ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「……」
「そんな顔で見ないでください、私も困ってるんです」
「そうね」
二つのため息が部屋に響く
「棗イロハ、あなたも苦労するわね」
「……まあ、お互い様ということで」
イロハに書類を渡し、ようやく仕事が終わる
万魔殿も仕事の期日をコロコロ変えないでほしい、こちらとしても、ストレスが溜まる
(…はぁ……おかげで朝から何も食べられてない…)
「…これ、食べますか?」
「カロリーバー?…へえ、どうしたの?」
「いえ、事情を知っている側としても、多少悪いなと思う位は」
「……そう、ありがたくいただくわ」
カロリーバーを受け取り、イロハを見送る、ガチャリ、扉が開いたあたりで…
「…なんですか、この匂い」
イロハがチラリとこちらを見る
「……知らない」
特に報告は聞いていない、でも、この刺激的な匂い…
カロリーバーをデスクに置き、イロハと一緒に部屋を出て匂いを辿る
(…この匂い、すごく、スパイシーね…)
匂いを辿ると、賑やかな声も聞こえる
チラリと窓の外を見ると…
「あ」
「…アレですか、ふむ…良いですね、混ざりましょうか」
「…良いのかしら」
「良いんじゃないですか?風紀委員会の集まりみたいですし」
そう、風紀委員会の集まりらしい、イオリにチナツまでいる
広場に出ると…
「あ、委員長!」
「お疲れ様です、そろそろ差し入れに行こうと思っていたのですが…」
「……何してるの?」
「えっ?あー…」
イオリが目を逸らして口ごもる
「…顔、怖いですよ」
「…威圧するつもりはないわ、単純に気になっただけ」
「今日はなんだか平和だったので、イオリの提案でみんなでランチ会を」
「へえ…で、それは?」
「た、タコス…」
「ほう…良いですね」
…どうやら、私以上に気になっていたらしいイロハが一歩イオリに近づく
「タコス…」
どうやら薄い生地に野菜と肉、ソースを挟んだだけの簡単なサンドイッチらしい、が…
(…凄く、良い匂い…)
スパイシーで、これは、たまらない
「…あー…委員長、食べる?」
「食べる」
そう言って差し出されたのはタコスと、串切りのレモンがグラスに刺さったコーラ
(…ふむ)
とりあえず、空腹を満たすためにタコスを一口…
「はむ……もぐ……うん…」
シャキシャキのレタスにオニオン、お肉はほろほろで油気が強い…生地は…これは、とうもろこしの香りがする…
(美味しいけど、特段良いってわけじゃないか…)
そのまま口に詰め込み、コーラをあおる
確かに肉の油気はキツかったけど、野菜があったからそこまでキツくなかった
コーラとレモンの相性も悪くないけど…
「うん、このサルサは絶品ですね」
「だろ?タバスコを馬鹿みたいに入れてあるんだ」
(タバスコ?)
…特に辛くなかったけど…いや、イロハの食べているタコスを見ると中の具材が違う
「…イオリ、それは?」
「あ、委員長もう食べ終わった?さっきのみたいに自分で組み合わせて食べて、そっちに具材もトルティーヤもあるから」
「……なるほど、そういう…」
他の委員たちが群がっていてわからなかったけど、確かにこっちにはチーズに野菜、お肉までいろいろある…
「お肉も種類があるのね……なら…」
生地にオニオンを乗せ、お肉を少し多めに取り、その上から1番近かった緑色のソースを乗せる
(バジル…じゃない、これは…?)
一口、これは…
「辛い…!…でも…」
さらに一口、辛いけど美味しい、十分噛み砕いたところにコーラをあおると心地よくタコスが押し流されていく
「…緑なのに辛いのね」
「それはパクチーやきゅうり、ピーマンを使ったソースですね、それにもタバスコが入っています」
「そう…はぐ…」
うん、これは美味しい、お肉が思ったより脂っこい…だからこそこのソースの刺激に合う
濃い味付けだからコーラもさっきと違って強すぎずに両者が引き立っている
「…次は…」
「このお肉、美味しいですよ、豚肉のコーラ煮らしいんですけど、こっちのトマトのソースと合わせると…」
「へえ…」
言われた通りに挟み、口に運ぶ
「あぐ…ん……うっ…辛…」
これまたソースが辛い、でも、さっきのもそうだけど、嫌ではない辛さ…
(…最初のは気を遣ってくれたのかしら)
最初に食べたのは特に辛さはなかった、でも、こうして食べてみると辛味のある方が…
「はぐ……うん…」
(トマトの酸味もあるけど、タバスコ自体の酸っぱさも効いてる…美味しい…!)
「ごくっ……ふぅ…」
「どう?委員長、辛いのが多いけど…」
「これくらいなら平気、美味しいわ」
「なら良かった!」
コーラを継ぎ足し、お肉と玉ねぎを挟む、あとはソースを…
「これも美味しいですよ」
「…青いレモン?」
未だ未熟な色のレモンをイロハが差し出してくる
とりあえずと思い、それをかけてかぶりつく
(…これは、レモンじゃない)
「ライムです、なかなか合うでしょう?」
レモンのようにサッパリするけど、この風味…お肉に合う
「これは、いいわね…」
ふと辺りを見渡すと、いつのまにか美食研究会や万魔殿のイブキやチアキまでいた
「あなたが呼んだの?」
「イブキたちは…もちろん許可は貰いましたよ、マコト先輩じゃなくてそっちのイオリさんに」
「そう、ならいいわ」
(つまり美食研究会は部外者って事ね……まあ、今はいいか)
いくつかタコスを作り、ソースをかける
「これ、持っていってやりなさい」
「…いいんですか?」
「ええ、後で小言を言われるの、嫌でしょう?」
「ありがとうございます…あ、チアキ、タバスコ取ってくれますか?」
(?)
イロハが一つのタコスにタバスコを執拗に振りかける
「では、ありがとうございました」
「……ストレス溜まってるのね」
「マコト先輩、お昼にどうですか?」
「…これは、サンドイッチか?…キキキッ、いい心掛けだなイロハ…あむ…」
(お、いきなり当たりを…)
「ふむ…旨い!」
「……チッ」