ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「……秋、終わったわね」
「え、ええ…?」
困惑したようなアコの相槌が響く
まあ、私も急にこんなこと言われたら困るだろうけど、もうめっきり冷え込んでいる…
(……秋の味覚、味わう前に時期が過ぎてしまったわね…楽しみにしてたのに…)
アレもこれもそれもどれも、積み上げられた書類のせい
「はぁ……秋刀魚…食べたかったな…」
「……!」
ふと声に出てしまったが、無い時間を削って食べに行った給食ですら出なかった
(給食といえば先週食べた鮭のホイル焼きは美味しかったな…)
アレが最後の秋の味覚と思うとやや寂しいが、諦めも肝心…
(あれ…)
…アコが居ない…いつの間に
(…まあいいか)
もう少しで仕事も終わる、何か少し、美味しいものでも食べに行こう…
「……ふう、こんなところかしら」
仕事を片付け、大きくため息をつく
これでようやく時間が取れる、待ちに待った食事の時間を…
「…何食べようかな」
食べたいものを考えながら携帯を操作していると…
「委員長!お待たせしました!」
「…何、アコ」
…アコが張り切って私を呼んでいる、悪いけどこう言う時のアコには悪い印象しかない
(また面倒が起きないと良いけど…)
「委員長が食べたがっていた秋刀魚を入手しました!よく脂の乗った秋刀魚を選びました、よければ…!」
…今思った事は間違いだった、アコほど優秀な行政官は居ない
「すぐに行くわ」
…前言撤回、やはり張り切っている時のアコは信用してはいけない
(…秋刀魚は、秋刀魚だけど…)
秋刀魚を食べたいと言ったのは私だし、秋刀魚が並んでいるのは嬉しい
だけど、そうじゃない…私が食べたかった秋刀魚は、塩をまぶして丸まま焼き上げた塩焼き
でも並んでるのは…
「如何ですか委員長!」
「…あり、がとう…」
(竜田揚げ、刺身、なめろう、つみれ汁…)
きっとどれも美味しいんだろう、諦めも肝心だ、これを楽しむ方が幸せだ
「いただきます」
竜田揚げを箸で持ち上げ、口に運ぶ
「カリッ…はふ……うん…美味しい」
サクサクの衣、実はほろほろふわふわ、醤油と生姜ベースの味付けで、青魚独特の臭みも消されている
(うん、これはご飯が進む…)
次は、とお刺身を醤油につけて食べる
「…へえ」
表面に細かな切れ目を入れて醤油を弾かないようにしてある、細やかな気遣いだ
お刺身は脂も感じられるけど、やはりどこか淡白
(…気になったのは、これ)
なめろう、聞いた事はある、皿を舐めとりたくなるほど美味しいと言われる生魚を叩いて味噌や醤油と和えたもの
…簡単に作れるらしいけど
「はむ……あ…美味しい」
個人的にはお刺身として食べた時より好き
(ネットリと口に絡む…臭みも全然無いし、薬味が混ぜ込んであるのも良いわね、シャキシャキしてるのも良い)
「…ご飯に合うわね」
つみれ汁を口に含む
「……ふぅ」
これも秋刀魚のつみれを使ってるらしい…生姜と醤油が感じられる
(……生姜と醤油が多い…秋刀魚もこんなに沢山出されると…美味しいけど)
(…まあ、美味しいから良いか)
「ごちそうさま、美味しかったわ」
「良かったです!」
満足気なアコを見送り、ため息をひとつ
(…塩焼きも出して欲しかったな…)
やはり秋刀魚は塩焼きで食べたかったな…
「……仕方ないわね」
スーパーでやや高くなった秋刀魚を買う
家に帰ったら内臓を抜いて塩を塗りたくってフライパンで焼く
(…魚焼きコンロがないから仕方ないけど…でも、これは間違ってる気もする…)
両面しっかり火を通し、さらに乗せる
皮も中途半端に破れたりしてて、美味しそうとは言い難いけど…
(ゴクリ…)
身をほぐしながら食べる
「……うん、美味しい」
適当に用意した市販の漬物と、お湯で溶くだけのお味噌汁、それから白いご飯
「…はぁ……」
身を口に含むと塩味が濃いところと薄いところがある、そのバラつきが、好き
「ふふっ…はぁ…美味しかった」
…次の日、給食のメニューは秋刀魚の塩焼きだった