転生したらなんかカードゲーム世界のライバルポジになってた 作:大きいホクロ
ファイティングライフ 双神創世 収録カード 『郷愁の果ての英雄』フレーバーテキスト
「そこまでです。お引き取りください」
「宵闇さん、そこをどいて」
「お断りします。ゼン様の元へは行かせません」
「だったら、勝ったら通してくれる?」
「良いでしょう、お相手します。………それと、私は正直水瀬様の事あまり好きではありませんでした」
「奇遇だね。私も宵闇さんの事羨ましくて、妬ましいって思ってた」
「「レディー、ファイト」」
準備は全て整った。後はゲートを開くだけ。
オトルがあの離島の施設に残した技術は、今まさに彼の悲願を叶える為に活かされている。
最終調整を終えた所で屋上に誰かが一人やってきた。
その人影は俺の今の仲間では無い事が雰囲気で感じ取れた。
「始めまし………」
「ゼン君、久しぶり」
現れた少女、水瀬に言葉を遮られる。
どうやら足止めも限界が来たらしい。
「…………俺はゼンじゃなくてア………」
「ゼン君、久しぶりだね。本当に」
「そうだな…………センヤはどうした?」
水瀬は押しが強い。
そう言えば彼女は、あの雨の日からずっとそう言う奴だった。
渋々認めて俺は仮面を外した。
「この実体化した空間でのダメージが大きかったみたいで………タワーの中で休んでると思うよ」
つまりセンヤは水瀬に負けたということになる。
しかしこちらの準備が終わるまで時間を稼いでくれただけで充分だ。
「帰ろう、ゼン君?」
つまり学園の寮に戻ろうと言う事だろう。今更そこに帰るつもりなど毛頭無い。
彼女のこちらに向ける弱々しい笑顔と差し出された手に対して俺は言葉だけで返す。
「分かった、ただ待ってくれないか?この計画が終わったら帰る」
しかし別に俺がこの計画を実行した後どうなるかなど彼女は知らないだろう。
だから終わったら帰る、と言う事で戦わずに無傷で彼女を帰せないかと嘘八百を並べる。
しかしその言葉を聞いた水瀬の顔は曇っている。
「嘘だよね?ゼン君は帰ってこないつもりだよね」
水瀬は俺の言葉を信じる素振りすら見せずに嘘と断じた。
「………そんなことはないさ」
「私はさ、ゼン君の事をなんでも知ってるわけじゃないよ………けどね、あの離島での一件からずっと一人で悩んでたのは知ってるよ」
あの日、水瀬もあの場に居た。
そしてあの一件の後もかなり俺を心配していたのも態度を見れば分かった。
「分かっているなら止めないでくれ、その悩みは今日ここで終わるんだ」
「嫌だよ、だってゼン君がやろうとしてるの……紬ちゃんがされそうになってた事だよね?」
紬、かつて帰還を望む転移者のオトルによってこちらに連れて来られ、ゲートを開ける為にその命を使われそうになった少女。
そしてその際にオトルが使った技術が今回もそのまま使われている。つまり紬のようなエネルギーが必要ということだ。
そしてそれに使われるのは俺だ。
便宜上例えるなら特異点である彼女程の力は出ないが、ウツワだったお陰か俺でも補えるようだった。
水瀬は俺が何をしようとしているか知っていた。
それを知っているのは会長とユウと副総帥、そしてセンヤくらいだ。
しかしセンヤにこの事は決して言うなと言っておいた筈だ。
「………なんで分かった?」
平静を装いながら水瀬に問う。
「分かるよ、だって中継でそんな顔してたから」
「仮面を付けてたから分からないだろ」
「分かるよ、ゼン君分かりやすいもん」
女の勘、という奴なのだろうか?
論理的なあれこれでは無く感覚で俺の今後を予測したらしい。とんでもない奴だ。
「それにね…宵闇さんの表情もそう言っていたんだ。ゼン君はいなくなっちゃうって」
「凄いな、水瀬は」
言わなくても表情で伝わる、か。
センヤにそんな表情をさせたのは本当に申し訳なく感じる。
アイツは本当に無関係なのに。
「そういう褒め言葉、もっと違う時に言って欲しかった………ねえ、帰ろうよ、また一緒に学園に行こ?一緒に下校したり、ユウキ君達と遊んだりしようよ!」
彼女の声は震えている。
「止めたければ力づくで止めろ」
「………うん、そうするね。……今日こそは勝つから」
「「レディー、ファイト」」
「『外神』で呼び出した『攻め抜く地龍』でとどめだ」
「……勝てなかった、負けちゃいけないのに……」
水瀬との勝負は当然俺の勝ちだった。
水瀬も本当に成長しており、かつての気弱な姿などそこには無かった。だが俺のほうが上だった。
俺を止められるとしたらもうアイツしかいないだろう。
「………ゼン君」
対戦のダメージで弱っている水瀬が搾り出すような声を俺に向ける。
「私はもっとゼン君と居たいよ………」
こちらに縋るように涙を流す彼女から目を逸らす。その涙に対して何かをする資格は、今彼女を泣かせている俺には無い。
辞めてくれ、そんな悲しそうな顔で俺を見るな、とただ目を逸らすだけだった。
やがて泣き声は止みダメージもあってか水瀬は気絶した。
さようなら、水瀬。ごめんな。
「………センヤにもそう言われたよ、まだ一緒に居たいって……けど俺は止まらない、誰にも止めさせやしない…………ユウキ、お前が相手でもだ」
その言葉と共に、視線をたった今頂上にやってきたユウキに向ける。
彼の顔はかなり険しい物だ。
「似合ってないあの仮面外したんだね、ゼン」
どうやら本当に仮面は不評らしい。
「久しぶりだな、ユウキ」
「生きてて嬉しいよ、ゼン。これから死にに行くみたいだけど」
そう言う顔はそんなに嬉しそうじゃ無く、相変わらず険しい表情のままだ。
どうやら俺の目的もすでに知っているようだ。事前に水瀬に聞いたか?
「ユウキ、初めて会った頃みたいにアンティルールで勝負しないか」
「待ってくれないか、まずは話を聞いて欲しい」
「良いぞ、取り敢えず聞いてやる」
要約すると世界の方が持たないから一旦辞めてくれ、俺達で別の解決方法を探そうという事だった。
そしてその話について後ろに佇む俺の神に確認する。
神は脳内に直接彼?彼女?の見解を流し込んできた。
「なるほど………で、その情報の出所はお前か?」
ユウキの近くに薄らと浮いている何やら不快感を放つ存在に目を向ける。
恐らくアレがユウキの言う神なのだろう。
『なんだよ見えてんのか。そうだよ、穴まみれで不安定なのに更に過去最大の穴なんて開けられてたまるかよ』
「そうか………悪いなユウキ、俺はこの計画を止めない」
「………どうしてだい?」
「他の方法と言ってもその神に何ができる?そいつのせいで何人死んだ?」
「それは…………」
ユウキが言葉に詰まる。
彼としても思うところがあるのだろう。
「それに俺の神は言っている。まだこの世界は大丈夫だと」
「………おどろおどろしい神だね」
『危険性の話をしてるんだよこっちは、限界値ギリギリまでやっても大丈夫って訳じゃねえんだよ』
ユウキは俺の背後に畏怖の視線を向ける。おどろおどろしい?神々しいの間違いだろ。
「勝負の話に戻るぞ。お前に要求するのは三つだ。一つ、今日の俺の行動を邪魔しないことだ」
ここが勝負どころだ。
ユウキになんとしてもこの多い条件を飲ませる。
「…………二つ目は?」
「時間遡行に必要なエネルギーの供給だ、俺だけじゃ賄えない」
「そんな力、僕は持ってない」
「いいや、ユウキに憑いてるお前は持ってるだろ?」
『っち………おいユウキ乗るな。条件が明らかに多過ぎる』
「そして最後の一つは残る転移者達をこの世界の住民として扱う事だ」
「分かった、受けるよ」
ユウキは二つ返事で了承した。
『ユウキお前!』
神の方は当然無茶苦茶な要求を飲んだユウキにキレている様だ。しかしユウキはそれを意に介さない。
「僕の条件は一つ、今日の計画の中止と、話し合う事だ」
「良いのか?それだけで」
「僕はそれだけが欲しい」
「そうか………始めようか、最後の勝負を」
「最後にはさせないさ」
「「レディー、ファイト」」
俺はこの世界に来て最初は対戦を楽しんでいたはずだ、特にユウキとの勝負は。
今日の対戦ではそんな気が一切合切湧いて来なかった。
もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。