ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第62話

(ピロリン♪)

風紀委員会の部屋に通知音が一つ、部員の注目がこちらに集まる、鳴ったのは私の携帯か…

やや面倒に感じながら携帯を取り出し、確認する

「……モモトーク?……この差出人は…なんの用で…?」

[風紀委員長ひとつ、はやめで]

「は??」

…自分でも驚く程、低く、冷めた声が出た、ふと、周囲を見渡すと…

怯えた様子のチナツや半泣きの部員、アコはコーヒーを乗せたトレイを持ったままフリーズしていた

 

「……委員長、何事ですか?」

「呼び出しよ、しばらく開けるわ」

「…もう直ぐお昼ですけど…」

「いいわ、外で食べるから」

「付き添いは…?」

「……不要よ」

 

ゲヘナをでて少し歩いたあたり、私を呼び出した人物がベンチでのんびりと座っている

「来たわよ」

「おや、ヒナさん、お待ちしていました、が…」

不満げなハルナがコチラを見る

「呼び出しておいて不機嫌ね」

「ご注文の、はないのですか?」

「……は?」

この日2度目の、心の底から冷え切った声が出てしまった

 

「友達みたいなノリやめてくれる?私、この前あなた達が吹き飛ばした食堂の件で委員会の部屋に泊まり込みになったのよ」

「そんな事なくても良く泊まっているではありませんか」

「……一発殴っていい?」

「冗談です、だからその拳を下ろしてください、お詫びにお昼はご馳走します」

「……はぁ…」

特大のため息が出た

「美味しいのでよろしく」

 

「さて、本日頂くのは…」

(何が来るのかしら、冬も終わりだし温かいものがいいわね、すき焼き…しゃぶしゃぶ…)

「お蕎麦です!」

「……帰っていい?ついでに収監するわ」

「ま、待ってください!このお店は100年以上続く老舗、非常に人気のあるお店で…」

「…さっさと入るわよ」

(…もっと豪勢なもの食べたかった…)

 

席に案内され、メニューを睨む

「…高くない?普通の蕎麦屋さんの倍くらいするわよ」

「ヒナさんもお蕎麦屋さんに入るんですね」

「時間がない時に駅そばとか、ヴァルキューレに用がある時は寄るわ」

ハルナが露骨に目を逸らした、まあ、誰を迎えに行くのかを考えれば当然だけど

 

「でしたら、ここのお蕎麦を食べれば違いに驚くと思います」

「ふうん……かけ蕎麦ひとつ」

「…ここはざる蕎麦にしませんか?」

「温かい物が食べたいのよ、まあでもそうね、せっかく来たのにかけ蕎麦というのもつまらないし…」

「ヒナさん…!」

「天ぷら蕎麦にしておくわ」

「…で、では、ざる蕎麦をお願いします…」

 

少しして蕎麦が運ばれてくる

「…いただきます…ずず」

「いただきます」

…ハルナは驚くと言っていたけど

「…蕎麦自体は大して変わらないわね、食感も、味も」

「そ、そんなことはありません、温かいつゆの香りで蕎麦自体の風味を感じにくくなっているだけです!」

「なら一口もらうわ」

そう言ってハルナのざる蕎麦を一口奪い取り、つゆに軽くつけてすする

 

「ずずず………へぇ」

これは、美味しい…

「如何ですか?」

「……蕎麦の本来の香り、って言うのかしら、クセが強い、とも言えるけど…いいわね」

「ええ、ここの蕎麦は二八蕎麦、小麦粉2割、蕎麦粉8割の比率です、しっかり食感を残し、蕎麦の香りも楽しめ…」

「…別にうんちくを聞きにきたわけじゃないわ」

「…はい」

 

海老天を箸で持ち上げ、かじる

「……ふふっ、これは、最高」

プリプリの大きな海老、駅そばで食べるときは小指よりも細い海老に天かすを大量に纏わせてるけど

この大ぶりな海老が蕎麦と一緒に提供されてるなんて…

(衣も軽くつゆを吸ってて美味しい、けどこれは…つゆよりも圧倒的に海老が甘い)

歯切れ良く口の中でちぎれて、解けていく海老からはどんどん甘味が溶け出して…

(全部食べるのは勿体無いわね、あとは…)

 

どんぶりを持ち上げてつゆを一口

「…少し、酸っぱい?……すごく良い香りだけど、不思議な…味がする」

…華やかなカツオ節の香り、醤油と味醂の味わいに…お酢を足したような酸味

だけど、お酢らしい、直接的な酸味ではない…嫌な感じはしない…

 

もう一口飲む、出汁の香り…?この、フルーティーな…香り…覚えがある

「トマト?」

「…ふふふ、流石ですね」

ハルナが小さく拍手する、満足げに笑いながら

「大正解です、流石ですね、トマトには実は…」

(…良い出汁ね…ナスの天ぷらも良く吸ってて美味しい…)

ハルナが延々と語るのを聞き流しながら蕎麦を楽しんだ

 

(大葉も海苔も、天ぷらにするとこんなに香り高くて美味しいのね…さて、最後に海老天を…)

「……あれ…え?」

無い、顔を上げると、口から海老の尻尾が飛び出たハルナ

「もぐ…おや、お嫌いなのかと思いました♪」

「…そういうのはアカリとかジュンコの役割じゃないの?というか…はぁ……」

(奢りじゃなかったら…どうしてやろうかしら)

 

ちゃんと奢られた

天ぷら蕎麦も普通よりかなりいいお値段した

(え、こんなにするの???)

 

「…本当にいいの?結構した」

「ええ、構いません、私が呼んだのですから」

「でも、なんか悪いわ…」

「では、また誘いに乗ってください♪」

 

(…あれ?私ハルナに散々振り回されたのに、天ぷら蕎麦一杯でいい感じにまとめられてない?)

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