仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

7 / 20
どうも、お久しぶりです。
どれどれ、前回投稿したのが・・・スウゥ~(息を吸う音)
いやホント、大変お待たせしました。(土下座)

理由としては本業が大変だったから、などいろいろあります。

これからはもう少し間隔を短くできたらな~と考えてます。(願望)

あと今回気持ち長めです。


No.3 ARCHER/守る者と守りたかったもの

―警視庁地下五階 捜査第零課研究室

 

 世間からは秘匿された警視庁の地下五階。秩序的に部屋が並ぶ廊下は歩くものに少しだけ圧迫感を与える。

 

 その廊下をコンコン、と靴音を鳴らしながらスーツをキッチリと着た男が進む。男の名は松下(まつした) 優成(ゆうせい)。捜査零課長の肩書を持ち、未だ若いが捜査第零課を直接指揮する男だ。

 

 多くの捜査員たちとすれ違いながら廊下を進んでいく。スピードはいつもよりも速く、歩いているというより小走りに近い。そのことにすれ違った捜査員たちが驚きながら道を譲っていく。

 

 優成がたどり着いた部屋は、捜査第零課に自ら志願した命知らずでも入室を躊躇する一室である『開発研究部』。

 

 夜中には奇声が上がり、研究員が巨大な機械を運び入れたり、怒声が上がったりと『本当に警察組織か』などと疑われる部屋に、優成は躊躇なく入室する。

 

 普通の部屋三室分が当てられている研究室には巨大な機械と、どこから仕入れたか分からない業務用の巨大冷蔵庫がほとんどを占めていて、人が入れるスペースは量産型の部屋の一室よりもはるかに狭い。

 

 しかし、それ以上の問題があり―

 

「おい、何だこの惨状は」

 

「ノーコメント」

 

 優成は思わずツッコミを入れてしまった。数少ない足の踏み場は丸められた紙と空になったエナドリの缶で埋め尽くされていて、足の踏み場が全くなかった。

 

(元々は他の部屋と同じ広さのはずだったんだがな・・・)

 

 よくここまで散らかせるものだ、と優成は心の中で呆れ果てる。

 

 ちなみに、優成の部屋はベットと机が置かれているだけで散らかっていない。もっとも、仮眠室の代わりにしていて他の用途には全く使用していないという身もふたもない理由ではあるが。

 

「で、(なン)のようだ、優成」

 

 エナドリをストローで吸い込みながら、気だるげに男が問いかけた。

  

 男は遠目からでも分かるほど濃い隈をつくり、眠気を誤魔化すためか周りには更に多くの空き缶と菓子類の空き袋が散乱していた。彼の名は村上(むらかみ) 昭人 (あきと)。たった二人の開発研究部の主任研究員であり、捜査第零課の装備開発の第一人者である。

 

 優成はその問いに答える前に、視線を昭人とは反対側の端に向けた。

 

 そこにはこの研究所に相応しいゴミだらけの机で突っ伏す金髪の女性がいた。彼女がもう一人の研究員である雪村ノア。昭人の助手兼弟子である。

 

「まず、表向きの要件からだ。ライダーシステムの開発状況は?」

 

 表向き、という言葉に違和感を覚えながらも昭人はその問いに答える。

 

「8割がたは完成してる。後一週間もありゃ実戦に使えるな」

 

 答えた、と言ってもパソコンを触りながら、だが。飲み終えたエナドリの缶を床に捨て、新しいエナドリの缶を開けた。室内に放置されていたが、昭人は気にしていないという風にそのまま飲み始めた。

 

「適合者の方はどうなってンだ?」

 

「問題ない。三枚すべて目算が立っている。後は実際に使用させるだけだ」

 

「流石司令官サマ、仕事がお早い」

 

 澄まし顔で答えた優成に、昭人がおちゃらけて答える。

 

「・・・あー、忘れるとこだったわ」

 

 昭人は不意にキーボードを叩く手を止めて、机の下をガサゴソと探り始めた。そのすぐ後、昭人の机からガッシャ―ン!と大きな音が響き渡る。昭人が机の上にある空き缶を無造作に落としたのだ。

 

 ガシャガシャと音を鳴らして無造作に机に置かれたのは、赤色の銃、青色のブレード、そして緑色の槍。そのすべてには溝が彫られていて、加えてブレードと槍にはトリガーが付けられていた。

 

「これは?」

 

「一足先に完成させた、レコードカードを使った兵器だ。好きに使えや」

 

 そんな重要なものを雑に扱うな、という小言を必死に抑える。先日の会談で得たほぼ無制限の援助金は、その半分以上がこの兵器の開発に投入されているのだ。

 

「これで化け物を倒せるか?」

 

 昭人はボサボサの髪を搔きながら答えた。

 

「ムリだな、あくまでライダーシステムのおまけだ。単体での撃破までは期待すんな」

 

 昭人の投げやりな返答に落胆することなく、優成はフム、と少し考えこむ。

 

(単体での撃破は不可能、か。逆に考えればライダーシステムを使用すれば・・・。それに奴らに損傷を与えられるだけでも心強い。なにせ銃すら聞かない相手だ)

 

「・・・で、そういや裏向きの要件って(なン)だよ。早くしろ。とっとと寝たいンでな」

 

 黙り込んだ優成に、昭人が面倒そうに尋ねる。優成はノアの方をちらりと見る。

 

「昭人、まず聞いておくが今開発しているライダーシステムは三つだけだな?」

 

 昭人は数秒の沈黙の後、口を開いた。

 

「あー、そうだな。俺たちが開発してるライダーシステムは全部で三機だ」

 

「そうか・・・こいつを見てほしい」

 

 そう言って優成は昭人に持っていたタブレットを手渡した。昭人は訝し気にしながらもそれを受け取り―

 

「―――」

 

 言葉を、失った。

 

「昭人」

 

 饒舌だった口は固まり、タブレットに視線が吸い込まれたまま微動だにしなくなった。

 

「昭人」

 

 優成が再度呼びかけるも、昭人の様子はまるで変わらなかった。

 

「・・・おい昭人!」

 

「ッ!」

 

 昭人の肩を掴み、無理やり現実に引き戻す。その拍子に優成は昭人と目が合う。その目に浮かんでいるのは― 

 

「・・・」

 

「・・・邪魔をしたな。そこの兵器は後日取りに行かせる」

 

 気まずい沈黙を破るように言うと優成は入って来た時と同じ調子で研究室を出て行った。

 

 足音が遠ざかったのを確認してから、昭人は椅子に思い切りもたれかかる。ほぼ無制限の予算に乗じて買った椅子は、音一つ立てることなく昭人の体を受け止めた。

 

「なんで、お前が戦場(そこ)に居ンだよ・・・」

 

 タブレットの画面には異形の怪物と戦う、白い戦士が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はッ、はあッ」

 

 荒い息を吐きながら一人の男が走っていた。疲労はすでに限界に達しつつあり、視界はぼやけて口の中に鉄の味が広がりつつある。気を緩めると倒れてしまいそうな極限の状態でなお、男は入り組んだ路地裏をがむしゃらに走る。

 

 必死の形相で走る男をあざ笑うかのような視線が路地裏の影から浴びせられる。その主は自分が蹴落としてきたものか、あるいは自分に媚びてきたものか。男はそれに気づくことなくなおも走り続ける。

 

 ジャラジャラと首に巻いた鎖が鬱陶しい。だが、外すために減速する時間もましてや停止する余裕も今の男にはない。

 

 うまくやってきた、と思っていた。適当な奴を脅し、金を奪う。気分が悪い時はそのままリンチにしてやった。

運が良かったのか、警察に捕まることはなかった。ヘマをした部下がしょっぴかれるたびにそいつのことをバカにしていた。

 

 力があると思っていた。俺は他とは違うのだと。

 

 違う。運が良かっただけだ。

 

 アレに目を付けたのには特に理由はなかった。しいて言えば目が気に入らなかった。自分が強者であるという自負、その他の連中とは違うと目が語っていた。

 

 いつも通りに金を巻き上げて、いつも通り暴力を振るう。

 

 ―それが運の尽きだった。

 

 路地裏の奥に連れ込んだ。痛めつけようと十人ほど仲間を呼んだ。財布を奪おうと一人がアレに詰め寄った。

 

 そいつは首がなくなっていた。

 

 誰も動けなかった。声も出せなかった。できたことはただアレの蹂躙を呆然と見つめることだけだった。首が飛んだのは一人だけ。腕と足をもいで、折って、と繰り返していった。

 

 それだけならまだいい。かろうじて飲み込めなくもない。

 

 男が倒れた奴らに何かを差し込んだ。

 

《DIAMOND》

 

 そいつらはビクッ、と大きく跳ね、この世のものとは思えない絶叫を上げた。そしてバラバラ、と体を白い宝石に変えていった。

 

 ようやく男は理解した。自分が手を出したのは化け物だと。

 

 五人が宝石になってようやく男の体は動いた。

 

 不意に男の視点が地面に迫った。体に走る痛みで自分が転倒したのだと気づいた。迫ってくるアレを思い浮かべ、逃げようと顔を上げると、目の前にあの化け物がいた。そしてその手には、

 

「あ、、あし・・・」

 

 男の足が握られていた。ゆったりと怪物が迫るのを見て、男は自分の結末を悟った。

 

《DIAMOND》

 

 どこからか声が響き、自分の体が置き換わっていく感覚と共に意識を闇に沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退屈だ・・・」

 

 海翔は机に寝そべって、ポツリとこぼしてしまった。そのつぶやきを拾うものはおらず、そのまま虚空に溶けていった。

 

 本来ならこれほど暇を持て余すことはない。子供たちの相手、炊事、洗濯、掃除、経理・・・と山のように仕事がある。とはいえ海翔はそんな仕事が嫌いではない。そのすべてが子供たちに繋がっているし、やりがいもある。であるにも関わらず昼間から退屈に身を任せているのは・・・

 

『「海翔は退院したばかりだから休むように!」』

 

 という明奈のせ、・・・お陰だ。言い直したのはどこからか圧を感じたからではない。断じて。ともかく明奈のその一言で、海翔のすべての仕事が無残にも奪われたのだ。

 

 いつも二人がかりでこなしている仕事だ。二人では無理だと手伝おうとした。しかし・・・

 

「海翔兄は休んでなよ」

 

「(コクコク)」

 

「そうそう、いつも働き詰めなんだからさ」

 

 とは子供たちの言。見事な連携プレーで次々と家事をこなしていった。彼らの成長にハンカチを濡らしつつ、ならばと自分にしかできない経理仕事をしようとしても、

 

「あ、昨日のうちに終わってるから」

 

 と徹底的に仕事が潰され、海翔は隅の方でおとなしくしていた。だからこそ、

 

 ピンポーン

 

 来客は大歓迎だった。明奈たちは買い物で駅前のショッピングモールまで出かけていてここにはいない。必然的に来客の相手は海翔がすることになる。

 

(祈里さんか優月かな)

 

 通話口から見えたのはドレスを着た黒髪の少女。周りとの身長差から小学生ほどだろう。誰かの友達かな、と思いながら海翔は扉を開けた。が、

 

「久しぶり、()()()。いや、今は兄さんだったね」

 

 少女と目が合って感じたのは郷愁、歓喜。そしてそれ以上の身の毛がよだつような恐怖。思わず息をのみ、一歩下がってしまう。あらゆる物影から殺気が浴び去られているような感覚になる。

 

「どうしたんだい?顔色が悪いみたいだけど」

 

 少女が音もなく海翔の目の前に迫る。目の奥にあるのは殺気ではなく親愛。にもかかわらず頬をなぞる恐怖は消えず、その差に嫌な汗が流れる。

 

「・・・誰、ですか」

 

 何とか声を振り絞る。少女は一瞬だけ整った顔を曇らせ、しかしすぐに笑顔の仮面を被り直した。

 

「今日はね、君を助けに来たんだよ。仮面ライダー」

 

「なっ・・・」

 

 海翔は少女から離れようとしたが、体が何かで縛られたように動けない。見ると建物の影から這い出てきた黒い紐状のものが海翔の体に巻き付いてきた。

 

(僕の正体を知っている?)

 

 海翔は動揺を必死に抑え込みながら、拘束を解こうと体に力を入れる。

 

「まさか、自分からそれを名乗るなんて。やっぱりそういう運命なのかな、君は」

 

 少女が心底楽しそうに嗤う。

 

「本題だけどね、この街の駅の近くにある繁華街。そこで怪物がでたよ」

 

「なっ・・・」

 

 海翔の脳裏に浮かんだのは、これまでに戦った二体の怪物。どちらの戦いでも多くの被害者が出ている。

 

「さて、ここで問題だ。君以外のここの住人はどこにいるでしょう?」

 

 言うや否や、少女の体が崩れ影の中に溶けていき、同時に海翔の体の自由が戻った。少女を追いかけるか、怪物の方へ向かうかで少し逡巡する。しかし数分後、ドライバーを腰に巻いて繁華街の方へ駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都心に近いからか一般的には都会と呼称される場所。しかし、その名前に相応しい空気になるのは深夜を回ってからで、現在は閑散としている。しかし、

 

 ダダダダダ―

 

 日常の一角から出てはいけない音が響き渡る。

 

 ビルが棒切れのように倒れていき、中心地にはその暴虐を示すかのように巨大なクレーターが出来上がっている。土埃が晴れ、現れたのは白銀の巨体の怪物。日光をまぶしく反射し、その巨体を存分に生かして暴れまわる。雨のように銃弾が降り注ぐが意には返さず、暴虐の手を止めることはない。

 

 周囲にいるのは警察官。しかし、装備は本来のものとは違う。持っているのは拳銃ではなくアサルトライフル。銃身から持ち手、装弾数までが魔改造され、殺傷性能が大幅に上がっていた。

 

 にもかかわらず、怪物―仮称:ダイヤモンドプレイスターを仕留めるどころかかすり傷を与えることすらできないでいた。

 

『C隊は第二ラインまで下がれ!E隊はC隊を援護しろ!F隊はC隊に代わって前進!』

 

 無線から松下司令官の声が響く。それに従って十人以上の警官が一斉に行動を始める。

 

 それを尻目に警官の一人である瀬良(せら) 詩音(しおん)はこの現場に来たことを後悔していた。

 

 単純に勝ち目がない。こちらからの攻撃は決定打にならず、安全マージンで死者が出ていないとはいえ、負傷者は毎分増えていく。

 

「―――」

 

 銃弾を装填し終え、射撃を再開しようとしたところで唐突に怪物の動きが止まった。その異変に嫌なものを感じ、詩音を含む警察官の銃撃を止める。

 

 先ほどまでの騒々しさが嘘のようにあたりが静まりかえる。心臓の音や呼吸音さえも煩わしくなるほど嫌な沈黙が場を支配した。そして―

 

「ーッ!」

 

「何ッ!」

 

 静寂は訪れた時と同じく唐突に破られた。

 

 これまでほとんど動かずに暴れまわっていた怪物が、何かを目指すかのように唐突に進み始めたのだ。

 

『―ッ!総員、八型手榴弾を含む全ての兵器の使用を許可する!奴をこの包囲の外に絶対に出すな!』

 

「「「了解!!!」」」

 

 怪物の再起動と共に銃撃も再開される。しかし、怪物はそれを意にも返さずある一点を目指して進み続ける。

 

 戦場に響くのは銃撃だけではない。爆発音とともに地形が抉れていく。投擲されたのは手榴弾。こちらも対プレイスター用に開発された代物だ。その威力は大きく、

 

「―――!」

 

 幸運にも詩音が投擲した手榴弾が怪物を怯ませるに至った。その一瞬の隙を縫うように弾幕の雨が怪物に降り注ぐ。

 

「司令、あと何分持たせればいいですか!?」

 

 詩音が無線に向かって怒鳴るように問いかけた。大量の物資を用いて何とか膠着状態に持ち込んだものの、いつ破られるか分からない。

 

『あと・・・五分持たせてくれ』

 

(五分、それなら・・・)

 

 残りの物資量、隊員の精神状態を加味しても十分に現実的な範囲だった。もっとも、それは―

 

 相手の未知性を度外視した場合、であるが。

 

 不意に怪物が両腕を正面に向けた。

 

 小柄な体格を生かして瓦礫の影に隠れる。いつもは何かと恨めしく思う体形に、この一瞬だけ感謝した。

 

 同時に怪物の腕から大量の宝石が高速に射出される。まるで星の輝きのように戦場を染め上げる。これだけを切り取るならば神秘的で、見る人を魅了するだろうが、晒されている当人たちにとっては―

 

 数秒と持たずに盾にしていた瓦礫が悲鳴を上げ始める。とっさに持っていたアサルトライフルを盾にする。

 

「―カッ」

 

 短い呼吸音と共に瀬良の体が大きく吹き飛ばされる。全身が打ち付けられ、一瞬だけ意識が飛びそうになる。

 

 先ほどまで銃声や爆発音が響いていた戦場が一転、静寂が支配することとなった。

 

 ポタ、ポタと血が流れ落ちる。携帯用ナイフでとっさに腕を切り付け意識を保ったものの、怪物を視界から外してしまった。肩で息をしつつも何とか怪物を視界に戻したが、

 

「―あ」

 

 目前に怪物が迫り、拳を振りぬいていた。詩音は数秒後の未来を鮮明に想像してしまう。そのことに感想を抱く時間も、走馬灯を見ることもなくその想像は現実へと収束されていく。

 

 しかし、それは―

 

《ELECTRIC!》

 

 仮面ライダー()がいなければ、の話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然現れた第三の人物。顔はフルフェイスヘルメットで覆われており―端から見れば不審者そのものだが、その正体は言うまでもなく伊藤海翔その人であった。

 

 この場のすべての視線を集めながら、海翔は抱えていた詩音をゆっくりと降ろし、守るかのように怪物に向かって一歩踏み出した。

 

 警察官たちは不審な人物に警戒しているのか、それともあっけに取られているのか沈黙を保っている。

 

 そして海翔は、

 

 (あっぶな、周りにいるの警察じゃん!)

 

 ヘルメットの下で冷や汗をかいていた。明奈やみんなに迷惑をかけないように、と正体を隠すためにとっさに被ってきたのが功を奏したようだ。しかし、明奈や子供たちが巻き込まれていないようでひとまず安堵する。

 

 警察がいるなら教えてほしかったな、と不気味な少女に心の中で文句を言う。勿論心の中だけだ。結果だけ見ると彼女は海翔に怪物の情報を知らせたただのいい人だ。何ならお礼言いそびれたな、と後悔しているまである。そういうところだぞ、明奈が心配するのは。

 

 一方、怪物の方は

 

「――」

 

 顔に当たるであろう器官を海翔の方へ向け、まるで海翔が目的だったというかのように殺意を滲ませている。

 

「まあ、この戦いを無事に乗り切れたらだけどね」

 

 思考を吹っ切るように呟いて、既に装着していたエヴィデンスドライバーに手をかける。同時に海翔の手に光が収束し、虚空からヒューマンレコードカードが出現する。

 

『AUTHENTICATION!PROVE THAT WHO YOU ARE!』

 

『HUMAN!REALLY?』

 

 半透明なヒトガタが現れるのと同時に怪物が海翔の方へ駆け出した。ダイヤモンドの記録を埋め込まれたことにより変化した全身が凶器となって海翔へと迫る。

 

 しかし、当の本人である海翔は逃げることなく受け止めることを選んだ。背後では回復しきっていない詩音が倒れ、その更に後ろには何人かの警察官が未だに残っていた。彼らを見捨てるという選択肢は勿論海翔の中にはない。

 

「変身!」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE HUMAN!》

 

 ダイヤモンドプレイスターの体を受け止める瞬間、幾何学文字が収束し、海翔の体が変化する。ダイヤモンドプレイスターに勝るとも劣らない純白の戦士の姿へと変わり、アンダーラインに鮮やかな青色が刻まれる。一拍おいてヒトガタが海翔の体に重なり合い、これまた純白の鎧がヒュームの体に構築される。

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面、ライダー・・・」

 

 誰かのつぶやきが詩音の耳にやけに大きく響いた。それを発したのが現場にいる者か、それとも無線から聞こえたものか今の詩音には判別がつかなかった。

 

 仮面ライダー、怪物に対抗するために水面下で開発が進んでいるという噂の()()。何を大げさなと噂を聞いたときは呆れたものだ。

 

 しかし、目の前の戦士の戦いからこの評価は過剰ではなかったのだと訂正する。

 

 怪物の拳が仮面ライダーに迫る。怪物にとってはなんの特別なものではない一撃。人間では目視はできても対処はまず不可能、物言わぬ肉塊へと瞬時に変貌するだろう。しかし、仮面ライダーはその一撃を手慣れたように受け流し、反撃と言わんばかりに怪物に蹴りを放った。

 

 しかし、その蹴りもダイヤモンドプレイスターの鋼殻に阻まれてうまくダメージを与えることげ出来ていないようだった。それを見るや否や、仮面ライダーの攻撃は怪物の肘や肩などの関節部へと集中した。

 

 ダイヤモンドプレイスターの大ぶりな攻撃を利用して仮面ライダーが懐の中に入る。そして隙だらけの腕の関節に対し手刀を放つ。しかし、怪物は痛痒を感じた素振りもなく、仮面ライダーに向けて攻撃を続けている。

 

 ならばと仮面ライダーは新たにレコードカードを取り出し、腰に巻き付いているドライバーにかざした。

 

《BLAZE!》

 

 ベルトが声を上げるのと同時に仮面ライダーの両拳に明るく燃え滾る炎が出現した。仮面ライダー自身には炎の熱さは届かないのか、痛みを感じた様子はなくそのまま怪物に向かっていく。

 

 そこに広がっているのは先ほどまでの怪物による蹂躙という構造ではなく、両者で駆け引きが繰り広げられる同格同士の戦いであった。

 

『瀬良隊員、身体は大丈夫か?』

 

「ッ!はい!問題ありません!」

 

 仮面ライダーの戦いに思わず魅入られていた詩音は、唐突に聞こえてきた無線に驚きつつ答えた。戦いに見とれている間に止血を済ませていたお陰で、何とか動けるまで回復していた。撤退くらいならこなせるだろうと返事したが、無線から聞こえてきたのは意外なものだった。

 

《そうか、なら・・・》

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょっと硬すぎやしないかなぁ!)

 

 ストイックに戦っていると見せかけて、ヒュームは内心大慌てだった。一撃の威力が上がるブレイズレコードカードを使ってダメージは与えているものの、このまま撃破まで粘り続けるのは現実的ではなかった。

 

(だったら!)

 

 炎を纏った蹴りをダイヤモンドプレイスターに向けて放つ。相変わらず大したダメージは入っていないが、ヒュームの狙いはそこではなかった。ダイヤモンドプレイスターを怯ませるとともに、蹴りの反動で大きく距離を取る。

 

『ONE MORE!PROVE THAT WHO YOU ARE!』

 

 エヴィデンスドライバーからヒューマンレコードカードを外すとともに、ヒュームの鎧が光の粒子となって空中に溶ける。

 

『SAVER!REALLY?』

 

 その隙を逃さずダイヤモンドプレイスターが宝石の弾丸を放つ。鎧を纏っていなければ容易に戦闘不能へと至る弾丸を、新たに出現した剣を持つヒトガタが全て地面に叩き落とす。その衝撃で土埃が舞い、一時的に怪物の資格を遮る。

 

「再証明!」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE SAVER!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 アクティブローダーを押し込むとともにヒトガタがヒュームの体に重なり合う。土埃が晴れ、現れたのは騎士然としたヒューム。手をかざすと虚空からエヴィデンスカリバーが出現する。その柄を握りしめ、先ほどよりも一回り重厚になった鎧をもってダイヤモンドプレイスターに突貫する。

 

《BLAZE!》

 

 先ほどまでとは違い、ベルトではなくエヴィデンスカリバーにブレイズレコードカードを差し込む。炎を纏ったエヴィデンスカリバーをダイヤモンドプレイスターに叩きつけた。

 

 最上段からの一撃。あまりの威力にダイヤモンドプレイスターが踏みしめる地面に亀裂が走る。しかし、甲高い音と共に剣が弾かれそうになる。通用していないのか痛覚がないのか、ダイヤモンドプレイスターには動じていない。

 

 がら空きになったヒュームに向けて拳が振るわれる。

 

《ALL RIGHT!BLAZE SLASH!》

 

 拳が当たる寸前、エヴィデンスカリバーのトリガーを押し込む。同時にエヴィデンスカリバーが纏っていた炎が更に火力を増す。そしてついに、

 

「―!」

 

 エヴィデンスカリバーが宝石の体に切り込んだ。

 

「ハアッ!」

 

 それを見逃さずヒュームが掛け声とともに、エヴィデンスカリバーをダイヤモンドプレイスターに向けて振り下ろしていく。ゆっくりだが確実にダイヤモンドプレイスターの命へと剣が迫っていく。そのまま届くかと思われた寸前、

 

「―クッ」

 

 防御をかなぐり捨てた攻撃で、無防備となったヒュームにダイヤモンドプレイスターの拳が直撃する。不意の一撃であったことと、あまりの勢いにエヴィデンスカリバーの柄から手が離れる。その隙を見て今度はダイヤモンドプレイスターが大きく距離を取る。

 

 ダイヤモンドプレイスターが刺さっていたエヴィデンスカリバーを抜き捨てる。血液の代わりか、傷口から極小の宝石があふれている。

 

(でも、一撃は加えた!もう一度―って!)

 

 ヒュームが投げ捨てられたエヴィデンスカリバーに向けて走り出そうするが、それよりも早くダイヤモンドプレイスターが動いた。ヒュームを確実に仕留めるべく、警察官らを半壊させた倍以上の宝石がヒュームにめがけて襲い掛かる。

 

(エレクトリックでも避けきれない、いや、それより!)

 

 射線の先には戦いの行方を見守っていた警察官たちがまだ残っていた。とっさに避けようと動きだしているが、迅速な行動むなしく何人かは射線上に入ったままだった。

 

「クッ、間に合え!」

 

 一つでも多くの宝石を打ち落とそうと、エヴィデンスドライバーに手をかける。エヴィデンスカリバーが無くても、としかし、それよりも速く

 

《1-Reading》

 

《Ruby Shooting Burning!》

 

 無機質な機械音声と共に複数の銃撃音が響き渡る。ヒュームの後方から飛来した幾つもの紅い宝石が白の宝石を正確に撃ち落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数分前

 

「どーもー。遅れたというべきか間に合ったというべきか、ちょっと判断が付きませんねー」

 

 白衣を着た金髪の少女が詩音の前に気だるげに立っていた。碧眼の下には遠目でも見えるほどの濃い隈を浮かべ、乱れ切った髪と合わせてその印象を加速させていた。

 

「あ、自己紹介ですねー。第零課開発研究部所属のー雪村ノアといいますー」

 

 首から下げた名札をヒラヒラとさせながら、詩音に向けて名乗る。

 

「そっちは良いですよー。課長さんから聞いているのでー」

 

 ノアが補足するが、詩音はそれどころではなかった。いや、それ以前からそれどころではなかったが。

 

「か、開発研究部の・・・」

 

「あーやっぱそんな反応になりますよねー」

 

 開発研究部、第零課の平隊員からは七不思議扱いされている部署だ。他の部署と同じくらい、又はそれ以上大切な部署であるのにも関わらず、所属している研究員が数えるほどしかおらず実態が不明瞭だ。そのためか、根も葉もない噂ばかりが先行している。曰く、夜な夜な人体実験を行っている。曰く、世間には公にできない兵器をいくつも開発している。曰く、曰く・・・

 

 そんな詩音を見て、ノアは遠い目をした。

 

「大丈夫ですよー。半分は真っ赤な嘘なのでー」

 

 半分は本当のことなのか、と詩音は内心でツッコむ。

 

 その間にもノアは持っていたアタッシュケースを開錠していく。指紋認証、色彩認証、暗証番号など多重のロックを手慣れた手つきで解いていく。

 

 一分とかからずに開けられたその中に入っていたのは真紅の拳銃。遠目からも目立つようなその側面には銃身に沿うように細い溝が彫られ、グリップには所属を示すように警察章が刻まれている。

 

「これが―」

 

 インベスティマグナム―開発研究部が国からの補助金を湯水のように使って開発に漕ぎつけた対プレイスター用の兵器。改造アサルトライフルや八型手榴弾などとは違い、ゼロから新たに開発が行われた。それゆえ既存の兵器には存在しなかった機能が多数組み込まれていた。そのうちの一つがー

 

「レコードカード―」

 

 レコードカードの兵器化である。

 

 詩音がインベスティマグナムとともに収められていた紅く輝く宝石が描かれたカード―ルビーレコードカードを吸い込まれるように手に取る。

 

 数秒間魅入られるようにルビーレコードカードを見つめていたが、ガン、という戦場から響く音と共に現実に引き戻された。戦場に視線を戻すと先ほどよりも重厚な鎧を纏った仮面ライダーが大きく吹き飛ばされていった。

 

 距離を取った怪物が仮面ライダーに向けて腕を持ち上げる。先ほども見た怪物の構えに、詩音はとっさにインベスティマグナムを手に取り、怪物に向けてトリガーを引く。

 

「・・・えっ」

 

 カチッ、カチッと軽い音が響き渡る。詩音の予想に反して、インベスティマグナムからは弾丸の一発も発射されなかった。グリップを見ても弾倉に当たる部分が存在せず、銃として欠陥品であると言わざるを得なかった。

 

「はーい、ちょっと失礼しますねー」

 

「え、ちょっと」

 

 困惑する詩音をよそにノアがルビーレコードカードを取り上げ、そのままインベスティマグナムに彫られている溝にカードをスライドさせた。

 

《1-Reading》

 

 無機質な機械音声がインベスティマグナムから響く。それと共に、レコードカードに描かれていた宝石のような真紅の光が銃口に集まっていく。

 

「え、あの、ここからどうすれば!?」

 

 銃が突然SF映画のような挙動をしだし、詩音の困惑が加速する。

 

「あ、普通のアサルトライフルみたくーバーンと撃っちゃってくださいー」

 

 それに対してノアは変わらずマイペースに答える。詩音が戦場に目を戻すと、仮面ライダーに向けて宝石の雨が今にも降り注がんしていた。

 

(迷ってる時間はない!)

 

 そう思うよりも早く、詩音はインベスティマグナムの引き金を引いた。

 

《Ruby Shooting Burning!》

 

 機械音声と共に真紅の光の弾丸が銃口から射出される。銃口から離れると、光はやがて質量を持ち始め、やがて銃弾サイズのルビーへと変化する。それも一発ではなく何十発も。拳銃のような構造からは想像できないほどの弾幕が戦場を彩っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で紅と白の光が交錯し、消えていく。その輝き、その儚さにここが戦場であることを一瞬忘れそうになる。

 

 数秒間のインターバルを挟み、再度二つの光が交錯する。

 

(セイバーは・・・難しいよなぁ)

 

 後方からの援護に弾幕の迎撃は任せ、ダイヤモンドプレイスターに止めを刺すべく思考を続ける。エヴィデンスカリバーは彼方に刺さったままで、そもそも怪物は遠距離からの攻撃を止める気配がなく、近接戦で仕留めるのは困難を極める。それに加え、ヒュームは援護射撃の性能について理解していない。射程距離や威力の減衰性が分からない以上、下手に動いてこの均衡が崩れ戦況が悪化するのは避けたい。

 

(遠距離で、かつ高威力・・・)

 

 ヒュームの脳裏によみがえったのは先日の戦い。アーチャープレイスターがヒュームを弾き飛ばすほどの矢を打っていたことを思い出したのだ。その力の元になったアーチャーレコードカードならば、この場所からもダイヤモンドプレイスターを仕留めきれるのではないかと考えた。

 

 そこまで考えて、ブレイズレコードカードがエヴィデンスカリバーに刺したままだったことを思い出す。

 

 確実に怪物を仕留めるならブレイズレコードカードは必須だが、先ほど切り付けた傷を狙えば撃破は十分可能だろう。

 

(最悪二射目で仕留める!)

 

 援護射撃の残弾数も気になり始めた。早急に作戦を実行するべく、アーチャーレコードカードを取り出そうとしたその時、

 

「・・・」 

 

 いつの間にかブレイズレコードカードが手元に戻っていた。

 

「え、あー、まじか」

 

 困惑で気の抜けた声を出してしまう。変身の仕組みといい、どこからともなく現れるヒューマンレコードカードといい謎が多いヒュームだが、これもその一つだろうか。

 

(まあ、一旦気にしないでおこう!)

 

 だがこの場はいったんスルーすることにした。

 

《ONE MORE!PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

 ウェイクアクセッサを押し込み、セイバーレコードカードを取り出すとともにヒュームの体から鎧が、そしてエヴィデンスカリバーが光となって霧散する。そして、取り出したのは弓矢を構えた人影が描かれたレコードカード―アーチャーレコードだ。

 

《ARCHER!REALLY?》

 

 カードに刻まれた弓使い達の記録がベルトによって再生される。幾何学文字が出現し、ヒュームの左前に収束する。出現したのは弓を持ち、矢筒を背負った半透明なヒトガタ。

 

「再証明!」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE ARCHER!》

 

 掛け声とともに弾幕が晴れた瞬間を狙ってアクティブローダーを押し込む。ヒトガタがヒュームに重なり合い、装甲が新たに生み出される。ヒューマンフォームよりも軽量化され、機動性が大きく上昇している。防御性を補うように外套が追加される。全身を覆うそれは、ヒュームのアンダースーツと同じく純白で汚れ一つ見当たらなかった。

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 仮面ライダーヒューム アーチャーフォーム。孤高なる狙撃手の記憶を宿した姿だ。

 

 ベルトが言い終わるや否や、ヒュームが虚空に手をかざす。変身時と同じくエヴィデンスドライバーから幾何学文字があふれ、ヒュームの右手に収束する。光が晴れた後、ヒュームの右手に収められていたのは純白の弓―エヴィデンスアロー。エヴィデンスカリバーと同じくレコードカード読み込む機構が取り付けられていて、青いラインが走っている。

 

《BLAZE!》

 

 エヴィデンスアローにブレイズレコードカードを差し込む。青かったラインが赤色に代わり、それと同時にエヴィデンスアローが変形し、日本伝統の弓―いわゆる長弓の形になる。

 

《LONG MODE!》

 

 紅白の光が交錯する中、ウェイクアクセッサーを二回押し込み、ブレイズレコードカードを弓矢ごとベルトに読み込ませる。

 

 その瞬間、半透明な矢のようなポインターがダイヤモンドプレイスターに突き刺さる。宝石の体ではダメージにはなり得ないはずだったが、世界に縫い付けられたかのようにその動きを止める。

 

 宝石の雨が晴れ、ヒュームは長弓を引き絞る。人間では少し引くだけでも苦労するほどのそれを、ヒュームは何の苦も無く引き絞る。引き絞るほどにブレイズレコードカードから記録が読み取られ、弓の中に炎が凝縮された矢が生み出される。凝縮された炎の矢は激しい熱を引き起こし、耐熱性能があるはずのヒュームにも熱が伝わっている。

 

 そして、最大限まで引き絞ったのを確認すると、ダイヤモンドプレイスターに向けて矢を放った。

 

《ALL RIGHT!ARCHER BLAZE SHOOTING FINISH!》

 

 まるで最初から定められていたかのように、爆炎の矢がダイヤモンドプレイスターに向けて飛来する。狙うはエヴィデンスカリバーが切り裂いた傷跡。現実の矢と半現実の矢が重なり合った瞬間、すさまじい勢いでプレイスターの体が削られていく。アーチャーレコードカードによる狙撃技術とブレイズレコードカードによる爆炎が相乗効果により、一点突破という目的においてはセイバーレコードカードを上回る威力を見せたのだ。

 

「―――」

 

 数秒の拮抗ののち、ついに炎の矢がダイヤモンドプレイスターを貫いた。怪物は信じられないという風に呆然と佇んだのち地面に倒れ伏し、爆音とともにその体を爆発させた。

 

 爆風と共に一枚のレコードカードがヒュームの元に飛来する。おっとっと、となんとか白銀の宝石が描かれたカード―ダイヤモンドレコードカードを掴み取る。

 

(さて、と・・・どうしたものかな)

 

 ヒュームは変身したまま周りを見渡す。そこには警戒している様子の警官たちが不安げにヒュームを見ていた。戦闘音が消え去り、どこか気まずいような空気があたり一帯に流れる。

 

(よし、逃げよう)

 

 戦いを終えた疲労感からか、それとも漂う空気感からかヒュームは逃走を選択した。

 

《ELECTRIC!》

 

 エヴィデンスドライバーがレコードカードを読み取ると同時に、この現場に来た時と同様に残光を残して現場から消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面ライダーが去るとともに、詩音は糸が切れたようにその場にへたり込んだ。大きく肩で息をしながら、手元のインベスティマグナムとルビーレコードカードを見つめる。

 

 どうやら医療班が到着したようで、あたりが一気に騒がしくなる。

 

 安堵からか、不意に視界が黒く塗りつぶされる。ノアの妙に間延びした声が遠くから聞こえ、やがてそれすらも聞こえなくなる。

 

 脳裏に浮かぶのは詩音が一生忘れることはない記憶(トラウマ)

 

 頭を抉り取られた父親、腹の中身を掻きだされた母親、原形を留めていない兄と妹。

 

 そしてそれを為したであろう、黒く醜い異形の怪物

 

(あの力があれば・・・)

 

 目の当たりにした仮面ライダーを思い出し、黒く醜い感情を抱く。

 

 私も化け物だな、と自嘲しながら意識を手放す。

 

 ―怪物(あいつに)復讐できるのに




海「みんな、まだ帰ってきてないよね・・・」

慎重に扉を開ける。

海「ただいm・・・」

明「どこほっつき歩いていたのよ!」

海「―スミマセン」

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