クトゥルフ世界に飛ばされる一般PL君 作:冷たくて美味しい紅茶
「優!」
2週間ほどぶりに見た姿に思わず声が高ぶる。優はあっという間に周囲にいた人々を片付けるとこちらへと向く。
「無事で良かった」
心底安心したように表情を綻ばせる。その姿は見る人が見れば恋に落ちてしまいそうなほど美しいものだった。
「本当に助かった……で、リーダーって?」
再会は嬉しいのだが聞き捨てならない言葉が聞こえたので聞き返す。すると、その質問が分かっていたかのように俺の背後から柊夜が現れた。
「そこは僕が……まあ、訳あって彼がうちの同好会に入ってくれることになってね」
なるほど、要は優が味方に加わってくれたというわけか。恐らくあの空間で別れたはずの俺がこっちの世界に現れたから近くにいた柊夜に聞いて困ってたから助けてくれたのかな? ……いやでもそこまでしてもらう義理あるか? 言うてあの世界でちょっと仲良くなったくらいな気がするが……まぁ助けてくれるならなんでもいっか!
「よぉ凪都! この間ぶりだな、遊びに来たぜ!」
近くにいる生徒を蹴散らし、化け物を鎖に巻きつけて引き摺りながら鋼我が現れる。返り血なのか赤い液体が至る所に付着しているが今は気にしないでおこう。
「鋼我……お前何の部活入ってるんだ?」
ただ、先程の明斗で学習した俺は距離を置きながら鋼我に質問をする。化け物や生徒をしばいているということは確実に何かの部活動に参加しているだろう。
「なんとかかんとか粛清部!」
風紀を乱す奴ら全員粛清対象部か……野蛮な部活だなとは思っていたがまさか入ってるやつが身近にいたなんて……
「彼らは私たちと協力関係にあるから安心してくれ」
「お前をぶら下げておけばそれに釣られて人が集まるだろ? そしたらそいつらを全部潰せば俺達はウハウハってわけよ」
気がつけば周囲には生徒の残骸が積み上げられており、その中から女性が出てくる。
「そういうこと、お疲れ様。凪都さん」
「……桃花さん、お疲れ様です」
桃花さんは俺と同じで戦えない枠だと思ってたんだけどな……いや、あの2人と一緒にいれる時点で戦闘能力はあるに決まってたか。
「危ねぇなぁ!」
鋼我が突然飛んできた化け物を地面へと叩き落とす。その動きは前に見た時よりも精錬されていて心得がない俺でも美しいと思ってしまうほどだ。
「うわっ何だあれ!」
少し遅れて化け物が飛んできた方向を見ればそこには巨大な紫色の蠢くものがいた。その姿には見覚えがある、俺が背中に背負ったナニカとそっくりなのだ。
「あれは遠坂真白、頭の中が茶畑で出来てるんだ」
鋼我が指をさした先には巨大版ナニカではなくその手前で笑顔で化け物をシャベルで引き裂いている真白の姿があった。……シャベルってそうやって使うものだったんだな。
「乾燥した茶葉を砕いて鼻から吸っているって噂があるよ」
そう鋼我が耳打ちしてくるが流石に冗談だろう……冗談だよな? いや、でも勝手に公園を茶畑に変えようとする奴だし……
「凪都はっけーん!」
真白はこちらを認識するとぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる。その姿だけだったら平和なんだけどな、背景の死屍累々が現実逃避をさせてくれない。というかどいつもこいつも戦闘能力が高くて疎外感を感じるな……いや、同じようになりたいとは思わないけどさ。
「きゅ〜」
背中にいたナニカは俺の背中から飛び降りると巨大版ナニカの方へと飛び跳ねていく。何かがあるような気がするのでとりあえずついていこう。
「ぎゅー!!!」
巨大版ナニカは近くにやってきた生徒に手当たり次第に触手を振り下ろしている。忙しなく身体を捻らせ何かを探しているように見えた。
「ゲホッゲホッ……」
巨大版ナニカが振り下ろした直後、こちらへと何かが着弾し砂煙があがる。しかし、そんな砂煙もその後に続く突風によって吹き飛ばされる。
「貴方は……」
「さっきぶりです狩咲さん。なんかあの子が飛び出しちゃって」
砂埃からは現れたのは狩咲さんだった。彼女は持っている巨大な棒で飛んでくる触手の連撃を全て捌いている。化け物か?
「あの子は?」
「それが俺もよく分かってなくって……今朝出会ったばかりですし。ただ、あの巨大なのに似ている気がするんです。あの巨大なのも何かを探しているように見えますし、アレが原因なんじゃないかって」
「なるほど……?」
何言ってんだこいつという目で見られたがナニカが巨大版に近づいた結果ピタリと攻撃が止まったことによりとりあえず様子を見ようということになる。
「ぎゅ~!!!」
「きゅ~きゅ~」
「ぎゅ~!!」
「きゅ〜」
「ぎゅ〜」
ヒシッという効果音がつきそうな感じで二つのナニカは身体をくっつける。すると突然周囲一体を眩いばかりの光が包んだ。
「うわっまぶし」
あまりの光に思わず目を瞑り、再び目を開いた時には巨大だったはずの片方のナニカは小さく縮んでいた。
「きゅ〜」
「きゅ〜きゅ〜」
二つのナニカはこちらを一瞥するとそのまま背を向けてどこかへ行こうとしたがその前に人に持ち上げられてしまう
「おぉ……自身のサイズを変化させることもできるのか、これは素晴らしい!」
白衣に身を包んだその人物は興奮気味にナニカを眺めるとそのままバケツに入れてしまう。
「早速研究室に持ち帰って研究を……」
「や、やめてください…… 可愛いウチの子なんです!」
しかし、その白衣の人物を黒髪でダサい耳飾りをつけた人物が止める。ウチの子ということは彼女があのナニカを生み出した人物なのだろう……クッキング部かな、クッキング部だよな。だってあのナニカメープルシロップの香りがするし……もしかしてパンケーキとかだったりするのか? いや、でも何やったらパンケーキがあの化け物に……
「俺馬鹿だからわかんねぇけどよ……何が起こったかわかんねぇわ」
近くへとやってきていた鋼我の声で思考を止める。気がつけば周囲にはみんなが集まってきており、白衣の人物と黒髪の人物が問答をしていたのを眺めていた。
「大方この生き物を作ったのは君ということだね?」
「ふふん、すごいでしょう」
「だったら話が早い! 今すぐ君もともに研究室に来てくれ!」
「嫌です! 明、対処してください!」
「あ、そうそう君」
そんな姿を眺めていると白衣の人物が俺に向かって声をかけてくる。
「君は確かオカルト研究同好会の生徒だろう? サイズが小さくなったからポイントそのままとはいかないが半分くらいは入れてもらうよう掛け合っておこう」
白衣の人物は要件だけ伝えると満足したのかそのまま黒髪の人物を引きずって校舎へと歩いて行ってしまった。先程の意味がよくわからなかったのでみんなに尋ねるとどうやら白衣の人物が巨大版ナニカに懸賞金をかけていたらしくその報酬が俺に回ってくるということらしい。よくわかんないけどラッキーだな、ヨシ!
「腹減った……」
色々なことが起こりすぎてて忘れていたが、昼飯を食べていないことを思い出す。
「作ってた弁当はどうしたの?」
「お腹すかせてた子がいたからその子にあげた」
「そんな子がいたんだ」
別れてから1時間も経ってないけどあの子元気かな……追いかけてきてた奴らは全員俺の方に来ていたので攻撃されてるようなことはないだろうが、もしかしたらあの子もめっちゃ強いかもしれないし心配するだけ無駄か。
「明日みんな空いてない?」
学校からの帰り道、柊夜がそんなことを言う。
「明日って学校じゃないのか?」
「体育祭で校長先生が怪我をしたからね、明日は休みなんだよ」
校長先生が怪我したから休みって何だ? いや、そもそも怪我してたんだ……ポイント別に多くないしスルーされると思ってた。
「打ち上げ行こうぜ!」
「 (`・∀・)ノイェ-イ!」
鋼我が持っていたトンファーを掲げ、それに合わせて真白がシャベルを投げる。
「……そうね、明日打ち上げしましょうか」
「肉食おうぜ肉」
こいつバーベキューとかやったら肉しか食わなそうだよな。……肉の奪い合いで戦争が起こりそう。
「だったらこの前探検したうちに来ない?」
確かにあの家だったら広さも結構あるし、行きはしなかったが入る時には庭も見えていた。大規模ならともかく中小規模の打ち上げくらいなら不満なく行えるはずだ。
「入れるようになったしな」
まだ風呂場と洗面所しか掃除が終わっていないが敵がいないとわかっている今だったら時間をかけて掃除ができる。場所を提供するのだから掃除くらい手伝わせてもいいだろう。
「私も行っていいのか?」
「いいんじゃね? 俺は歓迎するぞ」
打ち上げというのは人数が多ければ多いほど盛り上がるものだ。最悪知り合いじゃなかったとしても打ち上げ中に仲良くなればいいだろう。
「だったら私の方から2人呼んでもいい? こいつらを制御するために友達を呼びたいの」
「問題ないよ〜」
そんな話をしながらそれぞれの家へと別れて行った。
=========================
「えーっと……赤組勝利、みんなお疲れ様、乾杯!」
「「「「かんぱーい」」」」
みんなと別れてから柊夜と2人でクラスの打ち上げに参加する。本来であれば明斗が音頭を取るはずだったが、クラスメイトにボコボコにされて床に転がされているため代わりに新規メンバーである俺が音頭を取ることになった。
クラス全員で同じ席は無理なので机ごとに別れてはいるが、時間ごとにメンバーを回してみんなと話を出来るような配慮がされている。特に俺から話を聞きたいという人が多いみたいなので俺1人で色んなグループを回ることになってしまった。
「ねぇ、凪都ってこの学校来る前は何処に住んでたの?」
「䋆井って普段暇な時何やってんだ?」
「狩り者の時、武本君と仲良さそうだったけどいつ知り合ったの?」
「中性的なクラスメイトとイケメンな優等生の取り合い……インスピレーションが!」
「誰か明斗のこと外に捨てといて〜」
皆から投げられる質問に受け答えをしながら食事を食べ進める。結局あの後身体が汚れてたからシャワー浴びたり着替えをしたりしてたからご飯を食べる時間がなかったのだ。
「何処に住んでた……強いていうなら別世界?」
言うかどうか悩んだが、常識が違ったり、流行が全くわからなかったりなどどうせそのうちボロが出るので先に伝えておく。
「えぇ……どういう意味?」
「いやさ、寝て起きたら白い空間にいてそこから脱出したらこっちの世界の公園にいてさ、優や柊夜と出会ったのもそのタイミング」
「いや〜目の前に凪都が現れた時はびっくりしたよね。オカルトが現実に! ってテンション上がったよ」
柊夜の言葉もあったおかげでみんな納得してくれる。というか、別世界かはともかく、人が突然現れたり、起きたら謎空間にいるなどの経験をしてる人が何人もいた。
「あっ俺も似たようなことあったことあるわ」
いつのまにか店に戻ってきていた明斗もその1人のようだ。
「明斗の方ではどんな感じだったんだ?」
「えーっとたしか……寝て起きたら四方が壁に囲まれた部屋にいて、部屋の真ん中には机と椅子があって」
本当にシナリオでよくあるパターンも起こるんだな。と言うかこの状況既視感が……
「あっそうそう椅子に紙が乗ってたんだよな。確かそこには……『帰りたいなら一時間以内に毒入りスー「OKもういいぞ」……どうして止めるんだ?」
「いや、これ以上は言わせちゃいけないような気がして」
よくないよくない……危うく何処かから怒られてしまうところだった。
「結局どうやって帰ってきたんだ?」
「それが、俺も覚えてないんだな〜机に近づいたら足滑らせて机蹴り上げちゃって上から黒い液体が降ってきてそれが口に入ったと思ったらベッドの上だった」
何でこいつ最初からRTAみたいな動きしてるんだ? というかそれで帰ってるなら少女とも出会えてないのか……なんか可哀想だな。
「あっ」
そういえば優とは出会ったのに風の存在はすっかり忘れていた。ただ、あの子もなかなか強かだからな……優の方にいるかもしれないけどいなかったとしても上手くやってるでしょ、多分。
それからも質問攻めにあったり明斗をボコしたりしていたらすっかり時間が経ってしまった。どれだけボロボロになったとしても変わらず接してくる明斗にはちょっと引いた。
「この後カラオケ行く奴いる〜?」
会計を済ませ、クラス全員が店の外に出てから明斗が確認を取る。お金はどうしたのかって? 俺は持ってないので柊夜に立て替えてもらっている。……なんかヒモみたいでやだな。とはいえ働こうにも柊夜に止められているので働けない。柊夜が始めたいことがあってそれの準備がまだ終わっていないようなのだ。
「いや、俺たちは……」
「そうだね、僕たちは明日も朝からやることあるから今日は帰らせてもらうよ」
カラオケには行きたい気持ちはあるが明日はあの家の掃除をやらないといけない。家は広いしあの時の記憶を遡ればかなり汚れていたような気がするので時間がかかることは確定だ。
「じゃあみんな、また水曜日」
「おう! またな」
「ばいばーい」
みんなにお別れを告げて柊夜と家に帰るついでにホームセンターに寄っていく。家全体を掃除するのだから効率の良さそうな道具は買っておいたほうがいいだろう。
「あっ真白だ」
ホームセンター内で真白を見かける。熱心にシャベルや肥料の棚を眺めていた。
「あっ2人だ、どうしたの? こんな時間に……わかった! 僕に感化されて2人も茶畑が作りたくなったんだね! いや〜それなら早く言ってよ。でも安心して、僕は優しいから2人にも茶畑作りの極意を教えてあげる。もちろん授業料は取るけどね」
真白がこちらに近づき俺にシャベルを握らせる。そのシャベルをそっと棚に戻して真白へと向き直る。
「いや、俺たちは良さげな掃除道具を探してただけ。そっちは何してたんだ?」
「え〜……まあ僕はこの前茶畑にしたはずの公園が元に戻ってたから今度は看板でも立てようと思ったんだ。せっかく人が頑張ったのに元に戻すなんて酷いと思わない?」
「全く思わない」
そもそも公園を茶畑に変える方が悪いんだから同情するわけないだろ。ってか公園を茶畑にするってなんだよ……やっぱ意味わかんねぇよ。
「まあいいや、掃除道具だったらやっぱりシャベルがおすすめだよ。殴ってよし刺してよしで更には穴まで掘れるし」
「言っとくけど掃除って人殺しのことじゃないからな?」
「そうなの!?」
真白と話してると色んな齟齬が発生して疲れてくる……この世界の常識が俺のものとは違うことは理解してるがそれでもこいつの常識が普通じゃないことだけはわかる。横に立ってる柊夜でさえ苦笑いしてるくらいだし。
「僕掃除道具探してくるから……凪都、相手よろしくね」
「あっおい!」
真白がシャベルについて熱く語り始め、その空間に耐えきれなくなったのか柊夜が逃げ出した。追いかけようにも真白に捕まってしまい逃げることができない。
「そういえば、明日何か持ってくものある?」
ひとしきり説明して満足したのか明日の予定を突然聞いてくる。
「そうだな……とりあえず焼けそうな肉や野菜を買って昼くらいに来てくれないか?」
先に来て掃除を手伝ってもらおうかとも考えたが真白が掃除をすると逆にこっちの負担が大きくなりそうなので買い物担当になってもらおう。
「だったらパーティーだしケーキも買ってこよっと。ケーキとか誕生日ぶりだな〜あっ凪都の誕生日っていつ?」
「5月17日だな、特に何もいらないぞ」
過去に絶望的に反応に困る誕プレを貰ったことがあるのでそれ以降プレゼントは必要ないと伝えるようにしているのだ。
「えっ、明日じゃん! も〜言ってくれれば何か用意したのに」
明日、明日だったのか……個人的に前の世界の時間感覚が残っているからまだ2月くらいの気持ちなのだ。というか俺の肉体ってどうなってるんだ? 前の世界からそのまま引き継がれているのかそれともこの年代に合わせて作り替えられてるのか……わからんな。
「いらない! 絶対に何もいらない」
「またまた〜そんな照れなくていいのに。あっ、僕の誕生日は6月9日だから凄いもの頂戴ね」
真白が用意するものとかろくでもない予感しかしないので止めてくれと思うが俺にはこいつを止める手段がない。俺は……よ"わ"い"!
「そうと決まればこうしちゃいられない。僕、やることできたから帰るね! じゃ!」
説得するよりも早く真白はホームセンターを飛び出して行った。もうどうしようもないので明日の俺に任せよう。頑張れよ、明日の俺!
「真白は帰ったみたいだね。買い物も終わったし僕達も帰ろうか」
それから少しして、多くの荷物を持った柊夜が現れる。面倒なものを押し付けてきたこいつに報復をしたいが今はその気力も湧かない。トボトボと帰路についてそのまま明日の自分の身を案じながら眠りにつくのだった。
シナリオ『血で血を洗う地獄の体育祭』編終了です。いや〜キャラがどんどん増えてって口調の使い分けが出来ない!
評価やコメントなどを貰えるとモチベが上がるのでお願いします!(乞食)