よう実 √A   作:日彗

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第七話 完全勝利へと続く道➀

 

《side神室真澄》

 

 特別試験二日目。

 慣れない環境故か碌に眠れず、疲れの溜まった表情をしている者が多い。そしてそれは彼女、神室真澄も同じだった。

 

(はぁ、しんど……。けど今の所全部あいつが言ってた通りに事が進んでる)

 

 あいつ、というのは勿論クラスメイトの星川祐樹のことだ。

 試験初日、神室は星川から今回の試験で辿る大まかな流れを説明されている。

 

 洞窟を拠点にすること。

 Cクラスが取引を持ち掛けてくること。

 

 今の所はそれだけだが、それらを発端とした()()()の計画までも彼は既に予測し、神室へと伝えていた。

 最初、龍園がAクラスのベースキャンプに来た時、神室が抱いた感情は『恐怖』。

 ここまでの全てを言い当て、おそらくこれから先もすべて予測しきっている星川に対しての言葉に表せない畏怖だった。

 頭が良いの一言では説明ができない。人智を超えた所業はまさに悪魔かそれに準ずるものとしか思えないほどだ。

 

(坂柳は今回の試験で勝つように言った。私が動いてAクラスが勝てばそれが巡って葛城の失脚に繋がるって……。ったく、そういうのは私のガラじゃないってのに)

 

 だが神室は弱みを握られている。だから仕方がない、言う事を聞く以外に道はないと自分に言い聞かせる。

 今の状況を少し楽しいと感じている自分から目を逸らして。

 

「ちょっと橋本。あんた面貸しなさい」

「えぇ……。急にどうしたよ神室ちゃん」

 

 突然話しかけられた橋本は怪訝そうな表情を浮かべて神室に視線を向ける。

 彼もまた自身と同じく坂柳派の人間だ。星川が自由に動かせるのは神室だけだが、その神室が動かせる人間は他にもいる。そのうちの一人がこの男ということだ。

 

 神室は何も言わず指をクイックイッ、と動かす。そこに込められた『さっさと来い』の意を正しく読み取った橋本はため息を吐いて重い腰を上げた。

 

「はいはい。で、そっちの方から話しかけるなんて珍しいじゃん。なになにもしかして逆ナン?」

「これからCクラスの龍園の所に行くわよ。あんたも来なさい」

「えぇ……」

 

 隠すことなく顰め面を晒す橋本を睨みつける。

 

「どうせあんたも龍園のところに行くつもりだったんでしょうが。面倒事はさっさと終わらせるに限るわ」

「いや、確かに考えてたけどさ……神室の方からそんなこと言うなんて珍しすぎて。なに、姫さんから指示でもあった?」

「ないわよそんなもの。全部私の独断に決まってるでしょ」

 

 鋭い視線をそのままに舌打ちをこぼす。

 星川からの指示の一つが、昨日の取引について龍園と交渉することなのだ。

 狙いは『坂柳派に対するポイント支払いの免除』。差し出す対価は『Aクラスリーダーの情報・及びその決定的な証拠の提示』。

 星川はこの取引を成功させることでAクラスの勝率が上がると言っていた。詳しい説明はされていないため不満はあるが、仕方がない。

 

「さっさと行くわよ。あんたの話術はこういう時のためにあるんでしょうが」

「いやいや、俺の口は可愛い女子を口説き落とすためにあるんだぜ?」

「ウッッッザ」

 

 心底嫌そうな顔で吐き捨てる。その様子にさすがの橋本も頬を引き攣らせていた。

 こんなのでも一応坂柳が選んだ人間。能力だけは本物だ。

 認めたくはないが取引を成功させるために神室は断腸の思いで飲み込むのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 Cクラスのベースキャンプは先日星川が把握してきた。その情報を頼りに二人は蒸し暑い杜の中を歩いて行く。

 だがその情報を共有されていない橋本は、なぜ神室は迷わず進んで行けるのか疑問を抱いていた。

 

 やがて森を抜け浜辺が見えてくると、そこには驚きの光景があった。

 

「ハハ、マジかよ……」

 

 橋本が驚くのも無理はない。それほどまでにCクラスの状況は想像の斜め上を行っていた。

 仮設トイレやシャワー室が設置されているのは当然として、日光対策のターフ、バーベキューセット、チェアーにパラソル。その他娯楽に必要なあらゆる設備が揃えられている。肉を焦がす煙と笑い声。沖合では水上バイクで駆け抜ける者までいる始末だ。

 

「あいつらまさか、残った100ポイント全部使うつもりか……?」

「みたいね。ほら、さっさと行くわよ」

 

 神室はその光景に目もくれず、目的の人物を探し出すと脇目もふらず歩いて行く。

 橋本も置いて行かれまいと急いで駆け出して隣に並んだ。

 

「よう。どこのどいつが来たのかと思えば、お前らか。俺に何か用か?」

「随分と羽振りが言いようね。ま、どうでもいいけど。それよりあんたに話があるわ」

「ククク、大方坂柳の奴から指示でもされてたってとこか。いいぜ、聞いてやるよ。話せ」

 

 水着姿でチェアーに寝そべり肌を焼く龍園が白い歯を零す。

 神室は一度鼻を鳴らすと隣に立つ橋本を肘で突いた。

 

「あーっと、話はもちろん昨日の取引の件だ。単刀直入に言うが、取引内容に追加を加えてもらいたい」

「取引の追加だと?」

 

 訝し気に問い返す龍園に対してヘラヘラと笑みを浮かべる。

 

「そうそう。取引内容は『坂柳派全員からのポイント徴収の免除』。対価として『AクラスリーダーをCクラスに教える』ことでどうだ?」

「ハッ。なるほどな。───もう一度聞くがそれは坂柳からの指示か?」

 

 クツクツと愉しそうに笑うと手に持っている水を飲み干して問いかける。

 その質問には神室が先に答えた。

 

「これは私たちの独断よ。坂柳からの指示は『今回の試験で葛城の地位を出来る限り落とせ』ってだけだった。ならどういう手段を取るかはこっちの勝手でしょ」

「クククッ、確かにな。だがたかがリーダー決めのためにクラスポイントを手に入れるチャンスを棒に振るってか。Aクラスはエリート揃いだと思ってたが随分と場違いなクズもいたもんだ」

「あんたにだけは言われたく無い台詞ね」

「違いねえ。が、坂柳派全員を免除するってのは無理な相談だ。てめぇらのクラスにいったい何人いると思ってやがる。葛城の派閥が劣勢になってることなんざお見通しなんだよ」

 

 Cクラスの暴君が睨みつける。

 だが普段から坂柳という怪物と行動している神室は、一瞬だけ気圧されそうになるもすぐさま持ち直した。

 

「でしょうね。だったら免除するのは坂柳と私、あとここにはいない鬼頭の三人だけでいいわ」

「え、ちょっ、俺は!?」

「あんたのことなんて知った事じゃないわよ」

 

 慌てふためく橋本に冷たい目を向けて吐き捨てる。

 星川からは取引さえ成功すれば条件はなんでも良いと言われている。坂柳派という名目上、リーダーである坂柳は当然として今回働かされている神室、同じく坂柳派内で信を置かれている鬼頭の三名を挙げた。

 

 目の前で起こる漫才劇に龍園は笑みを深めると、こう告げた。

 

「いいぜ、その取引を受けてやる。免除するのは坂柳、神室、鬼頭「あと俺も! 俺も忘れないでくれよ!」チッ、うるせぇな。それと橋本の四名。対価としてお前らはAクラスのリーダーをこちらに教える。だが……」

「わかってる、口頭じゃ信用できないんでしょ。名前の刻まれたキーカードの現物か撮影した写真を持ってくるわよ」

「ククク、なら取引成立だ。おら、とっとと契約書にサイン書きな」

 

 マニュアルから白紙のページを一枚切り取り、サラサラと手慣れたように簡易契約書を作成するとCクラスの代表者名に『龍園翔』と書き込んでから手渡す。

 受け取った橋本と神室は契約内容に不備がないことを確認すると、坂柳代理である神室が自身の名を記入する。

 

「葛城も災難なもんだ。いくら派閥が割れているとはいえクラス内に裏切り者がいるなんてな」

「あいつがさっさと諦めてくれればこっちとしては楽なんだけどね」

「言うじゃねえか、神室。坂柳の腰巾着だと思ってたがてめぇ、とんだ食わせ者だな。これは増々Aクラスを潰すのが楽しみになってきたぜ」

「そういうのは橋本みたいな奴にして。私は興味ないの」

 

 契約書を龍園に返すと大きくため息を吐いた。その様子に龍園は一頻り笑うと追い払うように手を払う。

 

「おら、用が済んだならとっとと失せな。長く留まって痛み目見るのはお前らだぜ」

「わかってるわよ。もう帰るわ」

 

 目的は達成した。

 神室は橋本に視線を向けると森へ向けて足を踏み出す。その後ろを歩く橋本は何か言いたげな表情だが近くにCクラスの生徒がいるためか口を開こうとはしなかった。

 

(ハァ。疲れた……)

 

 ようやく肩の荷が降りたことに一安心する。これで今日残りは自由行動だ。

 キャンプに戻って休む計画を立てながら、神室は額に流れる汗を拭った。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

《side星川祐樹》

 

 昨日一日かけてこの島の地形は完全に把握した。思っていた通りこの島には多くの野菜や果物が生息している。そのほとんどが人の手によるものというのは気に食わないが、まあ良しとしよう。

 

 俺は今、食料調達班として食べられる物を探しに森の中を歩いている。正直他の人のペースに合わせるのは面倒だったため早々に離れて一人で行動をしていた。故郷は内陸にあったため海に来たのはかなり久しぶりなのだ。ここまで言えば分かるね? はい、素潜りしてきました。野生のサザエなんて初めて見たわ。

 

 今ごろ神室さんは龍園くんと交渉をしに行っているだろう。Cクラスのリーダーというだけあって頭の回る男だ。敵としては面白く、味方にしても退屈しなさそうな相手である。

 取り引きさえ成功してしまえば問題ないが、大丈夫だろうか。橋本くんをお供に連れて行くと言っていたので最悪の場合は彼を囮にするだろう。この試験では暴力禁止となっているが、あの男が律儀に守るとは思えない。やっぱり鬼頭くんも一緒に連れて行った方が良かったのでは……。

 

 と考え事をしていたら目的地近くにまで着いていた。

 

 ここはBクラスの拠点のすぐ側だ。今日の目的はBクラスに接触してリーダーを見つけること。Cクラスに関しては龍園くんで確定のため放置する。

 Bクラスのベースキャンプに着くと、うちのクラスとはまた違う生活観がそこにあった。

 スポットとして活用しているのはあの井戸だろう。テントをいくつも置くスペースがないためかハンモックによって寝泊まりするスペースを確保していた。

 

 いいなあBクラス、みんな仲良さそうで。マジで羨ましい。

 

「あれ? 星川くんだ。どうしたの?」

 

 突然の来訪者の気配を感じ取ったのか、こちらを振り返り声をかけてきた。その人物はハンモックを取り付けようとしているのか、木に紐を結び付けようとしている。

 

「こんにちは一之瀬さん。えーっと、うん。スパイ活動をしに来ました」

「スパイがそんな堂々と言うかな普通!?」

 

 なぜだか驚いている様子だが、どうしたのだろうか。こんな試験で他クラスに接触する奴はスパイかエージェントの二択だろう。

 ああほら、一之瀬さんが騒ぐから注目を浴びてしまった。ただでさえ腕に付けてるワッペンでクラスがバレてしまうのに、このままじゃBクラス総出でフルボッコにされてしまう。

 

「本当の事を言うと海に潜った帰りだったりする。ほら、大漁だったよ」

「わ、本当だね。………いや、多すぎない?」

 

 そうだろうか。たかがビニール三袋分だ。海に潜れば分かるがこの辺にはこれ以上にサザエやホタテがあった。これをクラスに届けたらもう一度獲りに行く予定である。

 

「あ、じゃあ一袋あげるよ。せっかくのバカンスなんだし友達とお食べ?」

「ええ!? そんな流石に悪いよ!」

「たかが貝で遠慮する事ないと思うけど」

 

 とそこで二人分の気配が近づいてくるのを感じた。

 程なくして茂みの中から出てきたのは、Dクラスの綾小路くんともう一人、以前寮の裏で生徒会長と揉めていた黒髪美人さんだ。

 

「あれ? 堀北さん? それに綾小路くんも?」

 

 どうやら一之瀬さんも気が付いたらしい。そういえば彼女は例の暴力事件でDクラスに協力していたから知り合いがいてもおかしくないのか。さすがのコミュニケーション能力だ。羨ましい。

 

「こんにちは一之瀬さん。随分とクラスは上手く機能しているようね。───あなたは」

「あっ、どうも。星川といいます……」

 

 美人さんの思いのほか強い眼力に一歩後ずさる。

 一之瀬さんがいうには彼女の名前は堀北さんというらしい。

 

「星川……お前もBクラスの偵察に来たのか?」

「綾小路くん、彼のこと知ってるの?」

「ああ。寮で隣の部屋なんだ。たしかAクラス……」

 

 綾小路くんが余計なことを言ったせいで堀北さんの眼力がより一層鋭くなってしまった。これはダメだと思い一之瀬さんの影に隠れる。フン、黒髪美人は桃髪美人に弱い。それは俺ガイルが証明してくれている。

 あれ、そういや一之瀬さんって髪色も声もガハマさんそっくりじゃね? うっそ、そんな偶然ある?

 

「……そう、Aクラス。それであなたはここで何をしているのかしら」

「いやその……海に潜っていたのでその帰り道です、はい」

「海?」

 

 堀北さんの視線が俺の持っている袋へと移る。この大量のサザエとホタテを前にすれば俺が嘘を吐いていない証明になるだろう。

 そもそもなんで俺はこんな詰められているんだ。ここはBクラスのキャンプであってDクラスは関係ないのに。むしろ暴力事件の時は俺も協力したのに。

 

「随分と多いな。星川が一人で獲ってきたのか?」

「いやあ、俺友達いないから他に協力してくれる人いなくて」

「あ、すまん……」

 

 綾小路くんが悲しいものを見る目をこちらに向けてくる。

 やめてくれ。友達がいないのは君もだろ。そういうの分かるんだぞ俺。

 

「星川くん……」

「わ、わかったからそんな目で見ないでくれ一之瀬さん。さすがに傷つく」

「Aクラスとはいっても綾小路くんのような人もやっぱりいるのね」

「待ってくれ堀北。それはオレたち二人を同時に侮辱する言葉だぞ」

 

 おや、この二人意外と仲が良い様子。なんだなんだ、やっぱり隅に置けないじゃないか綾小路くぅん。

 けれどこのキャンプでしたかったことはもう終わった。あまり長居すると迷惑だろうしそろそろ退却するとしよう。

 

「さて、俺はそろそろクラスと合流するよ。荷物も多いし」

「あれ、もう帰るの?」

「下っ端だからね。馬車馬のように働かなくちゃいけないんだよ。それと作業の邪魔をしたお詫びに一袋置いていくから必要だったら食べてくれ。あ、綾小路くんたちもお一つどうぞ」

「いいのか? 持って帰らないとお前が怒られるんじゃないのか」

「一袋あれば納得してくれる、と思う。どうせまた探しに行かなくちゃだし気にしなくていいよ」

 

 それにこれはお詫びの意味もある。この試験で完全勝利をするということはAクラス以外は全員が敗者になるということだ。

 今もこうして必死に節約をしている皆さん、ごめんなさい。白波さん、そんなに睨まないでお願い。

 

 Bクラスのベースキャンプから離れたことを確認すると、大きく伸びをして身体をほぐす。

 

「Bクラスのリーダーは白波さんか。あとはDクラスがどう動くかだな」

 

 俺がスパイだと言った時、当然Bクラス全員が危機感から反応を示した。だがその後に一人の少女へと意識を向けていたのを俺は見逃していない。

 キャンプの中にCクラスの生徒が一人いたが、あれは龍園くんのスパイだろう。どうやって入り込んだのかは容易に想像がつく。決して褒められた手ではないが、それもまたこの学校の言う『実力』とやらなのだろう。

 

 あとの懸念材料はDクラス。彼が俺の予測通りに動くようであれば俺たちの勝ち。もしも予測を超えてくるのであれば────いや、それを考えても仕方がない。期待をしたところで叶わないことの方が多い世の中だ。今はせめて坂柳さんの指示を遂行する事だけを考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Aクラスのキャンプに戻ったら『舐めてんのかもっと集めて来い!!』と戸塚くんに怒鳴られた。なんでてめぇがキレてんだブチ転がすぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

《side綾小路》

 

 半ば強引に貝の入ったビニールを握らされると、星川はBクラスのベースキャンプから去って行った。

 星川祐樹。寮で隣室だったため名前だけは知っているが、それ以外は詳しく知らない。Aクラスだということも先日葛城たちと会話していたのを聞いて初めて知ったくらいだ。

 

 だが警戒するに越したことはないだろう。以前オレが堀北と堀北兄の喧嘩を仲裁した際に感じた視線。確証はないが一瞬だけ見えた人影は星川のものだったようにも感じる。

 

「そのサザエに毒が入ってるかもしれないわよ。綾小路くん、捨ててきなさい」

「お前には人の心はないのか」

 

 いくらAクラスを倒すべき敵として見ているとは言え、流石にその発言は過激すぎる。うちのクラスにだって食料に余裕はないのだから親切は受け取っておくべきだろう。

 

「あはは……。星川くんはそんなことしないと思うよ? 本当に親切なのか、それとも気紛れなのかは分からないけどね」

「一之瀬さんは彼について詳しいのね」

「うん。私たち小学校の頃のクラスメイトなんだ」

 

 少し照れ臭そうに頭を掻く。一之瀬のようにコミュ力の高い人間ならAクラスだろうと仲良くできると踏んでいたが、この学校に来る前からの知り合いだったとは。

 ならばあいつについてもう少し情報を持っているかもしれない。オレは何気ない風に一之瀬に問いかけた。

 

「一之瀬から見て星川はどういう奴なんだ?」

「どうっていうのはちょっと難しいかなぁ。私が知ってるのはあくまで小学校のころまでだし」

「知ってることでいいんだ。オレたちとしてもAクラスの情報は少しでも多く欲しいからな」

 

 堀北が訝し気にこちらを見てくる。その視線から逃げるようにオレは一之瀬を見つめた。

 

「えーっとね、当時は勉強も運動も学年で一番だったよ。私もテストの点数で一度も勝てたことなかったからね。でも人付き合いは苦手………というより他人を拒絶してたかな。何度話しかけても無視されたし、この間再会した時も鬱陶しかったって言われちゃったし……」

「一之瀬さんが拒絶されたの? にわかには信じられないわね」

「にゃはは。小学生のころの話だからね。でも今は大分雰囲気が変わったよ。クラスには上手く溶け込めていないみたいだけど、人との関わりは大切にしてるみたい。心変わりした原因はたぶん───」

 

 そこで一度言葉を区切り、少し俯いたあと一之瀬は苦笑いを浮かべた。

 

「ごめん、何でもないの。最後のは忘れて?」

「忘れる、というのは彼が心変わりした原因についてよね。あなたは何か心当たりがあるのかしら」

「うん……まあ、ね。でもこれはあまり言いふらすような事じゃないから……」

「……そう、別に構わないわ。彼にそれほど興味がある訳でもないもの」

「お前はもう少しオブラートに包めないのか……」

 

 一之瀬が話せないと言った星川の秘密。気にならないと言えば嘘になるが、おそらくプライベートな問題なのだろう。特に親しい間柄でもないのにこれ以上詮索するのは野暮だ。

 そもそも覗き見ていたのが本当に星川だったのかも確証がない。現状はそうかもしれない程度のものであって、本当に星川だとしても別段問題はないのだ。

 

「そういえば堀北さんたちは何か用事があって来たんだよね?」

「ええ。その前に一応、私たちは前回から協力関係にあると思っていいのかしら」

 

 そうして堀北と一之瀬が話し込み始めたためオレは置物に徹する。

 Bクラスの偵察が終われば次はAクラスだ。拠点は恐らく初日に見つけた洞窟だろう。

 今回の試験では茶柱先生に脅されているため本気で勝ちを狙いに行く。Aクラス、Cクラスのリーダーに目星はついているため後はどうやってDクラスのリーダーを間違えさせるかが鍵になってくる。

 

 オレは視線をDクラスのリーダーである堀北に向けて呟いた。

 

「……問題ない」

 

 何もかも、問題ない。

 

 この世は『勝つ』ことが全てだ。過程は関係ない。

 

 どんな犠牲を払おうと構わない。最後にオレが『勝って』さえいればそれでいい。

 

 堀北も一之瀬も、いや、全ての人間はそのための道具でしかないのだ。

 

 

 魂の芯にまで刷り込まれた()()()の教えは、まるで呪いのようにオレを『勝利』へと向けて突き動かしていた。

 

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