絶え間無く書類が届く。
紙の時もあれば、画面上に表示されることもある。
けれどもやることは変わらない。ただひたすら目を動かして文字とグラフの大群を追っていく。
合っていればそのまま放流してやれば良いし、そうでなければ捕まえて一つずつ正していく。ただそれだけだ。
思えば半年間、ずっとこの調子だな、と一旦目を止めて耽る。
信じられない程速く、今の地位に立つことができた。給料も職場での立ち位置も、何もかもの質が高まった。
けれども今の生活に満足しているかと言われれば、正直そうでもない。
やることは殆ど、部下の仕事や書類のチェック、もしくは会食。それだけで一日が過ぎると思えば楽だろうが、裏を返せばそれ以外にやることが無い退屈な仕事だ。
『広報部長 柊沙也加 Hiiragi Sayaka』と書かれたネームプレートが、無意味な重荷のようで嫌になる。
──まぁ、色々忘れられるんだから良いんだけど。
すると、
「部長」
前方から女性社員がパソコンを持ちながら近寄って来た。
仕事はかなりできるし、いつも何かあった時に報告しに来てくれるので、重宝している社員だ。
どうしたの、と声をかけると画面を見せられる。
『MOKA』というアカウントによるSNSの投稿には、画像と共に『なんか当たったんだけどwww』という文言が添えられている。
『おめでとうございます! スペシャルキャンペーンに応募できます!』
色とりどりの風船が飛んでいて、青や白を基調としたサイトが豊かな色を帯びている。
『次のうち、あなたの好きなもの・興味のあるものを3つまで選んでください!』
様々な物品が並べられているが、どれも元々売られているものだとすぐに分かった。
「これ、ウチのサイトだよね?」
「えぇ。でも、こんなキャンペーンは開催されていないですよね……?」
試しに自分のパソコンでスケジュールを確認してみる。
日本だけじゃない。本社のあるアメリカやヨーロッパ、アフリカに他のアジアの国。
もしかしたら国外で展開されているキャンペーンが、誤作動によって国内でも現れた可能性が高い。
だがどれだけ念入りに見ても、何処にもそんな情報は無い。
一応それらしきイベントはアメリカ本社で行われているらしいが、投稿にあるような画面は表示されないようになっている。
──じゃあ、これは?
「一応、本社に連絡しておく」
女性社員を席に戻し、机上の固定電話を操作する。
また今日も、退屈な仕事が終わらないような気がする。
受話器を耳につけると、持ち手である左手に付けられた指輪が銀色に光った。
だが角度が悪かったためか、光の反射はすぐに終わった。