遊具の影に身を隠す。心もとないが、無いよりはマシの精神だ。

 

 公園の陰には複数の人の影。そのほとんどが見覚えのあるものだった。

 

「クロウ・・・!」

 

 機械仕掛けの烏人間。彼が従えているのは4体のアントトルーパー。その全てが海翔たちに銃口を向けている。そして彼らの中心に見覚えのない人間が一人。

 

「・・・ノアちゃん?」

 

 夕夏は思わず疑問の声を上げてしまう。艶やかな金髪に澄み切った碧眼。だが身長だけが違う。彼女が真っ当に成長すればこういう姿になるのでは、と思わせる。

 

 だが可愛らしい顔つきは、彼女が発する雰囲気で台無しだ。ノアとはそこが違う。目の前に立っている女はまるで作り物のよう。表情の一つ一つに人間の手が入っているかのような不気味さがある。

 

 そして夕夏の古びた記憶の中に、その顔に合致するものがあった。

 

「・・・雪村アリサ?」

 

「確か行方不明っていう?」

 

 海翔の記憶とも合致した。海翔の記憶に出てきた女性と瓜二つだったのだ。

 

 両者の反応を見て、女は表情を微笑みに整えた―――そう表現するのが正しいほど、彼女は人工的で、不気味であった。

 

「その通り、私が雪村アリサ。世紀の―――」

 

「―――違う」

 

 女の言葉を海翔が無理やりに遮った。

 

「―――海翔君?」

 

「違う。お前は雪村アリサではない。プレイスターだな?」

 

 夕夏が思わず困惑してしまう。それほどまでに何時もの海翔とは雰囲気が異なり、とても冷たいものだったのだ。

 

 彼の指摘を女は否定せず、更に美しく笑みを整えてパチパチとワザとらしく拍手した。

 

「流石流石。ヒューマンレコードカードの力かな?もう少し動揺するかと思ったが」

 

「黙れ。―――一つ聞く。甲斐亮介をどうした?」

 

 海翔の質問に答えたのは偽アリサではなく、クロウの方だった。

 

「さあな」

 

「・・・」

 

「だがアレは我々の情報を知り過ぎた。まず無事ではないだろう」

 

「・・・そうか、もう十分だ」

 

《AUTHENTICATION! PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

 冷たく言い放つ海翔。気が付いた時にはその腰にエヴィデンスドライバーが装着されていた。

 

「プレイスターもレコードカードも、やはり存在してはいけない。・・・変身」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE HUMAN!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

「―――来い!」

 

 仮面ライダーへと姿を変え、一気に走り出す。それを迎え撃つクロウとアントトルーパー達。戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に祈里が口を開いたのは、10分ほど経った頃だった。

 

「・・・貴方達によってレコードカードの研究が飛躍的に進んだ後、上が次に注目したのはレコードカードたちと一緒に発見された白骨死体でした」

 

「・・・続けな」

 

 昭人に促されて祈里は微かに頷く。

 

「完全な状態で保管されたそれには、あるレコードカードが宿っていました。それ自体は随分と前に分かっていましたが、このころになって漸くその正体が判明したのです。そのレコードカードの名前は―――」

 

「―――人間(ヒューマン)

 

「その通りです。そこから上はヒューマンレコードカードの解析に躍起になりました。当然でしょう。これ一枚で()()()()()()()()()()()()のですから。」

 

「ンな訳ねえだろ。夢見過ぎだバカ」

 

「ええ、そうですね。しかしその可能性が1%、もしくは0.1%あった。それだけで人間の行動原理としては十分でしょう」

 

「だが上手くはいかなかった」

 

「なんせ白骨死体に宿っているレコードカード。前例がありませんでしたからね。極秘事項故に利用できるリソースにも限りがあった」

 

 一拍おいて、続ける。

 

「追い詰められたある遺伝子学者は思いました。()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?と」

 

「―――狂ってるな」

 

 昭人の容赦ない言葉に、祈里はただ苦笑するしかなかった。

 

「ええ、狂っていました。そう決めた後は早かった。白骨死体からDNAを抽出し、培養し、白骨死体のクローンを作成する。最悪なことにその遺伝子学者には中途半端に才能があった。そして最高の機材が揃えられていた。実行は難しくなかった。ただ―――」

 

「上手くいかなかった?」

 

「ええ、悉く失敗しました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ですが狂った科学者は諦めきれませんでした」

 

「諦めろや」

 

「そう言ってくれる人間が、当時彼の傍にいれば違ったでしょうね。しかしいませんでした。狂った科学者は思考の末、狂気ともいえる結論に辿り着きました。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()D()N()A()()()()()()()()()()()()?とね。そうすれば死者の蘇生にも当たらない。ただ偶然、生まれた命が白骨死体のDNAに瓜二つで、更に偶然その近くにヒューマンレコードカードが宿った死体があるだけですから」

 

「・・・」

 

「殴りますか?」

 

「ンな価値もない。それでその『二人の人間』に合致したのが―――」

 

「雪村―――いや、村上昭人と雪村アリサ。貴方たち夫婦二人です」

 

「・・・」

 

「驚くほど簡単に行きましたよ。健康診断と称して貴方たちの精細胞と卵細胞を採取。人工的に受精卵を作成しただけ。それだけでヒューマンレコードカードは彼に宿りましたよ」

 

「結論を言え。誰に対しても分かりやすいようにな」

 

「生まれながらにヒューマンレコードカードをその身に宿した、人工的なプレイスター。それが―――

 

 

 

 

 

 ―――伊藤海翔、彼の正体です」




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