ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第10話

「風紀委員長、お疲れ様です」

「お疲れ、どうしたの?」

風紀委員会に訪ねてくる人は限られる、でも、今回の客は比較的頻繁に来る方だ

「今日は患者は居ないわよ、チナツもね」

「ええ、その様ですね、残念です」

表情を変えずにそう応え、カツカツと近づいてくる

(…ミーティングの予定は入れてない、となると緊急出動要請…いや、直接くるわけがない、ならやっぱり…) 

立ち上がって出迎えようとした時、腹部に違和感…いや、慣れ親しんだものではあるのだけど

(…お腹が、空いたわ…)

ちょうどお昼時、今から話を始めるとどのくらいかかるだろうか

「じゃあどうしたの、そっちだって暇じゃないでしょう?」

「ええ、つい先程までは」

先程までは?まるで今は暇かの様な口振りだ、そう言えば今日は私の他には誰も居ない

別に珍しい話ではないけれど、事あるごとに救援要請が来る立場なのに今日はそれがない

(…アコたちは大丈夫かしら)

「その様子ですと、何も聞いていないようですね」

「どういう意味?」

「今朝、朝食の時間、美食研究会に給食部が襲撃されまして、それを風紀委員会が撃破しました」

「初耳ね」

それにしても、あの美食研究会をその時の戦力だけで撃破するなんて…

(…ならどうして報告をあげないのかしら、それに誰が?)

「なら、食堂が倒壊したこともご存知ないのですね」

「……は?」

食堂が、倒壊…

「戦闘の際、たまたま朝食をとっていた温泉開発部のメンバーの持っていた爆薬に着火、一次爆発が起きました」

「待って、その言い方だと…」

「戦闘の最中台所の小麦粉が飛び散ったらしく、引火し、粉塵爆発が起き、生徒たちの爆発物がさらに連鎖爆発を」

「……被害は」

「その時現場指揮をとっていた、行政官、チナツをはじめとした風紀委員会の皆さんと、食堂にいた生徒達が」

「美食研究会は?」

「全員瓦礫の崩落に巻き込まれて逃げられなくなったところを外で待機していた風紀委員会に拘束されました」

「……そう、温泉開発部の方は…」

「食堂に居た部長が爆発で吹き飛んで行方不明とのことです」

「給食部」

「2人とも粉塵爆発を受けた程度なので軽傷ですが、酷くショックを受けていました」

「…でしょうね、はぁ……」

…今日は食堂で特別メニューの予定だったのに…

(…内容は聞かなかったけど、今日は面白いものを食べられるって聞いてたのに…)

「そこで、搬送されてきたフウカさんに、「ヒナがショックだろうから」…と」

「どういうこと?」

「お昼は私とどうですか?」

「……」

なぜそうなったのかは理解できないけど…

「いいわ、そうしましょう」

 

「…で、外なのね」

「ええ、せっかく2人で食べるなら行ってみたいお店がありまして、あの喫茶店です」

「……喫茶…」

食事をしたかったのに、喫茶店…コーヒーなら間に合ってるのに、喫茶店…

「ここのサンドイッチが美味しいそうです、ここに来た人はついついお腹いっぱいになるまで食べてしまうとかで」

「…へえ」

その言葉に少し期待してしまう、どれほど美味しい料理が食べられるのだろうか?

「早く入りましょう」

店内に入り、店員に案内された席に座る

「さて、と」

メニューを開き、目を通す、やはり喫茶店メインはコーヒーなどの飲料か…でも、ここのサンドイッチが…

「…これです、このカツパンというのが美味しいそうです」

「カツパン…カツサンド?」

「のようですが…」

カツサンド…悪くはないけど、これ一つでは物足りない

「シェアしましょう、どうせ一つじゃ足りないだろうから…」

「…私は一つでも問題ないのですが…そうですね、では、注文は私がしても良いですか?」

「……お願い」

(…自分で選ぶのも面倒だし、ここは任せてみましょうか)

「すみません、アイスコーヒーの大きいのを2つ、それからカツパンと、チキンとポテトの盛り合わせを、それと…シロノワールも」

(……?)

「あ、パンは6等分でお願いします」

「6等分…?少し小さいんじゃ…」

「良いんです」

「……そう」

少ししてコーヒーがやってくる

「…なにこれ、ジョッキ…?」

銀色の樽型のジョッキに並々と注がれたアイスコーヒーを一口飲む

「…意外と美味しいわね」

「ええ、そうですね」

いつも飲んでいる物よりも香ばしくて深い苦味がある…アイスコーヒーなのに薄くない

「…来ましたね」

「……待って、聞いてないわ」

…大きい、カツも、パンも…

普通のコンビニで売っているカツサンドが幾つ分だろうか…3つ、4つ…?十分お腹いっぱいになる…

「早く食べましょう」

こうなってはもう食べるしかない、パンを手に取る

「…柔らかい」

温かくて柔らかい、掴めば指が沈み込むほどに柔らかいパン、中のカツは特別厚くはない、キャベツの千切りも入ってる

「いただきます……あむ…」

…これは、驚いた…

「このソース、味噌?それにからし…ね」

「その様ですね、とても美味しいです」

パンが柔らかいから、カツの食感が浮くかと思ったら…カツも歯切れが良い、噛めばそのまま噛み切れる

そしてパンと衣に染みているのは味噌のソース、甘く、コクのある味噌、そしてカラシのツンとした味わい…

(コッテリとしているのに、キャベツが入ってるから脂っこくない、からしも強くないけど存在感があって良い)

「…トンカツが味噌と合うなんて、想像できなかったわ…」

「そうですね、焼きたてのパンとの相性も驚きです」

「…そうね」

言われてみればパンに染み込んだソースがいい、パンと味噌の相性を噛み締めつつ、からしが鼻にツンとした

「……委員長、追加です」

「ポテトに、チキン…」

太いカットのポテトに、このチキンは…

(丸い唐揚げみたい…レモンとケチャップも添えられてる)

ポテトを1つ手に取り、口に含む

熱くて柔らかい、そして…

「薄いわね、塩…」

ケチャップを少しつけて食べると悪くない、だけど塩気が物足りない…

「卓上調味料で調整するのでしょうか、それともこのケチャップを…」

「……セナ、レモン大丈夫?」

「ええ、ポテトに?」

「…いいえ、ケチャップに、いい?」

「なるほど…お任せします」

レモンをケチャップに絞り、さらに塩を振る、そしてそれをよく混ぜて…

ポテトをディップして食べる

「……うん、当たりね」

このポテトはそこまで油っこいわけではない、だけど揚げ物である以上食べ進めると油がキツくなるだろう

そこでこのレモンとケチャップのソース、即興で作ったにしては相応いい…

「これは、美味しいです」

セナもソースを気に入ったのか、ポテトをチビチビと食べ進めている、ここでチキンを一つ

「はむ……」

…美味しい、表面はそこまでクリスピーではないが、衣を噛み砕くと肉汁が溢れ出てくる

鶏の旨みと、やや甘辛く仕立てられた衣、それだけだ、おそらくはそれだけなのだが…

(…美味しいわね、普通の唐揚げみたいだけど、すごく美味しい)

旨味が濃いし、肉特有の臭みも全くない

「……かぷ…これは良いですね」

セナがチキンをソースにつけて食べる、よほど気に入ったのか、だが、この味で相性が悪いはずがない

私も続いてチキンをソースにつけて食べる

「……ふふっ…」

ああ、酸味が足されるとこんな味になるのか、美味しいのはわかりきっていたけど…

(そういえば、フウカがトマトと鶏肉は相性がいいとか言ってた気がするわ、でもどうでもいいわね)

今この美味しいを楽しんでいる今、余計な考えはいらない

「……あ」

ポテトもパンもチキンも全て無くなった、どれもかなりボリューミーだったけど、美味しくて食べるのが楽しいメニューだった

(お腹も、8分目くらいかしら…2人ならちょうど良い量だったわね…)

「……まだです」

「…そういえば」

セナはもう一つ頼んでいた、少しして運ばれてきたのは…

「……何、これは…」

切り分けられた丸いパンの中心にソフトクリーム、そして頂点にはチェリーの乗った…デザート?

「シロップをかけて食べる様です」

一切れを自分の皿に取ったセナがシロップをかけ、パンをフォークで口に運ぶ

「……これは、新しい様な、懐かしい様な…」

パンの断面から察するに、クロワッサンの様な生地

カツパンのときとは違い、パンが主役だからか冷めてるのに小麦の香りも強い

シロップをかけて口に運ぶ

「……!」

甘い、パン自体も甘いのにシロップ、そしてソフトクリーム…ひんやり冷たくて、そして甘い…

今度はソフトクリームもしっかり乗せて食べる、すると口の中で溶けたソフトクリームがパンを溶かす

フニャフニャになったパンを噛めば噛むほど甘味が出てくる、じゅうぶん咀嚼した後、コーヒーで流し込む

「……はぁ…」

この相性は明白だ、最高に美味しい…

「チェリーをいただいても?」

「いいわよ」

「…♪」

食べる前は落胆したり期待したりだったのに、今は満足感しかない…

「……よかったわ、連れてきてくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ」

しばらくのんびりしてから帰った

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