オリジナル女子プロ野球、短編資料集。   作:にゃあたいぷ。

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3.東京ヤタガラス「藤井慶子」背番号27

 女子プロ野球人気が最盛期を迎えた時、東京ヤタガラスには伝説的な捕手が所属していた。

 愛嬌のある丸眼鏡を掛けた彼女は、女子球界の頭脳と呼ばれる程の知性を武器に投手を引っ張り、チームまでも牽引してリーグ優勝の栄光を掴み取った。過去のオリンピックで日本代表として参加した経験もある。球史に名を残す伝説的な捕手の名前は、喜多和恵と言った。喜多選手が現役を引退した後、東京ヤタガラスは深刻な捕手不足に悩まされる事になる。

 喜多選手を頼り過ぎた結果、後釜が育たなかったのである。

 捕手の存在は、他球団でも不足しているので引き抜いて補強するのも難しかった。

 故に東京ヤタガラスは短絡的な処置を諦めざる得なかった。

 

 2016年のドラフト会議、東京ヤタガラスは素材型の高卒捕手を獲得する。

 名前は藤井慶子、背番号は27。初年度から公式戦に出場し、近衛選手の(教育)を受け続ける。

 彼女は昨年、東京ヤタガラスの4番を担っていた。

 そして、今年の開幕戦でも彼女は4番の重圧を背負う事になる。

 

 対戦相手は、ペットライフワンダフルズ。昨年の3位。

 球場は、まだ女子プロ野球人気が全盛期だった時に出資会社が富山県に建てたペットライフボールパーク。

 ボックス席の動物カフェが特徴的な球場だ。

 

 藤井選手は、その打席に初回から立つ事になる。

 ネクストサークルから左打者用のバッターボックスに向かう最中、身体を解しながら観客席を見上げた。今日は開幕戦という事もあり、観客席の三割程度が埋まっている。藤井選手はポニーテイルに纏めた髪を軽く振り、金属バットの先端でホームベースの中心をトントンと叩く。そしてチラリと次の打者を一瞥する。昨年の成績は2割6分程度、本塁打は12本。女子プロ野球のシーズン試合数が108試合である事を鑑みても4番としては物足りない数字。実際、藤井選手も自分が4番の器でない事は自覚している。東京ヤタガラスの喜多監督が、彼女を4番に置くのは通常時と得点圏での長打率に大きな差がないからだ。

 マウンドに立つのはワンダフルズのエース、跳ねた髪が特徴的な犬飼選手である。

 

 2死1塁、1塁には2番打者の葉隠選手が静かにリードを広げる。

 犬飼選手はセットポジションから何度か1塁走者に視線を送った後、ペロリと唇を舐めて素早く投球する。速球派を自称する彼女の球速は133km/h。女子プロ野球としては破格の速度、藤井選手はバットを寝かしてコツンを転がした。2死からの初球バント。意表を突かれた犬飼選手は体勢を崩し、彼女の女房役を務める直走選手が前に駆け出した。三塁線上を転がるボールは切れない判断、素手で掴んで2塁を目指す1塁走者が足を緩めるのを確認。直走選手は1塁へ送球する。

 しかし藤井選手は加速が早い選手、間一髪のセーフ判定に直走選手は歯噛みした。

 

「3塁ッ!」

 

 カバーに入っていた右翼手の一塁手に叫んだ。

 葉隠選手は2塁手前で減速した後、相手捕手が送球に入ったのを見て再加速し、2塁ベースを踏んで3塁を目指して駆け出していた。一塁手が3塁に送球し、三塁手がボールを受け取ると同時に葉隠選手が頭から滑り込んだ。タイミング的にはアウト、しかし判定はセーフ。神奈川県から富山県まで応援に駆け付けてくれた三塁側の観客席からワッと歓声が上がる。

 葉隠選手は、自分の左手をタッチするグラブを躱して右手でベースに触れたのだ。

 ワンダフルズの三塁手は判定を待たず、ボールを構える。1塁の藤井選手を警戒してのことだ。大きくリードを取っていた藤井選手は、駆け足で1塁に戻り、わざとらしく肩を竦めてみせる。この後、5番打者の助っ人外国人が空振り三振に終わり、得点には繋がらなかったが野球の駆け引きを見せた一幕である。

 そして藤井選手はこの試合、捕手として二度の盗塁を阻止する活躍を見せた。

 

 

 ペットライフワンダフルズとの開幕戦は2対4で敗北を喫する。

 藤井選手はベンチの中から敗北が刻まれたスコアボードを見上げて、ベンチの裏にある更衣室まで足を運んだ。シャワールームで軽く汗を流した後は、更衣室で球団スタッフからスコアブックを受け取り、喜多監督と近衛選手の三人で顔を突き合わせる。試合を終えたばかりで身心共に疲弊していたが、反省会は試合直後に行わなくては意味がない。という喜多監督の方針でチームの軸を担う三人だけで今日の試合を振り返る。

 近衛選手の隣に、しれっと新人の駒沢選手が居る事は気にしないでおく。

 

 反省会といっても実際に行っているのは大した事ではない。

 試合中の配球とプレイ内容の再確認が大半で、スコアブックに書き記された結果を参考に情報を修正する。シーズンを通して戦略を立てるのは首脳陣の役割であり、実際に試合を進行させるのも首脳陣の役目。首脳陣の作戦を受けて、現場で対応するのは捕手である自分の役目である。近衛選手が先発で活躍していた時は、彼女が自分で守備を纏めていた。

 今にして思うと常人離れの芸当をしていたのだと実感する。

 正直な話、マウンドで解き放つ近衛選手の殺意に気圧されて、意識の半分以上が持っていかれていた事は藤井選手だけの内緒である。近衛先輩は優しくて素晴らしい先輩です。打者を観察するだけで精一杯で、配球を考えるのでひいひい言っていた頭でも、6年間も現役を続けていれば少しはまともになる。

 近頃は近衛選手から無言の圧力を感じる事も少なくなった。

 近衛選手は、実際に苦言を口にする事は少ないが、仲間の失策を見るとスゥッと心が死ぬので分かりやすいのだ。

 そういう時の彼女は打者を三振で仕留める事に注力するので殺意が増すのである。

 

 兎も角、反省会という名のミーティングを終えてから宿舎に戻る。

 明日も、明後日も試合が残っている。頭の中が野球の事ばかりで埋め尽くされる中、藤井選手は部屋に戻るとベッドメイクされた布団に倒れ込んだ。彼女がまだ夕食を摂っていない事に気付いた後輩がドンドンと扉を叩くまで数時間、彼女は熟睡を決め込んだ。

 藤井選手の朝は早く、朝食を摂りながら昨日の反省会の内容を思い出しながらスコアブックを睨み付ける。

 

 試合のある日は朝から晩まで頭を野球漬けにする彼女を姿を見た捕手以外のチームメイトは、捕手じゃなくて良かったと毎日のように思うのである。

 

 


■藤井慶子(ふじい けいこ)※翌年2024年時

所属:東京ヤタガラス

 

▽基本情報

年齢:26歳 出身:中国地方 家族構成:弟2人

身長:166cm 体格:細マッチョ 血液型:B型

年俸:800万円 背番号:27

利腕:右投左打 ポジション:捕手

身体的特徴:

・眼鏡にポニーテイルを付ける。目付は鋭く、美人系。

・それなりに胸が結構ある。

・ドスを利かせた声。

 

▽プレイスタイル

高校時代は狂犬スタイルだったのが、

プロに入った後は教育を受けて献身的なプレイになる。

特徴的なのは、肩の強さで高校時代は一度も盗塁を許したことがない。

 

▽経歴

・文殊高等学校女子野球所属

2014/24回女子野球全国高校生大会:県大会準決勝敗退

2015/25回女子野球全国高校生大会:地方大会2回戦敗退

2016/26回女子野球全国高校生大会:全国大会初戦敗退

 

・東京ヤタガラス所属

2016/入団:ドラフト2位指名

 

▽個人的特徴

性格:今は近衛選手の忠犬だが、牙が抜けた訳ではない。

夢:地元球場の観客席を満席にした中で自分の名前のコールを受けながら打席に立つ事。

口癖:「ほうじゃのう」「がめたるけえのう」「わやくちゃにしてやる!」

 

仕草:態度はわんぱくだけど、黙ると急に御嬢様然とする。

恐怖:体格の良い選手と比較される事。

 

▽人間関係

尊敬する人:ジョージ・マッケンジー(元プロ野球選手)※名称変更予定

特に仲の良い人:後輩投手(名称未定)

素晴らしい先輩:近衛鈴歌(素晴らしい先輩)

嫌いな人:未定

 

▽プライベート

特技:UFOキャッチャー、レースゲーム

趣味:ぬいぐるみ集め、バイク

好きなもの:可愛いもの、カッコいいもの

嫌いなもの:不正、曲がった事

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