ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「…牛丼が食べたい」
「へ?」
ポツリ、呟いてしまった…それを聞いたアコがすっとんきょうな声を出してコチラを見ている
「……ううん、なんでもないわ」
そうは言ったものの、食べたくなってきた…脂身の多い安い薄切り肉と玉ねぎを乗せ、紅生姜を散りばめた牛丼
(……はぁ…)
フウカに頼めば作ってくれるだろうか、まあ、それも悪くない…でも、きっとフウカの作る牛丼は美味しすぎる
それの何が悪いか?…たまにあるこの感覚、安っぽいご飯だからこその良さもある
(…チェーン店の、牛丼が食べたい…)
そういう日もある、たまにはそんな気分の日もある
私が食べたいのはあくまで安っぽいチープな牛丼だ
(…24時間営業のお店、行けるかな…)
帰り道から外れた遠い回り道をしなくてはいけない、でもそんな気力はない
だからたまに食べるそれがどうにもご馳走に感じるのだ
(……決めた、行こう)
そうと決まれば話は早い、今日の仕事が終わるまでのあと数時間…それだけを我慢すれば良いのだから
「……はぁ…」
こういう日に限って、終わるのが遅い…普段部屋にいる3時をややすぎて、ようやく仕事が終わった
この時間から帰れば3時半にはついて、そこからシャワーや身支度をして…
使える時間を指折り数える、しかし…
(……お腹、空いた…)
食堂に行く?割り切ってまた椅子とテーブルで寝れば…
「牛丼…」
…どうしてもよぎるのはそれだ、こんな状態でまで、食べたくて仕方ない
「……行くしか、ないのね」
「牛丼2つお持ち帰り、大盛りで」
片道10分をかけて牛丼屋に向かい、テイクアウトを頼む
こういうお店は1〜2分もあれば提供してくれるのがありがたい
夜道の下がった外気に晒し、ゆっくりと冷めていく牛丼の香りがいい、今直ぐ食べたいけど、まだ早い…
自分の部屋に辿り着き、牛丼を一つ開ける、本来もっとやるべきことがあるのに、もう我慢なんてできない
紅生姜を乗せて、そのぬるくなったままの牛丼を箸で持ち上げる
「いただきます…はぐ…はぐ…」
冷え始めて脂の存在感が強くなった牛肉、ジャクジャクとした強い歯ごたえの玉ねぎ、そしてつゆを吸った米
食感がそれぞれ違うし、暖かい時の一体感なんてない、全部がそれぞれの存在感を強くし、不協和音を生む
それがいいのだ、味付けも濃いし、それぞれは美味しい
でも、もきゅもきゅと噛み締めるとバラバラだ、味付けは同じなのにバラバラの食感
「…あむ…うん」
温かければサクサクと食べられるのに、冷え始めてご飯も少し硬くなっているから、もぎゅもぎゅと少しずつ食べ進める
たまに入る紅生姜もいい、よく噛み締めてやると酸味が混ざっていい感じにサッパリする
「……もぐもぐ…」
冷えて硬いおかげで何度も何度も噛み締めるから、だんだん食べるのに疲れてきた
最後の一口をちょうど食べ終わり、容器をゴミ箱に放り込む
残りの一つは冷蔵庫に入れて、身支度を整える
シャワーを浴びたり歯を磨いた後、ようやくベッドに入る
(……)
…うとうととしつつも、少しして目覚ましのやかましい音に脳が叩き起こされる
ろくに眠れなかった事への後悔を抱えつつ、牛丼を冷蔵庫から出す
(…はぁ……なんでこれを朝ごはんにしようと思ったのかしら)
まだ牛丼を消化しきれていない胃を意識する
「……あ」
ふと、思いついた、今日のお昼は給食部にいけばいい、今これをサッと食べる方法…
フライパンを熱し、熱くなったところに、牛丼をひっくり返す
ジュウゥゥゥッと牛の脂やつゆがフライパンに焼かれて良い音を鳴らす
「……意外と、いけそうね」
温まり、柔らかくなったら箸でほぐして米と一緒に炒め合わせる
汁気が飛んできたら紅生姜をあけてもう少し炒める、そしてそれを牛丼の容器に戻す、牛丼焼飯…
「……いただきます…」
チャーハンのようにほぐれたそれをスプーンで掬って食べる
「…美味しい…!」
想定外だった、ここまで食べやすいとは
牛丼の味だけど、香ばしくて美味しい
「はむ…うん…」
牛肉も存在感がある、ぎゅっぎゅっと噛み締めながら食べる
玉ねぎは食感がとろりとしたより柔らかなものになっていて、食べる時に邪魔にならない
紅生姜も良い、ところどころでアクセントになる、コレは美味しい…
あの冷めた牛丼が不協和音を楽しむ為だったのに対してこれは一体感を楽しむためのものだ
「あむ…あぐ…」
いつの間にか食べ切ってしまった、やや脂っこさはあるがこれは…
(また近いうちにやろう…)
満腹感と眠気に襲われながら、身なりを整えて登校した
「ヒナ委員長!おはようございます!」
「…元気ね、アコ、どうしたの?」
「昨日、牛丼が食べたいとおっしゃっていましたので、こちら買ってきました!」
ドン、と置かれた牛丼を見る…胸焼けがしてきた
「……自分で食べてなさい」
「え、ええ!?」
フウカに連絡して昼はサッパリしたものを頼んだ