よう実 √A   作:日彗

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第五話 無人島試験

 

 後日談というか、今回のオチ。

 

 結局暴力事件がどうなったのかというと、結果的には()()()()()()()

 

 そもそも今回の事件が何故問題になったのかといえば、CクラスがDクラスの須藤くんに一方的に殴られたと学校側に訴えたことが発端だ。

 先に手を出そうが後から手を出そうが暴力をした者は最低でも停学、最悪の場合は退学処分になる。だから一之瀬さんたちが行っていた目撃者探しというのはハッキリ言ってあまり意味がない。

 

 Dクラスはゴールを履き違えていた。探偵のように推理して相手を論破することになんの意味もありはしない。そんなことしなくてもCクラスに訴えを取り下げらせればいいのだ。そうすれば事件は事件でなくなる。否、事件はそもそも起きなかったことになる。

 事件が起きていないのなら裁くことは不可能だ。

 今回の一件、俺がしたことといえば例の偽造アカウントで一之瀬さんのメールアドレスに暴力事件の一部始終の映像データを送っただけ。Cクラスに訴えを取り下げさせる作戦を少しばかり吹き込んだりもしたが、それだけだ。

 

 そこから先は知らない。あの動画をどう使うかは本人たちに任せて後は放置した。そこまで関与するつもりはないし、目立ちすぎると坂柳さんに絶交されてしまう。さすがにそれは嫌だ。

 だが結果的に審議は取り下げられ、Dクラスの須藤くんとやらは無事に学校へ通っているらしい。よかったよかった。間違いなく彼らはCクラスに目を付けられただろうが、まあ頑張ってくれたまえ。

 

 そういえば、暴力事件の傍らでストーカー事件が起きたという話だ。これも被害に遭ったのはDクラスの女子生徒で一之瀬さんと綾小路くんが解決したらしい。情報元は企業秘密のためここでは伏せておく。

 

 ……それにしても。

 

「海は広いなぁ……」

 

 視界のおよそ九割を大いなる大母(うみ)が埋め尽くす。

 期末試験を終えて一学期が終了し、俺たち高度育成高等学校一年生は無事に夏休みへと突入した。

 この学校はやはりおかしい。何がおかしいのかと言われると困るが、強いて言うなら頭がおかしい。

 

 俺が何を言っているのかわからない? 仕方がない、説明してやるから傾聴するように。

 

─── 俺は今、豪華客船に乗って無人島へとバカンス旅行に向かっています。

 

「あっははははは!」

「ちょっと。急に高笑いするのやめてよ目立つじゃない」

「ごめんなさい」

 

 素直に謝罪をする。

 文句を言ってきたのは神室さんだ。俺の数少ない友人である。おい誰だ数少ないとか言ったヤツ。

 

「せっかく坂柳から離れられたんだし、学校に戻るまではゆっくり羽を伸ばさなきゃならないのよ」

「ふぅん。まあ満喫してるみたいならよかったよ」

 

 とはいえデッキチェアで横になりジュースを飲んでいる彼女は充分羽を伸ばしているように見えるが。

 うちは田舎だし裕福でもなかったためこんなデカい船に乗ったのは初めてだ。そもそもバカンスって何をするものなのだろう。とりあえず泳げばいいのか? いやんエッチ。

 この船にはプライベートプールがあるのだがそれ以外にもスパやレストラン、図書館などといった施設も存在する。それら全てのサービスが無償で受けられるのだからやはり税金の無駄遣いだ。

 かくいう俺もここに来てからひたすら食べていたりする。だって無料で美味い飯が食えるんだもんよ。今のうちに限界まで食い溜めしておかなければならない。

 

「あんた分かってんでしょうね? 今回のバカンスで私たちは────」

「わかってる。彼女の頼みには最大限応えるさ」

 

 この夢のような時間が永遠に続けばいいのに、とは流石に思わないがあと一ヵ月くらいはこのままでいたい。

 だがそういう訳にもいかないのだろう。この学校が何の意味もなく生徒を遊ばせるはずがない。

 

「その時はその時か。ククク、それはそれで楽しみだ」

 

 これから先に起こることを考えると笑みが浮かぶ。それを見て神室さんが嫌そうにため息を吐いた。

 

「ったく、坂柳もおかしいわよ。試験が始まったら()()()()()()()()()なんてさ」

 

 事の始まりは終業式の日に遡る。

 

 

~夏休み前日 放課後~

 

「星川くん、ちょっといいですか?」

「あ、はい……」

 

 あの暴力事件以降、坂柳さんの笑顔が怖いことになっている。ちゃんと目立たないよう一線を引いていたから大丈夫だと何度も言っているのに。

 肩を落として坂柳さんのもとへと向かう。側にはやはり神室さんがいたが、今日は他の取り巻きたちはいないらしい。終業式も終わって明日からはバカンスなのだ。朝も早いことだしさっさと帰ったのだろう。

 

「さっそくですが、明日から始まるバカンスについては知っていますね?」

「知らないわけないだろ。この夏の一大イベントだぞ」

「そのバカンスについてですが、星川くんはどうお考えですか?」

「怪しいと思います」

 

 この学校は意味のないことをしない。実は『南の島』というのは何かの隠語で紛争地帯に連れていかれる可能性もあるだろう。いや無いか。

 

「私はこの夏のバカンスが一つのターニングポイントになると睨んでいます」

「つまり、夏休みに大きくクラスポイントが変動する可能性があると?」

「はい。定期テストではクラス間のポイント差を縮めることは難しいですし、下位のクラスが上へと上がるためのより影響力の大きい課題が出される可能性が高いでしょう」

 

 確かにその通りだ。そうでもなければDクラスが昇格するのはもう不可能ということになってしまう。ポイント差がAクラスと1,000近く離れてるし。

 

「坂柳さんの言いたいことはわかるよ。それで俺にどうしろと?」

「もしもバカンス中にクラスポイントが変動するようなイベント──仮に特別試験と呼称しますが──が行われた場合、あなたにはAクラスが勝つよう誘導して欲しいのです」

「……へえ」

 

 彼女の瞳が俺の視線と交わる。

 

「君はてっきり葛城くんを陥れるつもりだと思ってたけど、派閥争いはもうやめたのか」

「それはあり得ません。ですが葛城くんの派閥を弱体化させ、なおかつAクラスが勝利を収める方法があるのなら話は別です」

「俺がAクラスを勝たせることでなんで葛城くんの失脚に繋がるのかな?」

 

 そもそも坂柳さん自ら指示を出せばいいだけの話だ。なぜ今まで頑なに表へ出そうとしなかった俺を使うのか。まさか自分が楽したいからなどとは言うまい。

 

「明日のバカンスですが、私は学校でお留守番になります。産まれつき身体が弱いことはご存じかと思いますが、今回は別途課題をこなすことを条件に許可が降りました」

「マジか。え、じゃあ一緒に遊べないの? せっかくの豪華客船なのに。これ逃したら二度と乗れないかもしれないのに」

「? 豪華客船くらいいつでも乗ればよろしいのでは?」

 

 坂柳さんが不思議そうに首を傾げる。

 それが本心からの言葉だと察した俺は、久しく忘れていた『動揺』という感情を思い出した。

 俺なんて豪華客船はおろか小さな船にすら乗ったことないんだけど。

 

「なるほど、これが真の金持ちの発言か。育ちが違うのは理解しているつもりだったけどこうまで価値観が違うとは……」

「私はもう何も考えないことにしてるわ」

「俺もそうしよう……」

 

 本当に裕福な人の家には階段がないと聞いたことがある。それが嘘か真か興味なかったが、坂柳さんの家がどんなものなのかには興味が湧いた。お城みたいな家に住んでんのかな。

 

「お二人が何を言っているのかわかりませんが、とにかく私は今回参加できません。また、このような特例が許されたということは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を行う可能性が高いです」

「んー、となると一番可能性が高いのは『無人島サバイバル』とかかな。確か目的地は南の島の無人島だって話だし」

「ええ。私もその可能性を考えています」

「ち、ちょっと待ちなさいよ。無人島サバイバル? なんでそんな考えになるのか全然わかんないんだけど」

 

 どうやら神室さんは俺と坂柳さんの話に付いて来れなかったらしい。責めることはできない。途中の説明をかなり省いてしまった。

 

「えっと、なんて説明しよう……。まず坂柳さんは今回のバカンスへの不参加を学校に認められたという話、なんでだと思う?」

「なんでって、夏休み中のバカンスなんだから参加しようがどうしようが個人の自由でしょ」

「ところが今回の場合は強制参加なんだ。それは先生も説明していただろ? このイベントは欠席するとクラスポイントに関わってくる。直前に体調を崩した場合は例外かもしれないけど、今回は違う」

「違うって言われても、坂柳は身体のことがあるからなんじゃないの?」

「パンフレットを見ると船の中にはちゃんとドクターや医療設備も充実してる。それにクラスポイントを脅しに掛けられてるのに坂柳さんの場合は『特例』としてそれも無効なんだ。代わりに課題が出るとしても」

「……だめ、分からなくなってきた」

 

 このあたりを分かりやすく噛み砕くのは中々難しい。そもそも人にものを教える経験が圧倒的に欠けている。

 

「少し整理しようか。まず船に乗るだけであれば坂柳さんに問題はない。だから学校側が不参加を認めるはずがない。だけど結果的に許可が降りた。逆に言えばそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを示している」

「船に乗っている間は問題ない……じゃあ島に降りたあと……? でも激しい運動をしなければいいし、最悪船に戻れば────あ」

「そう。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になる可能性がある。だから『無人島サバイバル』かもしれないって言ったんだ」

 

 仮に本当にそんな試験があったとして、学校側も最大限安全を考慮するとは思う。大きなケガや病気になった生徒をすぐさま治療するために何かしら手を打っているはずだ。

 それでも先天性心疾患を抱える坂柳さんを参加させることは厳しいと判断された、と考えるとしっくりくる。試験の際にAクラスに対して何かしらのペナルティが発生する可能性があるが、その程度だろう。

 

「お見事です星川くん。実に分かりやすい説明でしたよ」

「皮肉はやめてくれ。自分でも下手だった自覚はある。……話が逸れたな。それで仮に特別試験なるものがあり、俺がAクラスの勝利に貢献できたとして、それがどうして葛城くんの失脚に繋がるんだ?」

「ああ、それについては簡単な話ですよ。星川くんにはこちらの真澄さんをお貸しします」

「はあ?」

「なるほど……」

「いや、何がなるほどなのよ。あんたたち自分が理解できるからって他人も同じだとか思ってるんじゃないでしょうね」

 

 またもや食って掛かる神室さん。だが今回のはどう考えても坂柳さんが悪いと思う。

 

「つまり神室さんを表に立たせてAクラスを導けってことか。表向きには坂柳派の神室さんが仕切ったことになるから坂柳さんの株が上がり、相対的に葛城くんが下がる、と」

「放っておいても葛城くんは自滅するでしょうしそれでもいいかと思ったのですが、少し欲が湧きました。試験に負けて勝負に勝つよりも、試験に勝って勝負にも勝つ方が気分が良いと思いません?」 

「ほんと、良い性格してるわあんた……」

 

 神室さんが憂鬱気に肩を落とす。どうやら自分が置かれた状況について理解が追い付いたらしい。

 まだどんな試験があるか、そもそも試験なんて本当にあるかも定かではないが、これではゆっくりとバカンスを楽しむのは難しそうだ。

 

「ではよろしくお願いしますね、真澄さん、星川くん。くれぐれも他クラスに勘繰られないようお気をつけて。私の事は気にせずバカンスも楽しんできてください」

「お土産にヤシの実でも持って帰るよ」

「いりません」

 

 

〜回想終了〜

 

 

「ま、なるようになるさ。俺は楽しければそれで満足だし」

「呑気ねあんた。私は何をさせられるのかって心底不安よ」

「そんな無茶なことはさせないって……」

 

 何も無ければ最初の一週間は無人島に建てられてるペンションで夏を満喫し、その後の一週間は客船内での宿泊という流れになっている。ペンションがあるのに無人島と読んでいいのか。人の手の入っていないジャングルみたいな場所を想像していたため少しばかり残念に思う。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 突如そんな奇妙なアナウンスが船に流れる。それを聞いて悟ってしまったのか、神室さんの目から光が失われた。

 勘が鋭くなって来ているようで大変素晴らしい。

 

「来たね」

「……みたいね」

 

 水平線の彼方、視界に小さく島のようなものが視認できた。

 他の生徒たちもそれに気づき、一斉にデッキへと集まり始める。みんな疑いもせずよく楽しめるものだ。でもちょっびり楽しみにしている自分もいる。

 島がはっきりと肉眼で確認できると、瞬く間に距離が詰まって来て、性徒たちの熱気と興奮も高まっていく。そのまま船は島につけられるのかと思ったが、何故か桟橋をスルーし、ぐるっと島の周りを回り始めた。

 見たところ島の面積は大体0.5㎢ほどだろう。小さい島だと聞いていたが俺のような庶民には十分大きく感じる。

 

 どうやら客船は一周回って島の全体を見せてくれるらしい。

 島を周回する船は速度を変えず、高々と水しぶきを上げながら不自然な高速航行をする

 

「よく見て置いた方がいいよ神室さん。たぶん今の内に地形を把握しろってことだろうから」

「草と木しか無いじゃない。何をどう見ろって言うのよ」

 

 例えば岸の位置や崖、明らかに人工物であろう塔や小屋も見える。何に使うんだあれ……。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

 私物の持ち込みはダメなのか。せっかくチャッカマン買ったのに。

 それから俺も部屋へと戻り、体育の授業なんかで使うジャージに身を包んでデッキへと戻った。他の生徒たちの興奮もピークに達している。

 

「ではこれより、Aクラスの生徒から順番に降りてもらう。それから島への携帯の持ち込みは禁止だ。担任の先生に各自提出し、下船するように」

 

 拡声器を持った教師の声で、生徒たちが順番に客船の階段を降りていく。携帯の持ち込みが禁止ということはプライベートポイントによる購入はできないのか。

 

 Aクラスが全員下船し、次にBクラスが降り始めたタイミングで真島先生による点呼が行われる。先生も生徒と同じように学校指定のジャージに身を包んでいた。

 砂浜にて、クラス毎に並ぶ1年生およそ160名。

 その生徒達の前に用意された白い壇上に立ち、Aクラス担任真嶋は厳かな態度で言葉を発した。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

 ああ、坂柳さんのことだ。欠席者は彼女1人だったのか。

 やはり何かお土産を探しておいた方がいいだろうか。そう考えながら視線を少し遠くに投げる。

 真嶋先生が無言で生徒たちを見つめる中、作業着に身を包んだ大人たちが少し遠くで特設テントの設置を始めているのが見えた。長机やパソコンなども見える。こんな場所に来てまで仕事とは恐れ入ります。

 

「ではこれより――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 途端、各クラスにて起こる騒めき。

 それはAクラスも例外ではない。不確定な部分も多かったため坂柳さんは自身の推測について触れ回ることはしなかった。

 それでも何かあると察していた者は多かったのか、他クラスに比べれば大分マシだったが。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

 他クラスから当然の疑問が飛ぶ。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君達自身で考える必要がある。スタート時点で、クラス毎にテントを二つ。懐中電灯を二つ。マッチを一箱支給する。それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自一つずつ配布することとする。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

 

 事ここに至り、ようやく生徒達も自体が飲み込めてきたらしい。

 だが当然、このような有無を言わさず一方的に情報を並べるだけの説明で納得できるものではない。

 

 ありえない。馬鹿げている。あちこちからそんな声が上がるが、真嶋先生はそんな生徒達にも毅然とした態度で対処し、次第に文句を言った生徒は、消沈したように黙りこくった。

 

「しかし先生。今は夏休みのはずです。そして我々は旅行という名目で連れて来られました。企業研修ではこのような騙し討ちのような真似はしないと思いますが」

「なるほど。その点に関しては間違った認識ではない。不平不満が出るのも納得だ」

 

 質問をしたのはDクラスの平田くん。顔良し性格良し文武両道の爽やかイケメンだ。一度だけ話したことがあるが、彼がアイドルだった場合推してもいいと思えるくらい良い人だった。

 

「だが安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だが、特別試験と言ってもそれほど深く考える必要はない。今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。時にはキャンプファイヤーでもして友人同士語り合うのも悪くない。この特別試験のテーマは『自由』だ」

「え? え? 自由がテーマってことは……? バーベキューも出来るって……んんんっ? それって試験って言えんの? 頭混乱してきた……」

 

 試験なのに遊ぶのは自由。試験の全容をまだ説明されていないためなんとも言えないが、意外と面白そうだ。

 

「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。このポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

 すると真嶋先生は他の教師から数十ページ程の冊子を受け取ると、それを生徒達に見えるよう掲げた。

 

「このマニュアルには、ポイントで入手できるモノのリストが全て載っている。生活で必需品と言える飲料水や食料は言うに及ばず、バーベキューがしたければその機材や食材も用意しよう。海を満喫するための遊び道具も無数に取り揃えている」

 

「つまり、その300ポイントで欲しいものが何でも貰えるってことですか?」

 

 生徒達から飛ぶ質問に頷きが返される。

 加えて補足するように続く説明。300ポイントをやりくりすればこの無人島でも無理なく過ごせる事。

 この試験においてこなすべき難しい課題などは無く、2学期以降に悪影響を及ぼすことも無い事。

 

 そして、残ったポイントはそのままクラスポイントに反映される事。

 

 つまりはこの島でどれだけ効率的に生活できるか、それ自体がそのまま評価となって反映されるわけだ。

 学力や運動を競う試験でないからか、特にDクラスの生徒達からやる気に満ちた声が上がる。

 

 ……そう簡単な話ではないと思うが。なんせ食料も水も、寝床でさえも自分たちで調達しなければならない。支給されるテントが二つしかない以上、購入は必須だろう。ようは解決方法を考えるのも試験、ということだ。

 

「マニュアルは1冊ずつクラスに配布する。紛失などの際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」

 

 あ、よかった。思ってたよりペナルティは重くないらしい。

 Aクラス内の動揺も少ない。むしろ他クラスの方が驚いているくらいだ。

 

 真嶋先生の話が終わりを告げると同時に解散宣言がなされた。拡声器を持った別の教師が、各クラス担任の先生から補足説明を受けるよう通達すると、俺たちは担任である真嶋先生のもとへと集まった。4つのクラスが距離を取るようにして集まりだす。

 

「今からお前たち全員に腕時計を配布する。これは1週間後の試験終了まで外すことなく身につけておくように。許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられる。この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えている。また万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載してある。緊急時には迷わずそのボタンを押せ」

 

 へえ、何それ欲しい。時計なんて普段つけないから新鮮だ。

 

「ちなみにこの時計は完全防水となっており、身に着けたまま海などに入っても問題無い。仮に万が一故障した場合は、ただちに管理者が駆けつけて交換することになっている」

 

 壊れた場合の対処も抜かりないときた。これでGPS機能さえなければ本気で購入を検討するのだが。

 

「それでは、まずこの試験における禁止事項から説明していく。マニュアルの最後のページにも載っているので、後程各自で目を通すといい」

 

 最終ページには『以下に該当するものは、定められたペナルティを科す』とあった。

 

『著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる』

『環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント』

『毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人につきマイナス5ポイント』

 そして一番重い罰に『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収』と合計4つの事項が記載されていた。Aクラスもこのルールのペナルティを受けたようだ。4つめの妨害行動は至極当然のこととして、残り3つは明らかに生徒個人に無茶させないためのルールだ。

 

 また、これは最低限のポイントの使用は許容しなければならないということである。ところ構わず糞尿をばら撒けば間違いなく『環境汚染』としてペナルティになるだろう。衛生的、体力的な問題からシャワーやその方衛生道具も必要になる。この島に何が生息しているか知らないが、栄養バランスを考えると食料の購入も検討しなければならない。

 

 その後も、真嶋先生の説明は続く。

 この島では試験終了まで担任は拠点となるベースキャンプでクラスと行動を共にすること。

 点呼はそこで行い、ベースキャンプは正当な理由なく変更できないこと。

 各クラスには簡易トイレが支給されるので、必要になった際はそれを使うこと。

 この簡易トイレについてくるシートとビニールに関しては無制限に支給してくれるらしい。これはとてもありがたい。

 

 途中トイレの説明で、主に女子達から小さな悲鳴が上がったりもしたが、説明自体は淀みなく続いていき、頃合いとばかりに話を切り出した。

 

「ではこれより、追加ルールについて説明を行う」

 

 内心、来たかという思いで一同警戒を強める。

 そんな事だろうと思っていたが、やはり他にもルールがあったのだ。

 

「この島の各所には、スポットとされる箇所が幾つか設けられている。それらには占有権と呼ばれるものが存在し、占有したクラスのみ使用する権利が与えられる。どう活用するかは占有したクラスの自由だ。

 但し占有権が効力を発揮するのは8時間のみ。過ぎた場合、占有権は取り消され、その都度各クラスに取得する権利が発生する」

 

 どう活用するかは自由、そのような言い方をする辺り、そのスポットとやらには生活する上で得になる何かが置かれているのだろう。

 しかし、本当に重要なのはここからだった。

 

「スポットは占有するごとに1ポイントのボーナスポイントを得ることが出来る。ただしこのポイントは暫定的なものであり、試験中の使用はできない。このポイントは試験終了時にのみ清算され、加算される仕組みになっている。学校側は常に監視をしているため、このルールにおける不正の余地は無い。注意するように」

 

 一箇所につき1ポイント。8時間更新であれば1日で3ポイント。これが一週間続けば21ポイントを獲得できる。この島にスポットとやらがどれだけあるか知らないが、坂柳さんのペナルティを帳消しにすることも可能だろう。だが、

 

「ただしこのルールには大きなリスクがある。そのリスクを考慮した上で利用するかを検討することだな。そのリスクも含め、全てマニュアルに書かれてある」

 

 真嶋先生の言うように、マニュアルには特殊ルールを明白にするためか、箇条書きで追加ルールのことが書き記されてあった。

 

 

 ・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である

 ・1度の占有に付き1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる

 ・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合50のペナルティを受ける

 ・キーカードを使用できるのはリーダーとなった人物に限定される

 ・正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない

 ・最終日の点呼の際、他クラスのリーダーを当てる権利が発生する

 ・リーダーを当てる毎に50ポイントを得る

 ・リーダーを当てられた場合、マイナス50ポイント。ボーナスポイントも没収となる

 ・リーダー以外の人物を指名した場合、マイナス50ポイントのペナルティを受ける

 

 

 ……なるほど、これは面白い。

 

「例外なくリーダーは必ず一人決めてもらうが、参加するかどうかは自由だ。リーダーが決まったら私に報告するように。その際にリーダーの名前を刻印したキーカードを支給する。制限時間は今日の点呼まで。それまでに決まらない場合はこちらで選出することになる。以上だ」

 

 それで話は終わったらしく、この瞬間から俺たちは行動を起こす方針を起こすことになる。

 試験の概要は理解した。その上でAクラスが勝利するための工程を思考の四割を費やして演算していく。

 

 

 さ〜て目指すか完全勝利。楽しいゲームの始まりだ。

 

 

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