ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第20話

「…さてと…行かなきゃ」

今日はシャーレに呼び出しを受けている、戦闘などでは無く、簡単な要件だということで、リラックスした気持ちだ

シャーレからの呼び出しだと言えば万魔殿も口を閉ざすし、周りの理解もある、そして先生に会える、それが嬉しい

「……メイク、大丈夫かな」

リラックスと言いつつ、何処か焦る気持ちを抑え、準備を済ませてシャーレに向かう

 

「え?」

「あ…!」

…これは、流石に想定外だった…シャーレに来て最初に会うのが部外者か…

「桐藤ナギサ……なんで、ここに…どういう事、先生…?」

“あはは、えっと…”

「げほっ!?けほっ!ゴホッ!」

“な、ナギサ!?”

「す、すみません、取り乱してしまい…ヒナさん、私が先生にあなたを呼び出していただいたんです」

「……そう」

落胆、そして諦め…これ程ショックを受けるのは久しぶりだけど、さっさと気持ちを切り替えよう

「それで、何の用なの?」

「お忙しいところに呼び立てて申し訳なく思っています、ですが…今日お呼びしたのは、本当に私的な理由です」

「…私的な理由…」

ティーパーティー、トリニティの生徒会としてでは無い理由…?そもそもそれを真に受ける?

…ありえない、私も向こうもそれなりの立場がある、それなのに…

“ヒナ、ナギサはね、友達としてお茶会がしたいだけなんだ”

「…え?」

「先生…!助け舟を出してくださるのはありがたいですが、今回は…」

“ごめんね、なんだかヒナが勘違いしてるみたいだったから”

(友達として、お茶会…?)

思わず言葉を失ってしまった、意味がわからない、特に親交もない、数度業務の話をした程度の間…

「…何かの間違いじゃ…?」

「いいえ、ヒナさんのお気持ちもよく理解できます、ですが…」

何かをためらうような素振りをした後、強く発する

「私はヒナさんを人として好意的に捉えています、できれば友人になりたいと思っています」

きょとん、として固まる…まるで時が止まったような感覚…

「……え?」

“ヒナとお茶会がしたくて今日は来てくれたんだって”

「……そう、なの…?」

「…はい」

…確かに桐藤ナギサに悪感情はないけど、トリニティの生徒がゲヘナと友達になんて、聞いたこともない…

“とりあえず、お茶会してみない?”

「……いいけど」

「すぐに用意しますね」

 

並べられたお茶会のセットは以前までのお茶会とはやや違う気がする

(…これは、フルーツだらけ…?)

メロンにリンゴにオレンジ…以前までのサンドイッチや色鮮やかなケーキの数々はどこへ…?

(正直、今食事を出されても困ったけど)

時刻は14時、食事から少し経っているものの、今はまだ空腹には遠い

(軽いフルーツなら全然良いわね…)

少しして、「さあ」と桐藤ナギサに席に案内され座る、フルーツを切り分ける用の木製の台と大型のナイフが目を引く

“こういうのは少しナギサらしくないね”

つい、先生の踏み込んだ発言に驚いてしまうが…まあ、確かに上品なトリニティのイメージからは外れる

「そうですね、ですが、こういうのもやってみたかったのです」

(やってみたい、か…)

自分のやりたいことをやる、なんて…しばらくできていない、その自由さが少し羨ましい

「それでは…」

桐藤ナギサは台の前に立ち、ナイフを手に取る

「まずは、何にしましょうか?」

まるでオープンキッチンのお店の様、だけどこれはお茶会だと言っていた、一体何がしたいのか

“うーん、じゃあ、オレンジを切ってくれる?”

「わかりました」

桐藤ナギサがオレンジを手に取る、そしてナイフでヘタの周りに刃を滑らせて皿に置き、1人一つ差し出される

(……?)

“…えっと…?”

「どうぞ、召し上がってください」

そう言って紅茶を注ぎ始める、これは…どう言う意味なのだろうか、嫌がらせではないはずだが…

オレンジをよく見つめると、ナイフでなぞったあたりに切れ目があった

「…なるほど、おもしろいわね」

パカリと外れる…中には白いクリームとブラウニー、それから切り分けられたオレンジの果肉

なるほど、これはオレンジを容器にした小さなパフェの様なものか

中にスプーンを滑り込ませ、ブラウニーとクリームを掬いあげる、チョコレートとオレンジの香りがとても良い

「はむ……うん、おいしいわ」

濃厚なブラウニーに意外とあっさりとした生クリーム、優しい味わいにオレンジの酸味が引き締める様で…

(…これは、ナッツ?)

ふと、カリカリとした歯応え、そしてブラウニーの強い香ばしさ…

歯応え、味わい、どちらも掬った箇所で変化する

“すごく美味しいよ!”

「ありがとうございます、喜んでいただけて嬉しいです」

2人が話している間にオレンジの中身が空になってしまった…

紅茶を口に含むことで口寂しさを紛らわせながら時間を潰す

「ヒナさん、次は何にしますか?」

「……」

考え込む、この流れならメロンも?…だとするとそれは楽しみだ、だけど…

「リンゴを」

真っ赤なリンゴが皿に乗ったまま、そのまま差し出される

(…これも既に切って…?…いや、違う)

真っ赤で、艶やかなその表面はまるで鏡の様…だけど、普通のリンゴはここまで美しい赤じゃない

ナイフを押し当てると、その重みのままに沈み込み、中から柔らかなりんごの香り…

「これは、飴細工?」

「正解です、りんご飴の様なイメージで作って見ました」

りんごに見立てられたそれを切り崩し、ひとかけらを口に運ぶ

パリッ…サクッ…強い食感でありながら、噛むたびに何か、何か違う…これは…

「…アップルパイ?……パイを飴で包んだのね…」

アップルパイと言えば甘ったるく煮込まれたリンゴや、カスタードなどのソースが使われている印象をもつ

なのにこれは…それほどの甘さを感じない、煮詰められたリンゴも、パイ生地からも…むしろ外の飴の方が甘い

リンゴの底には様々な香りをよく吸ったクッキーが隠されていたが、こちらは水分でふやけていたが…

(甘さが足される感じで、良いわね)

ふやけたクッキーがほぐれて柔らかく甘さを足してくれる

“…あ、これミルクを入れた紅茶にすごく合う…!”

「…そうなの」

紅茶にミルクと砂糖を注いで混ぜ、口に含む

(……ああ、こういう…)

これは美味しい、リンゴからはシナモンの強い香りがする、それはミルクティーを合わせる事を前提に作られている

「だから甘さ控えめなのね…」

「ふふっ」

きっと、桐藤ナギサは今、クイズを出しているつもりなのだろう…

美味しい食べ方を探して欲しい、そんな、こちらの行動を楽しむ様な、イタズラ心の様なものを感じる

「そろそろ、こちらはどうですか?」

“うん、お願い”

桐藤ナギサはメロンのヘタを蓋の様に外し、包丁で切り分ける

「えっ」

てっきり、最初のオレンジ同様、まるままパフェのように食べるのかと思っていた、だが切られたメロンは…

“これは、ケーキ?”

くし切りにされたメロンの本来果肉がある部分には、クリームやスポンジケーキ、フルーツ…

少し掬い上げて口に運ぶ

「…!」

わかっていた、わかっていた事だ…だが、これは、卑怯だ…

(美味しい…生クリームにも、スポンジにも、メロンの香りが強く移っていて…果肉なんて少ししか入ってないのに…)

メロンの存在感が強い、だけど決して下品ではない、クリームもスポンジも柔らかで、まとまりがある

「…別のスイーツに例えるのも変だけど、ティラミスの様ね」

「なるほど、それも確かに正解かもしれません」

「え?」

「実は、そのクリームにはリコッタチーズを混ぜてあります、ただのクリームよりもしっかりした食感を感じられます」

なるほど、だからメロンの水分にやられる事なく、しっかりとした存在感を…

「それに、スポンジケーキにもメロンの果汁を軽く含ませました、コーヒーをクッキーに含ませるティラミスに似ているかもしれません」

改めて口に含む、そこまで言われるとこの食味はティラミスに近いものを感じる

「…美味しいわ」

「良かったです」

来た時は色々と考えていたものだけど、友達としてこんな場に招待されるのなら、悪くはないのだろう

「…ふふ」

 

 

「もしもし先生?次のお茶会だけど…うん、わかってる、でも早く現実逃避したいの…」

仕事でのストレスが溜まりやすくなった

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