ヒナ「お腹空いた…」 作:ひよりん
「…11時」
時計のアラームが部室に反響する
…それ以外、誰の声も、足音もない静かな空間
(…さてと)
いつも通り、だけど今日は…なんだか悪くない
部室の冷蔵庫に安置された真っ白な紙の箱、それを取り出し、テーブルへ
箱を開けると中には…
(アップルパイ、それに…小さめのクッキーの小袋…)
これは嬉しい、あまりにも嬉しい…
コレをくれたのはトリニティの桐藤ナギサ
所用があってトリニティに…回収に行った時に貰ったものだ
受け渡しの際にはかなりザワついたものの、本命の方もしっかり回収できたおかげで今日はかなり穏やかだ
「…はぁ…あの正義実現委員会の委員長…応援に来てくれないかしら」
あの逃げ足の速い連中がキチンと揃って捕まっていた、そんな人材が週に一度でも手伝いに来てくれれば…
「……こればっかりは、どうにもならないわね」
ふとクッキーを手に取る、すると…
「…あれ、まだある…」
クッキーの袋に隠れていたのは紅茶のティーバッグと折り畳まれた紙…
「…ええと、なになに…?「お疲れ様です、パイはぜひ温め直してお召し上がりください、それからクッキーは作業のお供にどうぞ」…有難いわね」
なんの気無しに紙を裏返した時にチラリと見えた長文の紅茶の淹れ方や解説は無視し、マグカップにティーバッグを入れ、熱湯を注ぐ
そしてパイをレンジで温め直すと…
(…うわ、凄い匂い…)
甘酸っぱいリンゴの香り、それに香ばしいバターの香りが漂ってくる…
匂いを嗅いでいるだけで口の中がよだれで溢れかえってくる、間違いなく美味しい
マグカップとパイの乗った皿をテーブルに並べ、早速…
「…と……写真、撮っておこうかしら…」
スマホで写真を一枚撮り、改めて…
「いただきます」
フォークでパイの先端部を切り取る
サクッ…といい音がした
「はぐ…うん…! コレは、美味しいわ…」
レンジで温めたのにサクサクのパイ生地、よく煮込まれているのに未だ微かなシャキシャキを感じさせるリンゴ
そしてリンゴを包む硬めの甘いクリームとアクセントに酸味を感じさせるレーズン…
紅茶を一口含む、甘くなった口の中に鋭い渋みと落ち着いた、それでいて柔らかな香りが広がり、洗い流される
(…相性も最高…)
「サク…もぎゅ………ふう…」
このパイの面白いところは食べ進めるごとに比率が変わること、中心はクリームとリンゴが主役でレーズンとパイ生地はアクセント
だと言うのに食べ進めるほどにパイ生地とレーズンの比率が増して行く
(クリームはツナギの役割だからしっかりとした硬さがあって、少し重たいけど…このパイ生地、ものすごく軽い…)
甘く煮詰められたリンゴに少し酸っぱいレーズンが混ざる量が増えて、食べ進めても重くならないように、そんな配慮を感じる…
「…欠点があるとしたら…1切れしかない事ね…ごちそうさま」