ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「ご無沙汰しています、ヒナさん」
「そうね…しばらくぶりかしら」
…今日は、普段は足を運ぼうともしないトリニティに来ている
トリニティに行きたく無い理由は色々ある、けど…1番は私自身が悪目立ちするからに他ならないから
ゲヘナの、それも風紀委員長という肩書きはトリニティにおいては目立ちすぎる
……が、それを誤魔化すにはいい手段として
「…今日はよろしくお願いするわ……桐藤ナギサ」
「こちらこそ、では早速──」
「先日のゲヘナの生徒が──」
「風紀委員の活動範囲ではそこまでは──」
…本来、万魔殿とティーパーティー、もしくは正義実現委員会と風紀委員会で交流をもつべきなのだけれど
(まあ、この方が都合がいいのよね…マコト達は、トリニティと仲良くするつもりはないみたいだし)
もちろん、一度トリニティと治安を云々、協議をかんぬんとアコに打診させたけど…
『…何を寝ぼけたことを言っている?あんな薄気味悪い、何考えてるかわからない様な奴らと仲良くする意味などないだろう』
と珍しく真剣な顔で言い出したという、その上、対応をこちらに投げてきたのだ
(トリニティ、風紀委員会、どちらへの嫌がらせのつもりか知らないけど、構わないわ)
お陰で比較的円滑に不良生徒の受け渡しやらが進んでいるし…
「そろそろ、一息つきませんか?」
「そうね」
こちらにも“お楽しみ“がある
トポポポボ…
「どうぞ」
「ありがとう…良い香りね」
「ええ、最近紅茶のブレンドに凝ってまして…」
焼き菓子の様に香ばしくて甘い香り…一口飲む
(……渋っ!?)
「ふふ…香りからは想像できないほど、とても渋いんです」
「…貴方、性格悪いって言われたことない…?」
「まあ、たまに……」
(あ…本当に嫌そうな顔してる…)
「…ごめんなさい、傷つけるつもりはなかったのだけれど…」
「いえ…その、ミルクを入れると渋みがまろやかになって美味しいですよ」
ミルクを混ぜ溶かして飲む
(あ…香りが多少薄らいだけど、甘くて美味しい…)
「そういえば、最近イチゴが採れたんです」
「農場までやってるの?」
「ガーデニング程度ですよ」
(絶対こだわるタイプ…)
「そういえば、ゲヘナはまだ寒いのでしょうか」
「…まあ、最近は…そこまでかしら」
「そうですか…なら今日のメニューは少し不向きだったかもしれません」
「…?」
運ばれてきた軽食は…
(…何これ…パン?いや、形的には大きな餃子みたいだけど)
「温かいものを、と思いまして」
パンらしきものがナイフで半分に切り分けられる
(…この香りは…!)
フワリと香るこの…爽やかで、刺激的なハーブの香り、そして熱されたトマトの甘酸っぱい香り…
「…ピザ?」
「はい、ピザ生地でソースとチーズを包んで揚げたものです」
「へえ…」
皿に取り分けられたピザが目の前に置かれる、断面からソースとチーズがたらり…
湯気が食欲をそそる香りを運んでくる…さて…
(これ、どう食べるのかしら…ナイフとフォーク…?)
チラリと桐藤ナギサに視線を送ると…
(…手掴みなのね)
「ふー…ふー……かぷ…うん」
熱々のソースが外ザクザク、内側モチモチの生地と絡むと…これはやはりピザだ…美味しい
だけど、宅配ピザとは違う…あのチーズが多ければ多いほど美味しいという考え方は全くない
バランスを考えられた料理だ…
「…上品ね」
「そうですか?」
「サイズが大きかったわけじゃないけど、揚げ物なのに口がギトギトしないもの」
「なら、口直しは必要ないでしょうか」
「貰うわ」
桐藤ナギサは少し笑って、数枚のビスケットの入ったカゴを差し出してくる、添えられた小皿には…
(イチゴジャム?…ああ、収穫したイチゴ?)
「ビスケット自体はあまり甘くないので、ジャムと一緒にどうぞ」
「ありがとう」
ジャムを軽くディップし、口に運ぶ…パキッ
(固い…それに、あまり香りが強くない…?…なるほど、これは…)
紅茶を飲み、ふやかす様に咀嚼する
(…流石ですね、お招きして良かった…)
「……美味しいわ」
「ふふ…ありがとうございます」
紅茶を飲んだ途端、小麦の豊かな香りが口に広がってきた、それにこの紅茶とジャムの相性も悪くない
(…ジャムが紅茶の香りを邪魔しないのね、確かに特別美味しいイチゴではないみたいだけど…)
「良いイチゴジャムね、紅茶もビスケットも、どちらも引き立ててる」
「それはよかったです」
(ビスケット…最初は固すぎてビックリしたけど、紅茶と合わせるとちょうど良いわね…あ、もう無い)
スッとイチゴのショートケーキの乗った皿が差し出される
「…へえ…」
(これは、予想外…)
正直、ジャムを食べてあのイチゴは甘く無いと思った…だから、こんな風にイチゴそのものが美味しく無いと成立しないお菓子は出さないと思ったのに…
「確かに、このイチゴはそこまで甘くありません、ですが…別の部分において優れていますよ」
「…声に出てたかしら」
「顔に書いてましたよ」
「っ……」
恥ずかしさのあまり俯きながらフォークでケーキを切り崩し、口に運ぶ
「……美味しい…」
ケーキに挟み込まれたイチゴは、甘さよりも酸味が際立っている
なのに…クリームやスポンジ生地の甘さがあるから、それが嫌じゃ無い…むしろさっぱりと食べやすい…
「…イチゴのケーキって、てっきり甘いイチゴが主役だと思ってたけど…これは、凄いわね…」
クリームの上に乗せられたイチゴをフォークで持ち上げ、口に運ぶ
「……あれ?甘い…」
このイチゴだけ甘い、トッピング用だから?
それにしたって、甘いイチゴだけを見分けてトッピングしたのか、それとも特別にそれ用のイチゴを用意したのか…
「砂糖を塗して寝かせたんです」
「……冗談?」
「いえ、砂糖が浸透して甘くなるんです、その代わり、少し置きすぎたりするとグズグズになってしまいますが…」
「砂糖を塗すだけでこんなに甘くなるのね…」
「そういえば、ゲヘナにパンケーキのお店ができたらしいですね」
「…私はそういう話は疎いの」
「そうなんですか」
「……ええ、私は何も知らないわ」
「…は、はい…?」
「…私も、あのお店行きたかったのに…」