仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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クリスマス日常回です。

退場者はいませんのでご安心を


EX.2 聖夜の一幕

 12月24日。世間はクリスマス一色で、甘い空気に満ちている。

 

「~~~♪」

 

 それは夕夏のいるショッピングモールも同様であった。彼女が普段身を置いている場では決して見られない人々の笑顔を見た為か、はたまた浮足立った空気に触れた為か、彼女の足取りは自然と軽くなる。

 

 買い物は既に澄ましているようで、両の手には限界まで膨れ上がったレジ袋がぶら下がっている。これほどまでの量となると大の大人でも持ち上げるのは苦労するだろうそれを、片手で悠々と持ち上げている。

 

 彼女は今モール内を散策している。これと言って目的はない。しいて言えばこの空気感。皆が日常を過ごし、少しの幸福を噛みしめている瞬間をもっと感じていたいと思ったからだろう。

 

「・・・あら~?」

 

 夕夏はふと足を止める。視界にあるのは玩具売り場。クリスマスという商機を逃すまいと大々的に商品を売り出しているその一角で、見覚えのある男女を見つけたのだ。

 

「積み木は買った、ぬいぐるみも買った。後は・・・」

 

「これかな?ベイブ〇ード」

 

「そうだった・・・ってこんなに種類があるの!?」

 

「確か名前が書いてあったはず、っとあったあった」

 

 紙の束とにらめっこしながら、商品をカートの中に入れてゆく。10に届こうとする品数に、小さなカートは悲鳴を上げている。

 

 ひいふうみい・・・と買い忘れがないか慎重に確認しており、両者ともこちらには気が付いていない。隙だらけの知人の背中を見て、夕夏の脳裏に年甲斐もなく邪悪な考えが浮かぶ。

 

 ニヤリ、と口元を緩め、ゆっくりと二人に近づいてゆく。足音は完璧に消え、服や袋の掠れる音といった僅かな気配は店に鳴り響くクリスマスソングによって隠蔽されている。『技術の無駄遣い』などとは言ってはいけない、決して。

 

 精錬された無駄のない動きによって後数cmの距離まで近づいても彼らが気が付く様子はない。と、ここで夕夏の足がピタリと止まる。

 

(どう声を掛けようかしら?)

 

 近づいたのは良いものの、その後の展開を全く考えていなかったのだ。大声を出すのは周りの客の迷惑にもなるし、かといって普通に呼びかけるのでは些か芸が無い。

 

 ムムム、と頭を捻る夕夏。勿論欠片も音を出すこともなく、だ。「偶然に知人と遭遇する」というシチュエーションが数年ぶりであった彼女にとって、かなりの難問であった。10分もあれば納得する案も出せたであろうが、残念ながら時間は彼女の敵であった。

 

「よし、全部揃ってr―――ってうわ!」

 

「どうしたのよ急に、って芦屋さんじゃない」

 

 夕夏が悩んでいる間に男が振り向いてしまったのだ。振り返った男性は彼女が望んだ反応が得られたが、女性の方は何処か呆れたような声を出すだけだった。

 

 男女は言うまでもなく海翔と明奈の二人だ。

 

「奇遇ね~二人とも。こんなところで出会うなんて」

 

 想定していた流れでは無かったが、海翔からの反応に一先ず満足した夕夏は何事もなく挨拶をし、遠目から見ていた時から気になっていたことを尋ねた。

 

「そのおもちゃ達は?」

 

「ああ、これはクリスマスプレゼントですよ」

 

 海翔の言葉に得心がいった、という風に夕夏は頷く。彼らが運営している日野森学園には多くの子供たちが保護されている。大方彼らへの贈り物であるのだろう。

 

 夕夏の考えは当たっていたようで、毎年クリスマスには小学生以下の子供たちにはクリスマスにプレゼントを贈っている様だ。

 

「素敵ね~。でも、毎年プレゼントを買うのは大変じゃないかしら?」

 

 夕夏が当然の疑問を口にする。日野森学園の財務状況は決して良いとは言えず、影で彼らが苦心していることも知っている。その中で大量のクリスマスプレゼントを買うのは簡単なことではないだろう。

 

「だからこそですよ」

 

 そんな夕夏に、海翔がどこか懐かしそうに語る。

 

「余裕があるわけではないし、我慢を強いてしまうことだってある。だからこそ今日みたいなイベントは大切にしないといけないんです」

 

 まあ前園長の受けよりですけど、そう付け加えると商品のカートをレジの方へと押して行ってしまった。

 

「貴女も聞いているでしょ。あそこにいる子供たちは色んな事情を抱えてる。私も・・・もちろん海翔もね」

 

「・・・ええ」

 

 引き継いだ明奈の言葉に、夕夏はただ頷くことしか出来なかった。夕夏は両親に愛されて育ってきた。だから彼らの境遇を知ることはできても心の底から理解することはできない。軽率に言葉を挟むのは明奈や海翔に対しての侮辱だ。

 

「『子供を心の底から愛する』。そんな芸当は親じゃないと不可能よ。それを失った、元から持ってない子供たちはその温かさを知ることができない。孤独って辛いの、寂しいのよ。子供の人生を簡単に捻じ曲げるくらいにはね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()義父(とう)さん―――前園長は昔そう言ったわ。だから私たちもお祭りを大切にするの。例え苦しかったとしても未来であの子たちが『昔は楽しかった』って振り替えれるように」

 

「・・・」

 

「って柄にもないことを言ったわね」

 

 忘れて忘れて、と言いながら手で顔を仰ぐ。羞恥心からか耳まで真っ赤で、背中に冷たい汗が張り付いているのを感じる。クリスマスのふわりとした空気にほだされたのか、と自省する。

 

「・・・決めた」

 

 一方、明奈の話を黙って聞いていた夕夏は脈絡なくポツリと呟き、明奈の方へ振り向いた。

 

「二人はこの後予定あるかしら?」

 

「いや特には―――」

 

「じゃあ、私も日野森学園にお邪魔して良いかしら?」

 

 そう言いながら夕夏は両手に持っていた膨れ上がったレジ袋を明奈に見せるように突き出す。

 

「ちょっとお肉を買い過ぎちゃって、消費するのを助けてほしいかな~なんて」

 

 無論、嘘である。この程度であれば一日で消し飛ぶ。それに反応したのか、明奈の目が無意識に探るような視線へと変化する。

 

「・・・願ったりかなったりだけど、後から代金を請求しても払わないわよ?」

 

「そんなことしないわよ~。折角のクリスマス、一人で食べるなんて寂しいじゃない?」

 

 これは本当。帰っても沈黙が支配する一人部屋が迎えるだけ。それならば彼ら彼女らと過ごした方が楽しいに決まっている。

 

 悩む素振りを見せる明奈。夕夏はダメ押しとばかりに彼女の耳に口元を近づける。

 

「これはお詫びの面もあるのよ?」

 

 チラリ、と横目で海翔の様子を見る。如何やら予想以上にレジが混んでいるらしく、ようやく商品の読み取りを始めたところの様だ。

 

「―――デートの邪魔をしちゃった、ね」

 

 瞬間、大慌てで明奈の顔が仰け反った。少し落ち着いていた顔色は先ほどと同じく、いやそれ以上に真っ赤で、何時噴火しても可笑しくない火山の様だ。

 

「デ、デデデデででdddddd―――」

 

 壊れたラジカセのように「デ」しか発音しなくなってしまった明奈。想定以上の反応に、夕夏は「あら?」と首を傾げた。

 

「違ったのかしら?はたから見ると子供のプレゼントを買いに来た夫婦に、」

 

「ふ―――!?」

 

 この一言が止めとなった。夕夏が言い終わるよりも早く頭から湯気を出し、その場で倒れてしまったのだ。正にキャパオーバー。彼女もなんだかんだで純情であった。海翔(ヒト)のことは言えないぞ。

 

 

「あ、あら~?大丈夫、明奈ちゃん!?私変なこと言ったかしら?」

 

「二人ともお待たせ・・・ってどういう状況、これ!?」

 

「あ、海翔君!それが明奈ちゃんが急に倒れちゃって・・・」

 

 夕夏にとってはこの上なく最高の(グッド)タイミングで、明奈にとってはこの上なく最悪な(バッド)タイミングで会計を終えた海翔が戻ってきた。二人に揺さぶられ何とか意識を取り戻した明奈は、超至近距離で海翔の顔を拝むことになってしまったのだ。

 

(―――ええい、落ち着くのよ小川明奈!)

 

 ショートしそうな思考を無理やり端に押し出し、何とか平静を保つ明奈。海翔の顔がいつもより三割増し位にイケメンに見えるが、気のせいだと必死に言い聞かせる。

 

(そう、こういう時こそ素数!2,3,5,7,11―――)

 

「具合が悪い?熱は―――ないみたいだね」

 

「ジュウサッ」

 

 思わず明奈の口から変な声が漏れ出る。あろうことか海翔は両者の額をコツンと合わせて体温を大まかに推定したのだ。

 

(夫婦、ふうふ、フウフ、HU-HU―――)

 

 真っ白になった明奈の思考。それを埋めるように彼女の脳裏をその一単語が制圧した。フリーズ状態となってその場で凍りついていた明奈。しかしその状態は永遠には続かない。

 

「ふ―――!?」

 

「明奈―――!?」

 

 再起動された瞬間、全身が沸騰したかのように熱くなり、再びショートしてしまう。明奈を懸命に介護する海翔であるが、それが逆効果であることには気が付かない。果たして帰路に就いたのは余t理よりも大幅に遅れた時間となったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖なる夜は全ての人間に平等に訪れる。早上がりし、同じショッピングモールのケーキコーナーを物色するこの男、甲斐亮介も例外ではない。

 

「せっかく邪魔するんだ。ケーキの一つや二つ買っていかないとな」

 

 この男、日野森学園のクリスマスパーティーに参加する気満々である。勿論タダで厄介になるわけにはいかない。親しき中にも礼儀ありということでお土産にケーキを調達しようと寄り道していたのである。

 

 早く選んで顔を出そう。そう意気込む亮介だが、当の本人たちが別の階にいることは勿論知らない。知らない彼は当然急くわけだが、日ごろからケーキを選ぶ機会がなく、どうしても手間取ってしまう。

 

「どれにするかな・・・っとおっと」

 

 何としても売り切ろうとする売り子の呼びかけを聞き流しながらケーキコーナーを眺めていた亮介だったが、そのせいで左右への注意が疎かになってしまい、横から来た客とぶつかりそうになってしまう。

 

「っと、すみません」

 

「いえこちらこそ―――って」

 

 謝ろうとぶつかりかけた客の方へ顔を向けると、見たことのある顔が亮介の視界の更に下に存在した。

 

「おや、確か伊藤君の友人の―――」

 

「甲斐亮介です。貴女は―――」

 

「瀬良詩音です。顔を合わせるのはこれで二度目ですか?」

 

「そうですね」

 

 零課隊員の詩音である。特別休暇を貰った彼女は適当な商品をカゴに入れながらモール内を回っていたのだ。だがぶらぶらとその辺を回っていた夕夏とは違い、居心地の悪さからさっさと帰りたい気持ちが強いのだが。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

『~~~♪』

 

 両者の会話は途切れ、クリスマスソングと喧騒だけが耳を打つ。が、二人ともそれを気にしている余裕はない。

 

((気まずい・・・))

 

 会う機会が少ないということは互いの会話デッキも少ない。気まずい沈黙の間が流れるのは必然であった。

 

(助けてくれ海翔ー!どうすればほぼ初見でお前みたいに完璧な(パーフェクト)コミュニケーションができるんだよー!)

 

(芦屋さん―――いえこの際空賀君でもいいので誰か来てください・・・)

 

 互いに心の中で友人に助けを求めるが、勿論当の本人たちに届くことはない。

 

「ああっと・・・そう!瀬良さん、意外とお酒飲まれるんですね」

 

 沈黙に耐え兼ね、亮介は大急ぎで話題を練りだした。目についたのは彼女が持っているカゴ。その中には大量の酒缶がぎっしりと詰まっていった。

 

「ッええ!まあ人並みには飲みますね」

 

(これで良かったのか?結構失礼なこと言ってないか?)

 

(助かりました、彼には感謝ですね)

 

 正解なのか戸惑う亮介に、話題を作ってくれた彼に感謝する詩音。反する両者の思考はしかしながら当然交わることはない。

 

 混乱する脳裏とは裏腹に、努めて冷静に亮介は言葉を紡ぐ。

 

「へえ、量からして結構強いんですね」

 

「・・・ええ」

 

 大嘘である。ビール一缶で酔っぱらう程度には弱い。だが「トラウマから逃げるために無理やり飲む」なんて口が裂けても言えない。なので後ろめたさは感じつつもこの噓を押し通すしかないのだ。

 

 一方の亮介に彼女の心の内は知られることはなく、そのまま会話は進んでゆく。

 

「か、甲斐さんは?」

 

「自分ですか?自分は余り強くありません。あくまで嗜む程度、ですね」

 

 これが正しい。寝るまで酒を煽る、と言う飲み方は決して正しい飲み方ではないので、注意されたい。「酒は飲んでも飲まれるな」至言である。

 

 酒の話はそこそこに、話題は彼ら自身へと移ってゆく。

 

「甲斐さんはここで何を?」

 

「これから日野森学園に顔を出しに行こうかと、その前にケーキを買いに来たんです。良ければ一緒に行きませんか?」

 

「へ?」

 

「へ?」

 

 思ってもいない提案に詩音は気の抜けた声を出し、それに釣られて亮介も似たような声を上げる。

 

「自分はてっきり瀬良さんも海翔のところへ向かうもんかと」

 

「いえ私は・・・」

 

 予定がある、思わずそう言おうとして口を噤んだ。別に予定があるわけではない。酒を飲んで寝るだけ。ただ、この空気の中で一人だけそういう選択を取ろうとしていることに、少し後ろめたさを感じる。

 

 思案にふける彼女に何を思ったのか、亮介が声を掛ける。

 

「予定がないなら、一緒に行きませんか?今年のクリスマスは今日だけです。楽しまなきゃ損でしょう?」

 

「・・・迷惑ではないですか?」

 

「―――アイツはそんなことで怒るようなタマではありませんよ。むしろ知り合いが寂しくしていると知った方が落ち込みますよ。その代わりと言っては何ですが・・・」

 

「・・・何ですが?」

 

「・・・ケーキを選ぶのを手伝ってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空賀さん、もう少し上かも」

 

「もうちょい上?了解や」

 

 一方の日野森学園では着々とクリスマスの準備が進められている。クリスマスツリーは用意できていないが、壁一面にはリースなど「らしい」装飾が幾つもかけられている。

 

「っと、これやな。愛斗君、次は?」

 

「その丁度右、いけそう?」

 

「任せとき」

 

 唯一残った大人である景虎は絶賛愛斗によって扱き使われている。いるのは日野森学園二階の片隅、物置として使われている一室である。

 

 よいしょ、と部屋の奥から箱を引っ張り出す。その大きさと比較して意外と軽く、容易に持ち上げることができた。

 

「後はなんかあるか?」

 

「その左上。これで最後みたい」

 

OK(オーケー)、って重ッ!」

 

 誘導されるがままに箱を引っ張り出す。しかし先ほどの箱と比べると意外に重く、油断していた景虎は思わず声を上げてしまった。

 

「ちょ、これ何入ってんの!?」

 

 しかしそこは現役エージェント。落とす寸前で踏みとどまり、何とかそっと地面に置くことができた。先ほどまでの箱とは正に桁違いの重さに訝しむと、箱を開け中を確認する。

 

「何やこれ、黒い紐?」

 

「クリスマスツリー用のLEDライトだな」

 

「にしても重すぎひん?」

 

「そう?なら重かったのは・・・多分これのせいか」

 

 そう言うと箱の中から何やら器具を一つ取り出した。ハンドルが付いており、内部には歯車が幾つも噛みあっている。試しにハンドルを回してみると、キュイーンという高い音と共に接続されていたLEDが光り出した。

 

「手回し発電機?なんでこんなもんが付いてるんや」

 

「電気代節約のため、って海翔兄が言ってた」

 

「・・・苦労しとるんやな、アイツも」

 

 駄弁りながらも仕事は熟している。軽い箱には頂上の星を初めとしたツリーの飾りが入っており、LEDも油断しなければ苦労するほどのものでもないため、スムーズに1階に荷物を運ぶことができた。

 

「はーい、通るっスよ!」

 

 漏れがないか確認している間に、玄関から良く通る、闊達な声が響いた。それから数分としないうちに立派なクリスマスツリーが室内に運び込まれてきた。

 

「んじゃ、早速飾りつけするか!はよ終わらせて帰ってきた海翔君たちをビックリさせたろ!」

 

「「「はーい!」」」

 

 景虎の号令で子供たちはそれぞれの飾りを持ってツリーへと殺到した。その様子を離れたところで見ながら景虎は優月と共にツリーを運んできた祈里へと話しかけていた。

 

「ホンマにええんですか?高いんちゃいます?アレ」

 

「構いませんよ。貸し出すのは今年だけではありませんし。それに、言っちゃなんですが聖書には『クリスマスにはツリーを派手に飾って盛大に祝え』とは書かれてませんし」

 

「聖職者としてその発言はどうなんや」

 

 景虎が呆れていると、玄関からガチャリ、と鍵の開く音が聞こえてきた。

 

「ただいま。随分と賑やかだね」

 

「寒っ、早く入りなさいよ」

 

「おっと、ゴメン」

 

「お邪魔するわ~」

 

 海翔たちが帰って来たのだ。音から推測するに想像以上に荷物を抱えているようで、明らかにおもちゃだけで満たされる量ではない。聞きなれた、そしてここにいるはずのない人物の声が聞こえたようなして玄関の方を見てみると、案の定第三の人物が二人に引っ付いていた。

 

「・・・なにしてますん」

 

「あら景虎君。メリークリスマス~」

 

「いやメリクリちゃいますやん」

 

「別にいいじゃない?ほら、いっぱいお肉だって買って来たんだし」

 

「「「お肉!?」」」

 

 景虎と夕夏の問答の最中、出てきた単語に喰いついたのはクリスマスツリーを飾り付けていたはずの子供たちだった。

 

「今日お肉!?」

 

「そうよ。ほら、夕夏お姉ちゃんに何か言うことがあるんじゃない?」

 

「「「夕夏お姉ちゃん、ありがとうございます!」」」

 

「いいのいいの~。お姉ちゃんこんなにも一人で食べきれないから、手伝ってくれて嬉しいわ~」

 

「・・・よう言いますわ」

 

「何か言ったかしら?」

 

「イエ、ナニモ」

 

 いつものような優しい笑み、しかし内側に潜む鋭い威迫をモロに感じ取り、景虎は何も言えなくなってしまう。

 

「ねーねー、プレゼントはー?」

 

「まだー?」

 

 そして子供たちの興味は海翔が持っているおもちゃ達へと向かう。急かす彼らを、海翔は優しくなだめる。

 

「プレゼントはまだ。後でサンタさんから渡してもらうよ」

 

「えー、ケチー」

 

「「「ケチー」」」

 

「そんなこと言ってると、プレゼント貰えなくなっちゃうよ?」

 

 子供たちはその言葉に震え上がり、そそくさとクリスマスツリーの方へ逃げ出してしまった。やれやれと荷物を降ろす海翔に、景虎はこっそりと尋ねる。

 

「サンタさんって、どう用意すんの?」

 

 サンタクロースはいない。大人であればそんなことは分かりきっている。にも拘らず海翔があのように説得したということは―――

 

「もちろん、僕がやりますけど?」

 

 仮装(コスプレ)である。当たってほしくなかったという落胆が8割、海翔のサンタ姿を見てみたいという興味が2割、景虎の心を占めた。なんせ彼のコスプレは総じてクオリティが高い。学生時代の写真を見せてもらったが言われなければ海翔だと気が付けなかった写真が幾つもあったのだ。

 

「あ、もしかしてサンタ役やりたかったですか?」

 

「遠慮するわ」

 

 食い気味に遠慮する。コスプレとなると結構、いやかなりの勇気が必要となる。全国のコスプレイヤーさんに敬意を払いつつ、海翔の提案を辞退した。

 

「さて、料理を始めようとしようか」

 

「そうね。早く済ませないと子供たちがまたくずり始めるわ」

 

「そんじゃ、オレはこのプレゼントを二階に持って上がっとくわ」

 

「お願いします」

 

「どうっスか?サンタ優月ちゃんっス!」

 

「何だよその付け髭。似合ってねー」

 

「そーお?ウチは可愛いと思うケド」

 

「(祈里さん、この星を頂上に飾りたいんですけど・・・)」

 

「おや、いいですよ」

 

「よお海翔!邪魔するぜ」

 

「亮介、遅かったね」

 

「邪魔するなら帰りなさいよ」

 

「ま、そう言うなって。ほら、ケーキ三つも買ってきたから」

 

「「「ケーキ!?」」」

 

「あら~珍しい組み合わせね」

 

「彼に誘われまして。・・・まあ、偶にはこういうのもいいでしょう」

 

 騒がしくも緩やかに、そして確実に聖夜は過ぎ去ってゆく。




日常ってのは何事もない日々のこと。終わった後、戻らなくなった後でその価値を改めて思い知らされるのです
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