ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第4話

「……お腹が、すいたわね…」

“うん、そろそろ良い時間だね”

シャーレ、デジタル時計のAMがPMに切り替わって少しした頃

今朝から私は先生のお手伝いでシャーレに来ていた、仕事は順調、ほとんど終わり

でも、そろそろ電池が切れ始めた

“そろそろお昼ご飯にしようか”

「そうね……あ」

お弁当を取り出そうとして、気づく…無い、忘れてしまった

(…仕方ない、コンビニにでも…)

“ヒナ、もしかしてご飯がない?”

「…うん、だから買ってくる」

“それならさ…”

子供っぽい笑みを浮かべながら差し出されたチラシを見る

「…ピザ?」

“私の奢りだよ、どう?”

「……」

悩む必要のない申し出だ、だけど即答するのはやはり恥ずかしいのだ、少し迷うそぶりを見せてから

「じゃあ、ありがたく」

悩むフリをする間も、ずっと何を食べるか、それが考えれない程、私の口はピザに侵食されていた

適当に注文を済ませ、ぼんやりと届くのを待つ、先生と雑談をするも、どうしても事務的な話になってしまう

(…はぁ…)

せめてこんな時に女の子らしい話題の一つも出せない自分が嫌になる

それでも先生は笑顔を崩さず、にこやかに対応してくれるのだから…それが救いだ

しばらくしてピザが届く

(…小さかったかな)

私が頼んだのはSサイズにサイドメニューのセット、ピザはシンプルに店名を冠したノーマルなピザ

サイドはポテトとチキンナゲット、ベーシックで安いものを選んだ

「…先生はずいぶん頼んだのね」

“あはは、こういうのってついつい頼みすぎちゃうんだよね”

Mサイズのピザに単品のサイドが二つ、ドリンクもある

1人で食べ切れるのかという疑問はあるけど、先生だって成人男性、あのくらいは食べられるのだろう

「いただきます」

蓋を開けばトマトソースにサラミとチーズ、それから香草を乗せただけのピザ

簡素だけど、早く食べたくて仕方ない

4等分されたそれを一切れ持ち上げる、コマーシャルの様にチーズがたらりとはいかないけど…十分魅力的

「あむ」

一口、ソースが口いっぱいに広がる、塩気は控えめなのにややスパイスの強いこのソース、これは止まらなくなる

もむもむと口の中で噛み締めるとトマトと香草の爽やかさもありながら、刺激的

かつ、生地の小麦の香り、チーズの香りがやさしくまとまっている

「……美味しい…」

“うん、美味しいね”

このソースの味が消える前にポテトを口に放り込む……この選択は正しかった…!

おそらくそのまま食べても美味しいだろうが、この太めのポテトのまったりとした食感にソースが合う

そして口にへばりついたポテトをコーラで流し込む、口の中の油が炭酸で流れ落ち、キレを感じる

炭酸とはこういうときのためにあるのだ、これが良い

“ヒナ、良ければ一切れどう?”

「え?いいの?」

喜んでその申し出を受ける、先生が差し出したのは…

(これは…薄い…?)

そして、普通のカットの仕方ではない、縦横に、いわゆる格子状のカット

クラッカーの様なそれを持ち上げる、緑のソースにポテトやチーズ…

「…あむ」

カリッ…そう、この食感は普通のピザでは味わうことのない、これがクリスピー…

「…良い…」

薄く伸ばし焼き上げられた生地を噛み締める度、小気味良い音が鳴る

そしてこのソース、香草がふんだんに使われていて心地よい香りがする

それだけでなく、こちらのピザより塩気が強い、それもまた良い…だが、なにより

「このポテト、薄切りにしてあるのが良いわね…」

“ね!”

薄切りのポテトが載っているのが良い、カリカリと、しかし柔らかな食感もある

そう、このピザは私が先ほど口の中で作ったポテトとソースの組み合わせを少し変えたもの

で、ありながら、食べたときの感触は対照的にクリスピー…そして油のしつこさもやや薄い

(なるほど、これは…確かに一枚食べ切れる…)

“ヒナ、よかったらもっと食べてよ、実は私、一枚食べ切る自信がなくて”

「……そう?なら…こっちも食べて、先生」

“いいの?ありがとう!”

…流石先生、いつも負けてしまう…こちらの不快にならない様に、勧めてくれるのだから

(少なめに頼んだのに気を遣われたのね)

両方のピザを味わい、ここで手付かずのチキンナゲットに視線が落ちる

「……」

ゴクリ、生唾を飲み込み、チキンナゲットを拾い上げ、乗せる

そう、クリスピーな先生のピザに…そして、一口

カリッ…そして、ジワッ…このピザは悪く言えば淡白な側面がある、だけどチキンナゲットを乗せ、脂を足すと…

「!」

ドリンクを手に取る、ゴクゴクゴク…

口の中を洗い流す時に生まれるキレの良さ、私の直感は正しかった

(合うわね…)

“おお、これは良いね”

「……」

つい先生の前ではしたない食べ方をしたことに恥ずかしさを覚えつつ

先生も同じ様に食べて喜んでくれたことも嬉しい…

“うん、せっかくだし映画なんか見ない?”

「え、何?唐突に…」

先生は私の返事などお構いなしにたくさんのディスクの入った棚を漁る

“ヒナはどんな映画が好き?色々あるよ、シャークネード、シックスヘッドジョーズ、シャークネード2”

「サメばっかり…」

“ならブラッククローラーとか、マンイーター…”

「それは、何?」

“ワニ映画だね”

「……もっと他の映画はないの…?」

“例えばどんなのがいい?”

「…その、普通の、ラブコメ的な……」

“うん、じゃあそのジャンルにしようか”

…これはしてやられたのだろうか?そう思いつつも、悪くないなと感じ、そのまま映画とピザを楽しんだ

当番の仕事は残り少なかったので、軽く片付けた

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