ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第35話

「しばらくぶりね、桐藤ナギサ」

「ええ、ご無沙汰しています」

ここはシャーレ、今日はお茶会、しかし改めて考えてもこの状況はかなり異質だろう

トリニティとゲヘナ、険悪な仲の両校の有力者が集まっている、集まれるという意味でも、このシャーレは有意義だ

「いつももらってばかりで悪いから、これ…人に用意させたものになるけど…」

「これはご丁寧にどうも、コーヒー豆…良いですね、では今日はこれをいただきましょうか」

“コーヒーミル出してくるね”

「ありがとうございます」

「…ミルまであるなんて、先生も多趣味ね」

「というより…もしかするとシャーレがそういう生徒も受け入れられる様な環境になる様にしてあるのかもしれません」

「…なるほど」

((……))

((いや、先生のことだからただの無駄遣いじゃ……?))

少しして手挽きのコーヒーミルを持った先生が戻ってくる

「本当になんでもあるわね」

“いやー、この前出かけてる時に目について…買っちゃった!”

「……」

「早速淹れましょうか」

「そうね」

“あ、あれ?”

 

ゴリゴリゴリ…コーヒー豆が砕かれていく音が心地よい

「良い香りですね」

「そうね」

“……”

どうやらすっかり小さくなってしまった先生を横目にコーヒー豆を挽き、談笑する

「そういえば、今日はコーヒーに合うものを用意したんです」

「へえ」

コーヒーに合う、ということは紅茶よりも、という事だろうか?より楽しみになってきた

「コーヒーを淹れる前に、完成させてしまいましょうか」

「そうね」

桐藤ナギサが取り出したのは…

「食パン?」

「はい、今日はこれを食べます」

(確かに食パンはコーヒー派だけど…)

一斤のほぼ真四角の食パンを半分に切り、そして断面に切り込みを入れる

「…まって、これそのまま食べるの?」

「はい、これを焼いて食べます」

「……」

食パンは嫌いじゃないけど…こんなに大量に食べたことはない…というか、こんなに食べるの…?

流石にバターや何かで味をつけるだろうけど…それでも割ときつい量だ…

切れ目を入れたパンをオーブンに押し込む

今度はこっちを待つ間に挽きたてのコーヒー粉をペーパーに入れ、お湯を回しかけて少しずつコーヒーを抽出する

「お上手なんですね」

「そう?」

コーヒーがフィルターを通してポットに溜まっていく

コーヒーの心地よい香り…そしてパンの甘い香りが部屋に充満する…

「そろそろいいかしら」

「はい、では…」

桐藤ナギサが冷蔵庫から取り出したのは…

「バニラアイス?」

「はい、それからハチミツ、これをかけて食べましょう」

皿に乗せられたトーストにはちみつをたっぷりかけ、バニラアイスにホイップクリーム、ベリーにミント…

「…綺麗……」

茶色くこんがりと焼けたパンが、あっという間に赤や緑、白色で飾られ、黄金の蜂蜜がそのカラフルさを引き立てている

「早速いただきましょう」

「そうね…いただきます」

“いただきます、ナギサ、これ写真撮ってもいい?”

「もちろんどうぞ」

「あ、私も…」

パシャリ、パシャリと何枚か写真を撮る

ややバニラアイスが溶け始めているのでサッサと切り上げ、ナイフとフォークでパンを切り分け、口に運ぶ

「はむ……うん…!」

これは、美味しい…パン自体が上等だ、小麦の香りが強くて、噛み締めるとパン自体の甘みがハッキリわかる

しかもパンにかけられたハチミツ、ただ甘さを足すのではなく、華やかな香りがする…

(ハチミツって、こんなに鮮やかな匂いがしたかしら…)

今度はパンの耳の部分を切り落としてバニラアイスを乗せて食べる

ザクッ…パンの耳の食感が良い、その上香ばしい…バニラの香りと相まってより香ばしさが引き立つ

バニラアイスもシンプルながらバニラがハッキリ強い…

「今日はどれも香りが強いのね」

「ええ、意図したわけではありませんでしたが…このコーヒーを良く引き立ててくれますね」

「ふむ…ずず」

コーヒーを口に含む、確かにこの深みのある香り、落ち着く香りにピッタリだ…

ガツンと苦味のあるコーヒーなのも甘いこのトーストによく合う

“このアイス、コーヒーによく合うよ、すごく美味しい”

「ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです」

やはりこれも作ったのだろうか、パンを切り分け、アイスを乗せ、ベリーも一緒に口に運ぶ

プチプチと潰れるベリーの酸味が口をサッパリさせてくれるおかげで食べ飽きない

(…これなら余裕ね、一斤でもいけたかも…)

「本当はこういうものはお茶会ではお出ししないのですが…」

「…そうなの?」

「はい、ティーパーティーがするお茶会はさまざまな政治的な意図を含みます、例えばこのハニートースト」

…これに政治的な意味?何があるのだろうか…

「あくまで、料理から何を読み取るかは相手次第です」

「ですがこれ一つで満腹になるようなものを出すのは、それ自体が早く帰って欲しいという意味を持つ事もあります」

「へえ…」

“うーん、お菓子ひとつで相手が勘違いしちゃうんじゃちょっと困るね”

「ええ、なので…私は、トリニティにいる時は友達と食べたいものを食べる事も、難しくて」

「……」

ゲヘナとは違う価値観、トリニティのそういう回りくどい部分を嫌う生徒は多い

でも、おそらくその回りくどさは桐藤ナギサの様に優しい生徒が生んだものなのだろう

本当は相手を不快にさせないためのマナー、それが時と共に攻撃の手段として…

「…なら、また誘って、このくらいならいくらでも付き合うわ」

「ありがとうございます…!」

“用意して欲しいものがあったら事前に教えてね”

「わかりました、先生もありがとうございます」

 

 

「……ねえアコ」

「はい、なんでしょう?」

「明日の万魔殿との会議、トリニティみたいにお茶会にしたら早く終わるかしら」

「…ええと…別に早くは終わらないと思いますが…」

「そうよね…はぁ……」

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