仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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みんな大好き水着回。

時系列は二章入って少しした後。一応No.18読了後の方が良いかも。

「季節設定違うくね?」みたいなツッコミは受け付けておりません。その辺りは「夏だから仕方ないよね」の精神でオナシャス


EX.3 夏と言えば海。古事記にもそう書かれてる

 7月上旬

 

 ミーンミンミンミン―――

 

 微かに、しかし確実に。夏の風物詩たるセミの鳴き声が耳を打つ。漸く梅雨が明けたと思ったらこれだ。日差しとの合わせ技で、体感では気温計が差す数値以上に熱くなった。

 

 「この暑さが後二か月も続くのか」と嫌になるが、日野森学園の職員として日々子供たちのために働いている海翔と明奈には、そんな泣き言を言っている暇なんてない。

 

 夏休みが、始まるのだ。

 

 夏休み―――それは学生たちにとっては楽園(エデン)だが、親にとってはその真逆。普通なら半日以上学校で面倒を見てもらえるが、夏休みとなればそれは不可能。毎日子供が家にいる―――それの年齢が幼いほど―――ことの負担は想像以上に親たちに負担となる。

 

 一例を挙げるとするなら、食事。給食が無く、親たちは三食作らなければならない。当然同じものではいけない。三食を被らないようにし、栄養価も偏らないように。食材もその分いつもより多めに買って―――これが40日以上も続くのだ。給食費の支払いにいつも良い顔は出来ないが、この時だけは「嗚呼、給食というシステムは何と素晴らしいのか!」と称えることだろう。

 

 それに備えて海翔と明奈は大忙し。大まかに献立を決め、日持ちするものは全て購入。可能な限り下準備は終わらせておき、冷凍庫に投入していく。リスト化するのも忘れない。賞味期限切れで無駄にすることなど許してはならない。

 

 勿論、用意するのは食材ばかりではない。怪我が増える可能性を考慮して救急セットの整備、全員分の宿題量の確認など多岐に渡る仕事が日々の中に詰め込まれる。

 

 多忙な日々を送り、漸く一段落ついたとある日曜日。海翔と明奈は二人して―――

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 ―――簀巻きにされて床に転がされていた。

 

 朝食を食べ終えて「さあ今日一日も頑張るぞ」となっていた時にこれである。「こっち来て」と電気の無い寝室に誘導し、待機してあった二人が死角から足を出す。あらかじめ敷いてあった布団に転倒させ、そのまま巻き寿司が如く拘束する。プロの所業だ。

 

 仁王立ちで二人を見下ろす愛斗、湊、里奈の高校生三人組。首謀者である彼らが神妙に口を開く。

 

「というわけで二人には、これから海に行ってもらいます!」

 

「(ます!)」

 

「ます」

 

「・・・いやどういうことよ!」

 

 思わず明奈はツッコんでしまう。関西人も驚愕の間と勢い。流石である。

 

 彼女の言葉を受けて三人は説明を始める。

 

「二人ともここ最近忙しかったじゃん?だから海にでも行ってリフレッシュして貰おうと思って」

 

「(でも正直に「遊びに行ってきて」って言っても二人はどうせ遠慮しちゃうし・・・)」

 

「だからもう強制的に送り出すことにしたってワケ。あ、ウチらだけじゃなくてみんなの総意だから」

 

 確かに、と納得しかける二人だったが、「いけない」と頭を振る。

 

「僕たちが居ないときに何かあったらどうするの?万が一怪我でもしたら・・・」

 

 当然の心配だ。近所に祈里たちが居ると言っても限度がある。これを口実に拘束を解いてもらおうとしたが、抜かりなく対策済みだった。

 

「それに関しては大丈夫。お二人とも、どうぞ!」

 

 愛斗が声を上げる。寝室と廊下の境目に二人の人物がもたれ掛かっていた。二人の顔を見て二人は驚愕の声を上げる。

 

「空賀さん!?」

 

「―――それに瀬良さんまで!?」

 

 世界の平和を守るために仮面ライダーとして活躍している二人。しかしそれは裏の姿。表では日野森学園の助っ人先生として日常を過ごしている。

 

 本当にいいのかと問いかける二人に向かって、詩音と景虎はニヒルな笑みを浮かべる。

 

「まあまあ。はっきり言わせてもらうけどな、二人とも働きすぎや(人のこと言われへんけど)。ここらで一回二回休んだとしても、バチは当たらんと思うで?」

 

「その通りです(人のことは言えませんけど)。それに夏は沢山のイベントがあります。若い二人がそれを全く体験しないというのも、酷な話ではありませんか?」

 

「確かに・・・いやでも・・・」

 

 二人の言葉に納得しかけるが、それでもと押し留まろうとする海翔。埒が明かないと判断した三人は、無理やりにことを進めることにする。

 

「納得した?・・・おっけ。じゃ、いってらっしゃーい」

 

「え」

 

「(よかった~。意固地になられたらどうしようかと)」

 

「ちょっと」

 

「まま、そういうことで。・・・運び屋さーん!おねがいしまーす!」

 

 制止しようとする二人をガン無視してトントン拍子に話を進める。愛斗が一階に向かって声を張り上げると、一人の人物が階段を上がってくる。見慣れた人物の登場に、二人はまたしても声を上げる。

 

「「亮介!」」

 

「よう、邪魔してるぞ」

 

「―――アンタまでグルだったのね!?これを解きなさいよ!」

 

「やだねー。・・・じゃ、念のため三人一組で二人を持って貰って。階段では5人で一人を持って、残り一人は階段下で指示をする形で行きましょう」

 

「おっけ~」

 

「(任せて!)」

 

「車のドアはもう開けているので、後部座席に放り込んでください」

 

「ちょっと、人をそんな荷物みたいに!」

 

「抵抗すんなって。もう2000字超えてるんだ。この調子で行ったらどうなるか、戦々恐々してるんだぞ」

 

「何の話!?」

 

「―――よし、じゃあ運んでいきましょー」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

「(はーい!)」

 

「ちょっと、持っ―――あ~れ~」

 

 抵抗虚しく、わっせわっせと運ばれていく二人。皆に見送られて二人を乗せた車は無情にも発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後。幸運にも渋滞に巻き込まれることもなく、順調に目的地に到着した。高速を乗り継いだ先であり、簀巻きにされていた海翔と明奈には、一体ここがどこなのか見当つかなかった。

 

 

「よし、着いたぞー」

 

 ナイフで紐を切断し、二人の拘束を解除する。明奈は思わず亮介の顔面に拳をめり込ませてやろうとしたが、目に入った景色で思いとどまった。

 

「・・・凄い」

 

「・・・」

 

 澄み切った青色の海。日光に照らされて、まるで宝石のように輝いている。痛くなるような快晴も、この時だけは感謝する。ゴミ一つない整えられた海岸も、海の美しさを引き立てている。

 

 思わず見とれる二人に、亮介が自慢げに話す。

 

「凄いだろ?ウチの系列が運営している海岸だ。・・・まあギリギリシーズン外ってことで海の家はやってないが・・・今日は貸し切りだぞ?」

 

「「貸し切り!?」」

 

 想定外の言葉に二人は声を上げる。動けない二人の背中を押し、海岸へと追いやっていく。

 

「まあまあまあまあ。時間は有限、とっとと遊ぶぞ!」

 

 そう言われながら、二人は海岸へと降り立つ。海岸には大きな石やゴミなど邪魔なものは全く見当たらず、近づけば近づくほどキッチリ整備されているのだと分かる。

 

 海岸の一角に設けられている更衣室へと向かう三人。そこには既にいくつかの人影があった。

 

「―――あら、三人とも~!」

 

 中でも長身の人物がゆるふわな声を上げ、三人に向かって声を上げる。当然その声には皆聞き覚えがある。

 

「芦屋さん!どうしてここに?」

 

 海翔の疑問は、夕夏に代わって亮介が答えた。

 

「俺が招待したんだよ。芦屋さんには水着を選んでもらったからな」

 

「水着?」

 

「ああ。どうせお前ら、水着の一つも持ってないだろ?海翔のは俺が用意すればいいが、女物はどれを選べばいいか分からなかったからな。どうしたものかなー、と悩んでいた時、前に芦屋さんが里奈とファッションについて話してるのを思い出したんだよ。それで参考にさせてもらったんで、その礼に招待させてもらったんだよ」

 

「私は良い、って断ったんだけどね~」

 

「それは困りますって。礼は受け取ってもらわないと、俺が親父に怒られるんで」

 

 気軽に談笑する二人。知らない間に繋がりがあったようだ。

 

「それでこっちは―――」

 

 海翔はもう一つの、小柄な方の人影へと目を向ける。真夏の日光の下でも平然としている夕夏とは違い、こちらは砂浜に突き刺さったビーチパラソルの下で溶けきっている。

 

「―――大丈夫ですか?」

 

「お気になさらずー」

 

 溶けたアイスクリームから間延びした声が発せられる。その声は開発研究部として日々活躍している雪村ノアのものだった。

 

「いつも日光を浴びてないのでーちょっと塵になりかけてるだけですー」

 

「ごめんなさいね。私が無理やり連れてきたばかりに」

 

 謝罪する夕夏。ノアは立ち上がり砂を払うと、首を横に振った。

 

「いーんですよ。私は自分の意思で来たのでー。それに連れてきたい人もいましたしー」

 

「?」

 

 そういうと、ちらりと海翔の方を見るノア。それに気が付いたものの意図が分からず首を傾げる海翔。そんな彼らを置いて亮介は仕切り始める。

 

「じゃあ早速更衣室に行くぞ。海翔はこっち、明奈は二人に任せます」

 

「はいは~い。さあさあ、綺麗な水着たっくさん用意してるわよ~!」

 

「そーそー。お姉さんたちがー選んであげましょー」

 

「ちょ、分かったから押さないでください!」

 

 えいえいと押し込まれていく明奈。それを見届けることなく、海翔も更衣室の中へと押し込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE:女子更衣室

 

「じゃじゃ~ん!どうかしら?」

 

 自慢げな夕夏の言葉に、明奈も思わず頷いてしまう。シャワー室とロッカー群れがあるだけの最低限の更衣室だったのが、今ではデパートの一角かと疑ってしまうほど、水着で溢れていた。

 

「こ、こんなに・・・」

 

「凄いですねー」

 

 騒然と並ぶ水着群に圧倒される二人。ぼけーと口を開く彼女たち。夕夏は照れたように頬を掻く。

 

「初めは5着ほどにしようと思ったのだけど・・・選ぶうちに夢中になっちゃって・・・」

 

 夢中?と首を傾げる二人に、夕夏は大きな声を上げる。

 

「そうよ~!だって二人とも、ものすごっく可愛いじゃない!?」

 

「は、はあ」

 

「・・・そうですかー?」

 

「そうよ~!」

 

 戸惑う二人に対し、フンス、と鼻息荒く二人に詰め寄る。

 

「いいかしら、海と書いて戦場と読む!そんな心意気で、海を楽しめると思ってるの~!?」

 

「そんな大げさな・・・私はこれを・・・」

 

 詰め寄る夕夏から後退し、取りあえずと目に留まった水着を掴む。青色をベースにした布面積の多いもの。いそいそと隅へ退散しようとする明奈を、当然夕夏(狩人)は逃さない。

 

「甘い、甘いわよ明奈ちゃん」

 

「水着に甘いも苦いもないでしょ。私はこれで―――って力強っ!?」

 

「甘いも苦いもあるわよ~!いい、そんな甘えた水着で海翔君を堕とせると思っているの~!?」

 

「なっ・・・///」

 

 必死に振り払おうと抵抗する明奈だったが、夕夏の一言で動きが止まる。耳から頬へ、その熱が顔全体に広がるまで10とかからなかった。

 

「ち、ちが・・・私は別に、そんな・・・」

 

 反射的に否定する明奈。逃げようとするが、もう片方の腕も握られ完全に拘束される。

 

「そういうことならー私も黙っている訳にはいきませんねー」

 

 間延びした声。何時の間にか握っていたはずの水着は元の場所に戻っていた。

 

「ノアさんまで!?」

 

「ノアさん的にはーあの子にはとっととー誰かとくっついて貰いたいわけでー」

 

「あら、話が分かるわね~!さあ、早速選んでいくわよ~!」

 

「ま、待って―――」

 

「これなんてどうでしょうー」

 

「何よこれ、貝!?もっと普通な―――」

 

「いや、これ何でどうかしら~?」

 

「金色!?なんでこんなものあるのよ!?日光を反射してただ眩しいだけじゃない!」

 

「甘いですよー。こんな普通ので堕ちるならーとっくに結婚してるはずですー。もっと積極的にーこれなんてどうですー?」

 

「紐ッ!ただの紐ッ!何を隠すっていうのよ!―――もう!海翔~!亮介~!助けて~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE:男子更衣室

 

 明奈の助けを求める声は、無情にも男子更衣室には届かない。服飾コーナーの如き女子更衣室とは異なり、サイズの違う海パンが数枚置かれているだけだった。

 

「今日はありがとう、亮介」

 

 着替えながら海翔は、隣にいる友人に向かって声をかける。

 

「わざわざ無理をしてくれたんでしょ?今度お礼を―――」

 

「ふんっ!」

 

「―――痛っ!」

 

 礼を述べる海翔を、亮介はデコピンで黙らせる。いたた、と額を手で押さえ困惑する海翔に、亮介は言葉を紡ぐ。

 

「いいんだよ。もし俺が困ってきたとき、お前は勝手に手を貸すだろ?それと同じだよ。お前が困ってるから勝手に手を貸す。友達って、そういうもんだろ」

 

「そういうものかな・・・」

 

「そういうもんだよ」

 

 そこから沈黙が流れる。聞こえてくるのは隣の更衣室からのドタバタとした音だけ。空気を変えようと亮介が口を開く。

 

「そう言えば知ってるか?この海岸には人魚が出るんだってよ」

 

「人魚?」

 

 唐突な話に海翔が喰いついた。

 

「そう人魚。なんでもここ数年でこの海岸に住み着いたとかなんとか。ここのスタッフから情報を聞いてな。・・・ま、噂話だ。みんな疲れてたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・遅い!」

 

 亮介は思わず声を荒げる。彼らが着替え終えて15分。未だに女子更衣室から人は出てこない。パラソルの下、足で砂を弄りながら、まだかまだかと待ち続ける。

 

「仕方ないよ。日焼け止めとかいろいろ用意があるんだろうし」

 

「にしてもそんなに時間掛かるか?・・・まあいいけどよ・・・」

 

 もういっそのこと待ち時間の間に巨大な砂城でも作ってやろうか、そんなことを亮介がブツブツ言い始めたとき、女子更衣室の入り口がにわかに騒がしくなった。

 

「お待たせ~!ごめんなさいね~、水着選びに時間かかっちゃって~」

 

 先陣を切ったのは夕夏。赤のビキニを見事に着こなしている。その豊潤な胸がこぼれてしまうのではないか、といらぬ心配をしてしまう。だが、それよりも注目してしまうのはその筋肉美。引き締まったそれは、まるで野生の肉食獣のよう。

 

「急に飛び出さないでー待ってくださいよー」

 

 次鋒はノア。いつもは乱れている金色の長髪は見事に整えられ、ポニーテールとして(ひとつに)纏められている。水着の方はというと白のセパレート型を選択。小柄な体に見事にフィットしている。

 

 美しく着飾った女性陣を見て、亮介が囁く。

 

「・・・悪い。俺ももうちょっと凝った水着持ってくればよかった」

 

「男性用水着に凝ったも何もないでしょ」

 

「あるわ!・・・くっそ、次回の反省点だな・・・」

 

 真面目な亮介に、相変わらずだと海翔はどこか懐かしさを覚える。

 

 二人の水着はと言うと、ありふれた紺色のボクサー型。どちらかと言うと見栄よりも動きやすさを重視したものだ。

 

「あれ、そう言えば明奈は?」

 

 二人は出てきた。だが残りの一人が一向に出てこない。不思議に思う男性陣と、呆れたような女性陣。代表してノアが更衣室へ声を掛ける。

 

「・・・小川さーん。観念してー出てきてくださいよー」

 

「ちょ、ちょっと待って!もう少しだけ心の準備を―――」

 

「駄目ですー」

 

 時間を稼ごうと抵抗する明奈に対し、無情に告げるノア。必死の抵抗も虚しく、明奈は皆の眼前に引っ張り出された。せめてもの抵抗として体に巻き付けていたバスタオルも無情にひん剥かれる。

 

「「・・・」」

 

「何か言いなさいよっ!」

 

 羞恥のあまりリンゴのように顔を真っ赤にさせる明奈。開き直ったかのように周囲に八つ当たりする。沈黙する男性陣のうち、初めに口を開いたのは亮介だった。

 

「・・・お前、そんな水着選ぶのか。なんか意外だわ」

 

「なっ・・・」

 

「思ったより布面積がすくn」

 

「バカ亮介!」

 

「ヒドイ!」

 

 バチン!盛大な音と共に亮介の身体が宙を舞う。恐ろしく速い張り手。プロでなきゃ見逃してしまうほど。

 

 明奈が選んだ―――選ばされたとも言える―――水着は黒のマイクロビキニ。夕夏よりは小ぶりな、しかしながら整った体つきを見事に強調している。

 

「・・・」

 

「海翔、アンタは何か言うことないワケ!?」

 

 ヤケクソとばかりに海翔へと矢印を向ける。当の本人はと言うと、水着姿の明奈を眺めながら首を傾げていた。話を振られて漸く首を元の位置に戻した。

 

 ゴクリ・・・。誰かが飲み込んだのか、唾の音がやけに響いた。夏の暑さを超えるプレッシャー。そんな圧力をものともせず、海翔は平然と口を開く。

 

「・・・可愛い」

 

「ふぇっ!?」

 

 予想外の言葉。「良いんじゃない」「似合ってる」などの答えを予想していた明奈は、思わず変な声を上げる。パーフェクト、と夕夏とノアは思わず「10」と書かれた採点札を掲げる。

 

 既に脳がショートしそうなほど茹で切っている明奈。しかし無情にも海翔は言葉を続ける。

 

「・・・うん、可愛い。多分この言葉が一番正しいんじゃないかな」

 

「な、な、な・・・」

 

「勿論似合ってもいるんだけど、何というか、そういうのじゃなくて」

 

「・・・」

 

「可愛いよ、明奈。その水着、とっても」

 

「・・・ぁぅ」

 

 そこが限界だった。脳から湯気を上げながら夕夏は地面に倒れこむ。脳が情報を処理しきれなかったのだろう。目はグルグルと焦点が合ってない。

 

「明奈!?」

 

「大丈夫大丈夫。ちょっと混乱しただけよ~」

 

 熱中症かと慌てる海翔だったが、寸前で夕夏によって止められる。その間にノアによって海翔から距離を取らされ、ぱたぱたと風を送られる。明奈は壊れたオーディオのように同じ言葉をブツブツと吐き出し続ける。

 

「・・・可愛い・・・可愛い・・・可愛い・・・」

 

「はいはいー。よく頑張りましたー」

 

 明奈が復帰するのはもう少しかかりそうだ。そうしてる間に地面に倒れ伏していた亮介が復活した。初めは明奈に怒り心頭だったが、惨状を目にしてその視線は同情に変わった。

 

「・・・海翔があんななの、やっぱりお前がヘタレなのも一因だろ」

 

 まあいい、と視線を外す亮介。そのツケは彼女が現在たっぷりと支払っている。何のとは言わないが適齢期までに支払いきれ、とどこか他人事。それはそうと思考を切り替え、亮介は海翔の肩に腕を組む。

 

「っし、とっとと遊ぶぞ、海翔!わざわざ実家から色々持ってきた―――」

 

「あーちょっと待って欲しいですー。もう一人来るはずなのでー」

 

 もう一人?ノアの言葉に誰もが首を傾げる。丁度その時、砂浜に一人の影が降り立ち、海翔たちの方へ歩いてくる。

 

「―――誰?」

 

 警戒したような声を出す海翔。それはそうだろう。アロハシャツに短パン、虹色に輝くサングラス、肩にクーラーボックスをぶら下げている、と明らかに不審な格好をしている。まるで国を間違えたかのような格好。亮介でなくとも警戒する。

 

 だがノアは待ってました、と言うように小さな手をひらひらとさせる。

 

「あの人ですー。師匠ーこっちですー」

 

 師匠、という言葉に夕夏はピンとくる。海翔と亮介に「大丈夫だ」と警戒を解くのと同時に、彼女も首を傾げる。彼は自分からこんな格好をする人物だとは思えなったからだ。

 

 そうこうしているうちに噂の人影はノアの隣まで歩みを進め、持っていたクーラーボックスをドスンと降ろした。そして屈みこむと、ノアへデコピンを一つ。

 

「あいたー。・・・何するんですかー」

 

「テメーが俺を拉致ったからだろーが。エナドリに睡眠薬ぶち込みやがって。カフェインとの合わせ技で脳がイカれるかと思ったわ。おまけにこんな愉快な格好にさせやがって」

 

 まくし立てる男。ついていけてない男衆を一瞥すると、ノアに向かって「・・・覚えてろよ」と吐き捨てる。

 

「あー、()()()()()だな。俺は村上昭人。一応このバカ(ノア)の保護者ってことになる」

 

 アロハーな男の正体は昭人。普段は零課本拠地でライダーシステムの研究・開発に熱を注いでいる彼だが、今日はノアの策略(という名の力技)によって数年ぶりに地上へと出てきたのだ。

 

 初めまして、という言葉に若干引っ掛かる海翔だったが、そんなことはお構いなしとばかりに昭人は話しを続ける。

 

「ったく、何でこんなクソ暑い中外出せにゃならねーんだ」

 

「師匠が悪いんですよー。そうやって引き籠ってたらー頭にキノコ生えますよー」

 

「生えねえよ!・・・はあ、もういい。俺は隅で釣りでもしてっから、後は若いのだけでやれ」

 

 昭人が親指で差した先は堤防。パラソルに釣竿と用意は完璧だ。いつの間にと驚愕する皆を尻目に、ノアは昭人に問いかける。

 

「・・・ところでー、私の姿を見てー何か言うことありませんかー?」

 

 緊張しているのか、若干耳が赤くなっている。そんなことは知らないとばかりに、昭人は「ハッ」と鼻で笑う。

 

「似合ってんじゃねーの?お前のその貧相な―――っ()ッ!」

 

 彼の言葉が言い終わるよりも早く、持っていた採点札が昭人を襲う。スコーン、と良い音を立てて額に激突する。想像以上の痛みに昭人は涙目で額に手を当てる。

 

「~~~ッ!このバカ!テメーと違ってこっちは普通の人間なんだよ!」

 

「悪かったですねー貧相な体でー」

 

 口調は普段と変わりはないが、その瞳は絶対零度。軽蔑の感情すらなく、道端のゴミを見る目よりも冷たい。その怒りが伝わったのだろう、昭人の瞳に怯えの感情が混じる。だがノアはそれを無視してどこからともなく煙草とライターを取り出した。

 

「そんな乙女心を分からない人にはーこれは必要ありませんねー?」

 

「なっ!?お前いつの間に!?」

 

 慌ててアロハシャツのポケットを弄る。しかし望んでいた手ごたえは帰ってこない。そうこうしている間にノアは海に向かって駆け出していた。

 

「待ちやがれ、このバカ!」

 

「待ちませんー。バカは師匠の方ですー。この研究バカー」

 

 そんな二人を見ながら海翔たちはポツリと呟く。

 

「・・・遊ぶか」

 

「そうだね・・・」

 

「・・・そうね~」

 

「可愛い・・・可愛い・・・」

 

 明奈はまだ倒れたまま。復帰にはまだ時間が掛かるようだ。

 

 

 

「~~~ッ!すごく早い!」

 

「舌噛むなよ、海翔!」

 

「持ってきたのって水上バイク(これ)!?免許とか必要なんじゃ・・・」

 

無問題(モーマンタイ)!ガキの頃ハワイで、ってやつだ!そんなことより、もっとかっ飛ばすぞ!」

 

「もっと!?これ以上は、~~~ッ!」

 

 

 

「落ち着いてバランス取れよ~」

 

「落ち着けって、簡単に言うけど!高いし不安定だし!アンタもやってみなさいよ!」

 

「無理だって。フライボード、親父が二つしか貸してくれなかったんだから。それよりもほら見ろ、海翔はめっちゃ安定してるだろ。だからいけるって」

 

「―――!・・・負けないわよ!」

 

「そうそう、その調子―――あ」

 

「「「あ」」」

 

 

 

 ピー

 

「Aチーム、1点ー」

 

「夕夏!ちょっとは手加減しなさいよ!」

 

「あら、嬉しいわ~、敬語が抜けるなんて~!今度あの二人にも自慢しようかしら~?」

 

「当然よ!際どい水着を押し付けてきたり、ビーチバレーで地面が抉れるスパイクを向けてくる人間に払う経緯はないわよ!―――って違う!審判、これ禁止カードにしなさいよ!」

 

「駄目ですー。それだとAチームが不利になりすぎるのでー。リードしてるのはBチームですしー訴えは却下ですー」

 

「~~~ッ!こうなったら海翔、このまま点を入れ続けて逃げ切るわよ!」

 

 

 

(・・・若いな)

 

 遠目から喧騒を見て、何となく昭人はそう思った。自分にもあんな時期があった気がしなくもないが、生憎と思い出すことは出来なかった。

 

 ふと、自分が学生だった頃を思い出す。学校と自分の家を往復するだけの毎日。遠出するのも本屋と図書館、それにロボコンのようなコンテスト会場ぐらいのものだ。といっても、後悔することはない。偏にあの大天才に追いつくために自分が選んだこと。その果てに今の自分がある。郷愁に駆られることはあっても後悔することはない。

 

「もう30も後半か」

 

 気が付けば時間だけが経っていた。40も見え、身体の衰えも感じるようになってきた。自分の生きている間に戦いは終わるのか、そんなどうしようもないことがここ最近脳裏によぎるようになってきた。

 

「―――チッ」

 

 釣竿を引き上げ、舌打ちを一つ。心の動揺が現れているのか、空振りだった。餌を取り付け、もう一度釣り針を投げ入れる。

 

「―――どうしたんですか?」

 

 そんな昭人の背後から声がかかる。こちらを労わるかのような優しい声。似てないはずなのに、何故か彼女と重なった。

 

「何でもねぇよ。ただ釣れなかったから、イラついただけだ」

 

 ぶっきらぼうに言う。正直に言って、どう対応すれば分からなかった。声の主、海翔から逃げるように意識を釣竿に戻す。

 

「そうですか」

 

 だが昭人の思惑とは裏腹に、海翔は昭人の隣、パラソルの下で座り込む。手には飲み物が十分に入ったペットボトル。長居する気満々だ。

 

「・・・もう遊ばなくてもいいのか」

 

 言外にどっか行けと言う。そんな昭人に苦笑いしながらも、海翔は移動する気配はない。

 

「少し休憩しようかと。・・・それに、貴方と少しお話がしたくて」

 

「―――なんでだよ。話せることなんて、何もねーぞ」

 

「なんで、でしょうかね?―――しいて言えばなんとなく、ですかね?」

 

「なんとなく、ねぇ・・・」

 

 自分でも可笑しな話だと思いますが、と少し笑う海翔。そんな彼に昭人は揶揄するような言葉を返す。返した後に少し後悔して、チラリと海翔の表情を伺うが、不快な感情は見当たらなかった。

 

「嫌いですか?この言葉」

 

「―――ああ、嫌いだね。知り合いにも居たよ。『なんとなく』で一足飛びに結論を出す奴が。しかもそれが1000%でドンピシャなのが性質が(わり)ぃ。少しは凡才(こっち)の身にもなれ、って話だ」

 

 そうだ、アイツはそんな奴だった。凡才(こっち)のことは知ったことかと次々と結果を叩きだしていく。ちょっとは近づいたと思ったらその倍の速さで突き放される。彼女の前に何人もの人間が叩き折られた。でも、だからこそ、俺は―――

 

 クスリ。海翔の笑みで昭人は思考の海から現実に引き戻された。

 

「―――んだよ」

 

「・・・いや。その人のこと、凄くよく見てたんですね」

 

「・・・まあな」

 

 昭人は黙るしかなかった。これ以上醜態を晒して堪るか、という思いもあったが、それ以上に彼と何を話していいか分からなかった。そんな資格があるのかすらも。

 

 波の音と、少し先からの喧騒。それだけが二人の間に漂う。海翔も無理に口を開こうとはしなかった。

 

「・・・自分の親のこと、本当に知りたいか?」

 

 耐え切れなくなったのか、昭人は自分から口を開く。彼の言葉に海翔は大きく頷く。

 

「勿論ですよ!」

 

「その親がどうしようもないクズだったとしてもか?」

 

 釣竿から目を離すことなく、昭人は畳みかける。

 

「まともな親なら自分で育てようとするだろう。でもその親はお前を―――あー、これは言い方が悪いか・・・お前の親はそれを放棄して日野森学園に預けたわけだ。そんな実親のこと、本当に知りたいのか?」

 

 冷たい問いかけ。海翔は少し考えてから切り出した。

 

「―――僕はあそこに20年近くいます。色んな子供から色んな理由を聞きます。不倫の結果、生活が苦しくて、虐待の中保護されて・・・でも僕の理由は分からないんです。養父も、話そうとはしませんでした。愛されていたなら、それでいい。愛されなかったとしても、まだ何とか飲み込めた。でも分からないならどうしようもない。意外と堪えるんですよ?何も知らないっていうのは」

 

「―――そうかよ」

 

 昭人は釣竿から片手を離し、海翔の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でつけた。

 

「―――わぷ」

 

「なあ、今お前は幸せか?」

 

 昭人の問いかけに、海翔は一拍おいて答える。

 

「勿論です。僕を慕ってくれている義弟たちがいて、隣にはいつも明奈がいてくれる。心配してくれる友達も、助けてくれる隣人もいる。僕は幸せですよ」

 

 その言葉を聞いて、昭人は心からの笑みを浮かべる。それはまるで―――

 

「んじゃ、良いんじゃねーか。親がお前を愛してたなかったらその答えだけで悔しい思いをするだろうし、愛していたら―――」

 

「愛していたら?」

 

「―――心の底から、喜ぶだろうよ」

 

 その笑みを、海翔は何処かで見たことがあるような気がした。笑っているような、泣いているような、祝福しているような、後悔しているような。

 

「貴方は―――」

 

 しかしその声はよりにもよって、昭人本人によって掻き消された。

 

「やっべ!めっちゃ引いてる!」

 

 見ると釣竿が驚くほどしなっている。弓なりどころではない。そのまま行けばポキリと折れてしまうだろう。昭人は慌てて釣竿を手に取る。

 

「―――ッ!重すぎる、だろ!」

 

「村上さん!」

 

 抑えるどころかそのまま海へ引っ張られてしまう昭人。そんな彼を海翔は腰に抱き着いて留まらせようとする。

 

「―――ッ!クソッタレ!」

 

 思わず悪態をつく昭人。成人男性二人がかりでもまだ足りない。あわやここまでかと思われたとき、騒ぎを聞きつけた三人が応援に来た。

 

「何やってんのよ、海翔!」

 

「大丈夫ですか~?」

 

「相当な大物だな、こりゃ!」

 

 大の大人が追加で三人。拮抗したかと思えば、それでもなおジリジリと海へと引っ張られる。万事休す、誰もがそう諦めようとしたが、先頭にいる昭人だけが瞳に闘志を燃やしていた。

 

「―――ノアッ!」

 

「そう大声を出さなくてもー聞こえてますよー」

 

 待ち望んでいた返答。それは彼らの頭上から聞こえてきた。オリンピック選手も驚愕の跳躍。しなる釣竿の上に器用に飛び乗ると、何処からともなく鋭利な刃物を取り出した。

 

「―――ッ」

 

 一呼吸の後、投擲。釣り糸に沿って放たれたそれは、真っ直ぐに海に吸い込まれた。一瞬、海からの力が緩む。それを逃さず昭人は叫ぶ。

 

「引っ張れ!」

 

「まったくー弟子使い荒いですねー」

 

 ノアは昭人の隣に着地すると、釣竿の柄を握った。ミシリ、と嫌な音が鳴ったのは気のせいではないだろう。

 

「行きますよー」

 

「うわっ」

 

「おわっ」

 

「きゃっ」

 

「あら~」

 

 四者四様の声を上げ、後方へと引っ張られる。ビクともしなかった釣竿は容易く動き、見事な一本釣りを披露して見せた。

 

 人ほどの大きさはあるだろうか。大きな影が空中を舞う。大人が5人がかりでも釣りあげられなかった魚。いったいどれほどのものかと皆が注目する。暫くして、ドサッという重い音と共に一つの物体が砂浜に落下した。

 

 巻き起こる砂塵。その中で影は、まるで人間かのように立ち上がった。

 

「GAAAA・・・」

 

 ようやくその全貌を目にし、初めに声を上げたのは海翔と亮介だった。

 

「人魚!?本当にいたの!?」

 

「おいおいマジか、早く写真撮らねえと。人魚を見れる海岸・・・幾らでも付属価値があるぞ」

 

「大きなお魚ね~」

 

「呑気な事言ってる場合!?あと人魚とか、そんな可愛いものじゃないでしょ、アレ!良くて魚人、どっからどう見ても怪物(モンスター)じゃない!」

 

 悲鳴に似たツッコミが見事に突き刺さる。流石である。

 

 現れた影は『上半身が絶世の美女で、下半身は魚』などと言う可愛らしいものではない。一言で表現するなら、魚を人間大まで巨大化させ二足歩行させたもの。細かな鱗が全身を覆い、不気味に輝いている。ついでのように取り付けられた人間のような手足がその怪物感を増大させている。顔は魚にも人間のようにも見え、下アゴが上アゴよりも突き出ているのも含めて、かなり不気味だ。

 

 先程ノアが投擲したものなのだろう、頭部にはナイフが突き刺さっている。怪物はおもむろにナイフを引き抜く。傷口からは血の一滴も出てこず、忽ちの内に修復された。

 

 堤防の上から昭人の焦ったような声が響く。

 

「気ぃ付けろ!コイツ、プレイスターだ!」

 

 その声に弾かれたように、四人はその場から飛び下がる。海翔は明奈を、夕夏は亮介を庇うようにしてじりじりと更に後退してゆく。

 

 遠目からその様子を見ている昭人は悔しそうにぼやく。

 

「・・・クッソ、魚系は見分けづれぇんだよな。ノア、いけるか?」

 

「すみ、ませんー・・・けほっ、今日はー品切れ、ですー」

 

「・・・分かった。悪い、無理させた」

 

 昭人に話しかけられたノアはその場にへたり込み、昭人の身体にもたれ掛かっている。呼吸は荒く、先ほどの一連の行動がかなりの負担になっていることが分かる。

 

「・・・でもー」

 

 弱弱しくも確かに、言葉を紡ぐ。その顔には『このままでは終わらない』という笑みが浮かんでいた。

 

「最悪、をー想定し、ていたりー?」

 

 傍らには夕夏が使用しているドライバー一式が。レコードカードまで抜かりなく。ノアの機転に昭人は笑みを浮かべ、その頭を乱暴ながら優しく撫でた。

 

「上出来だ―――芦屋ぁ!」

 

「―――ッ!」

 

 大声で夕夏に呼びかけると、彼女に向かってインベスティドライバーγ、インベスティランス、ビートルレコードカードの三点を次々と投擲する。コントロールには期待しない。できるだけ遠くへと投げていく。バラバラに投げ入れられたそれを、夕夏は脅威の身体能力で次々とキャッチする。

 

 一定の距離で睨み合うプレイスターと海翔たち。その間にインベスティランスを構えた夕夏が割り込む。三人は安堵したかのように声を上げる

 

「夕夏!」

 

「三人は十分離れていてくださいね~?」

 

《インベスティドライバーγ!》

 

 警戒しているのだろうか、今のところプレイスターは攻撃してくる気配はない。だがその堪忍袋の緒がいつ切れるか分からない。夕夏の指示に従い、三人は物陰に隠れようと後退する。

 

「―――痛ッ・・・なにこれ?」

 

 最初に明奈、次に亮介、最後に海翔と駆け出しそうになったところで、足に何かがぶつかった。砂に埋もれてはいるが、どこか見覚えのあるシルエットに嫌な予感を感じた海翔は、その物体を拾い上げる。

 

「・・・嘘ぉ」

 

 思わず間抜けな声を上げてしまう。海翔のエヴィデンスドライバーに加え、ブレイズとエレクトリックの二枚のレコードカード。日野森学園の自室に隠してあるそれが何故か遠く離れた海岸に埋まっている。まさかのホラーに違う種類の汗が背を伝う。ドラ〇エの呪いの装備でももっと自重する。

 

《エヴィデンスドライバー!》

 

 しかし今は好都合。ドライバーを装着すると、夕夏の隣へと駆け出す。

 

「「海翔!」」

 

 そんな彼の背に、二人からの声が投げかけられる。

 

「約束、忘れんじゃないわよ!」

 

「怪我すんなよ!」

 

 二人の声援に海翔はサムズアップ一つを返し、夕夏の隣に並び立つ。

 

「良い友達を持ったわね~」

 

「でしょう?」

 

「分けて欲しいくらいだわ~」

 

「あげませんよ。眺めるだけにしてほしいですね」

 

 軽口を叩きながら戦意を高ぶらせてゆく。海翔は空中に手を翳す。光の粒子が収束し、ヒューマンレコードカードが顕現する。

 

《AUTHENTICATION! PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

《HUMAN!REALLY?》

 

 エヴィデンスドライバーを起動し、ヒューマンレコードカードを装填する。ドライバーの中心から幾何学的な文字が放出され、魔法陣のように海翔の周辺に展開される。片割れには半透明のヒトガタがユラリと佇んでいる。

 

《Set Beetle》

 

 夕夏もインベスティドライバーにビートルレコードカードを装填。データで構成された巨大な緑色のカブトムシが出現し、飛翔しながらプレイスターを牽制する。同時にレンズからは巨大な設計図が投影され、夕夏とプレイスターの間に割り込む。

 

「「変身!」」

 

 息の合った掛け声とともに海翔はエヴィデンスドライバー側面のアクティブローダーを、夕夏はインベスティランスのトリガーを引く。

 

《ALL RIGHT!YOU ARE HUMAN!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 幾何学文字は収束し、海翔の身体には腕と足が黒く変色している、純白のスーツが装着される。半透明のヒトガタは海翔に重なり合うようにして消える。それと同時に海翔の身体には装甲が追加され、エネルギーが充填されるように身体の側面に通っているラインが青く染まる。

 

《Growing,Strength,Flying!Kamen-Rider Sutorus Mode:Beetle!》

 

《System All Green》

 

 突き出されたインベスティランスによって巨大なカブトムシは貫かれる。それと同時にカブトムシは分解され、外骨格は夕夏の体に合うように鎧として最適化される。それ以外は黒い土のような形状になり、夕夏の体に付着しやがて黒いアンダースーツに変化する。

 

 仮面ライダーヒューム、仮面ライダーストラス。この世界を守る仮面ライダーの一角だ。

 

「こっちが合わせるわ~」

 

「了解!」

 

 ストラスの言葉に甘え、ヒュームは先陣を切る。すると身の危険を感じ取ったのかプレイスターは反転し、海へと逃げようとする。

 

「ここは通行止めよ~?」

 

 しかし既にストラスが回り込んでいた。目論見が外れたプレイスターはその場で停止するが、その隙を二人の仮面ライダーは見逃さない。

 

「はあッ!」

 

「やあッ!」

 

 前後からの同時攻撃。回避は不可能かと思われたが、二人の攻撃は空振りに終わる。

 

「GUAAAA!」

 

「嘘!」

 

「跳んだ!?」

 

 二人して驚愕の声を上げる。魚人という見た目とは裏腹に、軽快な跳躍を披露したのだ。しかもプレイスターのターンは終わらない。

 

「・・・GUA!」

 

「―――ッ!」

 

 何かを溜め込む動作と共に、口元から何かを放出。嫌な予感がした海翔は間一髪逃れることができたが、その足元には銃弾が撃ち込まれたかのような小さな穴が開いていた。

 

「・・・GUAAA!」

 

 プレイスターの攻撃は終わらない。口から水の銃弾を次から次へと発射してきた。慌てて二人はプレイスターから距離を取ったが、そのうちの一つがストラスの腕に命中した。

 

「―――ッ!」

 

「芦屋さん!」

 

「大丈夫よ~!・・・でも喰らい過ぎると拙い、かも~!」

 

 言っている間にも次々に銃弾は発射される。だがやられっぱなしの二人でもない。

 

《1-Reading,2-Reading Beetle Strength!》

 

 巨大な緑色のカブトムシが召喚され、プレイスターに向かって飛翔する。その巨大な角に貫かれでもすればプレイスターとて無事では済まないだろう。怪物もそれは承知なのか、水の弾丸をカブトムシに浴びせ続ける。

 

 結果は、相殺。頑丈なはずのカブトムシの装甲ですら貫いた。何度も喰らえばマズいというストラスの懸念は正しい。生身で喰らった人間は容易く命を落とすだろう。カブトムシは砂を派手に巻き込んで爆散した。

 

 ダメージは与えられなかった。しかしストラスは動揺しない。今自分は一人で戦っている訳ではないのだから。

 

「―――フッ!」

 

「GUA!?」

 

 プレイスターは動揺したかのような声を上げる。気が付いた時にはもう遅い。ヒュームがその目の前まで迫っていたのだ。超遠距離から戦車すら仕留める対戦車ライフルも近接戦では無力同然。同じようなことがプレイスターにも言えた。

 

 少しずつ、しかし確かにダメージが蓄積してゆくプレイスター。弾丸の放出ができないためストラスも合流するだろう。そう考えたプレイスターは醜く足掻く。

 

「GUAAA!」

 

 数打ちゃ当たるとばかりに水の弾丸を連射していく。まさかの行動にヒュームは対応できない、はずだった。

 

《ELECTRIC!》

 

 しかし、鳴り響く雷鳴の前には遅い。弾丸すらも制止しているに等しい。黄色い残光を残してヒュームの姿が消える。発射された水の弾丸は空を切り、虚しく砂地へ着弾した。

 

「―――GA?」

 

《1-Reading Beetle Glowing!》

 

 しかし混乱している暇はない。ヒュームの代わりに目の前にはストラスの姿が。緑色のオーラを纏ったインベスティランスはまるでカブトムシの角のよう。気が付いた時にはもう遅い。ぷすりとプレイスターの身体にインベスティランスが突き刺さった。

 

《BLAZE!》

 

 そしてヒュームのことも忘れてはならない。慌ててインベスティランスを掴んだプレイスターだったが、背後からの重い一撃によってその手を放してしまう。その結果、インベスティランスが深々と突き刺さる。

 

「GAAAAAA!」

 

 悲鳴のような絶叫が響き渡る。だが二人は容赦しない。ここで見逃せば無辜の命が多く失われることになる。二人はそれを決して許容しない。

 

《AUTHENTICATION!WHAT'S HAPPENED?》

 

《1-Reading,2-Reading,3-Reading》

 

 ヒュームはエヴィデンスドライバーを再度起動状態に。ストラスは突き刺さったままのインベスティランスに三度、ビートルレコードカードを読み取らせ、無慈悲にトリガーを引く。

 

 ストラスが手からインベスティランスを離すと、その勢いでプレイスターは思わず後退する。しかし正面に半透明のヒトガタがプレイスターに跳び蹴りを浴びせる。まるで未来が確定したかのように、プレイスターはその場で動けなくなる。

 

《ALL RIGHT!HUMAN FINISH!》

 

《Beetle Flying!》

 

 両者とも同時に跳躍。ヒュームの姿がヒトガタに重なり合う。ストラスの足が突き刺さったままのインベスティランスの柄を捕える。

 

「GAAAAA!」

 

 体を貫かれたプレイスターは、その体を維持することができない。断末魔を上げ、その場で爆散する。爆心地からレコードカードが放出され、ヒュームの下へ飛来する。受け止めたヒュームが見てみると、『ARCHERFISH(テッポウウオ)』と刻まれていた。

 

「レコードカード、確保完了っと」

 

 ヒュームが小さく呟く。それは戦いの終わりを告げる合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間。夕方に差し掛かり、気温もかなりマシになった。戦いの跡を綺麗に片付け終わった砂浜にはいい匂いが充満していた。

 

「うめー!やっぱり海の最後はBBQだな!」

 

 上機嫌に言う亮介。それを否定する人間はここには誰も居ない。中心のBBQコンロには肉に魚、貝、野菜と所狭しと並べられている。火は炭火だが、海翔(万能人間)が居たお陰で手こずることはなかった。

 

「本当にね~。ここにお酒があれば完璧なのだけれど~」

 

「お、芦屋。お前いける口か?」

 

 ポツリと呟いた夕夏に昭人がだる絡みする。顔は既に朱色であり、相当な量を飲んでいることが見受けられる。瓶を掲げる昭人に、夕夏は苦笑い。

 

「では一杯だけ頂こうかしら~?」

 

 少量だけ紙コップに移し、ゆっくりと口にする。しかし直ぐに口を離すと、「・・・強い」と静かに一言。

 

「・・・師匠ー?少しその瓶見せてくださいねー?」

 

 夕夏の呟きに反応したのはノア。慌てて隠そうとする昭人から酒瓶をひったくり、アルコール濃度を見て冷たい視線を昭人に向ける。

 

「なんですかこれーもっとマシなもの無かったんですかー?」

 

「何飲もうと別にいいだろうが!それに言わせてもらうが、アルコール濃度50%以下は全部水だ!」

 

「じゃあー消毒液でも飲んでてくださいー。それか飲む量を自重してくださいー」

 

「飲まねえとやってらんねぇンだよ!こちとら毎日メンタルギリギリなんだ!それに加えてテメーがこんなところに放り込みやがって!俺の気持ちも考えろよ!死ぬほど気まずかったぞ!」

 

「嫌でしたかー?」

 

「嬉しいに決まってんだろ!ありがとよ!でもそれとこれじゃ話が違ぇんだわ!」

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ昭人とノア。そしてもう一方でも喧騒が巻き起こっていた。

 

「海翔ぉ~~~好きぃ~~~」

 

 黙々と肉を口に運ぶ海翔。その腕に明奈が絡みつく。しかも水着のままで。柔らかいものが当たっていることは言うまでもない。海翔は呆れたように口を開く。

 

「・・・明奈、お酒飲んだの?弱いから駄目だって言ったでしょ?」

 

「だって~~~いける~~~って思ったんだも~~~ん」

 

 その顔は朱色どころではない。茹でダコの方がまだましだ。一方の海翔は別の意味でヒヤヒヤしている。明奈は思わず目を覆ってしまうほど酒に弱い。いつリバースカードオープンしてしまうのか、気が気でなかった。

 

 そんな海翔の心配も裏腹に、明奈はぷくー、と頬を膨らませる。

 

「かいとぉ~~~かいとはわたしのことすきぃ~~~?」

 

「はいはい、好きだよ」

 

「えへへ~~~わたしもすきぃ~~~」

 

 不満げな顔から一転、にんまりと心の底からの笑顔を浮かべる明奈。スキンシップは段々と激しくなっていく。

 

「ねぇ~~~ぎゅ~ってして~~~?」

 

「はいはい」

 

「えへへ~~~やったあ~~~」

 

 成すがままにハグをする海翔。その表情に下心は一切見えない。どちらかと言うとぐずった子供をあやす行為に近い。ついでとばかりに頭を撫でてやると、明奈の表情はますますだらしないものになる。

 

「ね~~~ちゅ~しようよ、ちゅ~」

 

 額を海翔にコツンとぶつけてくる。口元からは酒の匂いが嫌でも漂ってくる。明奈の行動を、海翔はやんわりと制止する。

 

「駄目だよ、明奈。それはちゃんと好きな人にしないと」

 

「むぅぅぅ~~~。・・・じゃあけっこんしよ~~~?じゃあちゅ~もできる!わたしっててんさいじゃん!」

 

「はいはい、明奈はいつも賢いよ」

 

 酔いの勢いで迫る明奈をヒラリヒラリと宥めすかす海翔。その様相はまるで熟練の闘牛士のよう。そんな彼らを見て、夕夏は思わず白い眼を向けてしまう。

 

「・・・本当に二人とも付き合ってないの~?」

 

「付き合ってないですよ。成人式の後に三人で飲んだ時もあんなんでしたし。二人してホテルにぶち込んでやろうか、何度思ったか分かりませんよ」

 

 思わずボヤく亮介。普段は熟練夫婦のようなやり取りを見せる癖に、こういう時は同棲半年のカップルみたいなイチャイチャを見せつけられる。とっとと既成事実作れやと考えてしまうのも仕方がない。

 

「しなかったの~?」

 

「しませんよ。友人を一纏めに失うことは出来ませんので」

 

 海翔は露骨なほど恋愛を避けている。日野森学園に来るまでの約7年間に原因があるのでは、と言うのが亮介の予想だ。無理に押し通す必要は無い。

 

「ねぇ~~~けっこんしようよ~~~」

 

「はいはい、後でね」

 

 迫る明奈を海翔はゆっくりと宥めすかす。それは明奈が眠ってしまうまで続いた。

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