ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第11話

「では、こちらにサインをお願いします」

誘導の通り、サインを書き、書類を提出する

「はい、ありがとうございます……しかし、わざわざゲヘナの風紀委員長直々に来られるとは…」

「…そうね、今回は特別よ」

何せ風紀委員会の大半は救急医学部で寝込んでいるのだから仕方ない

ここはヴァルキューレ、時にはゲヘナの問題児が収容されることもある、そしてそれを風紀委員会の牢屋に移すのも仕事

「現在4番の取調室にいますので…」

「なら案内はいいわ、1人で行けるから」

取調室の前に着いたらノック、中から開けられる

「…これは…どうも」

「迷惑をかけたわね、あとはこちらで引き受けるわ」

「お願いします」

わざわざ公安局の局長自ら取り調べとは、まあ、並の生徒では相手にならないのは間違いないのだから仕方ない

「立ちなさい」

その声と共に椅子から立ち上がったのは…

「……ええと、私は、出前を待っていたのですが…」

「注文の風紀委員長よ」

隣の公安局長が目を丸くしてこちらを見た気がしたが、どうでもいい

「早く行くわよ、立ちなさい、ハルナ」

「…はい」

「逃げようとしたら、1週間は救急医学部で寝込んでもらうから…そのつもりでいなさい、食事もセナに用意してもらうから」

おそらくセナのことだ、患者は栄養だけを考えた食事を食べることになる

「……」

ハルナは口元だけ笑っているが、眉をひそめてどこか暗い表情、本当なら逃げられると考えたのだろう

(逃げた次の日からが地獄なのはわかってるでしょうに)

来たのが私であるが故に大人しく指示に従うのだろうか

トボトボと歩くハルナを連れてヴァルキューレを出る

その間もヴァルキューレ生たちにしきりに感心されたのは少し居心地が悪かった

 

ゲヘナまでの間を送ってくれる車がいる訳でもなく、公共の交通機関での移動を強いられる

となると、手錠やロープはつけづらい

(これは要改善ね、このくらい言ってくれれば護送させるのに…)

…しかし、ここで問題が一つ

(……お腹、空いたわ…)

食べたいものは決まっている、つい先ほど決まった、取調室の定番、カツ丼…

今の私にはもう、それしか考えられない…

「…次で降りるわよ」

「…まだゲヘナまで…」

「降りるわよ」

「……何故?」

「…カツ丼よ」

その言葉に一瞬呆気に取られた様なハルナだったが、数秒後には笑顔になる

「ああ、やはりヒナさんは風紀委員長にしておくにはもったいないですね」

「黙りなさい、店は任せるわ」

でしたら、とハルナが案内した先は…

「……なるほどね」

(チェーンのとんかつ屋さん、それも大して高くもない、どこにでもあるタイプ…)

つまり、そういう事だ、これは私の意図もわかってる楽しみ方…

昼時は過ぎていたから閑散とした店内でゆっくりと落ち着ける

「さて、どうしますか?」

「カツ丼、大盛りで」

「では私も同じ物を」

簡単に注文を済ませ、運ばれてきたお茶を飲む

ふぅ、とため息をつく、こんな姿を他の委員会の人間に見られたら…

(面倒ね、さてと…)

「来ましたね」

カツ丼とお味噌汁、たったそれだけ、でもそれが今は欲しい…

「上等ね」

「ええ、早速いただきましょう」

「いただきます」

まずは卵に閉じられたカツを一切れ掴み上げ、一口

「……うん」

想像通り、甘辛く仕上げられたつゆに浸かったカツはサクサク感を失う代わりにジューシーで

今度はご飯と合わせて食べるとたまらない、卵のとろとろの部分がご飯とカツによく絡んでいる

「…ふう…いいですね」

「ええ」

多くを語る必要はない、特別上等な物ではない

「はむ……うん…」

噛むたび衣から、米から滲み出てくるこの味が箸を止まらなくする

少し休むために味噌汁を飲む、具はワカメとネギだけで特に何かを感じるほどの味でもない

だからこそカツ丼がよく感じる…

「……はぐ…はぐ…ん…」

いつのまにか半分ほど食べ進めたあたりで改めてどんぶりを見る

(しまったわね、このままじゃカツが足りない…)

つゆがよく染みたご飯だからそのままでも問題はない、でも少し寂しく感じる

追加で何か頼もうか…

「ヒナさん、今、もしかして追加を頼もうとしましたか?」

「……」

「忘れてはいけません、ここは取調室ですから」

(別に私はカツ丼が食べたいだけでそんなつもりはなかったのだけれど)

でも、ここまで来たらそれも悪くないだろう、味噌汁のワカメを何枚かご飯に乗せ、七味をかけてそれで食べる

「うん…」

まあ、悪くはない、決して特筆して美味しい訳ではないが、これもこれで悪くないものだ

いくらか食べたあたりで今度はご飯が少なくなったことに気づき、カツをうまく調整しながら食べ進めた

(…ふぅ……午後、仕事まだあるのに……面倒ね)

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

「…ハルナ、ここは払っておいて、私は少し席を離れるから」

「えっ」

意味がわからないと言う顔をしてるハルナを放って席を立つ

洗面所で少し時間を潰してから戻るとハルナの姿は無かった、まあ、これでいいだろう

(連れて帰った後の方が処理が面倒だし)

たまにはこういう日があってもいい

 

…後日、飲食店爆破の容疑で普段の倍ハルナを叩きのめした

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