仮面ライダーヒューム   作:熊澤しょーへい

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前回の続きから。気持ち短めかも。


No.5 WOLF/その牙が向くのは何処?

 海翔は地面に転がり、その場から離れる。同時にプレイングスキャナーの銃口から光弾が放たれ、海翔が立っていた地面から火花が走る。

 

 灰色の戦士がプレイングスキャナーの照準を海翔に合わせなおすよりも早く、海翔は腰にある白きデバイスを起動していた。

 

《AUTHENTICATION!PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

《HUMAN!REALLY?》

 

 半透明のヒトガタが戦士の右腕を蹴り上げ、すんでのところで弾丸の軌道が空中へと逸らされる。ヒトガタは戦士に向かって殴りかかるも容易く避けられる。お返しにと戦士が放った光弾が命中し、ヒトガタは大きく後方に吹き飛ばされる。

 

「変身!」

 

 アクティブローダーを押し込むと同時に、海翔はヒトガタの元へと駆け出す。重なり合った瞬間、海翔の体に純白の装甲が生成され、飛来した光弾を全て防ぎきる。

 

《ALL RIGHT!HUMAN!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 相手の得物は銃。遠距離戦ならこちらも対抗するべくアーチャーフォームへとチェンジすべきか、という考えが頭をよぎる。しかし、すぐさまその案を却下する。アーチャーフォームは機動力は優れているものの、他の二つのフォームに比べて格段に防御力が低い。相手が所持しているレコードカードは一枚とは限らないため、不意の一撃で大ダメージを負う可能性がある。

 

 故に、まずはできるだけ相手の手札を開示させる。変身が完了したヒュームはそのまま灰色の戦士へと接近する。

 

 ヒュームがとったのはボクシングのような構え。生憎彼の知識の中の格闘術はこれくらいしかなかったのだ。しかし、知識や経験に反して彼が扱う格闘術はとても洗練されていた。

 

 全身を軸にして左ストレートを打ち出す。灰色の戦士は難なくそれを避けるが、それは誘導されたもの。避けた先に本命の右ストレートを命中させる。反撃に出た戦士の攻撃を最小限の動きで掠めるように避け、そのままの勢いで無防備になった胴体にヒュームの蹴りが吸い込まれる。

 

 しかし、技量では灰色の戦士も負けてはいない。ヒュームの蹴りを寸前で回避し、銃撃を叩きこむ。

 

 ヒュームは大きく体を捻って回避したが、戦士はその隙に新たなレコードカードを取り出し、プレイングスキャナーにクロウレコードカードの上から差し込む。そこに描かれていたのは巨大な腕を持つ猛獣の姿。

 

《レコードカードを再度確認。読み取り開始》

 

 鳴り響く不快な機械音を背景に戦士はプレイングスキャナーを再度自分の腕に当て、引き金を引いた。

 

《再生完了。ゴリラ(GORILLA)

 

 戦士の腕にノイズが走り、やがて機械の巨大な装甲を纏った腕が出現する。

 

 戦士はその腕を思い切りヒューム―ではなく地面に向けて叩きつける。腕からは膨大なエネルギーが地面に注がれ、亀裂と共にヒュームに向かって走っていく。

 

「―ッ!」

 

 寸前で腕をクロスさせて防御に成功したが、不意の一撃に大きく後退させられる。顔を上げると、灰色の戦士がもう一度腕を振り下ろさんとしているところだった。ヒュームは慌ててウェイクアクセッサーを二度押す。

 

《ELECTRIC!》

 

 二度目のエネルギー波がヒュームのいた位置を襲う。しかしそこにヒュームはおらず、バチッという音と共に電気が帯電しているだけだった。

 

 ドライバーにレコードカードをかざす形で能力を使う場合、維持できる時間は()()()()()()()()()で約十秒。それがこれまでの戦いで学んだエヴィデンスドライバーの機能。

 

 なので、エレクトリックの効果は現実世界では一秒と経たずして消失する。だがその時にはもうヒュームは灰色の戦士の背後にいた。無防備な背後から蹴りを加える。しかし、ヒュームは見逃していた。

 

 戦士がエネルギー波に隠れてカードをもう一枚プレイングスキャナーに差し込む瞬間を。

 

《レコードカードを再度確認。読み取り開始》

 

《再生完了。(SHARK)

 

 グルン、と金色の複眼にヒュームの姿を捕らえる。顔の形状が烏から鮫に似たようなものへと変化している。

 

「―なっ」

 

 絶句するヒュームに装甲を纏ったままの腕で一撃を加える。マトモに喰らったヒュームは口から呻き声が漏れてしまう。

 

(出し惜しみしてる場合じゃない!)

 

 弾き飛ばされた衝撃で戦士から大きく離れたことを利用し、ウェイクアクセッサーを再び押し込む。ヒューマンレコードカードを抜き去ると、代わりにセイバーレコードカードをエヴィデンスドライバーに挿入する。

 

《ONE MORE!PROVE THAT WHO YOU ARE!》

 

《SAVER!REALLY?》

 

 追撃を仕掛けようと灰色の戦士が巨腕を振り上げて距離を詰める。しかし、ヒュームと戦士の間に現れた剣を持った半透明なヒトガタがこれを阻止する。

 

「再証明!」

 

《ALL RIGHT!YOU ARE SAVER!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER《

 

 ヒトガタと装甲が消えたヒュームの体が重なり合う。灰色の戦士がプレイングスキャナーでヒュームを狙い撃つが、先ほどよりも一段階頑丈さが増した鎧に全て弾かれる。

 

 ならばとゴリラを模した機械の巨腕が迫りくるが、虚空から生み出されたエヴィデンスカリバーによって柔らかく受け流された。

 

 こうして二人の戦いは第二ラウンドへと突入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外では二つの戦いが起きているのにも関わらず、日野森学園には比較的穏やかな空気が流れていた。談笑する二人の女性。そこには刑事と捜査対象という関係性は見られない。

 

 しかし、明奈にとっては情報を聞き出すまたとない好機。会話の一つ一つと刑事の一挙手一投足から情報をつなぎ合わせる。

 

(なるほど。海翔の正体には辿り着いてはいないけれど、仮面ライダーの存在は確信しているのね)

 

 幸い芦屋夕夏と名乗った警察官は感情や心象が表情に出やすく、推察するのは容易だった。警察が仮面ライダーの存在を認識しているのは『彼らの目の前で堂々と変身したから』だと聞いた時には卒倒しそうになったが。

 

 分かりやすすぎて罠かと疑ったが、数度の会話の末に否定する。 

 

 彼女は海翔と同じタイプだ。

 

 頭の中の殆どが善意でできていて、人間の悪意など虚構であると考えているタイプ。

 

 ――明奈(わたし)とは真逆の人種だ。

 

 薄く仮面を被り、気づかれぬほどに会話の中に()を入れる。最も恐れるべきは明奈がやっているように会話の節々から情報を抜き取られること。そうならないように明奈は自然に会話を誘導し、自分に都合がいいように流れを作っていく。

 

 そして得られた情報を整理し、警察に提示する情報を選択していく。

 

 まず、『怪人と仮面ライダーを目撃した』という情報は公開してもいい。相手は仮面ライダーの正体に繋がる情報を得るため海翔に接触しようとしてきた。ということは、海翔や明奈が彼らと多かれ少なかれ接点があることは裏付けをとっているのだろう。ここでシラを切れば逆に疑われる。

 

 問題は『仮面ライダーの正体』という特大の情報について。海翔は迷惑がかかると隠したがっていたが、効率よく怪物退治をするなら正体を明かすのも一つの手だろう。

 

(でも警察は仮面ライダーの正体解明を慌ててない)

 

 本当に仮面ライダーの正体を暴こうとするならもっと大々的に動いてもいい。何なら明奈を任意同行だとして警察に連行して仮面ライダーの情報を無理やり抜き取ることもできる。しかし実際はニュースには仮面ライダーの情報が流れず、聞き込みもこうして穏便に行われている。

 

 別に戦力があるのか、それとも仮面ライダーとの関係を悪化させることを恐れたのか。

 

 主戦力としてではなく、協力者として仮面ライダー(伊藤海翔)を求めているように見えるのだ。ならば無理をして正体を明かす必要はないのではないか。

 

 必死になって頭を動かす。感情すらも計算に入れて。

 

 ―全ては日常を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白と灰の戦士の戦いは先ほどまでの激しさは息をひそめ、能力を使用せずに近接での戦闘にもつれ込んでいた。

 

 淡々と追い詰めようとする灰色の戦士に対し、ヒュームは段々と焦りを募らせていた。頭にあるのは町中に出たと報告された怪物のこと。ダイヤモンドプレイスターと戦うときにいた警察官らが対応しているかもだが、こうしている間にも人が死んでいるかもしれない。

 

 今頃ミュージシャンプレイスターはガレスによって追い詰められているところだが、それを知らないヒュームは突破口を作り出すべく相手の意識を逸らそうと言葉を投げつける。

 

「君は誰だ、どうして僕を殺そうとする?」

 

「言っただろう。主の命令だ」

 

 灰色の戦士は変声機越しに答えると、プレイングスキャナーの引き金を長押しする。

 

《再生速度、加速開始》

 

 レコードカードを差し込んだ時とは異なる音声がプレイングスキャナーから流れる。妨害しようとヒュームは切りかかるが、灰色の戦士がもう一度引き金を引く方が早かった。

 

《完了、二倍速。(CROW)

 

 戦士の背中の機械仕掛けの翼が展開され、不安定な様子で灰色の戦士が飛翔しヒュームに向かってプレイングスキャナーの照準を合わせる。

 

 空中を攻撃できないヒュームは胴体に光弾をまともに喰らってしまう。着地した戦士はヒュームを引き離した勢いのままレコードカードを二枚装填する。

 

《レコードカードを再度確認。読み取り開始》

 

 プレイングスキャナーの銃口を今度は自らの腕ではなく、空中に向けて引き金を引いた。

 

《再生完了。蟻兵士(ANTO―TROOPER)

 

 耳障りな機械音と共に戦士の周囲の空中に複数のノイズが走る。数秒の後ノイズが晴れ、現れたのは銃を構えた蟻と人間の兵士が混ざり合ったような怪物。実体を持つや否や向けた銃をヒュームに向かって放つ。

 

 警戒していたヒュームはエヴィデンスカリバーも活用して全て受けきる。怪物の集団を見たヒュームは思わず声を上げる。

 

「この怪物、前の病院の襲撃も君の仕業か!?」

 

「そうだ。主の命で貴様を殺すためにな」

 

 灰色の戦士は何ともないように言い放つ。言葉に怒りを抱くとともにストン、と腑に落ちた。なぜあの時の怪物集団からレコードカードを回収できなかったのか、人間が素体になっていないのに関わらず兵士と蟻という二つの特性を持った姿をしていたのか。

 

「そんなことの為に何人の犠牲者が出たと思っている!」

 

「知らんな。俺に必要なのはあの方の命令だけだ」

 

 ヒュームは灰色の戦士に対する危険度を更に上げ、アントトルーパーとその先にいる戦士に向かって切りかかる。前の戦闘でアントトルーパーの戦闘力はたかが知れていることはヒュームも理解している。そのまま灰の戦士ごと切り捨てる勢いでエヴィデンスカリバーを振りかざす。

 

 しかしヒュームの目論見は外れることとなる。アントトルーパーが手に持つ銃でエヴィデンスカリバーを防ぎ切ったのだ。隙を見せたヒュームに灰色の戦士とアントトルーパーが銃撃をヒュームに浴びせる。

 

「―ッ!」

 

 あまりの威力に鎧から火花が上がり、地面にひれ伏す。

 

 ヒュームは頭の中でアントトルーパーの評価を上方修正する。攻撃を受け止めた腕力だけでなく、銃撃の威力も上がっているのだ。

 

「進化しているのは貴様だけではない。解析を通じてこいつらのスペックも強化されている」

 

 そういうなりプレイングスキャナーの引き金を長押しする。

 

《再生速度、加速開始》

 

 これまでのどの音声よりも巨大で耳障りな機械音が周囲に響き渡る。ヒュームも向かい打つべくブレイズレコードカードをエヴィデンスカリバーに挿入しようとするが、アントトルーパーズの攻撃に阻まれる。

 

《完了、三倍速。(CROW)

 

 引き金をもう一度引くと、プレイングスキャナーの銃口から一発の光弾が放たれる。しかしその形を保っていたのは一瞬のことで、たちまち巨大な烏へと姿を変える。

 

「―ッ!」

 

 巨大なエネルギーの塊の烏をもろに喰らい、ヒュームは地面に倒れ伏す。何とか変身は解除されなこったものの、鎧は光の粒子となって霧散し、ヒューマンフォームに戻ってしまう。

 

「これで終わりだ、仮面ライダー」

 

 灰の戦士はそう無造作に吐き捨てると、一歩踏み出しヒュームの頭に照準を合わせた。引き金を引き光弾がヒュームの頭に吸い込まれる―

 

 ―寸前で投擲された何かに弾き飛ばされた。

 

 斬、と弾き飛ばしたものが壁に突き刺さる。そこを見ると一振りの青一色のカタナが壁に突き刺さっていた。カタナはインベスティマグナムと同じように刀身の側面に溝が彫られ、柄には警察章が刻まれている。更に特徴的なのが柄と刀身の間にある銃の引き金のようなパーツ。

 

 灰色の戦士は警戒したように大きくヒュームから離れる。

 

 カツカツ、と一人の黒いスーツを着た男が現れる。手にはガレスのドライバーと似たようなデバイスが握られている。男はヒュームと灰色の戦士を順に見やる。

 

「オレが用あんのは白い方なんやけどな」

 

 白と灰の戦士の間を悠然と歩き、壁から青いカタナ―インベスティカリバーを片手で引き抜いてそのまま灰色の戦士に向けて突き出した。

 

「あんた、二週間前に病院を襲撃した犯人やな?」

 

 アントルーパーズを見渡して告げる。男が管制室で見た写真の中にはヒュームと戦っているアントトルーパーの姿も写っていたのだ。軽い調子の言葉とは裏腹に、その目には鋭い殺気が含まれている。

 

「それがどうした?」

 

 一切怯むことなく灰色の戦士は言ってのける。

 

「やったら、先にアンタから片付けさせてもらうわ」

 

 男性がそういうと、青いデバイスを腰に巻き付ける。デバイスはガレスが身に着けていたものと同じく、中心にカメラのレンズのような部品が埋め込まれている。腰の左側についているホルダーにインベスティセイバーを差し込むと、無機質な機械音声があたりに響く。

 

《インベスティドライバーα!》

 

 男は懐からレコードカードを取り出す。そこには一匹のオオカミが崖で遠吠えしている姿が描かれている。インベスティドライバーαの上に備えられているカードが一枚入るほどの隙間にウルフレコードカードを挿入する。

 

《Set Wolf》

 

 神秘的な音楽が流れ始め、男の正面に青色の設計図のようなものがレンズから投影される。同時にデータで構成されているオオカミが現れ、アントトルーパーズに襲い掛かる。オオカミは実体は持っているようで、アントトルーパーズの体から火花が上がる。

 

 そのままの勢いでオオカミは男へと突進する。男は落ち着いた様子で腰を落として居合のような構えでインベスティセイバーに手を添える。

 

「変身!」

 

 叫ぶのと同時に、設計図越しにインベスティカリバーでオオカミを切り裂く。オオカミは縦に真っ二つに切り裂かれるだけでなく、データの身体をバラバラに分解させる。同時に体の中から血のような液体が噴出する。その液体は男の全身に吸着し、やがて凝固し男の体を守るアンダースーツに変化する。

 

《Chasing,Biting,Hunting!》

 

 オオカミのデータ状の体はやがて実体化すると鎧のような形状へと最適化され、男の体に装着される。

 

《Kamen-Rider Ha-Rou Mode:Wolf!》

 

《System All Green》

 

 オオカミの遠吠えと共に変身の完了を知らせる声がベルトから鳴り響く。そこにいたのはオオカミの鎧を纏った狩人(ハンター)。その視線は灰色の戦士のみに注がれている。

 

「仮面ライダー刃狼(ハロウ)、行かせてもらうで」

 

 インベスティカリバーを構えなおして、灰色の戦士に向かって駆け出す。その間にアントトルーパーズが立ちふさがるが、男―仮面ライダー刃狼は躊躇うことなく蟻兵士の群れへ身を投じる。

 

 アントトルーパーズは持っている銃で刃狼を集中砲火する。しかし銃弾はインベスティカリバーによって一つ残らず切り捨てられていく。あまりの早業にヒュームはあっけに取られる。それは相手も同じだったようで、弾丸の雨が一瞬だけ降り止む。

 

 刃狼は大きく踏み込むと、アントトルーパーの一体に一気に接近する。標的となった蟻兵士は慌てて銃を構えるが時すでに遅し。人体の首に当たる部位に刃が刺さっていた。

 

 刃狼がインベスティカリバーを引き抜き、灰色の戦士との距離を詰める。刃狼の動きから今の状態では不利と見たか、灰色の戦士はプレイングスキャナーからゴリラレコードカードを引き抜き、新たにカードを挿入した。

 

《レコードカードを再度確認。読み取り開始》

 

《再生完了。(SWORD)

 

 ノイズと共に戦士の手に一振りの長剣が握られる。無骨な見た目とは異なり性能は良く、インベスティカリバーと問題なく切り結んでいる。

 

 拮抗する切り合いの中、刃狼を妨害しようとアントトルーパーズが慌てて銃を向ける。しかし弾丸が発射されることはなく、次々と地面に倒れ伏す。

 

《ALL RIGHT!YOU ARE ARCHER!》

 

《DON'T FORGET THIS ANSWER》

 

 倒れ伏したアントトルーパーズには背後から矢が突き刺さっていた。生き残りが矢の放たれた地点に目をやると、何とか体制を整えたヒュームがアーチャーフォームへとフォームチェンジし、エヴィデンスアローをアントトルーパーズに向けていた。

 

 数合の打ち合いののち、灰色の戦士が少しずつ押し込まれていく。剣技の観点では刃狼に軍配が上がるようだ。

 

「いいのか?私にばかり集中していて」

 

 それを補うべく今度は灰色の戦士の方から刃狼へと語りかける。それと同時に放たれた一閃を危なげなく受け流しつつ、刃狼は何ともなく答えた。

 

「お仲間なら、地獄でアンタのこと待っとるで」

 

 それを盗み聞いたヒュームは安堵する。彼の仲間のお陰で何とか惨劇は食い止められたようだ。

 

 このまま戦うのは不利と見たか灰色の戦士が大きく距離をとり、刃狼に向けてプレイングスキャナーを構える。刃狼のメインウエポンはカタナ、ならば遠距離から仕留めればいい。そう考えるのは理にかなっている。

 

 刃狼もそのことを理解しており、灰の戦士が距離をとった瞬間にインベスティカリバーの溝にウルフレコードカードを走らせていた。

 

《1-Reading》

 

 エネルギーがインベスティカリバーの刃に集中し、トリガーを引くと共に銃撃に合わせて上段から振り下ろした。戦士に悪寒が走り、その場から大きく後ずさる。

 

《Wolf Slash Chaising!》

 

 機械音が告げると同時に、インベスティカリバーから青色の斬撃が飛ばされる。斬撃は銃撃を飲み込み先ほどまで灰色の戦士がいた場所を大きくえぐる。地面にはカタナの切り傷とは思えないほど荒々しい跡が残っている。

 

 灰色の戦士は間一髪で避けたものの、刃狼の狙いは既に達成されている。地面を抉った影響で二人の間に数瞬間土煙が上がる。五秒にも満たない短時間であるものの、それだけあれば問題はない。

 

《1-Reading,2-Reading,3-Reading》

 

 土煙が晴れたときには刃狼はインベスティカリバーを納刀しており、その右足には青色のエネルギーが集中していた。すでに止められないと悟り、灰色の戦士は素早く二枚のレコードカードをプレイングスキャナーし挿入する。

 

《Wolf Slash Hunting!》

 

 再び引き金を引いて刃狼は高く跳躍し、右足を灰色の戦士に向けて突き出す。命中すれば容易く変身解除まで追いつめられる一撃。しかしそれは―

 

《再生完了。蟻兵士(ANTO-TROOPER)

 

 突如現れた蟻兵士によって防がれた。着地した刃狼はすかさず追撃しようとインベスティカリバーを構えるが、そこには灰色の戦士は影も形もなかった。

 

 刃狼はスン、と鼻を一つ鳴らす。オオカミ由来の嗅覚で相手を探り当てようとしたが数メートルもしないうちに匂いが途切れ、追跡は不可能であった。

 

《ALL RIGHT!ARCHER SHOOTING FINISH!》

 

 刃狼が振り返るとヒュームが最後のアントトルーパーを撃破したところであった。ヒュームは助けてくれた礼を言おうと刃狼に近づこうとするが、刃狼はインベスティカリバーの切っ先をヒュームに突き付けた。

 

「え、あの、僕何かしましたか・・・?」

 

 思わずヒュームは手を挙げて敵対の意思はないことを言外に伝える。しかし刃狼の態度は軟化するどころか一段階鋭いものとなった。

 

「最初に言うたやろ。オレが用あんのは最初からアンタや」

 

 ヒュームは刃狼の過去の発言を思い返す。

 

『「オレが用あんのは白い方なんやけどな」』

 

 ・・・確かにそう言っていた。状況が状況であったため完全に聞き流していた。何とかエレクトリックを発動させる機会を伺う。

 

「オレが聞きたいことは一つや。アンタ、警察の人間か?」

 

 思ってもいない問いかけに海翔はとっさに答えることはできない。沈黙をどう受け取ったか、刃狼は更に言葉を紡ぐ。

 

「警察やないんか。やったら自衛隊か?国か?会社か?どこの所属か、言うてくれ」

 

 続けて発せられた言葉は何処か懇願するようで、海翔の心を揺さぶった。

 

(これくらいなら、答えてもいいよね)

 

 ヒュームは明奈の顔を思い浮かべる。今も戦っている明奈に心の中で詫びつつ、海翔は仮面越しに刃狼の目を見た。

 

「僕は・・・。どこにも所属していません」

 

「――そうかい」

 

 刃狼は落胆しつつもどこか納得した様子を見せる。その精神の揺らぎの隙に両手を降ろし、ヒュームは左手をウェイクアクセッサーに添え、右手にはエレクトリックレコードカードに加えてもう一枚レコードカードを握りしめる。

 

 しかし発動までには至らない。それよりも早くインベスティカリバーがヒュームの胴に横なぎに振るわれたのだ。反射的に左腕をベルトから話して刃を受け止める。峰打ちだったのが功を奏してアーチャーフォームでも防ぐことはできた。

 

「なら変身を解除してドライバーとレコードカード全部置いていき。そんで二度とプレイスターに関わるんやない」

 

 オオカミの脚力を生かした変則的な刃がヒュームへと迫る。一般の人間が受ければたちまち地に伏し舞う連撃を、ヒュームは紙一重で回避していく。先ほどまでとは異なり刃狼には殺気がない。代わりに悲観するような、懇願するような感情が込められていた。

 

 アーチャーフォームは機動力に優れている形態なだけあり、手加減している刃狼のカタナはまるで当たる気配がない。攻め方を変える必要がある、と刃狼は考え、構えなおして再び切りかかろうとする。

 

 しかし、その隙こそがヒュームが欲していたものだった。

 

《ELECTRIC!》

 

 電気の記録が一時的に解放され、ヒュームの体感速度が引き延ばされる。迫る刃すら、今のヒュームにとってはとてつもなくゆっくりと見える。しかし、このまま逃げても刃狼の嗅覚で簡単に捕まってしまうだろう。そう考えたヒュームは急いでもう一枚のレコードカードを読み込ませる。

 

《PTERANODON!》

 

 読み込ませたのは先日手に入れたプテラノドンレコードカード。エヴィデンスドライバーにかざすや否やヒュームの背中からその純白の身体にはミスマッチな、爬虫類のような平たい翼が生える。それを確認するとエレクトリックレコードカードの力が働いているうちに、と急いで飛び立った。

 

 刃狼の視点では突然目の前のライダーが虚空に消えたように見えた。手掛かりは一切残っておらず、刃狼には溜め息と共に変身を解除することしかできなかった。

 

「・・・やってもた」

 

 男―空賀(くうが) 景虎(かげとら)はその場に座り込んで盛大に溜息を吐く。白い仮面ライダーから見れば刃狼はいきなり切りかかってきた危険人物に見えただろう。

 

 指揮官である優成からは「白い仮面ライダーとは友好関係を維持する」ことを命令されていた。それを勢いに任せて破ってしまったのだ。その証拠に景虎のスマホには現在進行形で大量のメッセージが送られてきているのだ。

 

 勢いのツケを払うべく意を決してスマホを開くのだった。




というわけで、零課所属ライダー二人目の刃狼くんでした!彼も相応の過去を背負っているのですが・・・まあその話はいずれ。

「いずれ」ばっか言ってんなこの作者。というツッコミは無しでお願いします。

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