仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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番外編第一弾です。
日常話が本編でどうしても入れにくいので、番外編として作成することにしました。

こういった話をもっと書いていきたい。


日常編/DAYS
EX.1 チキチキ!零課ライダーの一番は誰だ!?


 あたりに緊張が走る。気を抜くことなど許されない。勝負はその一瞬で決着するのだから。

 

 ゴクリ、と誰かが唾を飲んだ音さえ鮮明に聞こえる。誰もが呼吸を忘れ、固唾をのんで勝負の決着を見守る。

 

 睨み合うは三人の男女。瀬良詩音、空賀景虎、芦屋夕夏。秘密裏に結成された警視庁捜査零課に所属し、仮面ライダーとして日々脅威から平和を守っている者達だ。

 

 だがそんな関係は今の彼らには無いも同義。プレイスターとの戦闘に身を投じる時と同等、嫌それ以上の闘気を漲らせ、相手の隙を一秒たりとも見逃すまいと全神経を集中させている。

 

 その熱気は遠目から観戦している海翔や明奈たちにもひしひしと伝わってくる。風が吹いていないはずなのに、額から一筋の汗が零れ落ちる。

 

 仲間であるはずの彼らがどうして闘うに至ったか。それを語るには少しだけ時間を巻き戻す必要がある―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『子供は大人よりも無邪気であり、そして残酷である』

 

 誰が言ったか、この言葉を景虎が思い出したのはとある日曜日の昼下がり、日野森学園でのことだった。

 

 仮面ライダーヒュームこと伊藤海翔を見張るための潜入捜査。子供と触れ合った経験が少ない景虎にとって不安がある任務であったが、蓋を開けてみれば杞憂に終わった。

 

 彼の師の言葉をそのまま引用すると『態度、口調、全部怪しい。ここに来たときはこんなんじゃなかったのに、一体誰の影響を受けたんだか』らしい。因みに『アンタしかおらんやろ』などと言ってはいけない。口にしたら最後、瞬きの隙も与えられることなく床に転がされるのがオチだからだ。

 

 馴染める馴染めないでは任務に大きな影響がある。コンプレックスも相まって三人の中では特に内心に不安を抱いていた景虎。しかし彼は今、子供たちと広場で遊ぶまでに馴染んでいた。

 

「ほっ、っと!」

 

「「「「おお~!」」」」

 

 パチパチパチ

 

 今も宙返りを披露して喝采を浴びて見せた。戦いのための技術がこんなところで生きるとは。戦いが終わればこの道に進むのもいいかもな、と本気で思う程だ。

 

 プレイスターの脅威からは遥かにかけ離れた日常の1ページ。しかしその爆弾は何の前触れもなく、唐突に投下された。

 

「あたらしいひとたち、すごいね~」

 

「かいともできるよ」

 

「でもあきなはできないよ」

 

「じゃあすごいか」

 

「すごいね~」

 

「じゃあ―――」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()~」

 

「「「―――ッ!」」」

 

 不幸なのはこの日、日野森学園に詩音、景虎、夕夏が三人とも揃っていたこと。そしてこの呟きを誰一人として聞き逃さなかったことだ。

 

 結果として無邪気に投下された発言(ばくだん)は不発弾として処理されることは無かった。

 

「「「それは勿論―――」」」

 

「―――私ですね」

 

「―――オレやな!」

 

「―――私ね~」

 

 重なり合う言葉。その不協和音に子供たちが首を傾げている間、訪れたのは沈黙であった。

 

「「「・・・」」」

 

 見つめ合う三人。しかし瞳の奥には既に闘志の火種が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで第二回!チキチキ!誰が一番優れているのか選手権~!」

 

「「「「いえ~!」」」」

 

 日野森学園に設けられている中庭。小さいながらも手入れの行き届いた遊具が点在しており、子供たちの主な遊び場になっている場所。その遊び場は今、(こども)たちの手によってあっという間に簡易的な試合会場へと変貌してしまった。

 

 その中で特に目立つ場所に設けられた長机。『実況』『解説』などと書かれた紙製の三角錐の後ろに幾人かの人が座っている。

 

「実況はちょうど遊びに来ていた、有村優月と―――」

 

「スマホのローテーションの日でゆっくりネットサーフィンしていた葉月里奈がお送りするよー」

 

 どこから持ってきたのか、二人の前には本物と見間違う―――いや、よくよく見てみれば本物のマイクが置かれている。

 

 無駄に凝っている、というか第二回ということは第一回もあったのか、などの疑問が三人の頭に浮かんでは消えていく。―――が、実況の二人はそんな彼らの疑問には答えてくれそうもない。

 

「というか、なんでウチなの?こういった行事ごとは愛斗か湊の方が向いてる気がするケド」

 

「あの三人は手話を覚えていないのでみなっちは実況できないっス。まなっちは―――」

 

「愛斗は?」

 

「逃げたっスよ。『前回ので懲りた』って」

 

「あー、それなら納得かも」

 

 前回の大会で何が起きたのか、というか我々は一体何をさせられるのか。そうした疑問には無情にも、彼女たちは一切触れない。

 

「解説を務めるのは、これまたちょうど遊びに来ていた有村祈里義兄さんっス!」

 

 呼ばれて日野森学園の奥から姿を現したのは年がら年中神父服、私服は一枚も持っていないと噂の祈里だった。困惑することなく着席する姿は見た目以上の年齢を感じさせる。

 

「では義兄さん、何か一言!」

 

「第一回大会から約2年、こうしてもう一度招待いただいたことに改めて感謝いたします。2年前の決戦については言うまでもないでしょう。また新たな伝説が刻まれることを楽しみにしています」

 

(やから2年前に何があったんや!)

 

 内心でツッコむだけでは他の人に届くことはない。その言葉が証明するように司会はどんどんと進行してゆく。

 

(まあええか。切った張ったをするわけにもいかんし、ええ感じに盛り上げたところでいい感じの落としどころを―――)

 

「そして本日の優勝者には、なんとアニキ特製のスペシャルドリンクが振舞われるとのことっス!」

 

「「「―――ッ!」」」

 

「は、え?そんな盛り上がることある?」

 

 その一言に空気が更に盛り上がる。一番顕著なのは対戦相手である詩音と夕夏。気のせいか、纏うオーラが一段階濃くなった気配すらある。

 

「お二人とも、すみませんが勝ちにいかせて貰います」

 

「あら~、私だって負けるつもりは当然ないわよ?」

 

「え?ドリンク一個でそんなマジになるん?」

 

 困惑する景虎。それを悟ったのか、解説が助け舟を与える。

 

「不要かと思うっスが、アニキ特製スペシャルドリンクについて説明を!その名の通りアニキが作る沢山の飲み物をブレンドしたドリンクっス!そのレシピの一切が不明!特別な日にしか振舞われないスペシャルな飲み物っス!その味はト〇コのフルコースに入るほどとも言われてるっス!」

 

 そう言われると気になってくる景虎。元々勝ちを譲るつもりはなかったが、がぜんとやる気が出てきたような気がする。

 

「選手たちのやる気も十分!試合を始める―――前にルールを説明するっス!こちらで用意した三つの競技を行い一位になった人に1point、合計点数が一番高い人が優勝っス!」

 

「競技は性差や体格差で有利不利が出づらいものを選んでっから、安心して」

 

「それでは!第一回戦は―――」

 

 

 

 

 

「縄跳び対決っス!」

 

 優月の高らかな宣言と共に、各自に縄跳びが配られる。念のためサラリと見てみたが何の細工もされていない、子供たちがいつも使っている縄跳びだ。

 

 偶然か、詩音には赤色、景虎には青色、夕夏には緑色と各自が纏うライダーシステムのカラーリングと合致している。 

 

「ルールはシンプルっス!各自一分以内で縄跳びを飛んでもらうっス。その技と回数を見て、審査員たちからより多くの票を貰った人の勝利っス!」

 

「審査員?」

 

 またしても聞きなれない言葉に、三人が疑問符を浮かべる。

 

「審査するのはこの三人ね」

 

 里奈がくい、と視線を彼方へ向ける。そこにはいつの間にか用意されていた長机に、着席している三人の人影が。

 

「審査員NO.1!子供たちのリーダー格、中村愛斗ことまなっち!」

 

「その名前で呼ぶな!」

 

 まなっちこと愛斗がパイプ椅子から立ち上がって抗議するが、当の本人である優月はどこ吹く風。その態度に更に腹を立てたように抗議しようとしたが、隣に座っていた人物に慌てて制止させられる。

 

「審査員NO.2!学園の癒し担当、伊藤湊ことみなっち!」

 

『不束者ですが頑張ります!(`・ω・´)フンスッ』

 

 日頃から手話で会話している湊。しかし遠目からは見えづらいと思ったのか、カンペを高らかに掲げている。気合の入れ具合はその表情からもひしひしと伝わってくる。

 

「そして最後、審査員NO.3!どうやらお三方の関係者のようっスね。ミステリーアンドダウナー系金髪発明家、雪村ノアさんっス!」

 

「どーもー、よろしくですー」

 

「―――へ?」

 

 既視感がありまくる、しかしここにいるはずのない存在が目の前に出現したことで、景虎は情けない声を上げてしまう。

 

「―――な、」

 

「―――あら~」

 

 しかしそれは景虎だけでなく他二人も同じく。ライダーシステムの開発に携わっている彼女は零課の中でも重要人物のはず。何故外を出歩けているのか。

 

「―――ちょ、何でアンタがおんねん!?」

 

 景虎の見事なツッコミに夕夏と詩音もコクコクと頷く。それに対する答えは余りにもシンプルなものだった。

 

「海翔君に呼ばれたんですよー。『是非来ないか』ってー。実際に何度かここを訪れてますしー。ねー、ゆづっちー」

 

「ねー、のあっちー!もっと遊びに来てくださいっスよ!」

 

 いつの間にか形成されていた繋がりに唖然とするしかない三人。そんな彼らに無情なゴングが告げられる。

 

「それじゃあ開始―――っていきたいんだけど、三人とも唐突で焦ってるっしょ。今から五分間は練習時間にするから、心を落ち着けて、久しぶりの縄跳びに体を慣らしてね。じゃ、よーいスタート」

 

 ぴー!というホイッスルと共に里奈がストップウォッチのボタンを押す。

 

 時間的な猶予が出来たことで景虎も冷静さを取り戻す。まず定めるのは自分のスタンス。ほどほどにするか、全力で勝ちに行くか。いっちゃ悪いが所詮はお遊びの場。手加減したところでバレなければ手加減しても非難されることはない。が―――

 

(折角のお祭りや。そんな野暮なことできるかい!)

 

 この状況を結構楽しんでいる景虎。子供たちの前で手を抜くような真似をすれば、それこそ信用を失うだろう。

 

(それに特製ドリンクとやらも気になるしな!)

 

 そう。何回か海翔の料理を口にしたことがあるが、どれもこれも限られた時間と予算で作ったとは思えないほどの絶品料理だったのだ。それを毎日のように口にしている個々の子供たちは当然したが肥えている。そんな彼らをして最高と言わせるのだ。興味がわかない方が可笑しいだろう。

 

 さて、勝つとなればできればここの勝負は押さえておきたい。勝負の機会は三回でこちらも三人。1point取っただけでかなり有利になる。加えて、勝負はあと二回ある。中にはどうしても景虎が苦手な分野も入ってくるだろう。ここを取らなければ0poitのまま負け、という結果にもなりかねない。

 

(技と回数言うてたな。重要なのは両方―――いや、ちゃうな。判断基準は審査員次第。となると一番重要なのは(インパクト)!回数は長すぎず短すぎずの10~20回程度と見た)

 

 思考しながらも、軽く縄跳びを飛んでみる。小学生以来の縄跳びだったが、意外にも身体は覚えているもので、初めはぎこちなかったが段々とスムーズになっていった。

 

「義兄さん、この闘いをどう見るっスか?」

 

 三人がそれぞれ作戦を立てている間にも、場を持たせるために優月はトークを切らさない。

 

「そうですね・・・まず驚いたのは『まさか最初にこの競技を持ってくるとは』という点ですね。遡ること第一回大会、前回の大会の覇者である海翔君は『後ろSOASO』という大技でこの大会を締めくくりましたから」

 

(なんやねん。そないな技見たことも聞いたこともないわ!)

 

「そして今回の闘いですが―――実力は拮抗していると見ていいでしょう。縄跳びの得手不得手に身長や体重は関係してきません。彼らのリズム感や体感の強さが勝敗を分けそうです」

 

「なるほどっス!―――っと、ここで五分経ったようっスね!では一番手に行きたい方、挙手をお願いするっス!」

 

 最も不利になるであろう一番手。それに手を上げたのは―――

 

「私が行かせてもらうわ~」

 

 夕夏だった。彼女は零課に配属される前は自衛隊に所属していたと聞く。かなりの猛者に違いないだろう。

 

「では一番手!よーい―――スタートっス!」

 

 ぴー!ホイッスルの音と共に里奈がストップウォッチを作動させ、タンタンタンという縄跳びの音がリズムを刻んでゆく。

 

 一回、二回、三回・・・ここまでは前座。果たして夕夏が選んだ技は―――

 

 ヒュンヒュンヒュン、と風を切る音と共に縄跳びが加速する。そうして夕夏が地面を離れている間に縄が二回、地面と足の裏の間を通り抜ける。

 

「二重跳び!」

 

「いえ、違います!スピードがどんどん上がって!これは―――三重跳び!」

 

 二重跳びの領域に踏み込む者は数あれど、三重跳びの頂に到達する者はごく少数。彼女が初手を取ったのも納得だ。

 

 三回、四回、五回、六回・・・のところでストップウォッチのアラーム音が鳴り響く。

 

「夕夏選手の記録は三重跳びが五回!これはかなりのプレッシャーを後続に与えれたんじゃないっスかね?」

 

「そうですね・・・彼女を超えようとなると三重跳びを六回以上か、三重跳び以上のインパクトある技を繰り出さなければいけないですからね」

 

「それじゃあ、次は二番手。どっちが行く?」

 

 里奈の問いかけに、景虎と詩音の視線が交差する。数秒けん制し合った後、前に出たのは―――

 

「オレが行かせてもらうわ」

 

 景虎だった。やるしかない、そう覚悟を決めて縄跳びを構える。

 

「それでは二番手!よーい―――スタートっス!」

 

 ホイッスルの音とタイマーが起動する音。両者に合わせて景虎は舞う。そして五度も飛ばぬうちに―――

 

「早いですね。まさか数度の跳躍だけで二重跳びへと移行するとは―――」

 

 第一の条件はクリアされた。しかし景虎には余裕の感情一つすらない。ここまでは()()。夕夏を超えるためにはもう一つ策が必要。タイミングは―――

 

(―――ここッ!)

 

「―――ッ!まさか!」

 

 着地は最小限に抑えて即座に跳躍。そしてそのまま両腕を()()()()()()。そして自身が地面に設置するよりも早く足の裏をそのまま二度、通過させ―――た瞬間、即座に腕を()()。この技の名は―――

 

「交差二重跳び―――ッ!」

 

 猛スピードで腕を入れ替えるこの技の体力の消費量は三重跳びのそれと大差ない。腕に凄まじい負担がかかるが―――

 

「景虎選手の記録は交差二重跳びが12回!かなり夕夏選手に追いついたんじゃないっスか?」

 

「となるとあとは詩音選手の結果次第ですが―――あの構えはッ!」

 

 深呼吸を一度挟み、詩音も縄跳びの構えを取る。しかし前者二人と異なり、縄を自らの足の正面に置いているのだ。

 

「まさか後ろ跳びを―――」

 

「どうかしましたか?早く始めてください」

 

 後ろ跳び。前ではなく後ろに跳ぶだけ。言葉にするのは簡単だが、その原理は持ち方から回し方までまるで別物。彼女が三番手を選んだのもこの手札を際立たせるためだろう。

 

「で、では行くっス!よーい―――スタートっス!」

 

 優月の宣言と同時に詩音は跳躍する。前跳びの前者二人と比べると速度がやや遅い。しかしぶれる様子もなく、テンポは安定している。そうして十分馴染ませた後―――

 

「―――跳んだ!」

 

 華麗に二重跳びに移行した。これ以上技を加える様子はない。唯一の後ろ跳びというインパクトと回数で勝負するつもりのようだ。

 

「詩音選手の結果、後ろ二重跳び15回っス!」

 

 こうして三人のパフォーマンスが終了すると周囲の空気は一気に弛緩し、あちらこちらで拍手が起きる。

 

「では結果発表と行くっス!審査員の方々、一斉に札を掲げるっス!」

 

 机の上には一人につき三枚の札が置かれていた。三人とも迷う素振りを見せた後、呼吸を合わせて札を掲げる。結果は―――

 

 夕夏:2票

 詩音:1票

 景虎:0票

 

 第一回戦勝者:蘆屋夕夏 1point獲得

 

「あら~ありがと~!」

 

「くっ、リスク込みでも三重跳びに挑戦すべきやったか!?」

 

「私も、もう一つ技を編み込むべきでしたかね・・・」

 

 勝利に湧くものと敗北を噛みしめる者。だが勝負はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第二回戦は折り紙対決っス!」

 

 どこからともなく持ち出されてきた椅子に座らされた景虎達三人。そうして宣言されたのが上の内容であった。

 

「説明書は用意してあるから、どれだけ短時間で、どれだけ正確に、どんな精巧な作品を作るかの勝負ね。じゃあ、スタート」

 

 里奈の合図と共に三人は近場に置いてある『おりがみのおりかた』と題された本を手に取る。必死になってページをめくる景虎。その脳内は焦りで包まれていた。

 

(嘘やろ、よりにもよって折り紙(コレ)かいな・・・)

 

 実を言うと景虎は余り手先が器用ではない。いや、自分で刃物の手入れをしたりなどある方面では器用なのだが、反面折り紙といった細かい作業は苦手なのだ。

 

(でも諦めるわけにはいかへん。とりあえずオレでもできそうなものを―――)

 

「できました」

 

「「速っ!?」」

 

 景虎と夕夏のページをめくる手が止まる。彼らが頭を悩ませている間にも詩音は作品を完成させていたのだ。

 

 では、速度特化の煩雑な作品なのかと問われると、断じて否である。彼女の手元には皺ひとつない完璧な折り鶴が。それこそ店に飾られていても違和感のない出来だ。

 

「第二回戦勝者は詩音選手っス!」

 

 故に、どう抗ってもこうなる運命は避けられなかった。

 

 現在point

 夕夏:1point

 景虎:0point

 詩音:1point

 

(マズい、もう後があらへん)

 

 焦る景虎。ここで勝たなければ終わりだ。他方の夕夏と詩音も景虎ほどではないが余裕はない。例えば夕夏がこの勝負を取ってしまえば夕夏に一人勝ちにされてしまう。

 

 全員にとって負けられない一戦。緊張が張り詰める中、提出されたお題は―――

 

「第三回戦はじゃんけんっスよ!」

 

「「「―――じゃんけん?」」」

 

 これまた意外な内容に、三人は思わず呆けた声を上げる。

 

「そ、ごく普通のじゃんけん。運も実力の内、ってやつ?音頭はこっちがとるから、三回最初に勝った人が勝ちね。あ、後出しは一発アウトね。いくよ、最初はグー」

 

 唐突に始まった第三回戦。しかし里奈が提示した『後出しは一発アウト』という文言で全員が何とかリズムに乗りかかる。

 

「じゃんけん―――ポン」

 

 何度か繰り返して冒頭の状況へ戻る。状況は全員が2勝と全くのイーブン。この一戦で全てが決まる極限の状態。

 

 これまでの闘いで相手の出す手は大まかに予想できる。しかしそれは相手も同じ。もしもこちらの手が完全に読まれているなら―――そう考えるとなかなか手を決定できない。

 

「最初は―――」

 

 しかし、時間は有限。無慈悲に里奈の声が響き渡る。

 

「―――グー」

 

 三人そろって同じ手を出す。ここまでは前座。さあ、自分はどの手を出せばいい?グー?チョキ?パー?答えは未だに出ない。

 

「じゃんけん―――」

 

 決断の時だ。景虎が選んだ手は―――

 

「―――ポン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終結果

 夕夏:1point

 景虎:1point

 詩音:1point

 

 勝者:無し 引き分け

 

「ホンマに美味いな、これ!」

 

「そう言ってくれたら嬉しいですよ」

 

 海翔が作ったというスペシャルドリンクに舌鼓を打つ景虎。見た目は少し悪いが、その香りと味は噂通りのものだ。緊張感ある戦いの後だったからか、その味もひとしおというものだ。

 

 落ち着いたところで景虎は海翔にそっと耳打ちした。

 

「なあなあ、こっそりでええからレシピ教えてくれん?」

 

 冗談交じりに言った一言。付き合いが長いであろう優月達でさえ知らないのだ。景虎に教えることはないだろう。苦笑しながらも受け流される。そう思っていたが―――

 

「良いですよ」

 

 回答は意外なものだった。景虎は慌てて聞き直す。

 

「え、ホンマにええんか?」

 

「ええんです。別に秘密にしてるわけではありませんし。どちらかというと()()()()()()()()からそうなっているだけで」

 

「―――?どういうことや?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべていると、海翔は実際に作ってみせてくれるらしく、数本のペットボトルを冷蔵庫から取り出してきた。

 

 飲料水であること以外に共通点は見当たらない。海翔はそれらを量を量らずに次々と注いでゆき、混ぜ合わせてゆく。

 

「―――はい、完成です」

 

「―――ははっ、確かにこれは伝説のレシピやわ」

 

「飲みます?」

 

「いただくわ」

 

 ぐい、と一気に飲み干す。何故この味になるか分からないほど美味。どこかから可笑しさが込み上げてきて口角が否が応でも吊り上がる。

 

 日常はゆっくりと、しかし確かに過ぎてゆく。




どうも、熊澤です。
久しぶりの更新は番外編となりました。

本編でこういう話をもっと入れれたらいいんですけど、如何せん話の作り方が下手くそな訳でして、どうしてもシリアス方向に重心が傾いちゃうんですよね。

もしも「こういうシチュエーションの話が読みたい」というリクエストがあれば、送っていただければ幸いです。

感想・評価などいただけますと本当に執筆の励みになりますので、ぜひお願いします!
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