ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

23 / 93
第23話

「……どうしてこうなったのかしら」

「さあ、わかりません」

「いいではありませんか、せっかくの機会です」

「……」

今日はセナとミーティングのはずだった、そこに委員会の部屋の扉を開け、堂々と入ってきたのはこの黒舘ハルナ

当然アコやイオリたちは追い返そうとしていたのだが、正直今は指名手配も何もしていない

他の委員達が固唾を飲んで見守る中、提案されたランチ、そして承諾する空腹の私

阿鼻叫喚の部屋を後に、3人でやってきたのはファミリーレストラン

理性が帰ってきた頃にはすでに手遅れで、私たちは既に席についた後、ここから帰るなんて冗談じゃない

「で、どうしてファミレスなの?」

正直ハルナのセレクトとしては有り得ない、高級店ばかり食べ歩くものかと…

「私達美食研究会は大衆料理のお店も好んで食べ歩きます、しかしここは、その中でも一際美味しい」

「…安いイタリアンのお店では?来たことはありませんが」

…そう、ここは安くて美味しいで有名なチェーン店、美食研究会が絶対選ばないと思っていたジャンルなのに…

「まあいいわ、適当に頼みましょう」

「では私はこの青豆のサラダとラムの串を」

「モバイルオーダーらしいから好きに頼みなさい」

「ヒナさん、せっかくなのでオススメを食べてくださいますか?」

「…オススメ?」

「エスカルゴです」

思わずウェッと顔を歪めてしまった…そんな私をニコニコに眺めながら、ハルナはスマホで注文を済ませる

「……自分の分は自分で頼むわ」

パスタとピザ、ドリンクバーを注文し、セナと本来の予定通りミーティングをする

 

 

「そういえば」

セナがミーティングの途中で口を開く

「エスカルゴとは?」

「カタツムリを焼いた料理のことです、非常に美味しいですよ」

そう言ってにこやかに笑うハルナ、冷ややかな目で見る私

カタツムリが美味しく食べられると言われても…到底信じられない

一応高級店では珍味として食べられるらしいけど、ここで出されるエスカルゴは値段も決して高くない

物珍しさから頼む客が痛い目を見るのがオチだろう

「来ましたか」

「おや…」

…最初に来たのはセナの注文だった、茹でられた青豆の上に温泉卵、そして肉の串、ポテトにソーセージ、生ハム…

「……頼みすぎじゃない?」

「好きに頼めと言われたので」

…言った、確かに言ったけど、こうなるとは思わなかった

「せっかくですので、皆さんで」

「……いただきます」

「いただきます」

スプーンで青豆を掬い、口に運ぶ

「……おいしい」

意外だった、味付けはほとんどない、だけど青臭さも殆どなく、柔らかな風味、そして甘み…

温泉卵を崩すとまたいい、潰れた豆がねっとりと、それに絡む卵…黒胡椒を削ると最高の一品になる

「やはりこれは美味しいですね」

「…栄養価を優先したつもりでしたが、これならし……入院患者の間でも受け入れられそうです」

次に口に運ぶのは、生ハム

「……ふむ」

生ハムは独特の香りがある、そして強烈な塩気もある…だけど…

「これは、なんでしょう、不思議な味わいです」

「この生ハムは普通のお店の生ハムとは違います、このお値段でありながら、しっかりと追求された味わい」

そう、脂が甘く、口溶けも良い、生ハムとしての旨味がしっかりと感じられる

(パンが欲しい…)

さて、と次は肉の串を手に取る、これは羊肉、鳥でも牛でも豚でもない…

「はむ…ふむ」

「……なるほど」

旨味が強く、弾力もある、この歯応えは牛や豚では味わえない…だけど淡白な…

「おや、そのまま食べたのですね」

「…味がついてるのかと思ったけど」

「そのままではいけません、そこのスパイスをつけて召し上がってください」

ハルナに言われた通り、紙のカップに入ったスパイスを少しかけて口に運ぶ

「……これはいいわね」

このスパイスは秀逸、塩気はありながらエスニックを感じる香り…

「なるほど、これは美味しいですね」

「ええ、あまりの人気ぶりに入荷が間に合わず、目当てに来ても食べられないこともあるほどでした」

「…これ、ポテトにも合うわね」

「流石です、では、この皿に滲んだ脂と軽く和えて…召し上がれ」

サイコロ状に切られたポテトを串の乗っていた皿に移す、そして余ったスパイスをかけ、和える

肉の脂とスパイスが絡んだポテトを口に運ぶと…

「……美味しいわ」

「このポテト、フライにはしていませんね、油分が少なくてヘルシーです」

…美味しい、

「どうでしょうヒナさん、私はこのお店の美味しい食べ方を熟知しているつもりです、そんな私のオススメ、興味はありませんか?」

(…ごくり)

 

確かにハルナがオススメとまで言う料理、気になるのは間違いない

…いや、たとえ食べても死ぬわけではないのだから、ここで試さないのは……

ごとり、と皿が置かれる

「エスカルゴ 、そしてプチフォッカチオです、どちらも熱いので、火傷に気をつけてください」

「……焼きたてなのね」

パンを小皿に取り、半分に割る、蒸気から甘い香りが漂う…良いパンだ

肝心のエスカルゴはというと、円盤状の器に6つの窪みが空いている

その窪みの中にはオイルと刻まれた野菜、そしてカタツムリが入っているらしい

「……」

覚悟を決めてスプーンで一つ取り出してみると…

「…意外と、ただの貝みたい」

アサリなどとは違う、どちらかといえばアワビのような岸壁に張り付くタイプの貝に見える

「陸生の貝、と言う意味では確かに正しいですね」

そう言いながらセナが一つパンに挟み、迷いなく口に運ぶ

「……これは、美味しいです」

「……はむ…へぇ」

食感は決して硬くない、むしろ柔らかいし、パンの邪魔にならない

香りはクセがあるような気もする、だけど…

(オイルの香りが強いし、刻まれた野菜も臭みを消してるのね…)

バターとオリーブ油を混ぜてあるのだろうか、どちらの気配もする、そのうえ刻まれた野菜の旨みまで溶け出している

オイルをすくい、パンにかけて食べるとこれまた絶品だ

「いかがですか?」

「……確かに美味しいわ、完敗ね」

皿に残った野菜とオイルをパンで拭い、エスカルゴを乗せて口に運ぶ

なんて贅沢なのだろうか、カタツムリといって敬遠していたことがバカらしくなる味だ

「美味しい…」

 

「ところで、ヒナさん」

「何?」

「そろそろメインが来ますが」

…忘れていた、自分で注文しておきながら

確かにお腹は少し余裕を残している、自分で頼んだくらいならなんとかいけるはず…確か頼んだのは…

イカスミのパスタにピザ、だけのはずだったのに

「2人とも、それは何?」

「1番人気の名物です」

「らしいので、頼んでみました」

(グラタン…?)

確かに美味しそう、ピザとパスタをシェアし、少し分けてもらうことを提案し、快諾される

「…金色のご飯が入ってる?」

「これはミラノ風ドリアです」

「ミラノ、風…?なにそれは」

「…さあ…そういえばあまり気にしていませんでした、調べておきます」

「ミラノというのは地名でしょうか」

「聞いたことないわね」

冷める前にドリアを口に運ぶ

「はふっ……うん…おいしい」

「ええ、やはりこれが最高ですね」

優しい味、ホワイトソースのまろやかな甘味とミートソースの旨味、そしてそれに包まれたご飯の食感がいい

(ご飯には特に味はついてないのね…)

ホワイトソースとミートソース、そして黄金色のご飯だけ…他に具はなく、シンプル

(…これは…美味しい)

いつの間にか分けてもらったドリアがなくなってしまった、これなら自分でもう一つ頼んで食べたいくらいだ

「…イカスミのパスタというくらいですからもっと真っ黒なのかと」

「少し前まではそうでしたが、今は違うようですね」

パスタをフォークで巻き、焼かれたイカを絡めて食べる

「もむもむ……うん、美味しい」

麺に染み込んだ旨味が噛むたびに溢れる、イカのプチプチとした食感もいい…

「美味しかったですね」

「ええ、どうですか?ヒナさん」

「……よかったわ」

勝ち誇った笑みを浮かべるハルナにムカついたけど、ここは一旦矛を収めておくことにする

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。