よう実 √A   作:日彗

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第一話 来ました、実力至上主義の学校に

 

 東京都高度育成高等学校。

 日本政府が作り上げた、未来を支える人材を育成する全国屈指の国立の名門校であり、今日から俺が通うことになる学校だ。

 正直な事を言わせてもらうと、こんな訳の分からない学校に通いたくなかったのだが、この学校は学費がすべて免除され、かつ進学・就職率100%を謳っており、そして全生徒が寮で生活することになる。

 ぶっちゃけ進学率100%という文句には興味がない。だがこんな俺の面倒を見てくれた祖父母を安心させてあげたいという思いと中学時代の担任の勧めでこの学校を受験し、見事合格したのだった。

 

「クッ! 連絡禁止なんて聞いてないぞ……!」

 

 だが悲しきかな。この学校には全国に存在するあまたの高等学校とは異なる特殊な部分がある。まず学校に通う全生徒に敷地内にある寮での学校生活を義務付ける事。これは別に良い。むしろこの学校を選んだ理由の一つでもあるのだから。

 最大の問題は、在学中は外部との連絡を一切禁じているということ。

 たとえ肉親であっても学校の許可なく連絡を取ることは許されない。敷地から出る事も同様だ。

 これでは逆に祖父母に心配をかけてしまうことになる。チクショウ! 選ぶ学校間違えたッ!

 

 とまあそういう事でウダウダ言っていても意味がない為、さっさと意識を切り替えて俺は学校へと歩き出した。

 

 

 

 

 まずは自分の配属されたクラスを確認する………Aクラス? 一組、二組とかじゃなくアルファベットなのか。俺の地元じゃどこも数字だったのに。これが日本の首都・東京か。田舎者の俺には何もかもが目新しく映る。祖母ちゃん、都会は怖いとこだべさ。

 

 指示された教室に入り、ぐるりと見渡してみる。俺の席はっと………あった、真ん中の列の後ろより。当たりかと聞かれればギリ外れだと言いたくなる場所だ。まあ、前の席よりかはいいのだが、どうせなら角が良かった。窓側なら尚良しだ。

 

 しかし困った。俺は別に人見知りという訳ではない。が、人と会話をすることも得意ではない。実は私、小学校中学校と友達がいないのです。だって話が合わないんだもん。一人で本を読んでる方がずっと有意義だったし。

 だが今年から高校生、それも全国屈指の名門ときた。周りも精神的に成熟してきた頃合いだろう。今ならば話が噛み合わないなんてことも少ない筈だ。

 

 ここまで長々と語ったが、何が言いたいのかというと友達が欲しいという話です。はい。

 

 しかし九年間まともなコミュニケーションを取ってこなかった俺は、正直どうやって話題を出していけばいいのか分からない。前世の記憶のある世にも珍しい『転生者』である俺だが、体感で十五年以上も前の経験などあてにならない。最近の若い子の流行も知らん。

 

 本当に困った。そうこうしている内に教室内の人口密度もかなり高まってきており、ちらほらとグループが形成され始めている。最近の子らのコミュ力ってすごぉい……。

 

 う~ん、これは無理だ。スタートダッシュから失敗した。

 机に肘を置き、ゲンドウポーズで自分の失敗を責めていると、始業を告げるチャイムが鳴り響く。

 すると、スーツの上からでもわかるガッチリとした体格の厳格そうな男性が教室に入ってきた。

 

「初めまして、新入生諸君。私がAクラスの担任を務める真嶋智也だ。担当教科は英語を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えが存在しないため、基本的には3年間、私が君たちの担任を務めることになるだろう。一時間後には体育館で入学式が始まるが、その前にこの学校に関する説明をさせてもらう」

 

 前の席から資料が配られてくる。それは確か入学案内と一緒に目を通したことのあるものだった。

 もっとよく目を通しておけば外部との連絡禁止について把握できていたのに。おのれ高度育成高等学校め。

 

 だがこの学校は生徒が苦労しないよう敷地内に数多くの施設が存在している。カラオケやカフェなどの娯楽施設からコンビニやスーパーなんかもあるらしい。東京の埋立地に作られ外界との接触を断たれた場所ではあるが、一種の街が形成されている。なになに、敷地は六十万平米を超える? もはや土地の無駄遣いだろうがバカ。

 

「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にある全ての施設を利用したり、売店などで商品を購入する事が出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただし、ポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら何でも購入可能だ」

 

 学生証と一体化した端末。ちゃんとメールや電話などもできるらしい。さらに加えてこの学校では現金をなくすことで学生間で起きる金銭のトラブルを未然に防いだりポイントの消耗をチェックしているのかもしれない。

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前達全員、平等に十万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、一ポイントにつき一円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 その言葉にクラス内に一瞬ざわめきが生まれる。

 つまり一クラスで400万。一学年で1,600万もの大金が振り込まれたといっているのだ。いくら日本政府が関わっているとは言えさすがに異常である。

 

「10万円という額に驚いたかもしれないが、この学校は実力で生徒を測る。このポイントは、君達新入生にそれだけの価値と可能性があると評価された結果だ。遠慮などせず自由に使うといい。ちなみにこのポイントは卒業後に全て回収され、現金化もできないので注意するように」

 

 10万という金額に不信さを感じていた生徒達それが自分たちに対する評価と言われた瞬間に、表情が明るいものになる。

 全員が黙って説明を聞いていたが、教室に充満する空気は僅かに浮ついたものになっていた。

 俺はというと、先ほどの先生の話を反芻しつつ気になったことを端末のメモ機能に打ち込んでいる。

 

①先生は毎月1日にポイントは振り込まれると言った。だが毎月『10万』ポイントが振り返るとは一言も言っていない。偶然の可能性もあるが、先生の態度からは意識的に言わないようにしている気配があった。

②監視カメラの数が多い。教室内だけでなく廊下にも存在を確認。生徒を監視するためと思われる。一度数と配置を調べておく必要があると判断。

③三年間、『学年ごとの』クラス変えがない理由について。

 

  その他にも気になることはある。先生の言っていた『実力で生徒を測る』と『入学した俺たちに対する評価』という言葉だ。

 これはつまり、『現在』の俺たちには十万円の価値があるが実力がないと判断されれば来月からのポイントは変動する可能性があるということではないのか。

 そう考えれば①は解決し、②の謎も解ける。この監視カメラは生徒の監視ではなく観測のために設置されているのではということだ。

 ……ここまで整理してくると③についてもある程度の仮説が立てられる。だがもし合っていたとしたら間違いなく不満を漏らす生徒が現れるだろう。それは少々、いや、かなり面倒くさい。

 

 という訳で俺は何も知らなかった体でいくことにしよう。それが一番平和的だ。どうせ来月くらいには先生から説明があるだろうしね、うん。

 

「説明は以上だ。何か疑問点や質問のある者はいるか?」

 

 どうせ誰も質問なんてしないだろう。さっさと解散して欲しい。

 と思っていたのだが教室内で二人の生徒が手を挙げていた。

 手を挙げていたのは杖をついた銀髪の小柄な女子生徒と坊主頭の大柄な男子生徒の二人。両者ともに違う意味でインパクトのある外見をしている。一目見れば忘れることはなさそうだ。

 

「坂柳と葛城か。よし、では坂柳から順に質問を受け付けよう」

 

 真嶋先生が女子生徒へと視線を向けて質問を促す。

 どうやら彼女の名前は坂柳さんというらしい。ならばあの男子生徒の方が葛城くんだろう。今日が初日だというのに生徒の顔と名前を憶えている真嶋先生には脱帽する他ない。

 

 Aクラス全員の生徒達の視線が坂柳さんへと集まる。

 

「では、早速ですが一つ質問をさせていただきます。真嶋先生はポイントは毎月一日に自動的に振り込まれると仰っていましたが、毎月10万ポイントもらえる、という認識でよろしいですか?」

 

 坂柳さんの質問に先生が一瞬驚きの表情を浮かべた。

 ふぅむ、さすがは名門校。やはり頭の良い生徒が集まっているらしい。だが先生もまた一瞬で表情を切り替えていた。おそらくだがこの類の質問に対するマニュアルのようなものでも用意されているのかもしれない。

 

「悪いが、その質問には答えられない、とだけ言っておこう」

 

 そして先生の回答は『答えられない』と来た。

 肯定でもなければ否定でもない。違うのならば違うとハッキリ言えばいいものをあえて答えないという事は、もしかすると学校の規則なんかでこのタイミングに話すことを止められているのかもしれない。

 それともこの答えを聞いてどういう結論を導き出すのか。学校側はそういったものを観察している可能性もある。

 どちらにせよこれで①に関しては解決した。他の生徒達も今の質問でSシステムに疑問を持ち始めたようだ。

 

 坂柳さんが席に座るのを見届けると、真嶋先生は男子生徒の方に顔を向けた。

 

「じゃあ、次は葛城」

「すみませんが、俺の質問は彼女のものと同じです」

 

 残念。どうせなら学内に設置されてる全監視カメラの位置と数を聞いて欲しかったのだが、そこまで頭は回らなかったか。だが俺自身には挙手をして質問する度胸はない。むぅ、迷宮入りだ。

 

 真嶋先生は一度クラス全体を見渡すと、入学式の時刻を今一度伝えてから教室を後にした。

 

「すまない。少しいいだろうか」

 

 あとは各々入学式の時間になるまで自由行動かと思われたとき、先ほど挙手をしていた男子生徒、葛城くんが立ち上がり周囲を見渡した。

 

「これから三年間を過ごす以上、ある程度の親睦を深めるためにも必要なことだろう。そのためまずは自己紹介をするべきだと思うが、どうだろうか」

 

 有無を言わせぬ、とまでは言わないが、その見た目の迫力も相まって中々断りづらい雰囲気が形成されている。だが提案の内容も的外れなものでないため反対する声は上がらなかった。

 

「ありがとう。ではまずは言い出した俺からさせてもらおう。俺は葛城康平。中学では生徒会に属していた経験もあるので、その経験を活かし、このクラスが纏まれる一助になれればと考えている。よろしく頼む」

 

 見た目からは想像しづらいが、性格はかなり真面目らしい。良い事だ。クラスにこういう生徒が最低10人はいてくれると嬉しい。ヤンチャな生徒はノーサンキューである。

 葛城くんの紹介が終わった後、近くの生徒から順番に自己紹介をしていき、とうとう注目の坂柳さんへと周って来た。

 

「私は坂柳有栖と申します。この杖でわかるかもしれませんが、私は先天性の疾患を患っており、体があまり丈夫ではありません。ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、三年間よろしくお願いします」

 

 クラス中から拍手の音が響いてくる。今までで一番大きな音だった。やはりみんな美少女が好きなのだろう。気持ちは分からなくもないが少々露骨すぎやしないかね。

 それにしても自己紹介というやつは面白い。話の内容、声音、視線、手振りなどからその人物の人柄から性格まで推測することが出来る。これから三年間一緒になるのだ。きちんと全員の名前と顔を頭に叩き込んでおこう。

 

 頬杖をついて成り行きを見守っていると、何故か全員の視線がこちらを向いた。どうやら俺が最後らしい。

 ふぅ、仕方がない。これから三年間苦楽を共にする仲間たちに俺の存在をしっかりと刻み込んでおこう。

 

「えーっと、星川祐樹です。趣味は……特にないです。得意なことも、まあ、別に。その、仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」

 

 ダメだぁ、自己紹介なんて嫌いだぁ。

 意気込んだ割に小学生みたいな挨拶をした自分に嫌気がさす。

 こうなったらもう転校するしかない。お祖父ちゃんお祖母ちゃんごめんなさい。祐樹は今日限りで学校を辞めます!

 

 流石に退学云々は冗談だが、教室中から戸惑うような空気と微かな拍手の音が聞こえた。

 アッ、ツライ……モウシニタイ……。

 こうして俺の高校デビューはあっけなく失敗に終わったのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 その後、入学式も滞りなく行い、一度教室に戻って軽くホームルームをした後に解散となった。

 初日では友人を作ることは叶わなかったが、明日から頑張ろう。今日はこれから始まる寮生活のために日常品を揃えに行かなければならない。

 校舎内の監視カメラの位置については大体把握できた。この調子だと街の方にもありそうだが、それも追々調べればいいだろう。

 敷地内に設けられているコンビニに入店して歯ブラシや歯磨き粉、シャンプーなどをザラザラとカゴに入れていく。欲を言えば調理器具なども揃えたいのだが、それは当分先の話になりそうだ。

 

「ん、なんだこれ」

 

 視界に入ったのはワゴンに雑に入った商品の数々。

 中には歯ブラシやシャンプー、サンドイッチといったものも入っている。

 だが俺の視線を奪ったのは商品ではなくワゴンに書かれていた文字の方だ。

 

「無料、ねぇ。別に傷がある訳でもなさそうなのに」

 

 ワゴンに書かれていたのは無料という文字、そして1ヶ月に3個までという文字だ。

 別段、特に訳アリというわけでもなさそうなものだが、ということは何か理由があるのだろう。

 商品に、ではなくそれを購入する側に対して。このような日用品ですら変えなくなるような事情が。

 

「まあいいや。無料だというのならお言葉に甘えよう」

 

 俺はカゴの中に入れていたシャンプーと歯磨き粉、歯ブラシを元の棚に戻して無料コーナーの物を新たに入れていく。俺は貧乏性でね。節約できるのならしない理由はない。

 ひょっとしたら他の店にも無料のものがあるかもしれない。それを探しに行くのも面白いだろう。

 

「この学校は、思っていたより退屈しなさそうだな」

 

 思わず、そんな安堵のため息が口から零れた。だが友達がいないとやはり退屈しそうなため人間関係について頑張る必要がある。

 ……このコンビニの中にもどうやらクラスメイトがチラホラといるようだが、話しかけるのは明日からにしよう。ほら、いきなり話しかけられても向こうだって戸惑うかもしれないし? ねえ?

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 などと考えていた日から一月近くが経った。

 あれから授業で泳いだり、小テストをやらされたりとしたがまだ一人も友達が出来ていない。

 なぜだ。なぜ俺だけ友達がいないんだ。周りを見渡せばみんな仲良さそうに話し合っているのにどうして俺だけハブられているんだ。イジメ? ねえイジメ!?

 

 そういえば寮で隣の部屋に住んでいる男子生徒とばったり顔を合わせたことがあるのだが、これがまたすごい人だった。茶髪のクール系イケメンで会話をすることはできなかったが確かDクラスの生徒だったはずだ。よくもまああの歳であそこまで肉体を仕上げられたと思う。重心もまったくブレておらず、無機質な瞳からは年齢不相応に成熟した印象を覚えた。とんでもない化け物が紛れ込んでいるもんだと思わず声が出そうになったほどだ。

 

 それに偶然耳にした噂によると、どうやら我がAクラスは現在、誰がリーダーを務めるかで二分しているらしい。

 片や男子生徒、葛城康平。

 180㎝ある長身と坊主頭が特徴的な彼だが、リーダーをしようとするだけあって全体的な能力はかなり優秀だ。少々頭が固い部分があるが、実直かつ冷静であり堅実に物事を進めていくタイプ。安定感があっていいよね。俺好みではないけれど。

 

 片や女子生徒、坂柳有栖。

 小柄な体型。薄紫のセミロング。先天性心疾患による歩行時の杖。インパクトだけなら葛城くんにも匹敵するだろう美少女だ。

 この高度育成高等学校の理事長の娘らしいのだが、噂によると入試は一位だったとか違ったとか。単なる噂のため真偽はわからないが、頭が良いのは確かなのだろう。ふぅん、凄いね。いや本当に凄いわ。

 

 なぜこの二人で二分されているのかというと、この二人性格や考え方が正反対なのだ。

 保守的な葛城くんと攻撃的な坂柳さん。そりゃ対立するわな。実にあほらしいが。

 

 だいたい学生風情が派閥だ何だと言ってはいるが、俺からしたらどちらも大した違いはない。どちらがクラスの頂点に立ったとしても、どうせ俺の予測を超えてくれることはないのだろうし。なんなら二人で協力した方が絶対良いだろう。

 

 だがそれはそれとして仲間外れにされるのは寂しい。派閥争いにはこれっぽっちも興味ないが、友達は作りたい。もうどうすればいいかわかんねぇや。

 

まったく無駄な一ヵ月を過ごしてしまったと後悔の念に襲われていた時、真嶋先生が教室の扉を開けた。

 

「おはよう諸君。これよりホームルームを始めるが、今日は説明することが多い。質問は都度機会を設けるので、まずはこれを見てほしい」

 

 そう言うなり、真嶋先生は厚手の白い紙を黒板に貼りだした。

 紙にはAからDまでの各クラスの名前と、その横に各クラス異なる数字が記されている。

 Aクラス940、Bクラス650、Cクラス490、そしてDクラス0。

 綺麗に数字が並んでいた。アルファベット順にポイントが減っている。なるほど、そういう理屈か。

 

「諸君らの中には今朝振り込まれたポイントが少なくなっていたことに気付いた者もいるだろうが、その答えがこれだ。この数字は何を意味するか、既に何名かは察しがついているだろう。これは、諸君らの一か月の授業態度や生活態度などから判断したクラスの評価、通称クラスポイントだ。このポイントは、各クラスで生徒に支給されるポイントと連動している」

 

 その言葉に対し、目に見えて動揺している者は意外なことに少なかった。

 実は入学式があってから一週間ほどが経った頃、坂柳さんが自身の仮説をクラスメイトに話していたのだ。その内容と今先生が話している内容は9割方一致している。

 むしろ生徒たちは先生の言葉よりも坂柳さんの頭脳に対して驚いているくらいだ。よくぞこの少ない情報で答えを導き出したものである。天晴れ天晴れ。

 

「生徒に支給されるポイントはプライベートポイントと呼ばれ、クラスポイント1がプライベートポイント100に相当する。例えばBクラスの場合はクラスポイント650を有しているため、生徒には6万5千ポイントが支給されるかたちだな。ここまで、何か質問がある者は?」

 

 とはいえ、坂柳さんからの忠告があったにも関わらず俺たちのクラスは60ポイントを失っている。お金に換算するなら6,000円の損失だ。一月6,000円、卒業までざっと36ヵ月とするならば216,000もの大金になる。俺は悲しい……。

 それでも他クラスの、特に全てのポイントを失ったDクラスに比べれば遥かにマシだが。どういう行動を取ると減点対象になるのか詳しく知らないが、Dクラスの生徒がそれほどまでに酷い態度をとっていたとは思えない。確かに問題児は多そうだが今月は暴力事件なども起きていないはず。う~ん、謎だ。どうやったら全てのポイントを失えるのだろうか。

 

 先生からの説明を余所に考え事をしていると、ふと葛城くんが手を挙げた。

 

「ポイントの評価基準について、詳細を教えていただけますか?」

「残念だがそれはできない。人事考課、つまり詳細な査定の内容に関しては、教えられない決まりとなっている。これは社会においても通じることだが、実際に企業に入社したとして、詳しい人事の査定内容が伝えられるとは限らないからな」

「わかりました。自分からは以上です」

 

 葛城くんが着席したのを見届けて、真嶋先生は再び教室を見渡した。

 

「さて、クラスポイントの存在を明かしたところで、次の説明に移ろう。クラスポイントの役割は、単なる君たちの小遣いを決めるためのものではない。このポイントは、クラスの順位付けにも関わってくる」

 

 生徒達の顔に戸惑いが浮かぶ。

 順位付けについては予想していた。だが坂柳さんはクラスメイトにこの話をしていない。

 彼女ほどのものが気付いていないとは思えないが、確信がなかったため話さなかったのかもしれない。

 

「国営直下で管理されるこの学校が、高い進学率と就職率を誇るのは周知のことだろう。当校は卒業していく者に対し、最大限の支援を行っている。だがこの恩恵を受けられるのは、Aクラスで卒業した生徒に限られる」

 

 その言葉に、多くの者は口元を押さえたり目を見開いたりと、驚きを隠せない様子だった。

 だが想像していたほど大きな騒ぎになっていない。なんだ、これなら俺が話していても良かったかもしれないな。

 

 

 嘘です。そんな勇気があったら今ごろ友達が出来ています。

 

 

 自虐はほどほどにしておいて、要は先ほどのクラスポイントが関わってくるのだろう。

 ポイントの多いクラスが上へ、少ないクラスが下へ行く。卒業後の恩恵が欲しければ個人ではなくクラス単位で努力し、他クラスを蹴落とさなければならない。

 例えば今回の場合、俺たちAクラスのクラスポイントが650ポイントを下回っていた場合、俺たちAクラスがBに、現BクラスがAへと昇格していたということだ。そしてこのようなことがこれから卒業するまで行われる。

 

 へえ、面白い。

 

 これからの学校生活は中々楽しいものになりそうだとほくそ笑んでいると、今度は坂柳さんがスッと手を伸ばした。

 

「坂柳」

「はい。先ほど先生は、人事考課については明かせないと仰いましたが、ポイントを増やす手段についても同様でしょうか?」

「いい質問だ。ポイントを増やす手段に関しては現時点で全てを明かすことはできない。不明な点を自ら考察し紐解いていく能力も、社会においては求められるからだ。だが、同時に今の段階でも幾つか明かせることはある」

 

 そこで一旦話を区切り、先生は再びクラス内を見渡した。

 

「この中には部活に所属している者も多いだろうが、大会などで優秀な成績を収めた場合、成果としてプライベートポイントが支給される他、クラスポイントが増加することもある。そしてもう一つ。次の中間テストに限って言えば、成績次第で最大100ポイントのクラスポイントが支給される」

 

 その回答を聞き、坂柳さんは再び手を挙げて質問を重ねる。

 

「限って、ということはそれ以降は支給されないと?」

「その通りだ。これは、入学して初めての試験を乗り越えた場合の褒賞のようなものだからな」

 

 乗り越えた場合の褒賞。それはまるで中間テストにもなにか仕掛けられていると言っているようにも聞こえる。

 

「ふむ、せっかくなのでこのまま中間テストの説明に移ろう。まず、これを見なさい」

 

 そう言って、先生は改めて黒板に1枚の紙を追加で貼りだした。

 紙に書かれたのはAクラスの生徒全員の名前と、その横にはまた数字が書かれている。

 

「これは、先日やった小テストの結果だ。平均点は80点を超えている。まったくもって見事な結果だ」

 

 真嶋先生は見事と褒めているが、それほど驚くような結果でもない。

 内容としては、全20問で構成されており、最後の3問だけは明らかに高校一年生には解けない高難度の問題だったが、それを除けば簡単な問題ばかり。

 基礎さえできていれば8割程度とることは難しくなく、実際クラスの半数以上の生徒が80点以上を記録していた。

 特に坂柳さんは全問正解の100点満点を記録している。俺なんて77点だったのに。平均以下だったのに。

 

「さて、この小テストを仮に中間テストの結果だとしよう。その場合の赤点のラインは平均点の半分となる。今回、赤点となった生徒はいなかったが、もしこれが本番のテストで赤点となった者がいた場合、その者はその時点で退学処分となる」

 

 再び、教室に動揺が走る。

 たかが一度の赤点で退学にされるなんて普通の学校ではありえない。だがこの学校はそもそも普通ではないのだと改めて実感したのだろう。

 別に動揺する事なんてない。平均点の半分が赤点であるというのなら50点以上を取れば確実に赤点を回避できるということだ。全問は無理でも半分を解ければ良いと考えれば多少は気が楽になる。

 

「この処分を厳しいと思う者もいるだろうが、諸君の学校生活は国の資金によって賄われている。成果を出せない者にいつまでも投資を続けるほど、世の中は甘くない。逆に言うならば、成果を出しさえすればこの学校はそれを評価する。処分を恐れるのであれば、自らが投資に見合った存在であると示し続けることだ」

 

 厳しい言葉に聞こえるが、これも真嶋なりの激励の言葉なのだろう。その言葉に、戸惑いを見せていた生徒たちは、僅かに気を引き締めたような顔つきとなる。

 

「さて、以上で説明を終えるが、最後に何か質問はあるか」

 

 はい! 全ての監視カメラの位置と数を教えて欲しいです!

 などと言う勇気はやはりなく、俺は肩を落として項垂れるのであった。

 

「では、他に質問が無いようであれば、これにてホームルームを終了する」

 

 そうして、5月最初のホームルームは幕を閉じた。

 

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