転生したらなんかカードゲーム世界のライバルポジになってた 作:大きいホクロ
ファイティングライフ 神龍祭誕 収録カード『慕情の癒し手』フレーバーテキスト
「……何故母さんはこんな事をしたのかは分からない、けど母さんは間違いなく俺に何かをさせようとしていた」
思い出すのは幼い頃、母は俺に対してスパルタと言っても差し支えないレベルのカードに関する教育をしていた。
「そして会長、貴方と母さんは昔交流があった。俺や転移者達の事を詳しく知っている事、そしてその人物が死んでいる事も踏まえると…母さんが原因だと考えるのが自然だ」
「すごいですね、細かく言うと違う所はありますが概ね正解です」
できれば俺の妄想であり嘘であると否定して欲しかったが、しっかりと肯定されてしまった。
「……何で母さんはこんな事を?」
怒りが湧いてくる筈なのだが、それ以上に困惑したのかその感情は出て来なかった。
「力が欲しかったから、と言ったら?」
力が欲しいなら闇の4コストの呪文でも撃つ程度にして欲しい。
知らない世界に飛ばされ、更に犠牲になった人達を何だと思っているのだろうか?
「それこそ分からないですよ、何で力が欲しくて他所の世界の人間をこっちに持って来るんですか」
「持って来たいのが、人じゃなかったとしたら?」
「人じゃない物……」
「たとえばそう………神とか」
「………神?」
「神を倒すには神が必要、ということです………そろそろ私は学校の時間なので失礼します。そこの棚にある本や端末は好きにしてください。また昼休みに来ますね」
そう言いながら会長は席を立ちこの部屋を後にしようとしている。
「………会長は、何故俺を助けたんですか?」
「かわいい後輩ですからね」
「嘘くさいですね」
「この部屋から叩き出しますよ?」
「………すいません」
「素直な子は好きですよ。では………ああ、そうそう、そこのストレージのカードは好きに使って良いですよ。中には君のデッキも入ってます」
状況を整理しよう。
現在の勢力は3つ、DFC達転移者、一色達神託持ち、そして会長達の組織だ。
うち二つのDFCと神託持ちは目的がわかっていて、前者が世界の在り方の変容、後者はDFCを還しあるべき世界に戻すこと。
還す、と言うと聞こえは良いがその実はこの世から消してるみたいな物だ。
会長達の組織は神を呼び出したい様だがそれで何をしたいのかが分からない。
………で、そんな組織の人間に匿われてる状態で今後どうするべきだろうか?
というかそもそもが俺は今対外的にはどんな状態なんだ?病休扱いなら良い方だろうか…まあこの辺は昼に来るらしい会長に聞こう。
そういえば会長が端末があると言っていたのを思い出し手に取る。
端末を触るのなんて教室のハイテクな机を除けば相当久しぶりだ。
今考えてみるとこの世界で俺はスマホを持っていない、何なら周りも持っていない。しかし街で持っている人は見た事が普通にある。
いやユウキが持ってなかったか?周りが全然使わないから使ってるところ見ないだけなのかもしれないな。
この世界の常識では中学生にスマホは早いのかもしれない、そう思いつつアイパッドくらいのサイズの端末を開くと全世界共通であるかの様な似通ったフォームの中からインターネットブラウザーを見つけ出す。
そして俺はインターネットという海に久しぶりに乗り出した。
果てしなく広がっているサイバースな世界をサーフィンする事小一時間、この世界の状況を改めて再認識した。
まず感じたのはやはりカードゲームが相当普及している、さも生活の一部であるかのようだ。
トレンドだとかニュースにカードの話題が必ずと言っていいほど複数あり、前世でのテレビ番組だとかスポーツニュースかのようだ。
次にDFCについて、どうやら過激な勢力が居るようで暴動だったりデモだったりを起こしているようだ。そしてそのDFCの人間が次々と行方不明になっているという記事も散見された。
逆に神託に関する話題はあまり見当たらない。SNSの投稿や掲示板の書き込みですごい強いカードがあると噂されている程度だ。
しかしこうやってネットサーフィンをしているとやはりカードゲームという要素以外は現実に近いなと実感する。
気持ち的には同郷のDFCに味方したいものの過激な活動は正直ごめん被りたい。
かと言って神託持ちと共にDFCを狩る側に回るかと言われるとそれも嫌である。
「…………デッキでも弄るか」
気を紛らわす為にデッキを弄る、昔からよくやっていることである。
会長に言われた位置に実際に俺のデッキは置いてあった。
デッキを広げて一枚のカードを手に取る。
「母さん‥…俺に何をさせたかったんだ?」
『<神討ち>の龍』、母さんから貰った頃には『彷徨いの龍』、形を変えて『失いの龍』を経て今の姿に至ったそのカードを見て考える。
描かれているイラストの龍は姿を変える程無機質な姿になっている。
このカードを俺にくれた母さんはわざわざ俺を転生させ、更に強くした。
そこまで手塩にかけ育てられた俺には彼女の目的、神を呼び出す事に対して何か役割がある筈だ。
「いい子にしていましたか?悪道君」
そんな事を考えていると会長がノックもせずに部屋に入って来た。
「ノックくらいしてくださいよ」
「ここは私の部屋の一部ですよ?する方が不自然です」
そう言われると確かに自室内でノックするのは怪しいなとなってしまう。
「取り敢えずお昼ご飯を用意したので食べてください」
そう言いながら会長はお粥のような物を机に置いてまた今朝と同じ位置に腰を掛けた。
「随分と親切ですよね……何か目的でも?」
「私は元から親切ですよ?二階堂君の時も助けてあげたでしょう?
目的といえばそうですね………仲間になりませんか?」
正直一番あり得そうだな、と思っていた提案だった。
しかし彼女のいる組織が行った事を許容する事はできない。
「断る。どれだけの人が苦しんだと思ってる」
「怒って敬語が無くなる所、まだ残ってたんですね。別に組織に入れって言ってる訳じゃないですよ」
「…じゃあどういう……」
「私個人の好きに動かせる駒になってください」
「もっとタチが悪い」
そんな物になったら絶対好き勝手利用されて使い捨てられるだろう。
「うーん、じゃあこれはどうですか?私の知ってる転移者を元の世界に、元の時間に戻せる可能性のある方法を教えてあげましょう」
転移者を元の世界の元の時間に戻せる方法だと……?
そんな都合の良いものが存在するのか?
それがあればこの前のような悲劇はもう起きない。
「その話、本当ですか?」
「ええ、私は嘘をつきませんよ。それにそれを教えるからDFCを壊滅させて来いなんて事も言いません」
「それでも駒になるのはごめんです」
「仕方ないですね、じゃあ駒ではなくて協力者になるのはどうですか?」
「…………」
何が違うんだよそれ‥…結局頼みを聞いていたら駒と代わりないだろ。
「何が違うって言いたげですね、行動をお願いする時の決定権は君にあげると言ってるんですよ」
「つまり俺が嫌ならやらなくて良いってことか?」
つまり俺に対する頼みは俺が断るような物ではないと向こうは踏んでいるのか?
「そういうことです、さあどうしますか?」
会長はそう言いながらこちらに握手を求めるかのように手を向けた。
俺の脳裏に過ぎるのはDFCやその関係者達。
オッサン、阿久野先生、海の家の店主、オトル、DFCに所属している転移者達……………
「その方法が嘘だったら許さない」
俺はその手を取った。俺の母が発端となった騒動ならば、俺がこの騒動を終わらせるべきだ。
「末永くよろしくお願いしますね、悪道ゼン君」
会長は怪しい笑顔でそう言った。