ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「…はぁ……」
ポツリ、一つため息が響く、そしてそのため息を聞いて顔を歪ませるのは風紀委員の保険担当のチナツ
「もう5回めですよ、行政官」
「…じゃあ何かいい案を出してください、私だってため息なんかつきたくありません…」
(知りませんよ…だって、アコ行政官のコーヒーが不味いのは事実ですし…)
「…どうにかして、ヒナ委員長に満足してもらえるコーヒーを…」
「はぁ…イオリについて行けば良かった」
事の発端は最近の委員長が見せる、食へのこだわりだった
特に救急医学部のセナ部長とたまに喫茶店でミーティングをしているらしい
そこのコーヒーを飲むようになったからか、私のコーヒーを飲む量が激減したのだ
反応も悪い、目の前で飲んで顔をしかめられた時は流石に傷ついた…
「…行政官、正直に言っていいですか?」
「その前置きの意味がわかりませんが」
「何を言っても怒りませんか?」
「……ええ」
「…行政官のコーヒー、苦いわりに味が薄くて、香りも弱いのがよくないのかと」
「…どういう意味ですか、それは…まるで聞いてるとどうしようもなく不味いみたいな…」
「はい」
「……」
「その…こだわりがあるのはわかりますが、ハンドドリップはやめては…?」
「そ、それじゃあ私が淹れなくても同じじゃないですか!」
「……なら、せめて独学で淹れるのはやめませんか…?」
「ちゃ、ちゃんと淹れ方の本くらいは読んでます!」
「…そうですか」
(じゃあ、不器用なだけでしょうか…)
チナツが露骨に困った様子でため息をつく
「…その、改善したいのであれば、せめて何かを変えることは受け入れていただけると…何も変えずに味が良くなることはないと思います」
「くっ……!」
それは、正直何も言えないほどその通りなのだが、それでもこだわりは変えたくない
「とりあえず、苦いのは許容できるので味が薄っぺらいのだけはなんとかしましょう」
「…どうしろと?」
「…よく蒸らしながら少量ずつ淹れるしかないかと、のの字を書くように、とはよく言いますが、1度フィルターにかけてしまうと途端においしくなくなるそうです」
「それで…?」
「真ん中に少しずつ注いで待つを繰り返せばそんなに薄くなることは無いようですよ」
「…うーん…」
「それから、苦いコーヒーにはこういうのはどうですか?行政官も得意ですよね?」
「……なるほど」
「……ふぅ…お腹すいた」
昼食からしばらくした頃、そろそろ一息入れてもいいだろう
(……いつもならアコがコーヒーを持ってきてくれる頃だけど)
決して美味しいものでは無いけど、無いとなると少し寂しいものがある
ガチャリ、扉が開く
「失礼します、委員長、コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう、そこに置いて…?」
デスクに置かれたのは、コーヒーと…
(ドーナツ?…珍しいわね、誰かからの差し入れ?)
そう思いながらコーヒーを口に含む
「…っ!?」
苦い、いつものコーヒーより苦い上に濃い…だけど
(…いつもより美味しい…これ、アコが淹れたの?)
味がハッキリしていて飲んでいても不味いとは思わない…これなら悪くない…
続けてドーナツに手をつける
「はむ……うん、美味しい…これ、どこの?」
「え、ええと…その、私が…」
「……え?」
…コーヒーもドーナツもアコが?
「そう…ありがとう、美味しいわ」
「!」
アコが大きく目を見開き、後ろを向いてガッツポーズをする
少ししてこちらへと向き直り、にこやかに
「良かったです」
と言って部屋を出て行った
「……はむ」
粉砂糖しかかかっていない、プレーンなドーナツだけど、小麦とバターが香り高くて、結構甘い
コーヒーもガツンと苦い上に濃厚なので甘いドーナツとの相性がいい…
「うん…これは、良いわね」
ずず…パクパク…ずず…ものの数分で空になったカップを寂しく思いながら、仕事を再開した
「チナツ!大成功でしたよ!」
「良かったですね、アコ行政官」
「…今日のアコちゃん機嫌良いね?何かあった?」