母親に連れられ 初めてカカリコ村に訪れた時にゼルダは彼に出会った。
母親とシーカー族の族長が何やら難しい話をしており ゼルダはその退屈さに嫌気がさし、こっそりと族長の屋敷を抜け出し、護衛の目を掻い潜って、カカリコ村の山裏の森を散策していた。
好奇心旺盛な5歳児である。
しばらく歩いていると、泉の方角から聴き慣れない音色の音楽が聴こえてくる。
その耳触りのいい音に導かれ、森を抜けると小さな泉の縁に人影が見えた。
人見知り気味だったゼルダは木の陰にこっそりと隠れ、その人を見る。
少女と見間違う程に綺麗な顔立ちをしている男の子
見た感じ年齢は自分と同じだろうか…服装からしてシーカー族であるのは間違いないが、自分と同じ様な金髪なのはシーカー族としては珍しい。
男の子は瞳を閉じながら見慣れない弦楽器を奏でており、彼の周りには音色に釣られたのであろう様々な小動物達が 彼の演奏を眺めた。
なんて素敵な音色…
もっと近くで聴こうと思い一歩踏み出すと、落ち枝を踏んづけてしまう
パキッという音に驚いた小動物が一目散に逃げ出す。
「あ!」「ん?」
彼と目が合う
「あ、そのごめんなさい、演奏の邪魔をして」
演奏が止まってしまい、邪魔をしてしまったと勘違いしたゼルダは咄嗟に頭を下げた。
「大丈夫!まだ練習中なんだ。」
落ち着いた雰囲気を持つ男の子
人見知り気味のゼルダだったが、彼は不思議と話しやすいかった。
「あの、素敵な音色ですね…なんという楽器なのですか?」
ゼルダの質問に「ハープだ」と答えた男の子
まだハイラルには馴染みのない楽器だと言う
彼は再びハープを構えると、笑顔を浮かべながらゼルダにある提案をした。
「良ければ聴いていく?」
「え?良いのですか?」
正直まだ聴いていたい。思いがけない提案に顔をあげる
「もちろん だけど誰かに聴かせるのは初めてで 少し緊張する」
「まぁ、そうなのですね」
少し照れくさそうにする男の子
ゼルダを近くの切り株に座らせ、改めてハープを構えた。
「何かリクエストとかある?」
何が良いかと考える
しかし ぱっと思いつく曲は無かった。
「あ、えっと…すいません、音楽とかの知識に疎くて」
「そうだな…この曲はどうかな?」
『潮騒のボサノバ』
静かにハープの弦を弾き始める。
ゼルダは瞳を閉じ、曲に集中すると 脳裏に広大な海の景色が広がる、
その音はまるで女性が歌っているかのようで、静かで、どこか悲しみを感じる、そんな曲だった
演奏が終わり、ゆっくりと目を開ける
「綺麗な音色…でも何処か悲しみを感じました」
ゼルダの感想に微笑みながら頷く男の子
「うん コレは声を失ったゾーラ族の歌姫の為に戦った とあるゾーラ族の勇者の物語にまつわる曲だよ」
「ゾーラ族の勇者ですか?あまり聞き馴染みありませんね」
「ハイラルの外の物語だからね…歌姫は声を取り戻したものの、その勇者は代償に命を落とした、この曲は歌姫が彼に捧げた曲です」
「そんな…」
そんな悲しい物語があるのか
ハイラルの御伽話や童話は母から色々読み聞かせて貰っていたが、この世界にはまだまだ知らない物語があるのだと実感する。
「じゃあ次は今度は明るい曲にしましょう!そうだな…ではここの曲」
小さな演奏会はしばらく続き、気がつけば逃げていった小動物達も再び彼の周りに集まっていた。
彼の演奏する曲は知ってる曲もあれば知らない曲もあり、終始ゼルダの心を踊らせた。
時を忘れ 男の子の演奏を楽しんだゼルダはふと 自分の置かれている状況を思い出す。
「あぁ!!い、今何時ですか?!」
男の子は空を見上げ、太陽の位置から時間を推測する。
「もうそろそろ日がくれる時刻かな?」
「早く戻らないと、御母様に叱られる」
こっそりと屋敷から抜け出したゼルダ
恐らくカカリコ村では姫が居なくなった事で、大騒ぎしているに違いない、座っていた切り株から勢いよく立ち上がる。
「あ、素敵な演奏をありがとうございます! また今度この村にきた時に…またあなたの演奏が聴きたいです!」
焦りの表情を見せながら、ゼルダは男の子に心からの感謝を送る。
「うん、僕も聴いてくれてありがとう。今度はもっとレパートリーを増やしますね!」
「楽しみです…では!」
感謝を受け取った男の子もゼルダに感謝を送る。お互いに微笑み合うと、ゼルダは急いでその場を後にした。
「彼女がゼルダ 僕の双子の姉か。」
ポツリとその場に残った男の子…「シーク」はゼルダの去った方角を見つめながら静かに呟いた。
温かい人だった
自分の演奏を楽しむ ゼルダの表情
それを思い浮かべると自分の心が暖かくなるのを感じた。
彼は生まれてすぐカカリコ村に送られ シーカー族として育てられた
全てはゼルダを護るため 彼女の力になる為だけに 厳しい修行の日々を送っている。
何故自分が…何度も何度も思い浮かべた問いの答えを
彼女と出会うことで見つけることが出来た。
僕は彼女のあの笑顔を護りたい。
そう心から思えるようになった。
「あ!やっと見つけましたよシーク!」
想いにふけていると、白髪の少女がシークを見つける
「あ、インパ」
「もう…こんなところでサボって…さぁ、修行再開ですよ!今度こそ貴方に一本とりますからね!覚悟しておいてください!」
「お手柔らかに」
苦笑いを浮かべるシーク
ハープを背負うと、シーカー族の少女『インパ』の元へ歩き出す。
「あ…名前聞くのを忘れました」
ふと思い出す。
名前を聞くことも、名乗る事もしてなかったと
カカリコ村の大人達は 彼女が抜け出しがシークの元にいると知っており、行方不明で騒がれる事はなく、抜け出した罰も、母の長い説教で済まされた。
男の子とはまた会う約束をしている、そこで聞けばいいだろう…
帰り道、母に金髪の男の子についての話しをしていると 思わない所で彼の名前を知ることになる。
「彼の名前はシークよ…彼は…元気だった?」
母親が彼の名前を知っていたのだ。
しかし、彼の名前を口にした母の表情は何処か複雑だった。
彼と母に何かあったのか
それを知るのはずっとずっと後の事になる。