ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第1話

「もうこんな時間、か…」

時計の針は長針と短針が頂点で重なろうとしている

そして窓の外は紫色

…静まり返った委員会の部屋を見渡し、ため息を一つ

「…何か食べようかしら」

思えば今日は夕飯を食べ損ねてしまった、昼食は自力で用意している(出来ない日もあるが)

だけど、夕飯は給食部に頼り切りだ

では、今日はなぜ食べ損ねたのか?…美食研究会、その一言で十分理解できるだろう

だから今日は夕飯を食べていない、でもこんなことはよくある話…そんな時のために…

(ガサ…ゴソ……)

「あった…醤油味か」

備蓄品のカップ麺、さっさとフタを開け、やや少なめのお湯を注ぎ、ソファに腰掛けて自身の膝より低いテーブルにカップ麺を置く

最早こうなっては仕事など手につくはずもない、この三分間をしっかりと休む方が後々にとっても効率的なのは明白だ

ケータイを取り出し、ポチポチと弄って少しした頃、長針と短針が重なり、ゴーンゴーンと音を鳴らす

「……」

ケータイの時計からするとあと1分足りない、でもそんなのはもはや関係ない、蓋を開き、麺を箸で掬い上げて啜る

「…はふ…うん、美味しい」

ずるずると音を立てて麺を啜る、麺と一緒に砕かれた大豆ブロックが口に入るのも良い

エビや卵を特別に掬い上げて食べるのも悪くない

「…うん、これも…ずず…あ」

箸をスープに泳がせても何も引っ掛からなくなるのには時間がかからなかった

だが、まだ自身の空腹に終わりは見えない、しかし…ここでもう一つカップ麺を開けるのは…

(パンとか、ご飯…無いか……)

カップに口をつけ、スープをちびちびと飲む

お湯の量を減らしておいたおかげで味が濃いのが嬉しい、飲み終わる頃には空腹も薄れていた

(…はぁ…長持ちはしないだろうけど)

「…仕事しなきゃ」

今日も仕事は残っている、あと少しだけ頑張ろう

 

……

 

「……あ」

「え、な、何?」

…フウカが美食研究会を見る様な目で私を見ている…これは、そんなつもりではなくて、釈明させてほしい

「…つまり、お腹が減ったから給食部の食材を…?風紀委員長が?」

フウカのあの目が容赦なく私を突き刺している

だけどもはやそれもどうでもいい、お腹が減った、私は今、空腹なのだから…

(ぐぅ…ぎゅるるる…)

「う…」

腹の虫が悲鳴をあげている、それも特大のを…

たまらず私は顔を赤らめて俯いた

「…はぁ…ちょっと座ってて」

厨房に向かうフウカに小さくありがとうと返し、席に座る

少しすると良い匂いが立ち込めてきた…

深夜にはあまりにも刺激的だ、こんなに美味しそうな匂いがして良いはずがない

思わずこぼれそうになったよだれを拭い、今か今かと様子を伺う

「はい、時間かけてもよくないから簡単に、焼きそばだけど」

「ありがとう…!いただきます」

長い時間を待った今、いただきますをいうのすら億劫に感じる、豪快に箸を動かし、焼きそばを口に詰め込む

「美味しい…!」

もむもむと口の中で噛み締めると、これが簡単な料理とはとても思えない

麺に染み込んだ出汁の香り、ソースもだが、それだけではない、キャベツの甘みと紅生姜の酸味

麺に紛れた豚肉を噛み締めるとその旨みがジワリと滲み出てくるのもたまらない

フウカの食事は給食でしか食べる機会がなかったけど…これは、美味しい、美食委員会が目をつけるのも納得だ

「…で、なんで風紀委員長が給食部の厨房を襲撃なんか…」

「襲撃じゃなくて…その、借りたかっただけ…」

「……」

「その目はやめて…その、最近夕飯が食べられないことが多くて、でも、カップ麺ばかりは…その、辛くて…」

「……はぁ…」

「これ、貸してあげるから…次からは正面入り口から入って」

「鍵…?」

「あるものは好きに使って良いけど、給食に影響が出ない範囲にして?それから次の部活の予算の査定、よろしく」

フウカに作ってもらえるわけではないことにショックを受けつつ、そのありがたい提案を受けることにした

もちろん次の予算は増額する様に打診をする、今の時点で面倒な万魔殿に噛み付くのはストレスが悪化しそうだけど

この焼きそばの前にはそんなことを気にする余裕なんてとてもなかった

「ところで、この焼きそばどうやって作ってるの?すごく美味しい」

「それは良かったわ」

焼きそばの作り方を聞いたは良いものの

豚肉を炒めた油でキャベツを炒めて麺を出し汁でほぐすのあたりで私の思考はシャットアウトされた

もっと細かい話もあったけど、私にはそこまでの余力はない

明日は何を食べようかな、そんな考えで頭がいっぱいになっていたのだった

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