転生したらなんかカードゲーム世界のライバルポジになってた 作:大きいホクロ
ファイティングライフ 双神創世 収録カード 『勇ましき者』フレーバーテキスト
「…………恨み言でも言いに来たか?」
目の前で座敷牢の様な物に入っている男は、俺の顔を見るなりそう言った。
「叔父さん、母さんが死んでから養ってくれてた事には感謝しています。本当にありがとうございました」
その男、叔父に対して俺は感謝の言葉を伝えた。しかし叔父がそれを受けた顔は訝しむような表情だった。
「私が何の為にお前を育てたのか知らないわけがないだろう?」
勿論知っている。俺の現在が疑いようもないその証左だ。
「それでも育てられたのは事実です。さようなら」
言うべき事を言いきり、俺は踵を返す。
間も無くアイツらが乗り込んでくるだろうから準備しなければならない。
「………悪かったな」
牢からそんな声が聞こえた気がした。
「会長、例のカードを」
準備を終えたのかタワー内のラウンジで寛いでいた会長に話し掛ける。
ユウも離れた位置でカードを弄っている。
「これですね。私の利子は高いので早めに返してくださいよ」
ユウキとの対戦に備えてデッキを考えた際に会長のあるカードをどうしても採用したくなった為打診したところ、しっかり用意してくれた。
なんだかんだここまでしっかり協力してくれ事に対して感謝の気持ちがかなりある。
「会長、ありがとうご………」
「受け取りません」
そんな気持ちを込めたお礼の言葉は受け取りをキッパリ拒否されてしまった。
なら仕方ないとその言葉を言うのはやめておく。
「そうですか……それじゃあ、後のことは頼みます」
「仕方ないので頼まれてあげます。……カードはちゃんと返してくださいよ」
会長の声にしては少しトーンが低い気がした。
「ええ、きっと」
「きっと、ではなく必ずですよ。私、人に自分の物あげるの嫌いなんですよ」
そう言えばこの前に二階堂と戦ってた時もそんな事を言っていたな。
本当にがめつい人だよ。
「はいはい」
「はい、は一回ですよ」
「はい、会長」
「よろしい、私も準備があるので失礼しますね」
ありがとうございます、という言葉は言わない。受け取りは拒否されているから。
「ユウ、お前は残るんだよな?」
会長が去るのを見届け、同じくラウンジでデッキと睨めっこをしていたユウに声をかける。
「そうだな、俺も死んでるし」
彼は此方に残る事を選択した。
彼は転移者達が帰還を望んでいたからこそそれを望んでいたが、彼自身は前世への未練をすでに断ち切っていると語ってくれた。
「…………この世界は好きか?」
「昔は嫌いだったけどもう慣れたさ。それにこんな世界だ、弟の事も心配だ」
確かにこの危なっかしい世界だと身内は心配だろう。
特にアイツは厄介な事に首を突っ込みやすいしな。
「そうか………最後まで頼むな」
「ああ、任せろ。お前の覚悟は無駄にしないさ」
「センヤ、アイツらは多分ここに来る。だから足止めをしてくれ」
タワーの頂上で夜景を見ながらデッキを調整しつつ、傍にいるセンヤに伝える。
「分かりました」
「…………悪いな、俺のわがままに付き合わせて」
センヤには全て話した。
計画に加担させる以上はそれが礼儀だ。
「私が勝手に付いてきたんですから、謝らないでください」
「そうか………お前が友達で良かったよ。偶然チームを組めて良かった」
「………私はもっとずっと一緒に居たかったです」
「………俺ももう少しお前らと対戦したかったよ」
タワーの頂上から見下ろす街並に対して寂しい気持ちを覚えるのは、この世界を意外と俺が気に入っていたからだろうか?
「今日は同胞以外はお断りしているんだ、帰ってもらえるかな?」
朝日が昇る頃、僕達が妨害を乗り越えてタワーの前に辿り着いた先に待っていたのは整列したDFC団員達とその中央に立つ副総帥だった。今日も肩の棘が立派である。
タワーは何やら半透明の円形の壁のような物に囲まれている。
今のこちら側のメンバーは僕、ケン、マコト、リン、ミコト、シラユリ、そして神託者達だ。
「ユウキ、ここは俺たちが止めるっすよ」
「あの時の借り、返してやるわ」
「私も行きます」
ケンとマコト、ミコトが前に出る。
「俺達もここで戦うぜ」
更に神様が集めた神託者達も前に出る。
先頭に立っているのはかつての選抜の時に居たソメルじゃない方の神託カードの使い手だ。
「皆、ありがとう。また後で!」
「次会う時は悪道連れて来なさいよ」
「勿論!」
そう、今日は別にDFCにカチコミに来た訳じゃない。
ただ友達に会いに来ただけだ。
「さて、借りを返すわよ副総帥さん」
「やってみたまえ、雅マコト」
「「「「レディー、ファイト!!!」」」
背後にモンスターが現れている。
どうやらこの空間はネオDFCを名乗っていたオトルが使っていた空間の様に直接モンスターが実体化するらしい。
エレベーターは止まっていた。
だから階段を登って僕らは頂上へと向かっている。どうやらあの時のように対戦者以外もモンスターを呼び出す事はできないらしい。
「ユウキ、そこで止まって貰おうか」
懐かしい声が僕の名を呼んだ。
聞き紛う事無く、それは兄の声である。
「兄さん、やっぱりそっち側なんだね……」
「そうだ。俺達の邪魔は誰にもさせない」
兄の表情はその確固たる意志を感じさせた。
その表情を見るのは小学生の時にこのタワーで見たのと合わせて2回目だ。
「兄さん、そこをどいて」
「断る。退かせたければ勝ってみせろ」
兄さんからは引く気を一切感じない。
だからここを僕が進む為の選択肢は一つしかない。
「勝負だ、兄さん」
兄さんを倒す。
「いいだろう」
兄さんもゼンも、背負いすぎている。
彼ら自身をもっと大切にして欲しいと思うのは僕の我儘だろうか?
「私達は今のうちに………」
シラユリとリンが今のうちに上で進んでくれる、そう一瞬思った矢先に新たに声が聞こえてきた。
「そうはさせないぜ、シラユリちゃん」
その軽薄そうな声には聞き覚えがあった。しかしその声の主は本来ならここに居ない、いても彼方側では無い筈だ。
「この声…………一色じゃないの、入院してるんじゃなかったかしら?」
「俺って体丈夫なんだよね……ここは通さないよ」
しかしそこに居たのは声の通りに一色ソメルであった。
神託カードを持ち転移者達を還してきた彼は、何故か転移者達の側に立っている。
「っち…………行きなさい、水瀬」
「ごめん………ありがとう、捻咲さん」
「とっととあのバカ連れ戻して来なさい」
シラユリが戦う事を選んだらしい。
リンはゼンと仲が良かった事を加味したシラユリの冷静な選択だろう。
「良かったの?リンちゃん行かせて」
「負け犬は大人しく露払いするだけよ」
「奇遇だね、俺も負け犬だから露払いしてるんだ」
彼等の会話はよくわからなかった。
「何をしているユウキ、始めるぞ」
「うん、そうだね。始めようか」
「「「レディー、ファイト」」」