今からおよそ五年ほど前、俺は両親共々交通事故に遭い、両親は死亡。俺も半年間もの間意識不明の重体となっていた。
後から聞いた話によると、親戚間で話し合った結果俺は祖父母に引き取られることとなり、小学校を転校。そうして祖父母の暮らす田舎の学校に通う事となったのだ。
だがこの事故によって俺の脳には後遺症が残ってしまった。
目覚めた後、俺には世界が一変したかのように見えたいた。
だが違う。そうではない。変わったのは世界ではなく俺自身の方だった。
外見には一切変化はない。変化があったのは俺の内面。
高速思考と分割思考。
簡単に説明すると、アトラス院の錬金術師が扱うそれと似たものだ。
加速された思考は常人の数倍の処理能力を可能にし、更に俺の脳内では精度を維持したまま自分の思考を四つに分割している。
ここで注意してほしいのは、分割思考によって得られる思考の数は、最初に分割した時点での思考の数と同等ではないという点なのだ。
あくまで複製するのは、‟常人の数倍の思考速度を持ち、ほぼタイムラグなしで互いを共有し合う思考”であり、この関係上、実際に得られる思考の数は加算や乗算どころの話ではなく、例えば分割した思考が3つならば3³ = 27、4つになると4⁴ = 256の思考となる。
自分で言っていて少し怖くなるが、これだけ多数の思考を持っているがために同時に本来の自分と異なる多様な視点・価値観をも内面に許容する事が出来ている。
だがこれは今だからこそ言える話。目覚めた当時は鋭敏になった五感とそれらの膨大な情報量を処理できている自分に気味悪さを感じた。まるで別の生物に生まれ変わったような違和感になれるまで一年近くもかかったのだ。
それに良い事ばかりでもない。この体質になってからは一度見聞きしたことは忘れることもできず、ほぼ無意識に行われる演算があらゆる可能性の未来を俺に叩きつけてくる。
ツマラナイ。退屈だ。誰も俺の予測を超えてくれない。
未来を識るということがこんなにも苦しいことだとは思わなかった。未知が存在しない世界とはここまで色褪せているとは思いもしなかった。
この学校を選んだのは中学の教師に勧められたからだ。学費がタダでなおかつ寮生活。祖父母に迷惑をかけなくてもいいなんて言われたら頷くしかない。
祖父ちゃんは言った。多くの友人を作れと。そうすれば誰かが俺の凝り固まった価値観をぶち壊してくれるはずだと。
和尚は言った。君はいずれ数多くの未知を開拓してしまうだろうと。それまでの過程をどう楽しむかは俺次第なのだと。
ここならば俺と対等の友人が作れるかもしれないと、そう思った。
ここならば心躍る『未知』が見つかると、そう祈った。
だが、未だにそんな人は現れない。
ああ、誰か。誰でもいい。男でも、女でも、子供でも、老人でもいい。
誰か俺の退屈を──────────────殺してくれ。
◇◇◇◇◇◇
中間テストを終えてから初めての、入学してからは二回目になるポイント支給日を迎えた。
だがどれだけ待ってもポイント残高が変動しない。早よ10万くれ。先月使い過ぎたせいで少々心許ないんだ。
6月末時点でのクラスポイントは
Aクラス 1,025cl
Bクラス 663cl
Cクラス 492cl
Dクラス 87cl
となっていた。つまり俺たちAクラスは102,500prが支給されているはずなのである。
なのに! ポイントが! 増えてないッ!
考えられるのは何らかのトラブルだが、システムに何か異常が発生したという可能性もある。この事象がうちのクラスだけなのか、それとも学年全体なのか。この学校に通う全生徒がポイントを支給されていないのか。現時点では何とも言えないがとりあえず学校側にクレームを入れなければ。
「おはよう諸君。今日のホームルームだがまず伝えなければならないことがある」
ホームルームの開始を告げる鐘の音と共に真嶋先生が入室してきた。
「先生、今月分のポイントがまだ振り込まれてませんが、何かトラブルでしょうか」
生徒を代表して葛城くんが質問を投げかける。
プライベートポイントが支給されていないことについてはクラス全員が気付いている。それについての弁明があるのなら是非とも聞いてやろうじゃないか。
「ああ、ちょうどその件について話をしようとしていたところだ。お前たちには申し訳ないのだが、今回少しトラブルがあってな。一年生のポイント支給が遅れている。悪いがもう少し待ってくれ」
「……そのトラブルにAクラスは関係していますか?」
重苦しい顔でそう問いかける葛城くん。だが真嶋先生はふっと微笑んで首を振った。
「いいや、この件に関して今のところお前たちは無関係だ。トラブルが解決次第ポイントは支給される。これは学校側の判断であり俺にはどうする事も出来んが、それは保証しよう」
先生の言葉に教室中から安堵のため息が聞こえてきた。
学校側の不備なら何かオマケがあってもいいのではないだろうか。まあそこまで責めるつもりはない。何せその『トラブル』とやらが何なのかは把握しているからだ。
「とはいえポイント支給までにクラスポイントが下がる様な事があれば、もちろんプライベートポイントも減額されるからな。これからも清く正しい学校生活を送るように」
そう言って真嶋先生はホームルームを締めたのだった。
放課後。残念ながら今日も予定など入っているはずがなく図書室にでも寄って本の香りでも堪能しようかと思案していると、突然学校から支給されている学生証端末から音が流れ始めた。
なんだなんだぶっ壊れたのか? あ、違う。これ電話の着信だわ。
携帯電話なんて今世では一度も持っておらず、入学してからも電話機能なんて使ったことなかったため忘れかけていたが、画面には『坂柳有栖』と名前が表示されている。
俺は一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
「は、はい、もしもし……?」
『ごきげんよう星川くん。突然の電話で申し訳ございません。まだ校舎内にいらっしゃいますか?』
電話なんていつも突然鳴るものだろう。俺の心臓には悪いが。
いやあ、文明の利器ってすごいなぁ。そのうち本当に空飛ぶ車とか作れちゃうんじゃない? 俺は別に欲しくないけど。
「校舎どころか教室にいるよ。どうかした?」
『少しお話したいと思いましたので。都合が良ければ図書室に寄っていただいても構いませんか?』
「オーケー。俺も図書室に行こうと思ってたからちょうどいいや。これからすぐに向かうよ」
『お待ちしております』
通話を切って端末を制服のポケットに入れる。
ふむ、適当に流してしまったが話とは何だろうか。もしや告白? 図書室で? ナイナイ。
だがすぐ向かうと言った以上待たせる訳にもいかないため、荷物を抱えて教室を後にする。
わーい友達からのお誘いだあ。嬉しいなあ。(本音)
◇◇◇◇◇◇
さて、やって参りました図書室です。
こちらは数千を超える膨大な『本』という名の人類の遺産が収められています。かくいう私も度々足を運んでは目についた書物を漁ったりしております。
残念ながら漫画の類はほとんど置いておりませんが、実はラノベは置いてあったりするのです。この間なんて『このすば』を見かけました。司書さんはお目が高い。拍手をお送りしましょう。
とまあ、茶番はこのくらいにして俺を呼び出した坂柳さんの姿を探す。
いや、探すまでもない。彼女の容姿は非常に目立つため図書室内のほとんどの生徒は自然とそちらに視線を向けていた。
いやだなこの視線の中心地に行くの。緊張して身体がガチガチになったらどうしてくれるんだ。
そちらに向かうべきか、それとも連絡を入れて移動してもらうか。でも坂柳さんを歩かせるより俺が向かった方が良いのでは………と考えていると坂柳さんのパッチリとした瞳がこちらを向いた。
「お待ちしておりましたよ、星川くん」
「あー、うん。お待たせしました」
見つかってしまったのなら仕方がない。渋々と坂柳さんの正面の席に腰を降ろす。
「珍しいね、今日は一人なんだ。神室さんたちは?」
「ええ。真澄さんは部活動がありますし、橋本くんと鬼頭くんには少々調べものをお願いしてます」
「へえ。調べものというと今朝のホームルームで真嶋先生が言ってたトラブルについてかな?」
「ふふ、星川くんには隠し事はできませんね。その通りです。既にだいたいの情報は出揃いましたので星川くんにも情報を共有しておこうかと思いまして」
「お気遣いはありがたいけど、どうせCクラスとDクラスの揉め事だろ? 他クラスの問題に頭を突っ込むつもりはないよ」
思わずため息がこぼれた。Cクラスがリーダーを筆頭にやんちゃなことをしているのは知っていた。だが真っ先に狙う相手が格下であるはずのDクラスとは。実につまらない選択をしたものだ。
「………知っていたのですか?」
「まあ、ちょっと機会があってね」
こちらを一直線に見つめる坂柳さんから視線を逸らす。
この学校は監視カメラがそこかしこに設置されているが、死角になっている場所や設置されていない場所というのもいくつかある。まるで学校側が意図して設置しなかったかのように。
更衣室やトイレは当たり前だとしても特別棟に監視カメラがないのは明らかにおかしい。あそこには理科室があるため薬品類などが保管されている。他の階にカメラを設置してあそこにだけ設置しない理由ってなんなんだ。
ということで先月、俺は大金をはたいて隠しカメラを幾つか購入し、監視カメラの設置されていない場所に隠すように置いていたのだ。
何故か? それはもしも俺がカメラのない場所に連れていかれてカツアゲされた時に学校側に提出するためだ。
ケヤキモールの電気屋には設置型の監視カメラも販売していたが、それよりも隠しカメラの方が絶対良いと判断した。だってあからさまに設置していたら誰も問題なんて起こそうとしなくなるだろ? 俺は弱みが握りたいんだよ。弱みを握って優越感に浸りたいんだよ。
するとどうだろう。特別棟に設置していたカメラを回収した所、そこには喧嘩をしているDクラスとCクラスの生徒が映ってるではないですか!
記録されている会話を聞くに、Cクラスの生徒がDクラスの生徒を呼び出し、呷り散らかして喧嘩を勃発させる。その後学校側にDクラスの生徒に殴られたと訴えた。映像を見るに先に呷ったのも手を出したのもCクラスだが、本来監視カメラのないあの場所では両者の証言が食い違った所で証明する手段がない。場所が場所だけに目撃者もいないだろう。ハハハハハ、あほくせぇ。
「Cクラスのリーダーが誰か知らないけど、そこまでしてDクラスを潰そうとするかね普通」
「あら、私も似たようなことをすると思いますよ。これほど過激なことをするつもりはありませんが」
「お願いだからやめてくださいね……」
楽しそうに笑ってはいるが、目が全然笑っていない。彼女の場合はもっと陰湿な手段を取りそうだから本気でやめて欲しいのだが。
「ですがさすがの星川くんでもこの情報は知らないのでは? この事件の事実確認と処分の決定を当事者と教員、生徒会を交えて審議することになったそうですよ」
「……なるほど、その情報はありがたい。学校や生徒会がどの程度で関与してくるのかわからなかったからな。Cクラスの本当の狙いもおそらくそこだろう」
だがそう考えるとCクラスのリーダーはただのバカではなさそうだ。多少マシなバカに格上げしてあげよう。まだ顔も名前も知らないけど。
「とはいえリスクの大きい手を使うもんだ。はっきり言ってメリットよりデメリットの方が大きすぎる。よっぽど自信があるのか知らないけど、これは愚策だ」
「そうでしょうか。攻めの手段としては悪くないと思いますよ。守りが少々疎かなのは否めませんけどね。ですがこれでDクラスの生徒が万が一にも退学になることがあれば、このクラス間の競争でDクラスは早くも脱落ということになりかねません。Cクラスは早い段階で敵を減らしておきたいのでしょう」
「Aクラスの特典がそこまで魅力的かねぇ……」
俺としてはあまりピンとこない感覚だが、他の人たちには違うのかもしれない。
「星川くんはAクラスに魅力を感じませんか?」
「坂柳さんには申し訳ないけど、正直ね。進学・就職を国が支援しているとはいっても、卒業した瞬間に総理大臣になれるわけでもないし」
「星川くんは総理大臣になりたいのですか?」
「ごめん、今のは物の例え。要はそれほど特異なものじゃないってことだよ。それこそAクラスに配属される様な人間なら自力で狙った進学先に進めるだろうし」
さすがに総理大臣なんていうのは冗談だから真に受けないで欲しい。俺が総理になったらこの国は終わりだぞ。
「そうですか。星川くんの考えはわかりました。かくいう私もAクラスの特権には然程興味がありませんしね」
「クックックッ、じゃあ俺たちは似た者同士か。どうりで話が合うわけだ」
「ふふふ、そのようですね」
いつの間にか周りの視線は気にならなくなり、彼女との会話に没頭していた。
これが友達と過ごす放課後。これが青春。おお、俺は今物凄く高校生をしている気がする。
その後、情報収集に行っていた橋本くんたちが帰ってくるまで俺は坂柳さんとの談笑に花を咲かせていた。
◇◇◇◇◇◇
坂柳さんたちが入手した情報によると、今回の事件の審議については来週の火曜日まで猶予があるらしい。つまり最低でもそれまではポイントが振り込まれることはないということ。
俺としてはさっさとポイントが欲しいのだが、もういっそのこと撮影した映像をDクラスに渡してしまおうか。それでDクラスがCクラスを抑え込むことに成功すればこれ以降もCクラスの矛先がDクラスに向かう可能性が高くなる。無視して俺たちAクラスに攻めてくる可能性もないわけではないが、どの道時間の問題だろう。
だが坂柳さんに関わるなと念押しされてしまった。わかってますって。うちのクラスに飛び火しないのであれば俺だってそんな強引なことしませんよ。信用ないなぁ。
Dクラスの人たちは正直可哀想だが、仕方がない。健闘を祈るためにも今日はオムライスを作る事にしよう。え、まったく関係ないだろうって? そうだよ、俺が食べたいだけだよ。
ケヤキモールのスーパーにはいつかのコンビニと同じように無料の商品がいくつも置いてある。高級な物は流石にないが、バラやモモなどの肉類に魚、野菜など幅広い。いつもお世話になってます。ありがとうございます。
片手に買い物かごを持って無料のお肉を選び取っていく。今日はオムライスだが明日はカレーだな。お、コーンの缶詰も置いてある。カレーに入れると意外と美味いんだよなこれ。ありがたや、ありがたや。
「────あれ……もしかして星川、くん………?」
「へ?」
無意識に鼻歌を歌いながら物色していると、不意に背後から名前を呼ばれた。
思わず振り向いてしまったが、聞き覚えのない声だ。案の定そこにいたのは見覚えのない女子生徒だった。
おそらくはクラスの友達であろう他の女子数名と一緒にこちらへと視線を向けてくる桃色髪の少女。何度か校舎内で見た気がする。確かBクラスの…………いや誰だ? まったくわからん。
「ええっと……どちらさまでしょうか」
「やっぱりそうだ、星川くんだよね!? 私のこと憶えてない? 一之瀬だよ、一之瀬帆波っ」
!? バカな。自慢ではないがあの事故の後遺症で俺は一度見聞きしたものは忘れない体質になっている。そんな俺が忘れているなんてことはないはずだ。だが彼女の言葉に嘘は感じられない。ということは本当にどこかで会っているのか……?
だとすると事故
「あ、もしかして小学校の頃学級委員長だった一之瀬さん? 鬱陶しいくらい絡んできて俺の読書を邪魔してきた一之瀬さん? 奇遇だなぁ、君もこの学校に入学してたのか」
「あれ!? すごい覚えられ方されてる!?」
なにやらショックを受けている様子の一之瀬帆波さん。彼女は俺が例の事故に遭う前まで通っていた学校の委員長を務めていた子だ。
「俺が転校してからだから、やっぱり五年ぶりになるのか。ごめん、全然気付かなかった」
「う、ううん全然っ。……えっと、星川くん、なんだか変わったね?」
「まあ、いろいろあったからな……」
あの頃の俺は今とは違って他人とまったく関わろうとせず、授業中だろうが休み時間だろうがいつも一人で過ごしていた。友達なんか必要ないと本気で考えていたし、なにが悲しくてガキどもと同じレベルで会話せにゃならんのだと思っていたためである。会話も噛み合わない奴って嫌いなんよ、俺。
子供というのは分かりやすいもので、どれだけ話しかけても無視するような相手には同じように徹底的に無視してくれる。何度かイジメの対象にされることもあったが、その時は正面から撃退してやった。後はイジメの現場を動画で撮影したりとか。ククク、知恵比べで俺に勝てるわけないだろジャリ共め。
そうして俺は平穏で孤独な日常を手に入れたのだが、それでも懲りずに話しかけに来る者もいるわけだ。
それが彼女、当時小学五年生だった一之瀬さんである。
学級委員長だから、先生に頼まれて、などと考えを廻らせたりもしたがどうも彼女は純粋な善意から俺に絡んできていた。それこそ先ほど言った通り鬱陶しいほどに。
「ねえ一之瀬さん、その人知り合い?」
「あ、うんっ。小学校の時同じクラスだった星川くん。っていっても同じクラスになったのって一度だけだったよね?」
「………ごめん、全然覚えてない」
そんな誰と何回同じクラスだったとかまっっったく興味なかったからなぁ。印象に残る様な個性的な奴なら兎も角。
彼女のことだって今の今まで忘れていたのだ。顔を見てもピンとこなかった辺り筋金入りである。
「ふぅん……昔のクラスメイト、ね」
なんだろう。ショートヘアーの女子生徒が俺を睨みつけてくる。この子に関しては絶対初対面だと思うのだが、俺なにかやっちゃいました?
いや待てよ。彼女の視線に込められた疑念と嫉妬と少しばかりの憎悪。これは………アッ(察し)。
「えっと、一年Aクラスの星川です。ク、クラスメイトとはいっても碌に話したことも無いし、ぶっちゃけ他人も同然なのでそんなに心配する事ないと思います……はい……」
「へえ~星川くんAクラスなんだ。昔から勉強得意だったもんね」
悪意を一切感じない笑顔を浮かべて一之瀬さんは爆弾を投下した。
な、なぜそんなことを知っている。テストの点数は俺と教師陣しか知らなかったはず。答案が返却された瞬間折りたたんでしまってたし。
まさか教師の中に裏切り者でもいたのか? 生徒の個人情報をペラペラ喋る様な教師はさっさと解雇して頂きたい。今もいるのか知らんけど。
「へえ……一之瀬さん、詳しいんだね?」
「うん、だって私テストの点数で一回も勝てたことなかったもん」
気付いてっ! 一之瀬さん気付いてっ! その子の瞳から光がどんどん失われてるから! 比例して俺への殺意が膨れ上がってるから!
百合は大好物だがこれはなんか違う。キリキリと痛み始める胃を押さえて何とか切り抜ける方法を模索する。
「あ、紹介するの忘れてたね。こちら友達の白波千尋さん。私と同じBクラスなんだ」
「……白波です。よろしく」
「ど、どうも……」
一之瀬さんから見えないようにしているが、すごく嫌そうな顔を浮かべる白波さん。男が嫌いなのか、それとも一之瀬さんに近づく存在が嫌いなのか。それは分からないがとにかく敵意を向けられているのは確かだ。俺は人畜無害な一般ピーポーなので勘弁してください。
ただ、俺も一応はAクラスの生徒な訳であまりBクラスと一緒にいるのはよろしくないだろう。一之瀬さんの容姿はかなり整っているため嫌でも視線を集める。早めに退散するに越したことはない。
「じ、じゃあ俺は買い物済ませて帰るから、また機会があれば学校で」
「あ、待って待って。せっかく再会したんだし連絡先交換しない?」
そう言って端末を差し出してくる。
あれ、連絡先ってそんな気軽に交換するものなのか? なんて恐ろしいコミュ力。昔から老若男女問わず人気だった彼女だがそれは五年の月日が経った今でも変わらないらしい。
どうしよう。正直交換したいけどお隣の白波さんが怖い。視線に物理的圧力が存在したのなら俺の頭部には風穴が開いていただろう。
どうしたものかと悩んだが、結局俺が折れることになり一之瀬さんとだけ連絡先を交換した。
やったね! これで三人目だよ! 男子が一人もいないのはなんでかな? なんでなのかな!?
連絡先を交換して満足したのか、一之瀬さんは白波さんを連れて店を出て行った。これであの眼力を浴びなくても良いと思うと自然と肩の力が抜けていく。
それにしても一之瀬さんか。彼女には反抗期真っ盛りだったころの俺に話しかけてくれた恩がある。我が事ながら昔は尖っていたからなぁ。機会があれば恩を返していきたいものだ。
だが。
「Bクラスか。敵じゃないな」
今手元にある情報を統合・解析して導き出した結論を口に出す。
一之瀬さんに恩を返したいというのは本音だ。だがそれはそれとしてBクラスでは俺たちAクラスに届かないという確信を得た。
さすがにクラス間の競争に私情を挟み込むつもりはない。そうなると個人的に恩返しをする必要があるが、果たしてそんな機会が訪れることはあるのだろうか。
「考えていても仕方がない。さっさと買って帰ろ」
買い物かごをしっかりと握り締めてレジへと向かう。今日のオムライスはデミグラスソースを掛けようかな。アハハハハ。
……………………………タマゴ買うの忘れてた。