ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「……」
カリカリカリ、書類をペン先が撫でる音が静かな部屋に響く
「……はぁ…あれ」
コーヒーを口にしようとしてカップを運び、口をつけて空なのに気づく
いつの間にか時間もかなり経っていた
(…一息入れようかしら)
コーヒーを入れ、一息つく
(……今日は日付変わる前に帰れそう…)
──ドタドタドタッ
「…に、ないわね」
─バタンッ
「居た!何で返事してくれないの!?」
「何の話よ…」
入ってきたのはフウカ、この焦り様…一体何があったのだろうか…?
机に放り出された携帯を見ると、ジュリとフウカからの数えるのも面倒なほどの連絡の履歴
「…何?」
「魚!捌ける!?」
「…は?」
「ジュリ!助っ人連れてきたわよ!!」
「お疲れ様です!お願いします!」
「うわ、生臭い…何この匂い」
食堂に充満する生魚の匂い、こんなにキツい匂いを発すると言うことは、数も相応にある…
「…実はね、いつも魚を仕入れてる市場でね…魚を仕入れようとしたら…」
「その、発注ミスが起きてしまいまして…」
「……まあ、ミスは起こるわよ、仕方ないわ」
「で、今日中に全部捌いて、下処理した上で保管できる分は保管して…」
「……無茶じゃない?」
「無茶よ!!わかってるわよ!!」
「あんまり上手くないけど、いい?」
「大丈夫!」
包丁の刃をたて、撫でる様にうろこをかき、次にお腹を開いて内臓をかき出し、お腹と全体を流水で優しく洗う
(…手が、既に臭い…)
頭を落とし、開いたお腹から包丁を入れて、背骨にあたったら今度は背中から、合流したら尻尾から背骨を滑らせて…
「……身が、ボロボロ…」
「いやいや、そのくらい平気平気、ジャンジャンやっちゃって!」
その後もしばらく身がボロボロの三枚おろしを量産した
「…日付変わっちゃったわね」
「そうね…」
「ですね…」
「…じゃあ、食べてく?」
「……食べるわ」
「それじゃあ、ジュリ!アレお願い!私はご飯炊いてくるから」
「わかりました!」
ジュリが冷蔵庫から取り出したのはショウガ、ミョウガ、ネギ、大葉に味噌に醤油…
(…味噌と醤油で食べるのかしら、薄切りの青魚で薬味を包んで……いいわね…)
「薬味を刻んで、魚はぶつ切りにして…」
「……ジュ、ジュリ?何で両手に包丁を持って──」
「叩きます!!」
両手の包丁を振り下ろし、どんどん叩いて刻んでいく、せっかくの切り身がミンチに…
そしてそこに味噌と少しの醤油を加えてさらに叩いて…
「できました!」
魚版のハンバーグのタネが、お皿に盛られて…炊き立てのご飯と簡素なお味噌汁と一緒に差し出される
「…ねえ、何でミンチにしたの…ねえ…?」
「いいから食べてみなさいよ」
「……いただきます…もぐ」
なめろうを一口含み、噛み締める…
温かいご飯をかきこみ、お味噌汁で口を洗う
「…これ、正解」
「でしょ?」
腹立たしい程自慢げに笑う2人を無視し、黙々となめろうをご飯に乗せて食べる
魚のねっとりとした甘旨い味わい、そこに濃厚な味噌と爽やかな薬味…白いご飯が進む
いつの間にか2人も黙々とご飯にがっついている
なめろうをご飯の上に乗せ、少し熱を伝えてから口に運ぶ、溶け出した脂がたまらない…
温かいご飯と混ぜて、お味噌汁をかけて…とても上品とは言えない食べ方だけど、余すこと食べた
「あまりにも美味しくて、お皿まで舐めたくなるから、なめろうっていうんだって」
「へえ……なるほどね」
「舐めちゃダメだからね?」
「私を何だと思ってるの…?」