仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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No.2 SAVER/暗躍する者

―???

 

 丑の刻。人々が寝静まり人ならざる者が動きだす時間。

 

 人里から遠く離れた山奥の一角、悠然と建つ古びた一軒の屋敷があった。広大な庭には人の侵入を拒むかのように雑草が無秩序に伸びきっていた。屋敷の所々に埃がかぶり、最近まで人が出入りしていないことを表している。ギシギシと音を立てる廊下とひび割れている窓ガラスが年月の残酷さを感じさせる。

 

 その一室で怪人たちが一堂に会していた。電気などは通っておらず、月明かりだけが部屋の中を照らす。

 

 怪人といっても見た目は人間。しかし、力は正真正銘の怪物。一体で機動部隊を壊滅できる程度の力は有している。

 

 その怪人が十数体。だが、この場で発言権があるのはこの中でも一握りの化け物だけ。

 

 化け物たちは席に座り長机を囲み、他の怪人はその周囲に立っている。

 

剣士(セイバー)が狩られた」

 

 上段に座る妖艶な女性が声を発した。内容からかそれとも彼女への恐れからか、同時に場に緊張が走る。

 

「それは本当か、女王(クイーン)

 

「ああ本当だ。配下の目を通して確認した」

 

 問いかけたのは精悍な男性。人を殺せるほどの鋭い目でクイーンと呼ばれた女性を睨むが、クイーンは怯んだ様子もなく悠然と答えた。

 

「真偽などどうでもいいでしょう。問題は()()()の仕業か、ということです」

 

 眼鏡をかけた軍服姿の青年がそれに答える。淡々とした声は冷たく、感情というものを全く感じさせない。

 

「あれはカードだけは良かった。もう少し適合していたなら我らに迫ったほどにな。あれを殺るとはなかなかの手練れよ」

 

 次に声を上げたのは皺だらけの老人。髪は白く染まり切っているが、腰は伸び矍鑠(かくしゃく)としている。カカカ、と老人がどこか楽しそうに言う。最もいつものことなので誰も口を挟まない。

 

「どちらか、と言いますけど答えは一択では?人間たちにわたしたちを殺す力はないでしょう?」

 

 金髪の女性がニッコリと微笑みながら言う。その表情と軍服姿の青年とは真逆の温かい声は、本来なら人に安心感をもたらすはずだが、それとは反対に、その完璧な笑顔・動作はどこか作り物然としたものを見るものに感じさせる。

 

 軍服姿の青年が眼鏡を整えてそれに答えた。

 

「とも限りません。例のプロジェクトに参加していた科学者の一人が警察関係者を頼ったのを最後に消息を絶っています。消されたのか、あるいは」

 

「国に協力しているか、だね」

 

 空席だった席にいつの間にか座っていた少女が、軍服の男に被せる様に言う。少女は黒いドレスを纏っており、薄暗くはあるが明かりがさすこの部屋では、逆に目立つほどに黒かった。

 

 少女が現れるのと同時に、周囲の怪人たちが圧倒されたように身じろぎした。だが、席に座った化け物たちは南濃することなく平然としている。

 

「ライダーシステムを開発させたと?」

 

 クイーンが少女に問う。声には先ほどよりも圧がある。

 

 起立している怪人たちがざわめく。それは内容故。

 

 ライダーシステム。彼らを唯一、人の手で殺すことを可能とする脅威。

 

 席に座る化け物たちも鋭い視線を少女に浴びせている。常人なら失神するだろうそれをそよ風のように受け流し、黒い瞳をクイーンに向ける。

 

「それは君の方がよく知ってるんじゃない?一部始終、見てたんでしょ?」

 

 ニヤリ、と悪戯げに少女が笑う。クイーンが一度溜息を吐いて、パン、と手を叩く。すぐさま怪人たちのざわめきが消える。

 

「可能性はある。今後は国、特に警察機関にも注意を払え。10年も費やしたのだ。ここで人間どもに邪魔をされるわけにはいかん」

 

 以上だ、とクイーンが言うと、クイーンと少女を除く化け物たちが一斉に席を立ち、瞬間、姿を消す。それと同時に怪人たちも次々に姿を消した。

 

「あれ、何も言わないの」

 

 二人だけが残った部屋で少女がからかうように言う。

 

 それに答えず、クイーンは少女を睨む。

 

「巫女が目覚めたぞ」

 

「…」

 

 沈黙が場を支配する。少女の笑みが深まる。ビュゥ、とボロボロの部屋に季節に似合わない冷たい風が吹く。

 

「知っていたな」

 

 少女の楽しそうな雰囲気とは裏腹に、クイーンの殺気すら滲ませている。

 

「お前が手引きしたのか、って?全く、ボクを何だと思ってるんだい?」

 

 少女はやれやれ、と溜息をつく。

 

「それにあれは巫女本人じゃないよ。ただのそっくりさん。ほんと、何時になったら分かってくれるんだか」

 

 興味は失せたとばかりに少女は席を立つ。

 

「じゃあね~。あと、彼には手出し厳禁だから」

 

 軽く手を振って少女も姿を消す。それを見届けてクイーンは怪しく嗤う。

 

「ああ手出ししないとも…。私はな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後三時。日野森学園の広間では子供たちが各々好きな菓子をつまんでいる。先ほどまで外で遊んでいた小学生組は美味しそうにアイスを頬張っている。中高生組は数少ないテレビを見たり、雑談に花を咲かせるなど各々の時間を過ごしていた。

 

 愛斗はそんな緩んだ空気にとても安堵していた。

 

 『伊藤海翔が刺され、意識不明』。このニュースが日野森学園を駆け抜けたのは三日前。海翔が何かしら怪我を負うのは珍しくないが、他人によって害された、しかも意識不明の重体になるということは当然無かった。小学生低学年の妹弟たちの中には不安から泣いてしまう子も出始め、園全体が重い空気に包まれていた。

 

 しかし昨日、海翔が目覚めすぐに退院できるという知らせが届き、重かった空気が徐々に晴れつつあった。

 

 「明奈姉さん、元気ないな」

 

 愛斗は皿に盛られたポテチをつまみながら、妹弟(きょうだい)たちの面倒を見ている明奈を流し見る。

 

「(ちゃんと休めてるのかな)」

 

 愛斗の正面に座っている男子高校生―伊藤 (みなと)が心配そうに手を動かす。それを逃さず読み取り、愛斗は湊にいや、と否定する。

 

「あの目の下の隈、昨日と変わってないぞ」

 

 愛斗が指摘する。化粧で上手く隠してはいるが、明奈の目の下には濃い隈がある。そもそも彼女は日常で化粧をすることは少ない。なので、愛斗以外にも明奈の疲労に気が付いている。

 

「(やっぱり海翔兄さんに会ってないのかな)」

 

「会ってたとしたら、隈ももう少しマシになってるはずだ。それに」

 

「(海翔兄さんがほっとくはずない、でしょ?)」

 

「だよなあ。あの人助けの擬人化が見逃すはずないよなあ」

 

 湊は手話を使っているが、まるで普通に会話しているかのように二人はコミュニケーションを取る。

 

 口の中に残ったポテチの破片をお茶で流し込んで、愛斗は席から立ち上がろうとした。

 

「(どうするの?)」

 

「発破かけてくる。ウジウジ引きずられても、明奈姉さんに倒れられても困るからな。…明奈姉さーん!」

 

 明奈の方へ向かっていった愛斗を見て、湊はマイペースにポテチを口に入れた。

 

(変なところで素直じゃないなあ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーショッピングモールでの戦いから早三日。

 

 海翔は病院のベットの上で寝転がっていた。消毒液のような病院独特の匂いは苦手とする人が多い。だが海翔はそんな匂いが嫌いではなく、むしろどこか懐かしいとすら感じてしまう。

 

「それにしても災難でしたねえ。まさか通り魔に会うとは」

 

 海翔のベットの隣で青年がシャリシャリ、と器用にリンゴを剥きながら海翔に話しかける。青年は有村 祈里(ありむら いのり)。日野森学園の近所にある有村教会の神父だ。八月の真っ昼間にも関わらず、見る人に暑さを感じさせるような真っ黒な神父服を着ている。

 

「暑くないんですか、その恰好」

 

 十人見れば十人するような質問を、海翔もまたしてしまう。

 

「いえ、暑いですよ。私のアイデンティティのようなものなので、あまり脱ぎたくないんですよ。まあ、これ以外の服を持っていない、というのありますが」

 

 有村神父がにこやかに答える。

 

(言われてみれば、この服装以外の祈里さんを見たことないな)

 

 神父が教会を出ることが少ないので目立たないけど、と心の中で付け足す。

 

「ですが安心しました。傷は深くないようですね」

 

 切り終えたリンゴを皿に移しながら有村神父は言う。

 

「そうですね。明日あたりには退院できるようです」

 

 それは重畳、と有村神父は満足げに頷く。海翔の体にバッサリとできた切り傷は、昨日海翔が目覚めたときには既に塞がっていた。最近の医療技術は凄いな、と海翔は感嘆したが、医者も何故こんなに早く傷が治ったのか、と不思議そうな表情をしていた。

 

「それは良かったです。本当に凄い騒ぎだったんですよ。早く子供たちに元気な姿を見せてあげてください」

 

「そうします」

 

 海翔はリンゴを食べる手をいったん止めて、申し訳なさそうにした。それを見て有村神父はクスッと笑った。

 

「こちらにも改めて顔を出して下さい。優月も心配していましたので」

 

 と、有村神父が言うのと同時に病室の扉がガラッ、っと勢いよく開き、学生服の少女が一人病室に飛び込んできた。

 

 海翔は思わず扉の方を見てしまい、少女と目が合った。

 

「ア、アニキ~!無事で良かったっス!」

 

 少女が海翔に思いっきり抱き着き、その衝撃でグフッ、と海翔から声が漏れる。彼女は有村 優月(ありむら ゆづき)。有村教会の前神父の姪っ子で、昔から海翔たちとも親しくしている。

 

「優月、海翔君は怪我をしているのですよ」

 

 有村神父が優月を引きはがそうとするが、優月は海翔にしがみついたまま離れない。そんな彼女を見て有村神父は呆れながらもどこか安心していた。有村神父に海翔が安心させようと声をかける。

 

「大丈夫ですよ祈里さん。怪我はもうほぼ完治しているんですから」

 

 優月が海翔から離れたのはしばらくしてからだった。赤く目を腫らしてどこか不服そうな優月に、海翔はリンゴを食べさせた。しばらくシャリシャリという音だけが病室に響いた。

 

「そう言えば、明奈姐さんと喧嘩でもしたんっスか?」

 

 ゴクリ、とリンゴを飲み込んで、優月が思い出したように言った。海翔はつい有村神父と顔を見合わせた。

 

「起きたのは昨日だけど、明奈はまだ来てないよ。どうかしたの?」

 

 海翔の答えに優月は『マジっスか』と顔を顰めた。

 

「まだここに来てないんっスか、明奈の姐さん。病院の廊下をあんな顔でウロウロしてたら、誰だって訝しむっスよ」

 

 海翔はそれを聞いてベットから立ち上がった。

 

「すみません。ちょっと探してきます」

 

 海翔は有村神父に一言断りを入れる。それに有村神父は笑顔で答えた。

 

「いいですよ。但し、無茶だけはしないように」

 

 何の事っスか?、と首を傾げる優月。何もかもを見通すかのような瞳に少し気圧されながら、海翔は病室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小川明奈は未だ病院内を彷徨っていた。正確には海翔の病室前をウロウロしていた。

 

 子供たちや義両親(おや)に海翔の目が覚めたことを聞いて仕事の合間を縫って来たが、昨日に引き続き海翔の病室に入れないでいた。

 

(私のせいで大ケガしたもの。海翔だって私に会いたいなんて思っていないでしょうし…)

 

 そう自分に言い聞かせる。

 

 しかし、それは杞憂というものだ。海翔はそんなことを気にも留めず、明奈を歓迎するだろう。そんなことは明奈だって分かっている。気まずいのは明奈のほうだった。実際、海翔が目覚める前はごく自然に見舞いに行っていた。

 

 はあ、と溜息を一つ吐いて、受付近くのソファーに腰掛ける。寝不足からか少し疲れていた。明奈は人の目を憚るように周りを見た後、背負っていたリュックサックを降ろした。

 

(これだって返さないといけないし…)

 

 リュックを開けて中身を覗く。中にはエヴィデンスドライバーとエレクトリック、ブレイズ、セイバーの三枚のレコードカードが入っていた。病院に運ばれる前に気を失った海翔から回収していたのだ。

 

(でもこれを返したら、海翔はまた無茶するだろうし…) 

 

 そう思うとこれらを返すわけにはいかない、と明奈は思う。

 

(もう帰ろうかしら…)

 

 だが、帰ろうにも愛斗の発破もあり、会わずに帰るのは気まずいものがあった。それに、海翔の病室に入っていった優月に自分が来たことを海翔にバラされている可能性がある。

 

 はあ、ともう一度溜息を吐き、リュックサックを背負いなおす。立ち上がって、再度当てもない散策に繰り出そうとしたその時、

 

「キャー!」

 

 受付のほうから悲鳴が上がった。明奈が視線を向けると、無数の蟻のような怪物が、まるで軍隊のように人々を無差別に襲っていた。その奥には弓を携えた怪物―アーチャープレイスターが、兵隊たち―アントトルーパーズを指揮するかのように立っていた。

 

 アーチャープレイスターが弓に矢を構え、射る。軽く放ったその一射で、二階の通路が崩れ落ちた。

 

 一瞬で戦場へと変化した病院。アントトルーパーズの足元には既にこと切れた人たちが転がっている。

 

 思わず近くのソファーに隠れる明奈。一歩ずつ確実に近づいてくるアントトルーパーズに恐怖しながらも、背中にあるものを思い出す。

 

(私がこれを使えば…!)

 

 リュックサックからエヴィデンスドライバーを取り出して腰に当てる。ベルトはあのときのように自動で腰に巻き付く。

 

(次は確か…)

 

 明奈は必死になって海翔の行動を思い出す。そうしてエヴィデンスドライバーの上側にあるウェイクアクセッサーを押す。しかし、

 

『ERROR』

 

 という、変身の際とは打って変わって、低い声がベルトから響く。

 

「ちょ、何でよっ!」

 

 一転して明奈の心に絶望が宿る。明奈は慌てて何度もウェイクアクセッサーを押す。しかし事態は好転することなく、

 

「まずっ…」

 

 その音に引き寄せられたアントトルーパーによって、悪化の一途を辿る。

 

 奇声を上げるアントルーパー。明奈は思わずソファーを蹴り、近づいていたアントルーパーズを転倒させる。更に、蹴った反動を利用して走り出し、病院の中の方へ逃げる。

 

「うおっ!」

 

「人の顔を見て『うおっ』って」

 

 逃げた先で人影とぶつかりそうになる。ふとその顔を見るとあまりにも見知った顔で、明奈はつい変な声を出してしまう。その人影は、水色の入院着を着た海翔だった。数分前まで会おうか、会うまいかとウジウジ悩んでいた明奈にとって突然の遭遇はキャパオーバーだったらしく。死地であるというのに脳がフリーズしてしまった。

 

「あ、ドライバー!見当たらないと思ったら明奈が持ってたの?」

 

 そんな明奈の混乱はなんのその。昨日から『あれ、もしかして救急隊の人達に取られた?でも僕の体から出てきたっぽいし…はあああー!出ろおおー!(小声)』『どうしたのですか海翔君。もしかして傷が痛むのですか?』

等とベルトの行方を心配していた海翔は、探し物が見つかって嬉しそうだ。

 

 一方明奈は、続くセリフを予想して脳ミソを再起動させる。

 

「じゃ、ドライバーをわt」

 

「ダメよ!」

 

「なんで!?」

 

 惨状を何とかしようと海翔は優月にドライバーを渡すよう頼もうとするが、明奈は食い気味にそれを遮る。

 

 声が漏れたのだろう。二体のアントトルーパーズが二人を視界に入れていた。

 

 知能はあまり高くないのか、一体のアントトルーパーが持っていた銃を海翔に向かって振りかざす。海翔は怯むことなく腕をクロスして頭上で受け止め、全身で力を逃がしきる。

 

 すかさずもう一体のアントトルーパーが銃を二人に向けて乱射する。海翔は受け止めていたアントトルーパーの首根っこを掴み、射線へと持っていき盾にする。

 

 銃弾が当たるたびに海翔が持っているアントトルーパーが痙攣する。銃撃がやんだ瞬間を狙って、海翔が持っていたアントトルーパーをもう一体の方へ蹴り出した。

 

 一体目のアントトルーパーが落とした銃を拾い上げ、蹴りだされたアントトルーパーにのしかかられている二体目のアントトルーパーに向けて発砲した。

 

 瞬く間に怪物を制圧した海翔を見て、明奈は心の中で息をのんだ。

 

(海翔ってこんなに強かったっけ?)

 

「明奈、大丈夫⁉」

 

 戦慄する明奈をよそに、海翔はいつものように心配そうに明奈へ駆け寄ってきた。

 

(大丈夫って、自分のことを心配しなさいよ…)

 

 同時に海翔はこういう性格だったな、と明奈は思う。例え対抗できる手段がなくても、助けられる人がいるなら躊躇うことなく火に飛び込んでしまう。

 

「ああー!もういいわよ!」

 

 葛藤していた自分が馬鹿らしくなり、明奈は呆れたように叫んでエヴィデンスドライバーを海翔の腰に叩きつける。

 

「え?いいの?」

 

 海翔は急に大声を出した明奈に驚いたが、それ以上にベルトが唐突に返されたことに困惑した。

 

「いいの。どうせ行くんでしょ」

 

 明奈は三枚のレコードカードを海翔に勢いよく差し出した。

 

「でも一つだけ約束。絶対に帰って来なさいよ」

 

 明奈は真剣な目で海翔を見つめる。海翔は面食らったように目を見開いた後、安心させるかのように微笑んだ。

 

「もちろん、約束するよ」

 

 海翔はそう答えるや否や明奈からレコードカードを受け取り、怪物たちの集団の正面に躍り出た。

 

 無差別に人々を襲っていたアントトルーパーだったが、自分から死地へと向かってきた海翔に標的を向けた。

 

 数多の殺気に晒されるが、海翔は慌てることなく、エヴィデンスドライバーのウェイクアクセッサーを押した。

 

《AUTHENTICATION! PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

 高らかに宣言されるのと同時に、エヴィデンスドライバーの中央から幾何学的な文字が飛び出し、魔法陣のように海翔の周囲を旋回する。

 

 アントトルーパーが海翔に向かって銃撃を浴びせるも、幾何学文字が銃弾をすべて弾き、海翔には一発も当たらなかった。

 

 海翔が右腕を前に出した。その手の中にはいつの間にかヒューマンレコードカードが握られていた。海翔はヒューマンレコードカードをそのままエヴィデンスドライバーに差し込んだ。

 

《HUMAN! REALLY?》

 

 エヴィデンスドライバーの中心から幾何学文字が再び出現し、海翔の右前に集まり、やがて透明な人型が姿を現した。

 

 アントトルーパーは人型へと向かっていくが、その直前に

 

「変身!」

 

 と叫び、海翔がアクティブローダーを右手で押しこんだ。

 

《ALL RIGHT!YOU ARE HUMAN!》

 

 海翔の周囲に旋回していた幾何学文字が海翔へ収束し、海翔の体にアンダースーツが構成され、青のサイドラインが刻まれる。そして人型が海翔と重なり合い、海翔の体に純白の装甲が形成される。

 

《DON`T FORGET THIS ANSWER》

 

 変身が完了した海翔に対して、これまで沈黙を保っていたアーチャープレイスターがかすれた声で問いかけた。

 

「ダれだ、おまエわ」

 

 話せたんだ、と心の中で少し驚きつつも、海翔はその問いかけに考えるよりも早く答えていた。

 

「僕の名前はヒューム、仮面ライダーヒュームだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海翔―否、ヒュームが宣言するのと同時に、ヒュームの周囲にいたアントトルーパーズがヒュームへと攻撃を再開した。

 

 少し離れたところでは明奈が気を失っている人たちを病院の奥に運んでいるが、そちらの方には目もくれずヒュームにのみ向かう。

 

 先頭の一体がヒュームの目前まで迫る。その攻撃を寸前で躱し、懐に潜り込んで拳で一撃を浴びせる。アントトルーパーは大きく吹き飛び、床に転がったのちに爆散した。

 

 怯むことなく残りのアントトルーパーズが攻撃を仕掛ける。ヒュームはアントトルーパーズを病院の出口に誘導するように押し込んでいく。

 

 そして、出口間近まで押し込むとヒュームはブレイズレコードカードを取り出した。

 

『BLAZE!』

 

 高らかな声と共に、足に業火を纏ったヒュームが迫りくるアントトルーパーズに向けて回し蹴りを放つ。間近まで迫っていたアントトルーパーズは先ほどの一体と同じく爆散した。

 

 炎が消えるのと同時に、近接では分が悪いと見たのか、残りのアントトルーパーズが銃弾を放ってきた。避けるのが間に合わず、ヒュームは腕をクロスにして銃弾を受け止める。ヒュームにダメージは少なく、隙を見て反撃に移ろうと機会を伺う。

 

 しかしそこに銃弾の雨に交じって、一本の矢がヒュームに迫った。

 

 赤黒く染まった矢。その色は今までに吸った血の量を表している。

 

 比喩ではなく銃弾に匹敵する速度。ありえない速度で迫ったそれはヒュームの体に吸い込まれた。

 

「―ッ!」

 

 瞬間ヒュームの体が大きく吹き飛び、壁に叩きつけられる。あまりの衝撃に建物全体が揺れ、土埃が舞い起こる。アーチャープレイスターが先頭の間チャージしていた弓を解き放ったのだ。

 

 土埃がヒュームの体を隠したからか、アントトルーパーズからの銃撃がピタリと止まった。ヒュームは荒くなった息を整えながら思考する。

 

(もう一度受けたらまずいかもね…)

 

 そう考えながら、ヒュームはエレクトリックレコードカードを取り出した。

 

 一方アーチャープレイスターは次こそヒュームを仕留めんと、弓を引RIC きチャージを始めた。アーチャープレイスターの全身から矢へと、赤黒いオーラが流れていき凝縮していく。

 

  そして土埃が晴れた瞬間、アーチャープレイスターはヒュームらしき人影を視界に入れ、弦から手を放す。先ほどと変わらないスピードで赤黒い一射がヒュームに迫る。しかし、

 

《ELECTRIC!》

 

 ヒュームの体が文字通り雷と化して、アーチャープレイスターの一撃を寸前で避ける。雷はそのままアントトルーパーズを無視してアーチャープレイスターへと迫った。

 

 しかし矢を避けたヒュームが目にしたのは、正確に弓矢をヒュームに向けるアーチャープレイスターの姿だった。

 

(―ッ!)

 

 矢が直撃したヒュームの全身からは雷が消え去り、地面に転がった。とどめだ、と弓を構えるアーチャープレイスターと銃を構えるアントトルーパーズを見てヒュームは焦るながら思考する。

 

(何か手は…)

 

 と考え、一枚のカードの存在を思い出す。取り出したのはセイバーレコードカード。三日前の戦いで得た四枚目のレコードカードだ。

 

 迷っている時間はない、とヒュームはウェイクアクセッサーを押した。

 

《ONE MORE! PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

《SAVER!REALLY?》

 

 ヒュームがセイバーレコードカードをエヴィデンスドライバーに差し込む。読み込まれたのは剣士の記憶。騎士、剣闘士、侍。剣を持つあらゆるものの記録が瞬時にエヴィデンスドライバーに読み込まれる。ヒュームの装甲が光になって消える。同時にベルトから幾何学文字が飛び出し、ヒュームの右前に集まる。

 

 現れたのは鎧を身にまとい剣を持った人影。人影はヒュームに向かってきた弓と銃弾を、持っていた半透明な剣ですべて斬り落とした。

 

「再証明!」

 

《ALL RIGHT! YOU ARE SAVER!》 

 

 ヒュームが叫び、アクティブローダーを押し込む。同時にヒュームが纏っていた装甲が光となって消える。そして、剣を持った人影はヒュームと重なり合い、人影が消えると同時にヒュームの体に新たな装甲が装着される。

 

 ヒューマンフォームよりも重厚で、なおかつ動きを阻害するほどの重さは無く。アントトルーパーズは銃撃を浴びせたがすべて鎧に弾かれ、傷一つなくその純白を保っていた。

 

《DON`T FORGET THIS ANSWER》

 

 ヒュームが手を前に出すと、一振りの剣が生成される。カードを入れることができるユニットが付いている以外は何の変哲もない剣。ヒュームは手に馴染ませるかのように軽く一振りする。

 

 戦士の名を仮面ライダーヒューム、セイバーフォーム。剣士の記憶をその身に宿した純白の戦士だ。

 

「はあ!」

 

 剣―エヴィデンスカリバーを上段に構え、アントトルーパーズへと迫る。

 

 一閃。ヒュームがアントトルーパーズの一体を袈娑斬りにする。エヴィデンスカリバーが下に降りきった瞬間、残り数体となったアントトルーパーズが銃で殴りかかってきた。

 

 ヒュームは無防備にその攻撃を受けるが、鎧には傷一つ付かなかった。その隙にヒュームはエヴィデンスカリバーにブレイズレコードカードを挿入する。

 

『BLAZE!』

 

 それと同時にアーチャープレイスターが三本同時に弓を射る。一本はアントトルーパーズの間を潜り抜けて正面から。もう二本はそれぞれヒュームの左右から。まさに変幻自在。回避不能なそれを―

 

《ALL LIGHT! BLAZE SLASH!》

 

 アントトルーパーズもろとも業火を纏ったエヴィデンスカリバーが切り捨てた。アントトルーパーズが爆散し、ヒュームとアーチャープレイスターの間に一時的な壁ができる。

 

 アーチャープレイスターは大地を踏みしめ、今度こそは仕留めんと矢に赤黒いオーラを流していく。

 

 ヒュームはエヴィデンスカリバーにエレクトリックレコードカードを差し込み、アクティブローダーを二回押し込む。

 

《AUTHENTICATION! WHAT HAPPENED?》

 

 そのままエヴィデンスドライバーにかざした。アーチャープレイスターのさらに奥に半透明なヒュームのシルエットが作り出される。

 

 ヒュームの足とエヴィデンスカリバーに大量の電気が収束していく。

 

 火が消えアーチャープレイスターがヒュームを視認するよりも速く、ヒュームはエヴィデンスカリバーのトリガーを引いた。

 

《ALL RIGHT!SAVER ELECTRIC SLASH FINISH!》

 

 ヒュームが影と重なり合う。と同時にアーチャープレイスターの腹部からバチバチ、という音が響きアーチャープレイスターの体が地に伏す。地面に残った焼け跡だけがヒュームが通ったことを証明する。

 

 目にもとまらぬ一刀。防御も回避も一切許すことなくアーチャープレイスター切り捨てたのだ。

 

「―ッ!」

 

 奇怪な断末魔を上げてアーチャープレイスターが爆散する。

 

 煙の中からアーチャーレコードカードがヒュームの手元に飛んでくる。それを確認してヒュームがはエヴィデンスドライバーからセイバーレコードカードを抜き取り、海翔の姿へと戻った。

 

「海翔!」

 

 声に反応して海翔が振り返ると、明奈が傷だらけの人達を介抱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院から少し離れた建物の影に、フードを被った人影が先頭の一部始終をのぞき見ていた。手元にはアントレコードカードとトルーパーレコードカード、レコードカードを差し込むことができる銃が握られていた。

 

 建物に取り付けられていた監視カメラは鋭利なもので切り捨てられていた。

 

 海翔が病院内へ消えたのち、人影も瞬時に姿を消す。

 

 跡には黒い鳥のような翼だけが残されていた。

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