クトゥルフ世界に飛ばされる一般PL君 作:冷たくて美味しい紅茶
戸籍を手に入れ、編入試験に合格し学校に行く用の服を買ったりと色々忙しい週末を過ごしてやってきた月曜日。まさか試験やってる最中に校庭で物凄い悲鳴が聞こえたり爆発音が聞こえるとは思ってなかったし、その場で採点して面接して合格まで出されるのも想定外だ。面接やってる横で必死に採点してる先生はちょっと面白かった。
「今日はこれ着てね」
学校に行くために着替えようとすると柊夜が部屋に入ってくる。一応学校指定の制服はあるが別に絶対に着る必要はないらしいので適当な服を着ようと思っていたのだが……
「体操服?」
柊夜が持ってきたのはTシャツにハーフパンツと長袖の青いジャージ、それに赤いハチマキだ。
「うん、今日は体育祭だからね」
「はっ?」
登校初日から体育祭とか最悪過ぎないか? 何の練習にも参加できてないし何より知らない人たちと一緒に盛り上がるのは難しいものがある。
「まあまあ、一応学校に口利きして僕と同じクラスにしてもらったから……」
「助かる」
誰も知ってる人がいない状態の体育祭とか行きたくなさすぎる。
「自己紹介の言葉考えないと……」
名前と趣味と……あとは好きな食べ物とかで良いか。他は聞かれたら答えるくらいで良いでしょ。
「ついでにこれも書いといて」
柊夜はペンと紙を渡してくる。渡された紙には部活動・同好会参加表明書と書かれており、同好会名を書くところには既にオカルト研究同好会と書かれている。
「はい」
元々学校に行く理由の一つがこれなのでサクッと書いて柊夜に紙とペンを返す。その後着替えて適当に朝飯と弁当を作って家を出る。朝飯は普通だったが弁当は上手くできた気がする*1。
「練習とか何にもしてないけど体育祭行って平気なの?」
「大丈夫、大丈夫。何の競技やるのかは事前に知らされてないしぶっつけ本番だから」
「えぇ……」
それ、体育祭として大丈夫なのだろうか。リハーサルとかもやってないなら時間が大幅に前後しそう……ってかプログラムなんかもないのだろうか?
「プログラムみたいなのが書かれた紙ってないの?」
「あるけどこれだよ?」
柊夜が鞄から出したのは表面のみの小さい一枚の紙。書かれていたのは開会式、一年生競技、二年生競技、三年生競技、閉会式、お昼、みんなのお楽しみだ。
「うーん、雑」
お昼が書いてあるからかろうじてその時間が昼なのはわかるがそれ以外のプログラムには時間の表記が一切ないためいつ始まっていつ終わるのかが全くわからない。
そんな話をしているうちに学校の前に到着する。柊夜はこの学校を家からの近さで選んだらしく実際歩いて10分かからないうちに着くことが出来る。現在時刻は8時前でクラスルームが9時スタートらしいのでそこそこ時間がある。
「学校の案内してくれない?」
試験の日は色々と忙しかったので回る時間がなかったし、現生徒である柊夜に案内してもらうのが1番効率的だろう。
「うん、僕も案内しようと思ってたから任せて」
そう言って胸を張る柊夜の後ろをついていく。校舎を一目見て一番気になったのは建物が三つあることだ。二つの棟はつながっているが一つは完全に離れている。
「建物三棟はそれぞれどんな風に使われるの?」
「まずつながってる二つの建物は南棟と北棟って呼ばれてて南棟には普段生活する各教室があるんだ。で、北棟の方は特定の授業で使う教室だったり、職員室だったり、部室だったりがあるんだ。ま、僕たちオカ研の部屋は無いけどね。空き教室いっぱいあるんだから貸してくれてたっていいのに……」
なるほど、基本生徒が出入りするのは南棟がメインなのかな? 北棟は特定の状況でしか行かないような気がするし……だが、図書室等も北棟にあるらしいのでそこそこ人は出入りしているらしい。
「それで、あっちの建物は保健棟だね」
柊夜は二つの建物から少し離れたところにある真っ白な建物を指さす。
「保健棟?」
恐らく名前の通りのものなんだろうが、それって高校にあるようなものなのか? 大学とかならわかるけど……
「うちの高校はちょっと……っていうかかなり野蛮だからね。保健室だけじゃすぐにいっぱいになっちゃうんだよ」
そういえば風紀を乱すやつを全員ぶちのめそうとしてた部活とかもあったな。じゃあしょうがない……のか?
とはいえやらかさなければ行く機会もそうそう無いみたいだし俺もお世話になることはないだろう。
「荷物置きがてら南棟に入っちゃおうか、まあ別に大したものがあるわけではないんだけど」
自分の下駄箱の位置を教えてもらい靴を入れ、上履きを履いて校舎内を歩く。体育祭ということもあって校舎内に人はほとんどおらず、既に運び出されたのか教室内にも机くらいしか無かった。
「ここが僕たちの教室1-3だよ。教室の後ろにあるロッカーのあそこが君が使っていいやつだから心配なら荷物とか入れておけば?」
ロッカーにつけられた鍵はパッと見でもかなり頑丈そうに見える。少なくとも筋力でこじ開けるのは難しそうだ。まあ、やるわけではないんだけど……ってなんか入ってる。
ロッカーを開ければそこにはもぞもぞと蠢くナニカが入っていた。
それは食べ物だった。いや、食べ物だったものと言った方が正しいだろうか……その体は紫色であり到底食べ物には見えない。境目らしきところからは触手のようなものが生えており、それが時折手足のようにビタンビタンとロッカーの壁を叩いていた。しかし、鼻腔をくすぐる甘い匂いはメープルシロップの類だろうか? 朝ごはんを食べたばかりだというのにお腹が空いてくる。視界から与えられる情報と嗅覚から与えられる情報が限りなく矛盾しており頭が混乱してくる。ただ一つわかるのはそれが食べ物だということだけだった。
紫色のナニカは外へ出たがっていたのだろうか、ロッカーを開けて窓の方へと連れていくと感謝を告げるように一度バウンドした後こちらへ背を向けてそのまま裏庭へと消えていった。
「何だったんだアレ?」
作られたばかりなのだろうか、ほんのりと手に残る温かさを感じながら俺は空っぽとなってしまったロッカーに目を向ける。しかし悲しくはない、なぜならあのナニカが残していったズルズルとした液体がロッカーには残っていたからだ。
「登校早々にロッカーの掃除から始まるって何?」
なんだろう、新手のいじめだろうか? だとしてもいじめっ子があの謎のナニカが作れるとは思えないし、そもそも登校初日からいじめられるとは思えないし……恐らくは一般通過食べ物だろう。
柊夜に雑巾の場所を聞いてロッカーを掃除する。何があったのか聞かれたので起こったことを説明したら不思議なこともあるもんだね〜と言われたからあの生き物? がこの世界で普通に現れるわけではなさそうだ。
「おはー……って柊夜じゃん。ということはそっちの子が……」
掃除がひと段落つき、荷物を入れていると教室の入り口の方で話し声が聞こえた。振り返ると頭に赤い鉢巻を巻いた明るい茶髪の青年がいた。彼は俺の方を見るとゆっくり近づき手を差し出してきた。
「俺は
「俺は䋆井凪都、よろしく」
明斗が差し出してきた手を握り返し自分の名前を言う。明斗は嬉しそうにぶんぶんと手を上下に振った後に手を離す。
「柊夜の知り合いってことでちょっと不安だったけどまともそうで良かった」
「いや、僕のことなんだと思ってるの?」
明斗の言ったことが納得がいかなかったのか、柊夜がツッコミをいれる。
「オカルトを学校中にばら撒こうとするヤバいやつ?」
「ぐうの音も出ない」
2人の会話を聞いていると普通に仲が良さそうに見える。同好会メンバーが集まらないと言っていたからてっきり友達も殆どいないと思っていたがどうやらそうでは無さそうだ。
「……っと凪都も会話に入れよ!」
気がつけば明斗が俺の横に立ち肩を組んでくる。
「なんの話をすれ……」
「というかさっきまで2人は何をしてたんだ? 教室に荷物を置きにきてたのか?」
会話に参加させるために話題の提供までしてくれるとは……こいつ、もしかして陽キャか? 考えてみれば距離の詰め方凄いし陽キャだな、うん。
「今は柊夜に学校の案内をしてもらってたんだ。まだ体育祭が始まるまでには時間があるみたいだし……明斗の方はどうしてこんな時間にもう学校にいるんだ?」
「そんなもん決まってるだろ? 賄賂だよ」
俺に疑問に明斗はドヤ顔をして持っていた鞄から封筒を取り出す。当たり前のように賄賂が蔓延っている学校って何だ?
「これで審判を買収することで俺たちは体育祭に勝てるって寸法よ」
自らのお金を切ってまで体育祭って勝ちに行くものなのか? それとも明斗はそんなことが出来るほどお金を持っているのだろうか。
「……」
色んな疑問が頭に浮かぶが、柊夜が黙って明斗の持っている封筒を見ていることに気がつく。
「どうかしたのか?」
「いや、この前鋼我が最近お金ないな〜って言ってたような気がするなって」
それがどうかしたのだろうか? お金がない時など誰にでもあることだろう。
「鋼我ってもしかして上折鋼我!? 『血塗れトンファー』の異名を持つ、あの!?」
「待ってあいつってそんな変なあだ名ついてんの?」
血塗れトンファーってなんだよ。確かにあいつトンファーとかいう武器使ってるけれども……一体何やったらそんなあだ名つけられることになるの?
「まあ、かつあげやいじめの現場に現れては全てをボコし迷惑料として財布の中身を奪っていくって噂だからね」
「えぇ……」
マジで何やってんのあいつ。前に会った時はそこまでヤバい奴って感じしなかったんだけどな……真白の方がイカれてたし。
「それで、それと明斗の賄賂とが何の関係が?」
「普通に考えてみてよ。賄賂って悪いことじゃん?」
「そうだな」
一応賄賂は悪いことっていう常識はこの世界にもあるみたいだな、あまりにも自然に明斗が賄賂を出してくるもんだからこっちの常識が違うのかと疑ってしまっていた。
「つまり、もし賄賂の現場を見られてしまったら……」
「自身に正義があると思った鋼我が賄賂を奪いにくるかもしれない……と」
「そういうこと」
なるほどな? 自分で口に出しては見たけど普通に意味わかんないな?
「なっ……」
しかし、明斗にはその事実が衝撃的だったようで封筒を地面に落としてしまっている。
「そういうことだから賄賂はやめた方がいいよ。というかここで賄賂とか通用する気しないし」
「俺はただ体育祭に勝ってみんなで打ち上げしたかっただけなのに……」
打ち上げのために賄賂をするのはなんか色々間違ってないか?
「負けたってお疲れ様会くらいできるでしょ。もしそれだけじゃ不満ならあれだよ、凪都の歓迎会ってことで」
「それもそうだな。よし、じゃあ凪都の歓迎会兼お疲れ様会だ!」
俺の方が優先度高いの何でなんだ? いやまあ嬉しいけど……
「それっていつやるんだ?」
「今日の夜」
わー早い、居候だしなんか予定が入っているわけではないけど急に言われるとびっくりしてしまう。
「そうと決まればみんなに報告だ! よし、2人ともついてこい!」
明斗に手を引かれてやってきたのは校庭だ。先ほどは校舎の方しか見ていなかったから気がついていなかったが、既に校庭には人がいて競技の練習をしていた。どうやらこの時間に校庭に来ている人は競技を教えてもらえるらしい。
「みんな! 彼が転校生の䋆井凪都だ。俺の判断的にまともな人だから安心していいぞ」
明斗が声をかけるとおそらくこれからクラスメイトとなるであろう人たちが集まってくる。
「ほんとだー」
「俺、佐藤田中。よろしくな!」
「柊夜君ってまともな友達いたんだー」
「ねえねえ、䋆井君って普段何やってるのー?」
「新たなクラスに馴染めず唯一の友人に依存していく……これは新刊の予感がしますね……ふひっ」
一斉に声をかけられて思わず動揺してしまう。というか、今変なのいなかった? 気のせいか……
軽く自己紹介をして詳しい話は体育祭が終わってからしようということになった。みんな棒倒しの練習をしているようで誰が攻勢側に回るかやどんな風に棒を守るかなどを練習しており、俺は来たばかりということで柊夜と共に棒を守る方に加えてもらう。
「なんかいいな」
凄い、校庭に集まってみんなで体育祭の練習をするってめっちゃ青春の1ページって感じがする。…………校庭の真ん中の方で真白が大穴を掘っていることから目を背ければ。
「何やってるんだ……」
流石に止めようと一歩近づいた瞬間、一陣の強い風が吹き抜ける。そのこと風に気を取られた瞬間、真白は空へと打ち上がっていた。何が起こった?
急いで辺りを見渡してみるが原因となるようなものは見当たらない。わかるのは風が通る瞬間、一瞬だけ白い何かが見えたということだ。
「どうかしたか?」
「……いや、何でもない」
明斗の声に振り返りもう一度校庭の真ん中を見た時には既に真白だったものは無くなっていた。
そんなこんなありつつ時間は経過して開会式の時間になる。その間にも何度も自己紹介をしたり、賄賂を渡そうとした奴が鋼我によって蹂躙されたり、何事もなかったかのように真白が校庭に現れたりなど様々なことがあった。
壇上に校長先生が立ち、マイクを握る。その美しい頭は空から舞い降りる神々しい光を反射して俺たちの視界を傷つけた。
「今日は皆さんが待ちに待った体育祭です。今日は一日中晴れの予報で今の空には雲一つない、きっと皆さんの思いが天に届いたのだと思います」
長い校長先生の話はどの世界でも共通みたいだな。
「さて、今日皆さんに話すことは熱中症につい『校長先生ありがとうございましたそれでは、続いて選手宣誓をお願いします』」
「えっ」
だが、流石に話の最中に放送によってぶった斬られたら驚かざるを得ない。しかし、驚いた俺とは対照的に他の生徒たちは至って当たり前のようにその光景を眺めていた。
放送によって次のプログラムへと進み3人の団長が未だ話を続けている校長先生を無視して壇上の前へと立つ。それぞれの頭には赤色、青色、緑色の鉢巻が巻かれておりその色が彼らが背負っている団を表していた。
「「「宣誓! 我々、選手一同は!」」」
「スポーツマンシップを乗っ取り」
「最後まで諦めず」
「どんな手を使ったとしても必ず勝利を掴み取ることを」
「「「ここに誓います!」」」
うおおおぉぉぉぉぉぉ
団長の宣言と同時に歓声が上がる。こういうのはノっておいた方が楽しいので俺も大声を出す。ただ、口上がおかしい気がするのは……これいちいちやっていくのめんどくさいな。そういうものなんだといい加減納得しないと……いや無理だが? そもそも何で常識を変えなきゃいけないんだ。いや、でも郷に入っては郷に従えって言うしな……
『では、最初の競技に参ります。最初の競技は一年生による棒倒しです』
みんなが移動し始めたことに気がつき我に帰る。自分の常識うんぬんは別に今決めなきゃいけないわけでもないし気にしないようにしよう。
『棒倒しのルールは攻撃隊と防御隊で2つに分かれ、相手チームの棒を倒すか先端に刺さっている旗を抜くことができれば勝利です』
少しの時間だけだったが練習の成果を出すために覚悟を決める。大丈夫、自分たちでやっていた時はちゃんと守れていた。だからそれを再現するだけでいいんだ。
「あれ?」
しかし、戦場に並んだ1年生の姿を見てあることに気がつく。
「棒倒しって三つ巴でやるものじゃないだろ……」
それぞれの色が向かい合う状態で校庭に並んでいるのだ。二つの色に一斉に襲われればひとたまりもない……どうしたものか。
『それでは! 棒倒し開始です!』
しかし、作戦を考えるまでの時間があるわけでもなく無情にも戦いが始まってしまった。やるしかないか……
「みんな! 行く「──ージョン!!!」
明斗が言い終わるよりも先に少女の声が聞こえたと思えば眩いばかりの光が視界を覆いその後訪れた衝撃によって俺は意識を失った。
クトゥルフの小説を書いてたつもりが俺はもしかしたら現代異能モノを書いていたのかもしれない……
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