朝のホームルームが終了した後、Aクラスは放課後にクラス会議を開く流れとなった。
おそらくこれから先起こるであろう他クラスのと競争のこと、あとは三週間後に控えた中間テストの対策などについて話し合うのだろう。うむ、俺は帰ろう。
今日の夕飯はアジの味噌煮を予定している。この一ヵ月間色々な部活動に顔を出してコツコツとポイントを貯めて来たのだ。調理器具類もだいたい揃ったため早く帰って作りたい。
鞄を両手に抱えて気配を押し殺し静かに教室を後にする。どうせ誰も俺のことなど眼中にないだろう。言ってて悲しくなってくるが事実のため仕方がない。
おや、目から汗が垂れてきたぞ? 一体全体どういうことだってばよ。
コソコソと廊下を渡り、玄関口で靴を履き替える。
「こんにちは星川くん。こうしてお話しするのは初めてですね」
外に出ようと一歩踏み出したその瞬間、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
この学校に入学してから先生以外に呼ばれた覚えがない。けれど呼ばれてしまった以上無視するわけにはいかないだろう。
声のする方へ振り返ってみると、そこには案の定クラスを二分しているリーダー、坂柳さんの姿があった。
もう一人、紫髪の女子生徒も側にいるが、確か神室さんだったか。坂柳さんの右腕的ポジションでいつも一緒にいるのを教室内でよく見かける。
「えっと、何か用かな」
「ええ。少しお聞きしたことがありまして。それよりも会議に出席しなくてもよろしいのですか? 今頃教室では葛城くんを中心にこれからのことについて話し合っているはずですよ」
それを言うなら君の方こそ出席した方がいいんじゃないか。そうしないとリーダーの座を本格的に奪われかねないぞ。
「ご安心ください。会議には私の息のかかった者を数名残しておりますので。問題なく誘導してくれることでしょう」
「ナチュラルに心を読まないで」
そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。ポーカーフェイスは得意だと自負していたつもりだが評価を改めなければならないかもしれない。
「っと、話がずれてしまいましたね。ここではなんですのでご一緒にお茶でもどうですか?」
えっ、今日はこれからアジの味噌煮を……。
だがこの学校に入って初めて話しかけてくれたクラスメイトだ。あまり無下にはしたくない。でも俺のアジが待ってるし。どうしよう。
「もしかして、何か用事でもありましたか? でしたらまた日を改めますが」
「……いや、うん、大丈夫。別に用事なんてないから話を聞くよ」
多少帰るのが遅くなったところで問題はない。本当は今すぐに帰って作りたい所だが今日は彼女の方を優先しよう。
坂柳さんのお誘いに頷くと、彼女はパッと微笑んだ。
可愛らしい天使のような笑顔だが、俺にはそれが悪魔の誘いのようにも見えた。
◇◇◇◇◇◇
世間一般で言うところの『お茶でもどうですか』という誘い文句で想像するのはなんだろうか。
だいたいの人はカフェなどを想像するかもしれない。俺だってそうだ。坂柳さんに誘われた時俺はケヤキモールにある人気のカフェに連れていかれるのだと思い込んでいた。
だがここは普通ではない生徒があつまる硬度育成高等学校。そんな一般常識などクソ喰らえという生徒で溢れ返っている。
つまり何が言いたいのかって? こういうことさ。
「まさか本当に『お茶』を飲みに来るとは……」
連れていかれたのは老舗のような雰囲気を放つ茶屋であった。メニューに軽く目を通して見たがどれもこれも無駄に高い。少なくとも学生が来るような場所ではないと思うのだが赤字になったりはしないのだろうか。
あ、でも個室なのはポイント高い。良いよね個室。これでもう少し安かったら常連になることも考えるのだが。
「星川くんは何にします?」
「…………………………………粗茶で」
「粗茶は品名ではありませんよ。では玉露を三人分お願いしましょう」
え、それって確か2,000超えだった気がするんですが。これなら普通にカフェとかの方が良かったのでは? ほら神室さんも落ち着かないみたいですし。
程なくして人数分のお茶と和菓子が用意された。良い香りだ。さすが高いだけはある。
「……それで、俺に聞きたいこととはなんでしょう」
普段質素な物しか食べていないため、こういう高級な物に手を付けるのは緊張してしまう。
とりあえずお茶を飲むのは後にして坂柳さんに問いかけた。
「ふふ、では本題に入りましょうか。神室さん、お願いしても?」
「はいはい。分かってるわよ」
目の前で神室さんが学生鞄の中身を漁り、中からクリアファイルを一つ取り出した。
どうやらファイルの中には数枚のプリントが入っており、それを一つずつ机の上に並べていく。
………うん? これってもしや。
「これは真嶋先生からいただいた星川くんの入試試験とこの間の小テストの答案用紙です」
「俺のプライバシーが侵害されているんですが」
何やってくれてんの先生! えっ、本当に俺の答案用紙じゃん! 何やってんの先生!
衝撃の事実に右手で目を覆い天井を仰ぐ。なんてこったい。
「……プライベートポイントで俺の答案を購入したのか」
「! その解答に一瞬で辿り着くとはさすがですね」
何故か褒められたがまったく嬉しくない。プライベートポイントにそういう使い方がある可能性は入学初日から考えていたことだ。
真嶋先生はこう言っていた。『学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら何でも購入可能だ』と。
ならば坂柳さんがしたように他人のテストの答案を閲覧する権利なども購入できる可能性がある。どれだけのポイントを要求されるのかは知らないが、テストの点数でさえもひょっとするかもしれない。
問題は、なぜよりによって俺なのかということ。目を付けられるようなことをした覚えはないのだが。
「ふふ、星川くんは面白いことをしますね。入試試験も小テストもすべて77点に揃えるなんて、考えたとしても実行に移す人はまずいません。ですがあなたはやってのけた。そのためには問題を解く学力はもちろん、配点を見破る分析力も必要になります。つまりあなたは自身の本当の実力を隠しているということになるのですが、ここまでで何か質問はありますか?」
「………」
質問などない。強いて言うなら俺に目を付けた理由を知りたいが、それよりも俺の
「あのさ、いまだに半信半疑なんだけど本当に狙って揃えたの? 50点とかならともかく77点なんて中途半端な数字、狙って取ることなんて本当にできるわけ?」
「可能かどうかという話であれば充分可能でしょう。ですが神室さんの言う通りなぜわざわざ77点に揃えたのかまでは私にもわかりません。この間の小テストは一問あたり5点の配点になっていましたのでただ問題を解くだけではこの数字に合わせることもできないでしょう。どう回答すればどの程度減点されるのかを把握していないとできない芸当です」
そう、それが問題だった。
入試試験の時は配点がバラバラだったためさほど難しくはなかったが、今回の小テストは一問5点の配点だ。減点にする基準なんて採点する教師によってまちまちだ。途中式が間違えていても答えがあっていれば丸をつける教師もいれば減点する者も、不正解とみなす者もいる。今回の場合採点するのは真嶋先生だったため先生の思考パターンなどから調整したのだ。少々骨の折れる作業だったが、楽しかったし俺は満足している。
「……点数を揃えたのは、ただ解くだけじゃ何も面白くなかったからだ」
「あら、ではお認めになるのですね。自身の実力を偽っていることを」
「偽ってるつもりはない。今言った通りその方が面白いと思っただけだ。ちょっとした気紛れ、お遊びだよ」
「お遊びって……それに何の意味があるのよ。高得点を取れるならその方が良いに決まってるじゃない」
「高得点を取っても楽しくないだろ? だったら自分で楽しめるようにするしかない。まあ、神室さんの言う通り意味なんてないよ。だから遊びなんだ」
神室さんが信じられないものを見たような目を向けてくる。
その視線に居心地が悪くなり、俺は目の前に置かれたお茶を啜って誤魔化した。
………なにこれ美味ぇ。
「それで、坂柳さんの聞きたいことはこれだけ?」
「ええ、お聞きしたいことはこれで終わりです。そして私の推測が当たっていた場合はあなたに一つ提案をしたいと思っていました」
「提案? 君の派閥に入れってことならお断りさせていただくけど」
「そうですか。では私の派閥に入りませんか?」
「あれ? 話が通じてない……」
たった今断ったはずなのだが、坂柳さんは微笑みを崩すことなく勧誘してきた。
「……派閥争いに興味はないんだ。君と葛城くん、どっちがリーダーになろうと正直どうでもいい。クラスポイントが減って毎月の支給が下がる様なことにさえならなければ俺は満足だ」
「私に協力してくださるのならば他クラスを圧倒するとお約束しますよ」
違うんよ。俺は葛城くんと敵対なんかせず、協力してクラスを纏めた方がいいと言っているんだ。何故伝わらない。もっと直球に言った方がいいのだろうか。
「……派閥争いに関して俺は関わらない。どちらかに属するつもりもない。それで納得して欲しい」
「では派閥は関係なく、私個人であれば協力していただけますか?」
「それはどういう……」
坂柳さん個人への協力とはいっても、そんなことをすれば周りからどう見られるかなど考えるまでもない。俺が否定した所で間違いなく坂柳派だと思われてしまうだろう。
学生が派閥だなんだと言うのは恥ずかしいため断りたい。そう思っていると坂柳さんはテーブル越しに右手をこちらへと伸ばしてきた。
なんだこれ。
「星川くん。私とお友達になってください」
「よろしくお願いします」
俺は迷うことなく彼女の手を取った。
やったぁ! 今世で初めての友達が出来たぞぉ! イヤッフゥ!
「チョロすぎでしょ………」
神室さんの呟くような声が聞こえた気がしたが空耳だろうか。
これでようやく友達が一人できた。祖父ちゃん、俺やったよ。この調子で友達百人作るからね!
派閥争いに関わりたくないという思いはいまだ変わらないが、それはそれとして友人のために協力するのはアリだろう。ナシとか言う奴がいたら俺がブッ飛ばす。
こうして俺は坂柳さんと神室さん、二人の連絡先を手に入れた。今まで空欄だった連絡先一覧に人の名前が載っているだけで涙が出そうになる。
こうして俺は友人となった坂柳さんのため力になることを誓ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
友人として坂柳さんに協力するとは言ったものの、正直俺にできることはなにもない。これは坂柳さん本人に言われたことだ。
曰く、『星川くんは秘密兵器です。私がお願いするまでは目立たずひっそりと暮らしてください』とのことらしい。
秘密兵器……? 俺たちは友達だったはずだが……。
まあ目立つなというのならそうするまでだ。どうせ誰も俺になんて興味ないだろうし今まで通りにしていればいいのだろう。
そういえば、クラス会議で我らがAクラスは勉強会を開き、各々の基礎学力を向上させるという方針を取ったらしい。
この学校の敷地内にはいわゆる塾というものはない。分からないところがあれば教師に聞けばいいが、この学校の先生たちも積極的に生徒に関わろうとはしない。あくまでも生徒たちの自主性を重視するらしい。
ということで必然的に学力の高い人が教師役となって勉強を教えることになったそうだ。この辺はおそらく他クラスも同様だろう。他に取れる手段も無さそうだし。
そうして日々を過ごすこと一週間。テストまで二週間を切った金曜日のこと。
最近は坂柳さん主催の勉強会に何度か参加させて貰っていたが、その日は参加している生徒たちも憂鬱そうな表情を浮かべていた。
「まさか全教科のテスト範囲が変わるなんてね……」
悩みの原因はホームルームに真嶋先生から告げられた連絡によるもの。
中間テストの範囲変更。
俺は別に然程心配はしていないが、テストの成績次第では退学の恐れもあるため他の生徒は気が気ではないのだろう。
だが俺としては真嶋先生の最後の言葉が気になっている。
『突然の連絡で申し訳ないとは思っている。だが私はこの中間テストは乗り切れると確信している』
おかしな話だろう。Aクラスだから、とは一言も言っていない。そもそも中間テスト『は』というのがおかしい。まるで他のテストはともかく今回のテストに限り絶対に赤点を回避する方法が存在するとでも言いたげだ。
正直、頭に浮かんでいることはある。だがわざわざそれを言う必要はないだろう。だって坂柳さんに何もするなって言われちゃったし。
むしろ心配なのは他クラスのことだ。俺はクラス競争にそこまで興味はないが、友達になれるかもしれない人がいるかもしれない。そんな人たちが今回のテストで退学になるかもしれないというのは悲しいことだ。
だが! 俺は! 何もしないッ! だって何もするなって言われたから。
何か面白いことでもないだろうか。昨夜寮の裏で生徒会長とDクラスの生徒二人が何やらバチっていたのは面白かったが、せっかくなら動画で残しておけばよかった。しかもDクラスの生徒の内一人は寮でお隣の綾小路くんだったのだ。もう一人の黒髪美人は知らないが、彼も中々隅に置けない。いや、話したこともない癖に何言ってるんだという話だが。
「退屈だなぁ……」
思わず、ポツリと本音がこぼれ落ちる。
結局俺はこの勉強会でもボッチを貫いている。いや貫きたいわけではないのだが話したことある人が坂柳さんと神室さんしかいなく、坂柳さんはみんなの勉強を見るので忙しそうにしていた。神室さんは積極的に話そうとする人ではない。つまり俺がボッチなのは必然という事に……。
あれ。俺ってなんでここにいるんだっけ?
だんだん自分の存在意義が分からなくなってきたため、俺は勉強道具を片付けて帰宅の準備をする。
「おいおいもう帰るのか? えっと星川くん? だっけ。せっかく来たんなら姫さんに勉強教えてもらってからでもいいんじゃね?」
はて、急に金髪のオールバックに話しかけられた。誰だったっけ、君。
ああ思い出した。たしか橋本くんとかいうチャラ男だわ。まったく今更だがこの学校は美男美女が多すぎて眩しい。自他ともに認めるモブ顔の俺には少々生き辛い世の中だ。
「あー、そのつもりだったけど坂柳さんも忙しそうだしまたの機会にするよ。帰って自室で勉強してた方が効率も良さそうだし」
「まあそう言うなって。なんなら俺が教えてやるからさ。どこが分からないんだ?」
チッ。しつこいなこのチャラ男。お前あれだろ、突如仲間を裏切って敵に情報を流したりするタイプの人間だろ。俺そういうの詳しいんだからな。でも話しかけられてちょっと嬉しいと思っている自分もいる。
だいたい彼に教わるようなことなどないのだが、仕方がない。ここは花を持たせてあげますか。
「じゃあここの問題を教えて欲しいんだけど」
「どれどれ? …………………………ダメだ、俺もわからん」
「ブフッ」
アハハハハッ! なんだイキッてた割にそんなものかチャラ男くんよぉ! 所詮は顔が良いだけの男なのかぁ!? アハハハハ!
難しい顔で教科書と睨めっこしている橋本くんがツボってしまい、思わず吹き出してしまった。今回のテスト範囲よりずっとずっと先で習う問題を問いかけたのだ。解けなくても無理はないだろう。
意地悪? 知らんな。俺は性格の悪いイケメンは嫌いなんだ。性格の良いイケメンは嫌いじゃない。むしろ友達になりたい。Dクラスの平田くんとかは理想的だろう。俺が女だったら惚れていたまである。
笑わせていただいたお礼にもう少しだけこの勉強会に付き合ってやろうかな。ついでに今の問題の解き方をレクチャーしてやろう。この手の問題が出るのは三学期あたりになると思うがな。ワハハハハハ。
◇◇◇◇◇◇
さらに時間は過ぎていき、中間テスト当日。
退学がかかっているという事もあって教室内は少しピリ付いている。
だがさすがはAクラスというべきか。テストが始まれば皆スラスラとペンを走らせている。まるで答えを最初から知っていたかのように。
これなら問題は無さそうだな。
一安心したところで俺もテスト問題と向かい合う。
さあて、今回もラッキーセブン狙いましょうかね。
そして、中間テストのあった日から1週間後。
その日は朝のホームルームにて、早速テストの結果が貼り出された。
貼り出された紙には、Aクラスの生徒全員の名前と各教科の点数が、上位から順番に書かれており、その横には各クラスの総合平均点が記入された紙が、別に貼り出されている。
俺もまた自分の名前を探し、各教科の点数を確認する。
国語77点、数学77点、化学77点、社会77点、英語77点。
素晴らしい。ミッションコンプリートだ。満点取るよりも達成感があるのは何故だろうか。
他の生徒も軒並み高得点を取っている。満点を取った生徒の数は両手の指に納まらないだろう。特に恐ろしいのは坂柳さんで全教科全問正解。最高得点100点、平均100点という記録を叩き出した。
クラス平均は90点前半といったところだろう。赤点を取ったものはいない。
「さすがです葛城さん! 葛城さんが過去問を手に入れて来たおかげでみんな高得点を取れてますよ!」
「………ああ、そうだな」
喧しく叫んでいるのは確か戸塚くん、だっただろうか。同級生の葛城くんを相手に敬語で話している狐のような男子生徒だ。
狡賢いという意味ではない。虎の威を借りて威張っているだけの狐という意味だ。もちろん褒めていない。
葛城くんの周りには戸塚くん以外の生徒も集まって次々にお礼を告げている。だが当の葛城くん本人はどこか浮かない顔だ。
だがまあ、良かった良かった。誰も退学者がでなかったのなら俺も頑張った甲斐があった。
「少しいいですか、星川くん」
「はい」
達成感に浸っていると、案の定坂柳さんが声をかけてきた。笑顔を浮かべてはいるが内心は面白くないのだろう。不機嫌そうなオーラが漏れているせいで側に立つ神室さんは居心地が悪そうだ。
「単刀直入に聞きますが、葛城くんのグループに過去問を流したのはあなたですね?」
想定通りの質問に、俺は黙って頷いた。
今から一週間ほど前、俺は偶にに出入りしているチェス部の先輩方と昨年・一昨年の一学期中間テストの過去問を賭けて対局をした。
話の流れでわかるとは思うが、結果はもちろん俺の勝利。無事に過去問を手に入れ、オマケに小テストの答案用紙もいただいたことで過去二年にわたって同じ問題が出題されている確信を得た。
俺は手に入れた過去問を坂柳さんに渡し運用については丸投げしていたが、彼女の方針上葛城くんたちに教えないだろうことは想像できる。
故に俺は偽造のアドレスを作り、過去問とそれが有効であるという証拠を秘密裏に葛城くんへと送信した。
彼の性格上差出人不明の内容を信じるかは五分五分だったが、どうやら彼は信じてくれたらしい。まあ少し調べれば裏が取れるため賢い彼ならきっとそうすると踏んでいたが。
結果としてAクラスは坂柳派・葛城派ともに高得点を叩き出すことができた。一番大変だったのは葛城くんのメールアドレスを入手することだったが、あの手この手を使いかなり遠回りはしたものの手に入れることに成功したのだ。本人に直接聞けばいい? 馬鹿野郎。そんなことができるなら今頃友達に囲まれた学園生活を送ってんだよ。
「私は何もするなとお願いしたはずですが」
「俺の記憶だと目立つなと言われてた気がするな。そもそも君が素直に情報を共有していれば俺が動く必要はなかったんだ」
「私には私の計画があります」
「そうかい。でもそれがクラス全体の不利益に繋がるのであれば俺は賛成できない。坂柳さんは友達だからなるべくお願いは聞いてあげたいけど、命令に従うつもりはない。俺は君の配下ではないからな」
派閥争いなんて不毛なことはやめて仲良くすればいいのに。みんな仲良くが一番だ。
そもそもこれから他クラスと対立しなければならないのになぜクラス内で争わなければならないのか。何度考えてみても馬鹿だという結論が弾き出される。
「……どうやら私はあなたのことを過小評価していたようですね。ですがこれだけはお聞かせください星川くん。友人として、そしてAクラスの生徒として協力は惜しまないという言葉に偽りはありませんか?」
「ないよ。クラスのために協力したいという気持ちも、友達に力を貸したいという思いも全て本心だ。現に今回も君の個人的な企みは潰えたけどクラスとしては他クラスを引き離して一位を取っただろう?」
今回のテスト結果でどの程度クラスポイントが増量するのかは知らない。だが入学当初に与えられた1,000ポイントは超えるだろう。毎月10万の日々が帰って来るのだ。
今ばかりはクラス内の雰囲気も悪くない。こんな空気がずっと続けば良いのだが、この学校の特色上そういうわけにもいかないだろう。
「では私と葛城くんとの派閥争いに関しては以降も関わる気はないと?」
「ないね。それについては邪魔はしないよ。当然クラスの不利益になるなら話は別だけど、個人的に競い合って真のリーダーを決めるというのなら俺は何も言わない」
「今はそれで納得しましょう。ですが、ふふっ。叶うならあなたには味方でいて欲しいものですね」
最後にそれだけ言い残して坂柳さんは先に戻っていった。
現状、ただのクラスメイトでしかない葛城くんよりも友人である坂柳さんの方が心情的には傾いているが、それでは納得しないだろう。どうして人は仲良くできないのだろうか。あの二人が協力したら敵なしだろうに。
まあ、今は保留にしておこう。この学校に入学して初めての試練を誰一人欠けることなく乗り越えられたんだ。それでいいじゃないか。
坂柳「聞き忘れていたのですが、テストの点数を揃えたのが単なる暇つぶしであるなら、77という数字にはいったいどんな理由があったのですか?」
星川「えっ? いやあ、特に理由はないんだけど7って数字は縁起が良いからさ。全部7で揃えたら良い事あるかな~って……」
坂柳「ふふふ、星川くんらしいですね」
神室「頭良いのか悪いのかわからないわね、あんた……」