本日は晴天なり、晴天なり。いやいうほど晴天ではないが、ちょっと言ってみたかったのだ。
先日、一之瀬さんと連絡先を交換したことをそれとなく坂柳さんに伝えると『一之瀬帆波さんですか……。たしかBクラスのリーダーとしてクラスをまとめていらっしゃる方でしたね』と言っていた。マジですか一之瀬さん。薄々そんな気がしていたが高校でもクラスを纏める立場になっているとは。
彼女の素質を考えるとリーダーよりも補佐の方が向いていると思うのだが、他に良い人はいなかったのだろうか。それともまた神輿に担がれてしまったのか。ああ可哀想。
そう言えばDクラスの生徒がうちのクラスに聞き込みに来ていた。例の暴力事件について目撃者を探しているのだろう。俺の持っている証拠を渡しても良かったのだが、聞き込みに来ていた女子生徒(櫛田さんと言ったか)が怖くて話かけられなかった。
だって言葉も態度も嘘だらけなんだもんよ。嘘を嘘で塗り固めて嘘に浸したってああはならないぞ。もはや完全に嘘を吐くことが日常になってしまっている人種だ。承認欲求もかなり強そうだし下手に関わると火傷じゃ済まないかもしれない。
でもあのコミュニケーション能力に関しては脱帽せざるを得ない。俺のコミュ力レベルが10だとするなら、彼女は億くらいではなかろうか。いいなあ。少しわけてくれないものだろうか。
だが聞き込みの成果はあまり出ていないらしく、このままではDクラスの生徒(須藤くんという名前らしい)は長期の停学。クラスポイントも下がるのだとか。
さすがにDクラスだけが罰を受けることはないだろう。だが須藤くんは怪我を負っておらず、傷だけ見ればCクラスが一方的に殴られたと解釈されてもおかしくない。そうなると停学の期間も短く、クラスポイントも減らされない可能性が出てくる。
「それは面白くないなぁ……」
「なにか余計なこと考えてるでしょ」
「い、いきなり言うね神室さん……」
頬杖をついて思考に耽っていると、突然失礼な言葉をかけられた。
このクラスで俺に話しかける人間は少ない。言ってて泣きたくなってくるのだが基本的には坂柳さんと神室さん、極稀に橋本くんが声をかけてくれるだけだ。このクラスの半数以上といまだに会話したことがない。
そもそも余計なことなんて考えてないし。ただちょっと退屈を持て余してただけだし。
「坂柳に何もするなって言われてんでしょ。あんたが余計な事するとまた不機嫌になるんだから自重して」
「不機嫌って……。俺は友人であって配下じゃないんだけどなぁ」
坂柳さんが俺をどうしたいのかは知らないが、おそらく能力を他クラスに隠したままにしておきたいのだろう。坂柳さんや葛城くんは目立ちすぎるため他クラスからマークされてしまうが、マークされていないその他大勢の中に飛び抜けて能力の高い駒がいると何かと有利に運べるからな。いや誰がモブ顔じゃコラ。
「坂柳さんの頼みならなるべく応えてあげたいとは思ってる。けど人を駒としか思ってないところは矯正してほしいところだ」
「無理でしょ。あいつのアレは習性とかそういうレベルよ」
「まあ、うん。その辺はゆくゆくだな……」
坂柳さんの場合は生まれ持った才能と育ってきた環境によるものが大きいのだろう。なまじ常人を超えた才能を持ち、上流階級に産まれたが故に他人を見下しがちになっている。人を人とは思わず、それこそチェスか何かの駒のような扱いだ。
そういえば坂柳さんはチェスが得意なんだっけ。俺はこの学校に入ってからチェスを覚えたのだが、もうチェス部の人たち全員負かしてしまったし……。かなりポイントを稼がせてもらったから次からは将棋部を標的にしよう。将棋は得意だぞ。あの田舎だと基本的にそのくらいしか娯楽がなかったからな。
「で、あんた今度はなに企んでるわけ?」
「いや何も企んでなんかないけど……」
いくら何でも疑い過ぎではないだろうか。確かに早くポイントが欲しいとは思っているが、さすがに他クラスの事情に関与はしない。向こうの心情的にもAクラスの人間を信用したりはしないだろうし。
そう説明すると『あっそ』とだけ言い残して自分の席に戻っていった。いったいなんだったのだろうか。
放課後になり部活へ行く者、帰宅する者と各々が教室を後にする中、端末にメールが一通送られてきた。
おお、学校からの連絡以外で初めて通知音を聞いたぞ。どれだけ寂しい学校生活を送ってたんだ俺は。
早速メールを確認してみると、差出人は一之瀬さん。内容は体育館裏に来て欲しいというものだった。
……体育館裏、か。あそこは確か監視カメラが設置されていないはず。まさかカツアゲでもされるのだろうか。いや案外美人局という可能性も? くっ、まさか一之瀬さんがそんな恐ろしい子に育っていたとは。そこまでしてAクラスを潰したいというのか。
というのは流石に冗談で、了承の意を込めたメールを送り返す。
昔からちょっとおかしな子だとは思っていたが今時そんな場所に人を呼び出すか普通? なにが普通なのか知らんけどさ。
指定された通り体育館裏に来てみると既に一之瀬さんも到着しているようだった。
これは伝説の『待った?』『ううん、今来たところ~』という奴が出来るのでは?
だからそんな勇気があれば友達出来てるって言ってんだろクソが。
「あっ。星川くん、こっちこっち」
「あー、お待たせ一之瀬さん。……………待った?」
「ううん、私も今来たところだよ」
言った! 言ってやったぞ俺は! 見たか野郎ども俺だってその気になればこのくらいできるんだからな!? 今月分の勇気全部振り絞ったけど。
今の一瞬の攻防でゴリッと精神を削られたが、なんとか持ち直して会話を進める。
「何の用かは知らないけど、先に言っておく。Aクラスだからって裕福だと思ったら大間違いだからな」
「え? ……あ、違う違うそうじゃないよ! 私たちも別にポイントに困ってるわけじゃないし」
ならば一体何の用なのか。昨日再会したばかりの人間を一人で体育館裏に呼び出すなんてよっぽどのことだ。やはりAクラスを陥れるための罠の可能性が高いのでは?
だが俺の研ぎ澄まされた五感が、彼女の不規則に乱れる拍動を感知する。これは緊張と僅かな羞恥によるものだろう。
一之瀬さんは少し俺の方へ近づくと、顔を赤らめてモジモジし始めた。
体育館裏。緊張。年頃の男女が二人きり。なるほど、読めてきたぞぅ。
「あの……あのね?」
「うむ」
「その、今日来てもらったのは……」
「はい」
「わ、私……」
「うん」
「───告白」
「ほう?」
中々勿体ぶるなぁと思いながら先を促す。
正直な事を言おう。もう話の展開は読めている。なぜなら彼女の手には手紙が握られていたのだ。────開封済みの。
それらの情報を二百を超える俺の思考が演算した結果、導き出されたものは。
「私、告白されるみたいなの。ここで!」
「わ~(パチパチパチパチ)」
と、いう訳である。
周囲に人がいないこの空間に乾いた拍手が響き渡った。
おめでとう一之瀬さん。これで君も晴れてリア充の仲間入りだ。友達もろくにいない俺にとっては羨ましいことこの上ない。
「まあ、頑張ってくれ一之瀬さん。それじゃ」
「お、お願い待って!」
帰ろうとしたところを呼び止められる。
待つもなにも俺がここにいると不都合なのだ。具体的には俺の命が危ない。それを抜きにしても告白現場に関係ない第三者がいるのはマズいだろう。
一之瀬さんをこの場所に呼び出した人。俺の予測が間違っていないのならそれは恐らく昨日の───。
「お願い、少しで良いから話を聞いて欲しいの!」
「……はぁ。わかったよ、話くらいは聞く」
こんなことで彼女への恩を多少なりとも返せるのであれば力になることもやぶさかではない。
だが内容によっては断ることも視野に入れる。さすがにこの若さで死にたくはない。
「私、恋愛には疎くって……。どう接したら相手を傷つけずに済むのか。仲の良い友達でいられるのかがわからないから……。それで助けて欲しかったの」
「どうして俺に? 恋愛に疎いのは俺だって同じだぞ。それこそ昔の俺を知ってる一之瀬さんならわかると思うけど」
「うっ……それは、その……今日のことは出来る限り秘密にしたくて。Bクラスの子だからさ、もしも話が広がったりしたらこれから先気まずくなりそうだし。その点星川くんだったら誰かに言いふらしたりもしなさそうだから」
「悪かったな。どうせ友達いねぇよ」
「えっ!? やっ、ちが……そういう意味じゃないよ!?」
「ごめん。冗談のつもりだった」
友達いないのは冗談じゃないけどな。
しかし一之瀬さんなら告白され慣れていると思っていたのだが、彼女の反応からはそういったものを感じられない。これはおかしいぞ。学校の七不思議に登録されても不思議ではないのでは?
だが、俺を呼び出した理由をまだ聞けていない。この話を同じBクラスの生徒に相談できず、他クラスの俺に持ちかけたのはわかる。だが相談をするだけならわざわざこの場所に呼び出す必要がない。つまり彼女には俺をこの場所に連れてこなければならない理由があったと考えるのが自然だろう。
「話はわかった。でも俺が力になれることはないと思うんだけど」
「えっと、ね。だから……彼氏のフリを、してもらえないかな?」
「………はぁ」
予測通りの内容にため息がこぼれる。あまりにもベタすぎる展開だ。
「まさか昔のクラスメイトに彼氏のフリを頼まれるとは思わなかった」
「色々調べてたら、付き合ってる人がいるのが一番相手を傷つけないで済むって……」
「相手を傷つけないことだけ考えて、相手の気持ちを考えてないって言ってんの。一之瀬さん、君の他人を慮るその善性は美徳だけど、扱いを間違えれば毒にもなる。相手のことを思うならちゃんと一対一で話し合った方が良いよ」
「だ、だけど────あっ!」
何かに気付いた一之瀬さんがぎこちなく手を挙げる。
もうご到着か。これじゃ逃げられねぇじゃねぇか。
一之瀬さんの視線の先には、これまた予測通り昨日殺意を向けてきたBクラスの女子生徒、白波千尋さんがいた。
「あの一之瀬さん……その人って昨日の?」
大事な告白の場に現れた憎き恋敵へと鋭い目線を向けた来る白波さん。違うんです。本当にそういうのじゃないんです。
「え、えっとね千尋ちゃん。彼はその……私の───」
「昨日も言った通りただの他人だから、君が心配してるようなことは一切ないよ」
一之瀬さんが余計なことを言う前に先手を打つ。
まったく、嘘を吐くことに後ろめたさと罪悪感があるくせにこんな作戦を立てるんじゃない。
「……本当に他人なら、どうしてここにいるんですか」
さあ。俺にも分からないです。
さて、残念ながらここまで来ると全員が幸せに終わる手段はもうない。一之瀬さんに告白を受け入れるつもりがない以上、必ず両方が傷ついて終わることだろう。そしてこの場に居合わせている俺にも飛び火することは間違いない。
どうすることもできない。誰も幸せにはなれない。だがたった一つだけ彼女たちを守る手段があるとすればどうだろう。誰も幸せになれないが不幸にもならない。そんな方法があるとするのならどうだろう。
とはいえあまり気は乗らないが、仕方がない。
「一之瀬さんに告白したんだよ。『小学生の頃から好きでした』って。まあ、Aクラスに上がるまでは相手が誰であっても付き合うつもりはないって言われちゃったんだけどね」
簡単なことだ。告白して傷つくのなら告白させなければいい。
俺が白波さんより先に告白し、フラれたということにする。そしてその理由をこの場で彼女に共有する。
『Aクラスに上がるまで』『相手が誰であっても』付き合わない。大事なのはこの二点だ。
白波さんは疑わし気な眼差しに動揺を見せ、一之瀬さんに視線を向けた。
「一之瀬さん、今の話って本当?」
「えっ。あ、えっと、うん……」
この子はアドリブに弱いのだろうか。そんなんでこれから先Aクラスに勝つのは難しいぞ。なんせ魔王みたいな娘がいるからな。
白波さんは少し考え込むように俯いた。彼女の中では今告白した所で結果は難しいという考えが過っていることだろう。そもそも聡い彼女であればこの恋は最初から勝ち目が薄いことを分かっていたはずである。
それでも彼女はここに来た。勝ち目が薄かろうとも、実ることがないと察してはいても、それでも『好き』という気持ちを裏切りたくなくて勇気を出したのだ。
そんな彼女に俺は精一杯の称賛を送りたい。恋愛なんてしたことがない俺でも彼女のやろうとしていることがどれだけ凄いかは知っている。
なのでとどめを刺すことにした。
「俺はAクラスの人間だから、彼女のクラスを上に上がらせるための手助けをすることは出来ない。それはクラスのみんなを裏切るということだからね。だから俺はこの恋を諦めるよ。この苦しくて苦しくて、それでもちょっと甘くて切ない感情を忘れるのにどれくらいかかるかは分からない。一ヵ月。一年。下手したら死ぬまで忘れられないかもしれない。でも、諦める。それが今の俺にできる精一杯の恩返しだと思うから」
無論、嘘である。
俺は白波さんから視線を外し、一之瀬さんへと向けると小さく微笑んだ。
なるべくぎこちなさげに見えるように。それでいて内心の苦しみや痛みが滲み出たかのような表情を取り繕う。
「ごめんね一之瀬さん。急に告白なんてされて困ったよね。本当に申し訳ないと思ってる。けどそれでも俺は君にこの想いを伝えたかったんだ。……もし迷惑でなければこれからも友人として仲良くしてもらえると嬉しい」
「えっ。あ、えっと、はい……」
「ありがとう。これから俺たちのクラスは敵として対立することになる。Aクラスの座を守りたい俺たちと、奪いたい君たち。相容れることはきっとないだろう。だけどクラスの関係ない所であれば俺は君の力になりたいと思ってる」
これは本当。クラスを裏切るのは忍びないため個人的なことであれば協力してもいい。塵も積もれば、というやつだ。恩返しはコツコツやってなんぼだろう。
さて、もういいんじゃなかろうか。そろそろ俺の精神も限界が近い。
「改めてになるけど、本当にごめん。今日のことについては気にしないでもらえると助かります。白波さんも一之瀬さんに用事があったんでしょ? 俺はもう帰るから。それじゃあ」
「……あっ、星川くん!?」
一之瀬さんの声を振り切ってその場を後にする。早足で立ち去った俺は、それから帰るでもなく寮へと続く並木道で立ち止まった。
目についたベンチに腰を降ろして一呼吸。
「ぶはぁ~疲れた……」
肺の中の空気を全て吐き出す。人前でたくさん喋ることには慣れていないんだ。
今回は櫛田さんの演技を参考にしたのだが、中々悪くなかったのでは? 素が難しいのなら偽ればいい。恐ろしいのなら仮面を付けて身を守ればいいのだ。スゲェ疲れたけど。
この精神的疲労を度外視するのならばアリだな。ありがとう櫛田さん。このご恩は忘れません。
俺は自分が告白したという嘘を吐くことで白波さんが告白し辛い空気を作り出した。
これ自体は成功だろう。これで白波さんが告白を辞めれば有耶無耶になり明日からも今まで通りの日常を送ることができる。ただし白波さんは心の奥に蟠りを残すことになるだろう。
『恋』というやつは理性で押さえ付けられないものだという。ダメだと言い聞かせても期待をし、忘れたくても心の深い場所に刻み込んでくる。知った風なことを言わせてもらうが、恋とは甘いだけではないのだろう。だからこそ人はその感情のために勇気を振り絞ることも、大切な何かを投げ出すこともできるのかもしれない。
それが本物であるならば我慢なんて出来るはずがないのだ。ああ、この際はっきり言おう。俺はこの作戦が彼女に効くとは
俺の傍を一人の少女が小走りで駆け抜けていった。
向こうはこちらに気が付かなかったようだが、目には薄らと涙が浮かんでいた。
思っていた通り、彼女は自分の想いに嘘をつけなかったようだ。やはり彼女は称賛に値する。Bクラスは本当に良い人たちに恵まれているな。
それからも、俺はジッとその場から動かず時間を潰し続けた。
さっさと帰っても良かったのだが、一応相談を受けた身として勝手に帰るわけにはいかないだろう。
そろそろ陽が傾こうかという頃、トボトボと一之瀬さんが歩いて戻ってくる。
「あ……」
「おつかれさま」
軽く手を挙げてから隣の席を勧める。少し大きいベンチのため二人座ってもまだ余裕があった。
「わるかったな、場を掻き回した」
まずは謝罪から入る。白波さんに告白を諦めさせることが出来なかった以上、俺はただ掻き回しただけということになる。
「ううん、私の方が間違ってた。千尋ちゃんの気持ちを受け止めようとしないで、傷つけない方法だけを必死に考えて逃げようとしてた。……恋愛って難しいんだね」
そうだな、と呟く。
まったくもって難しい。恋愛というのは未知の塊だ。興味はあるが俺には少し遠い。恋愛のなんたるかを知るのは当分先のことになりそうだ。
「でもね、星川くんのおかげかな、千尋ちゃん笑ってたんだよ。絶対にBクラスをAクラスにしてみせるって。その時にもう一度返事を聞かせて欲しいって言われちゃった」
「ハハハ、すごいな。彼女のような人がいるなら、Bクラスはかなりの強敵かもしれない」
「そうだよ。私たちのクラスはすごい人ばっかりなんだから」
まるで自分のことのように誇らしげに語ってくる。よほどBクラスの人たちを大切に想っているのだろう。
「そうか。それじゃあ頑張ってくれ。このままじゃ一之瀬さん、仮に好きな人が出来てもAクラスに上がるまで恋人を作れないからね。せっかく華の高校生なのに」
「いやそれ星川くんのせいだからね!?」
恨むのなら俺に相談を持ちかけた自分を恨んでほしい。
「さてと、日も暮れてきたし帰るか。一緒にいるところを見られると誤解されるかもしれないから一之瀬さんお先にどうぞ」
「う~ん。私は気にしないけど、千尋ちゃんにああ言った手前そういう訳にはいかないんだよね……」
よく分かっているようで大変よろしい。もし俺と一之瀬さんが二人きりで話していたなんて聞かれれば彼女の俺への敵意は再燃するだろう。せっかく今回の件で多少はマシになったのに。
一之瀬さんはイスから立ち上がって伸びあがる。その顔はどことなくスッキリしているように見えた。
「あ、そういえばCクラスとDクラスで起きた暴力事件について、星川くん何か知らない?」
「……急にどうした」
思わぬところから出てきた話題に少々戸惑う。Bクラスである一之瀬さんには関係のない話のはずだが。
「私ね、今Dクラスの子たちと協力してその事件のこと調べてるの。主に目撃者探しとか」
「Bクラスが被害を受けたわけじゃないんだろ? だったら放置して潰し合って貰った方が楽なのに」
「クラスは関係ないよ。こういう事件はいつだれに起こるか分からないよね。この学校はクラス同士で競わせてるからこそ、トラブルの危険性をいつも孕んでいる。今回はその最初の事件のようだしさ。嘘を吐いた方が勝っちゃったら大問題だよ。それと話を聞いちゃった以上、個人的に見過ごせないしね」
「……変わらないな、本当に。昔からお節介だったけど今は拍車がかかってる」
「そうかな」
「そうだろうさ」
善意も過ぎればもはや狂気だ。変わらないとは言ったが昔と比較して更に酷くなっているようにも思える。俺の知らない五年の間に彼女にも色々あったのだろう。そこに踏み込むつもりはないため何も言わないが。
「申し訳ないけど俺たちAクラスは今回の事件に関して傍観に徹する方針だ。これについては坂柳さんも葛城くんも考えを同じくしている。……けど俺としては一之瀬さんの考えに賛成だ。だから俺個人としては君たちに協力してもいいと思ってる。それで良ければ力を貸すよ」
「本当? うん、すごく助かる。でもクラス内で雰囲気が悪くなったりしない……?」
「今更だ。どやされる事はあるかもしれないけどな」
坂柳さんからはまた小言を言われるかもしれない。けれどこのくらいは別にいいだろう。困ってる人がいたら力を貸しなさいというのが祖母ちゃんの遺言なのだ。祖母ちゃん死んでないけど。
「星川くんが協力してくれるなら心強いよ」
「俺の何を知ってるのか知らないけどさ、クラス内だと俺の成績下の方だぞ。小学生の時とは違う」
まあ、この間のテストが高得点過ぎただけで普通なら77点は十分高いと思うのだが。
「成績は分からないけど昔から頭の回転は速かったでしょ? 先生たちもよく『子供と話している気がしない』って言ってたし、さっきの件でそれは今も変わってないって思ったもん。だから協力するって言ってくれて本当に嬉しい」
「褒めるなぁ……」
だんだん気恥ずかしくなってきた。話しが長引いてしまったせいであたりもすっかり暗くなっている。
「じゃ、帰ろっか。またね星川くん!」
「ああ。気を付けて」
手を振りながら寮へと向かって行く一之瀬さんを黙って見届ける。
今日は疲れた。俺も帰って風呂入って寝たい。
けれどその前に電話を一本入れておいた方がいいだろう。後からネチネチ言われると俺の心が折れかねない。
「───あ、もしもし坂柳さん?」