ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「入るわよ」
「いらっしゃい、今日は遅かったのね」
「ええ、なかなか終わらなくて」
時刻は19時、既に食堂はとっくに終わっている
だけど私だけは食事ができる、正確にはフウカとジュリもだけど…でも、姿が見えない
「…ジュリは?」
「用事があるみたいだから先に食べて帰っちゃった」
「そう、それじゃあ私たちも早く食べましょう」
「そうね」
今日のメニューはなんだろう、そう思った途端わかった、この特徴的な香り
「カレー?」
「そう、とっておきのカレー」
「ふうん……」
カレーというだけで既に嬉しい、しばらく食べてない、ご飯とカレー、そしてサイドに置かれたらっきょう
見た目はいたって普通のカレーライス、これがどうとっておきなのか…
「ヒナは食堂のカレーは食べたことある?」
「…ないけど」
「実は今日のカレーはみんなに提供したものと同じなの」
「……そうなの?」
意外な話だ、とっておきをみんなに…?普段のフウカらしくない
(まあ、でも美味しいものを食べて欲しいって気持ちなのかしら)
「いただきます」
一口スプーンですくい、口に運ぶ
「……うん」
普通…?…いや、でも確かに美味しいような…だけど特別な味ではないような
味は辛さは強くない、野菜の味わいもあって甘味も感じられる、だけどスパイスの香りもコクもある
お米もいつもの食事よりなんだかハッキリとした食感があり、しっかりと甘味も感じられる
「……ふむ…」
食べ進めると、だんだん理解できてきた、これがとっておきな理由…
「大量調理がいい方向に作用することもあるのね」
「限度はあるけどね、薄くならないようにたくさん野菜もスパイスも使ったから」
(…なるほど)
野菜は溶けるほど煮込まれているが、よく見るとこれは…
「あの野菜を使ったのね」
ネギの根っこや玉ねぎの芯、にんじんのヘタや先端などを使っているのだろう
普通ならクズと呼ばれて捨てられる野菜をふんだんに使っている、だがそれを感じさせないほどのこの味だ
だけど、でもそれだけじゃない、この旨みは…
入っている食材をもう一度確認する、そうだ、これだ
「鶏ガラを出汁に?」
「うーん、半分正解」
「…?」
「多分、チキンベースのことを言ってるんでしょ?それは正解だけど、この味を出すのに使ったのは鶏の骨だけじゃないの」
「チキンベース?…えっと、すごくコクのあって美味しいカレーだけど…」
「その旨味の素は、他にもあるの」
旨味の素が鶏肉だけではない、なるほど、他に何か特別な隠し味が…
「内臓よ」
「内臓?」
「普段捨てるものだけど、丸鳥を仕入れるとどうしてもついてくる骨、内臓を使ってるの」
「…どうやって?」
「レバーペーストって聞いたことない?よく叩いて、じっくり炒めてトマトと煮込んだの、コクを演出してくれるでしょ?」
なるほど、そんなに手間をかけて作っているのかと思わず感心してしまう
このコクはカレーの味が飽きない理由の一つだ
若干の苦味があるものの、奥深い味わいになることで噛み締めるほど深い味に到達する
(…美味しい…これは、とっておきというだけはある…)
少しらっきょうを摘む、ポリ…今までにない強い食感、そして口の中の味がリセットされる感覚
(うん、良いわね、酸味もあるし、口がさっぱりする)
カレーだけでも食べ飽きないのにこのらっきょうが憎いほど良い仕事をする
「…美味しいわ」
「でしょ?」
ニッと笑うフウカに白旗を上げつつ、カレーを完食した
唯一欠点があるとすれば、お腹いっぱいになって眠くなることくらいだろう
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま…あ、そうだヒナ、言いにくいんだけど…」
「?」
「……実は、その、意外と食べてくれる人が少なくて…しばらく夜食で消化するの手伝ってくれない?」
そう言ってフウカに見せられたのは冷凍された大量のカレー…
「……」
思わず空いた口が塞がらないほどの量だったが、まあ、このカレーなら…
そう思った自分が後悔する日は近いだろう
あまりにも多すぎるという欠点をもう一つ追加した