ヒナ「お腹空いた…」   作:ひよりん

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第68話

「ここに招かれるのも久し振りね」

「確かにそうかもしれません、普段は外部のお客様を招くことはしないものですから」

「ふぅん…」

この庭園を歩くのはいつぶりだろうか、随分と落ち着いている

「…流石に静かではないわね」

「謝肉祭の期間中ですから」

庭園の外は賑やかだ、だけどゲヘナとは違う、どちらかといえば百鬼夜行の方が近いだろう

トリニティらしくないこの空気感…だけどそれも悪くない

 

「謝肉祭、何事もなく、とはいかなかったけど…今の所大事には至らないみたいで何よりね」

「……ええ、ですが、そうも落ち着くのは少し難しいですね」

「…軽いトラブルに一々頭を悩ませてたら無駄に疲れるわよ」

「ううん…」

とはいえ、それができないのがこの桐藤ナギサという人物なのだろう

(…むしろゲヘナも細かい事でもこのくらい真剣に取り組むべきなのかしら…)

 

「…それにしても、上手い言い訳を考えたものね、こういうの、職権濫用って言うんじゃないの?」

「それについてはお互い様、だと思いますが?」

振り返ってこちらを向いたナギサと少し真剣な表情で見つめ合い、おかしくなって笑ってしまう

「まあ、ゲヘナの生徒が何かしたら私が行くわ、多分…トリニティに好き好んでくるのなんて限られてるけど」

「ええ、その時はお願いします」

 

庭園の奥のお茶会のスペース、すでにテーブルいっぱいにお菓子や軽食が並んでいる、そして…お目当ての、アレもここにある

(……アレが、噂の…)

「気になりますか?セムラが」

「それを目当てに騒ぎを起こす生徒が現れるほどの代物…と言われると、嫌でも気になるわ」

「……あ…そう、ですね…ふふ、ふ…はぁ……」

ナギサが渋い顔をする、まあ、これは正義実現委員会の委員長と話していた時に聞いた話

美食研究会じゃないけど、流石に気になる

 

「いただきます」

(…お楽しみは取っておくとして…)

「今日はサンドイッチなのね…もぐ」

トマトとレタス、それからスモークされたチキンが挟まったシンプルなサンドイッチ

パンも厚くなく、具材も多くない、少し物足りなさを感じつつ、コーヒーを一口…

(…あれ、もうない…)

軽い、軽食として出されたものだとはわかっているけど…あまりにも軽い

なのに、トマトのフルーティーな香りとチキンのスモーキーな香りがコーヒーに隠れて口の中にまだ微かにある

 

(…美味しいけど、小さいからすぐ食べきっちゃうわね…)

ひと口、ふた口、み口目にはもう手にはパンくずしか残っていない…

(…どんどん口に運んで…リスみたいですね)

「……」

「もう少し食べますか?用意はありますが…」

「…また次に頂くわ」

 

次に手をつけたのはキャラメルを纏った香ばしいナッツ、まだほのかに暖かく、カリカリのナッツに甘苦いキャラメルが心地良い…

ポリ…ポリ…ナッツの種類によって味わいも香りも違う、ただ、同じなのはどれも美味しい…

(…ほっぺたがパンパンに…)

 

にこやかにこちらを眺める桐藤ナギサと目が合い、やや気恥ずかしさを感じつつ、コーヒーで口の中のナッツを流し込む

「…流石にはしたなかったわね」

「ここはプライベートな場ですから、気にしなくても大丈夫ですよ」

そう言って桐藤ナギサがケーキを差し出してくる

 

「チョコレートケーキ?…はむ…」

(しっかり甘いけど、なんだか落ち着いた味ね……と言うか、さっきからすごく見られてるんだけど…)

誤魔化すようにコーヒーを口に運ぶと、口の中でふんわりとコーヒーとチョコレートの香り…

(あー…こう言うケーキなのね温かいドリンクと合わせる事でチョコレートの香りも楽しめる…みたいな)

(コーヒーとチョコレートも相性が良いもの…本当に食べさせ甲斐がありますね…!)

 

「そろそろ、いいかしら」

「はい、お待ちかねのセムラです」

差し出されたセムラは、丸いパンでたくさんのクリームを挟んだような…菓子パンのような…

(これが、お菓子の女王…?)

「ふふふ、案外、普通なものでしょう?トリニティが今の形になる前、とある学園で春を祝うために食べられていたお菓子がその正体です」

「…へえ…」

 

一口、口に含む

(…クリームが、濃い…濃厚、しかもザラついてる…パンの方もすごく主張してくる…この…香りは…?)

…すごく美味しい、とはならない…これは、重たく、主張が激しい…

 

「もしお嫌いでなければ、ホットミルクと一緒にどうぞ」

まだ湯気の立っているマグを受け取り、一口飲む

「……!」

セムラを口に含み、ホットミルクを飲む

先ほどまではあんなに重たかったクリームが溶け出して馴染んでいく…パンもミルクで柔らかく…

 

スパイスとバターの華やかな香りが広がってその奥に…

「これは…ナッツの香り…?」

「アーモンドのペーストを混ぜたクリームをサンドしているんです」

「……コレは美味しいわ」

単品ではややキツイ味わいだったのがこんなにもマイルドになるとは…

あんなに重たかったセムラをあっという間に食べ終わってしまった…

 

「どうでしたか?お菓子の女王は」

「美味しかったわ、ごちそうさま」

「それは良かったです」

(…でも、チョコケーキの方が好みね…)

 

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