ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「……月見そばが食べたい」
ふと、そう思った…そうだ、今日のお昼は月見そばにしよう
思い立ったが吉日、フウカにモモトークで“特別”を依頼し、了承される
甘辛いつゆに沈められた蕎麦、あれはいい、しっかりとした歯応えがある
他の麺とは違ってざらつき、独特の風味があるが、それがいい…
(…そうと決まれば…)
書類仕事をさっさと片付けよう、少し早めのランチ、たまには悪くない…これさえ終われば…
「委員長!」
怒鳴り声と荒々しく開けられるドア、何かと思えば焦った様子のアコ…
「温泉開発部が…!」
「…わかったわ」
…鬼怒川カスミ以下75名を撃破したものの、時刻は既に14時
フウカに連絡を取るも既に来週の食材の買い付けに出た後だという
(…月見そば……)
ここで適当に食べて濁す選択肢もなくはない
アコも気遣ってコーヒーにお茶菓子をつけてくれている
(…でも)
今日の気分は月見そばなのだ、このお菓子で空腹は満たせるだろうが心は満たせない
(…はぁ……とりあえず、夜までは持たせないと…)
そう思ってお菓子に手を…
ドッカァァァン!!と、爆発音と大きな揺れ、温泉開発部は制圧したのに…
「…今度は何」
「委員長!学園内に来てた屋台が美食研究会に!」
「ふぅん…あ」
手が空を切り、そちらを見る
お菓子の載っていた皿が…地面に…
「…命知らずも居たものね」
果たしてそれは屋台の主人か美食研究会か、この日の風紀委員長を見たゲヘナ生は大層震え上がったらしい
一緒に交戦したイオリ曰く
追いかけられた美食研究会はいつもの三倍増しの必死さで逃げ
それを追う委員長は十倍怖かったそうな…
「……はぁ…」
美食研究会が潰れた空き缶よりも酷い有様になったのは月が空高く登ってから
流石のフウカももう帰宅している
「……お腹、すいた…」
もうこうなってはなんでもいい、そう思いカップ麺を漁る
「あ…!」
見つけた、カップそば…
こうなっては、やむを得ない、即座に食堂に向かい卵を拝借して戻ってくる
粉末スープとかやくをあけ、卵を割り落とし、熱湯を注いで蓋を閉じ、3分…!
(…はあ…今日は疲れた、ようやく…)
コンコンコン、ノックの音に体が飛び跳ねる
まさか、また…?
「失礼します…おや、風紀委員長、居られましたか」
「…棗イロハ、何の用?」
良かった、最悪の展開だけは回避できそうだ…そう思ったのも束の間
「すみません、先日風紀委員会に送った書類、今すぐにもらってくるようにと言われまして」
「っ……」
頭がぐらつく、どれのことを言っているのか確認すると、丁度今朝進めていた書類らしい
白紙でないだけまだマシだと自分を納得させて書き上げる
「ありがとうございます、それでは」
「ええ……あ」
…気づけば既に10分以上が経過していた
蓋を開けば伸び切ったそば…卵も表面まで火が通って真っ白だ、月見そばとはなんだったか
「…はぁ…いただきます…」
箸で持ち上げた麺が嫌に重い
「ずるる……うん」
…これは…
存外悪くない
つゆの味が移った麺がいい、伸び切っているせいで舌で押し潰せる程柔らかい
普段なら食べたくないが、弱り切った体に優しいのだろう
卵に箸を刺すと、黄身がドロリと垂れる
それに麺を絡めて食べる…これが良い
「ずるる…ずるっ…ふぅ」
…今日はすごく疲れた
つゆまで飲み干して、ひと休み
(…まだ、仕事、残ってる…)
その日は帰りがいつもより遅かった