クトゥルフ世界に飛ばされる一般PL君 作:冷たくて美味しい紅茶
「いや、これは……」
「ス──……違うぞ凪都。俺たちは悪くない、柊夜が突然俺と優の間に入ったのが悪いんだ。もう一度言う、俺たちは悪くない」
優と鋼我が何か言っているがそれを聞いている場合ではない。とりあえず庭についた火を消したいが火に水をかけるのって正しいんだっけか……いや、とにかくやらないと家ごと燃えるかもしれない。
「なんでもいいから2人は柊夜の手当てして」
2人に指示を出し俺は地面に転がったみんなをどかしてから水をかけて後処理をしていく。地面に転がったトンファーとシャベルが焦げ付いていることから勢いよくぶつけた結果、火花が散りそれが砕いた家具の残骸に引火したのであろう。
「それで、何があった?」
完全な消火とみんなの手当てが終わった後に全員を起こしてから話を聞く。
「こいつがふざけたこと言い始めたのが原因だ」
鋼我が真白を指さす。その言葉には憎悪とも呼べるような気持ちが込められ目線は射殺さんばかりだ。そこまでの地雷を踏み抜いたってことなんだろうか?
「は? 鋼我が意味わかんないこと言ったんじゃん!」
それに負けじと真白が反発をする。その熱意は鋼我と同等のもので自分が正しいことを微塵も疑っていないように思える。戦争は正義同士のぶつかり合いとはよく言った物だな……とはいえ、別に犯人探しをしているわけではないのでそこで争われても困るんだよな。2人の一触即発の状態を仲裁しようかと思った直後、桃花さんの蹴りが刺さる。
「あんた達は黙ってなさい」
ちなみに3人以外の人たちはと言うと処刑台に立たされた囚人のようにただ裁かれるのを待っているように見え、到底話を聞けるようには見えない。
「とあるお菓子について口論をしていたらヒートアップして……」
「それで戦闘に発展したと」
「…………はい」
「馬鹿か?」
いや、本当に馬鹿か? 口論までは理解できなくもないが戦闘までは全くと言っていいほど理解できない。野蛮すぎんだろ。
「「いくら凪都といえどその発言は許さな「それで人の家燃やされたら溜まったもんじゃないんだが?」
お前らがどれだけ熱意を持っていようとも被害者は意味もなくぶっ飛ばされた柊夜と消火活動させられた俺なんだわ。しばくぞ?
「まあまあ、そろそろ焼けたしみんなも食べなよ」
いつの間に続きを焼いていたのか柊夜が紙皿に焼いたものを乗せてやってきた。全身を包帯でぐるぐる巻きにされており絶対に意味ないところまで冷やそうとしている。誰がやったのか知らないけどある意味器用だな。
「一応言っとくと一番美味しいのはすぎのこだから」
……お前もかよ。
「は? あれはもう発売停止してんだろ」
その一言が聞き捨てならなかったのか鋼我が反応をする。しかし、その発言が想定通りだったのか柊夜は含みのある笑顔を浮かべる。顔ほとんど見えてないけど。
「今は……ね?」
「……まさかお前!?」
「ご想像にお任せするよ」
何やってんだこいつら。
「そう言う凪都はどうなんだよ〜どうせお前だってきのこなんだろ?」
まためんどくさそうな雰囲気になってきたので逃げようと思ったがその前に鋼我に捕まってしまう。
「たけのこに決まってんじゃん何言ってんの?」
何で真白はいつまで経っても喧嘩腰をやめないんだ……真白だからか。
「いや、あれは両方買って争いを起こすのが面白いんだろ。それ単独には特に思い入れはない」
懐かしいな……前にそういうタイプのシナリオを持ってってKPやったりしたんだよな。
「……飯食うか」
「ごめん、僕が悪かったよ」
あれ? 思ってた反応じゃないんだけど……何でそんなドン引きするような目を向けてくるんだ? なんか全然目も合わせてもらえなくなっちゃったし。
「僕が言うのも何だけど凪都も相当狂ってるよ」
柊夜がポンと肩に手を置いてくる。本当に酷い言われようなんだけど……納得がいかない。
「まあ良いか」
あんまり気にしすぎてもしょうがないのでみんなについていく。ただ、俺自身はお腹いっぱいなので焼くの専門だ。柊夜が下処理した食材を片っ端から焼いていく。
「優、そういえばあの子とはあれ以降会ってないのか?」
もぐもぐとご飯を食べる優に
「いや、見てない。ただ、あの日起きた時布団の近くにこれがあった」
優はそう言って首につけたネックレスを見せる。そのネックレスはチェーン状のよくあるものに見える。しかし、その途中には見覚えのあるものがあった。
「あの時の指輪の片割れ? いや、でも色が違うな……」
あの空間で風が手に入れていた二重になっていた指輪の片割れに似ているような気がする。だが、あの時の指輪は銀色だったのに対してネックレスにつけられた指輪は緑色だ。
「そうなんだ。だが、このネックレスを持ってると身体が軽くなったような気がして……」
不思議な力とかが込められたりしているんだろうか?
「もしかしたら風との繋がりとかになるかもしれないし無くさないようにしないとな」
「もちろんだ」
優しい手つきでネックレスの指輪の部分を握っている優からは目を離し、お腹いっぱいになったのか勝手に庭に茶畑を作り始める真白とそれにドロップキックをかましている桃花さんを眺める。俺の感覚も麻痺してきたのかこの光景を見ても何も思わなくなってきたことに危機感を覚える。
「あー、凪都って呼んでも良いか?」
遠い目をしながらみんなを眺めていたら彰が声をかけてくる。
「別に良いけど、なんか食べたいものでもあるのか?」
焼きの番人と化した俺に声をかけるということはまだ食べ足りなかったりしたのだろうか?
「いや、さっきのことでやっぱりちゃんと謝っておきたくてな。本来あいつらを止める役として呼ばれたのに迷惑かけて悪かった」
「あっ、それ私も……体育祭の時は蹴り飛ばせたけどさっきはすぐやられちゃってごめん」
彰が頭を下げてくる様子を見てか知命さんも謝ってくる。
「うーん……あれを制御する方が不可能に等しいんだしあんま気にしなくて良いよ」
ただ、さっき文句は言い終えた後なのでもう気にしてはいない。だから謝られても困る……というかちょっと待って? 体育祭の時に蹴り飛ばせたってもしかして柊夜の話に出てきた急に背後に現れて鋼我を倒した時のことなのだろうか?
「もしかして知命さんって忍者?」
「はっ? えっ、いや、うん……えっ?」
伝え方が悪かったのか知命さんは完全にフリーズしてしまった。
「体育祭の時に鋼我にトドメを刺した人がいるって聞いたから」
「いや、まあそれは私なんだけど……いや、確かに背後から蹴り飛ばしたよ? でも、だからって忍者って……えぇ?」
「Oh! ジャパニーズニンジャ! Hey!」
俺たちの会話が聞こえていたのか鋼我が乱入してくる。乱暴に肩を組みエセ外国人みたいなことを言っている。
「えっ忍者? どこどこ!?」
「いや、あんたまで反応したら収集つかなくなるから」
「僕もまだ忍者の家系には会ったことないかもな〜」
「私もないな」
騒いでいたらどんどんと人集まって来て賑やかになっていく。前の世界でも仲の良い友達はいたが家でBBQをやったりとかする仲では無かったのでこういうのは新鮮だ。意外と騒がしいのもいいな、うん。
「ゲームやろうぜー」
昼飯を食べ切った後に鋼我が家の中に入っていく。それに続くようにみんなが家に入って行った。
「私、この後予定あるから今日は帰る。誘ってくれてありがと、楽しかったよ」
しかし、知命さんは家に入らずに帰宅の旨を伝えてくる。
「今日は本当にありがとう。知命さんがいなかったらもっと掃除に手間取ってたから……」
力仕事とか俺と柊夜が貧弱すぎて任せっきりになってたからいなかったら2倍以上の時間がかかっていたことだろう。これからのためにも体鍛えといた方がいいかな……
「私も昼ご飯とか貰ったしノーカンノーカン。まぁ、気にするんだったら私は逃げたって考えてといて」
「逃げた?」
一体何から逃げる必要があるんだろうか……なんか嫌な予感が。
「気づいてないみたいだから言っておくけどあいつら夜に闇鍋するみたいだから気をつけて」
「えっちょま」それじゃ、ばいばーい」
知命さんは本当に逃げるように足早にその場を後にする。闇鍋……むしろ何で気づかなかったんだよ俺! あの2人ならこういうのやるに決まってんだろ!
「凪都ーお前が来ないと始まらないぞー」
「はいよー」
この後に一抹どころか百抹くらいの不安を抱えながら家に入る。家では既にレースゲームの準備がされておりみんなが座ってコントローラーを持っていた。え、もしかしなくとも今日これ買ったの? この人数が集まることとかそうそうないだろ。
「ゲームというのを全くやったことがないんだが、私でもできるだろうか?」
「それなら僕がサポートするよ。とは言ってもそんなに難しいものでもないけどね」
そんな話を聞きながら準備を済ませレースを開始した。
「こいつ強ぇ」
「まさか僕と鋼我の妨害が全く意味をなさないなんて……」
別世界であってもゲームであることには変わりない。過去に培った実力が発揮できるので負けることはなかった。
「アクションゲームでも格ゲーでも相手してやるよ」
珍しく勝てそうなことができたので思わずテンションが上がりながら皆に喧嘩を売る。
「くっ……こうなったらリアルで!」
「やめなさい」
戯れている2人を眺めながらジュースを持って全然話に入り込めていない彰に声をかける。
「彰、空気だけど大丈夫か?」
「俺、結局仲良いのが桃花と詩倍の2人だけだから、詩倍は帰ったし桃花はあんな感じだから絡みにくいんだよな」
「あー」
絡める奴がいないと孤独を感じるやつ……あるよな〜此処は一つ助け舟でも出すか。
「まあ、こういう時はテンションが上がってるからあんまり気負わなくて良いと思うぞ」
「それもそうだな……よし、頑張るか」
そう言って彰は真白たちに突貫していった……いや、え? 声かけるくらいじゃないのかよ。あいつ思ったよりもコミュ力高いってかメンタル硬いな?
「私もゲームはそんなにやってないけど凪都さんって結構ゲーム得意なのね」
悲しげな表情で彰の後姿を眺めていると鋼我をしばき終わったのか桃花さんが声をかけてくる。
「……あぁ、えっとまあゲームは小さい頃から触ってたし一時期みんなでやるゲームを極めてたからな」
とはいえ一番時間を使ったのはTRPGなわけだが……しかし、それは相対的な評価であって俺がゲームに触れている時間が異常に長いので普通の人よりはどのゲームでもやってる自信がある。
「私にゲームを教えてくれないかしら?」
「別に良いぞ」
ゲーム教えるって何すれば良いのかわからないけどな。それにゲーム鍛えてどうすんのかって感じだし。
「ありがと、それじゃあ行きましょ」
それからは……
「スポーツゲームだったら俺が輝けるぜ。バドミントン部の力を見せてやる!」
「ほい」
「ぐわー」
「はっ雑魚が」
運動部であるバドミントン部の彰が意地を見せるかと思われたスポーツゲームで鋼我にボコボコにされたり。
「優がデモンズリングの最初のボス倒すのにかかる時間当てるゲームやろうぜ」
「僕、5時間はかかると思うな〜」
「おま、それは舐めすぎだろw俺は3時間で」
「あんたたち……私は1時間半かしら」
「終わったんだが……」
「「は?」」
優が動体視力と反射神経を使って死にゲーのボスを瞬殺したり。
「こいつ……良いマスにしか当たらねぇ」
「なんで柊夜が買ったものばっかり価値が上がってくの!?」
「私、既に借金抱え過ぎて自己破産したいんだけど」
「ふっふっふっ〜みんなまだまだだね」
柊夜が類稀なる幸運と培われた先見の明でパーティーゲームを圧勝したり。
「それ、足音じゃなくて自分がヘッドスピンする音じゃない?」
「これのせいでジャガイモの妖精に取り憑いた青年Ωが学校のトイレでヘッドスピンしてることになったんだけど」
「ホラー消えたwww(死亡済み)」
「彼がもはや怪異じゃないか? (死亡済み)」
「頑張れ真白! お前が俺ら全員を殺したけどそれはそれとして頑張れ! (死亡済み)」
「みんなこのゲーム下手すぎじゃないw」
みんなで意味わからん文章を作ったりなど、そんなこんなをしていると時刻は8時を過ぎていた。飯の準備をしようと思った途端、鋼我と真白が入り口を塞ぎ声を上げる。
「ということで〜」
「みんなお待ちかねの〜?」
「「闇鍋だー!」」
「「「「うわぁ」」」」
「?」
微妙な反応をする俺たちを尻目に2人は水の張られた土鍋と大量の具材の入った籠を持ってくる。
「というわけでルールは簡単自分の入れたい具材を入れて鍋を作る。入れる具材に縛りはなし、以上!」
何入れるか……量にも上限が無いようなのでとりあえず昆布出汁は回収しておくか? うわっ、何で星を眺めてそうなパイが選択肢に入ってんだよ。既製品は入れるもんじゃ無いだろ。
「じゃあ電気消すぞ〜」
鋼我が合図をして電気を弱め軽くしか周囲が見えない状況になる。そして鍋に火をかけぐつぐつと煮込むこと10分。硬い野菜ならともかく薄いものたちならしっかりと火を通すことができる。
「じゃあよそってくな」
鋼我がスムーズに俺たちの皿に具材を入れて行く。他の人間はともかくあの2人が入れたものは絶対にロクでもないので当たらないことを願う。
「ほいよ」
「ありがと」
魚? しかも刺身が大量に自分の皿に入っているのが見える。何が他に入ってるのかわからないが比較的マシなものが回ってきたような気がする。まあ、食べてみないとわからないか。
「うーん全体的に紅茶フレーバー」
鍋のスープに口を付けると口の中には心地よい出汁の味と全く関係ない紅茶の味がする。
「此処まで誰が入れたのかわかりやすい具材? もないね」
隣に座っている柊夜がそうこぼす。確かに此処でもお茶関連をぶち込むやつなんて1人しかいないか。
「うーん美味しくない」
「何だったんだ?」
「いや、具材は油揚げで普通なんだけどいかんせんスープの紅茶風味が害悪でしかなくって……」
あー確かに油揚げとかスープに依存するものたちは紅茶によって全部台無しになるのか……この闇鍋わかってたけど地獄だな。
「俺のこれ……なんだ?」
彰が困惑する声を上げる。段々と目が慣れてきたのでそっちの方へと視線を向ける。
「縄?」
俺の目に写るのは螺旋状にいくつもの紐が編み込まれている縄だった。彰が頑張って噛み切ろうとしているが、流石は縄、頑丈さは折り紙付きで文字通り全く歯が立たない。
「おっ、俺の当ててんじゃん! 食えねぇだろうから俺の当てたやつの皿には代わりにこれを入れてやるよ」
鋼我は嬉々として謎の固形物をボトボトと入れていく。
「お前何入れた!?」
「100種類の味があるグミみたいなやつ」
「あっ終わった……」
その後彰は一言も喋らなくなった。意識はあるようだが暗闇の中でもわかるほどに顔色がよろしくない。口元を押さえ、必死に吐き気を抑えているようだった。
「私のこれは……」
優が持っていたのは真っ赤で丸っぽい唐辛子、ブートなジョロキアだった。
「大丈夫か?」
激辛は闇鍋では御法度だった気がするんだが……それを予想して最初に具材は自由って言っていたのか、やられたな。
「い、いや大丈夫だ。私が自分で取ったものだから自分で処理する」
優はまだ食べてすらいないのに全身からダラダラと汗をかいている。震える手でゆっくりと箸を口元に持っていき、そして……
「ミ゜」
「し、死んでる……」
そのままピクリとも反応しなくなってしまった。
「じゃあ僕が貰おうかな。ちょっと興味あるし」
「お、おい柊夜止ま「いただきまーす」
自殺行為か、それとも自分に自信があったのか……柊夜は俺の制止を振り切ってソレを口に運ぶ。
「うーん、すっごい辛い。それにこの鍋で食べるものじゃないね」
優とは違い意識を失うことはなかった。それでもあまりに辛いのか全身から汗をかき始める。いや、でも食べてるもの考えたら此処までの症状で済んでんの異常だな?
「……柊夜って辛いのに強いんだな」
「まあ、拒絶反応さえ出なければあとは精神力で何とかなると思ってるし」
要は相性とメンタルの問題と、確かに食べるその瞬間だけなら何とかなる……のか? 翌日とかお腹痛すぎて大変なことになるけどな。
「誰よ牛丼入れたの、紅茶味で台無しなんだけど」
それは牛丼ではなく紅茶のせいでは?
「いや、でも一部撃沈してるけど何とか食べきれそうでよかった……」
何人か犠牲者は出てしまってはいるが無事に生き抜くことが出来、ほっとしていたのだが、それを口に出したのがいけなかった。
「おっなら今度は俺たちが全力で選んでやるからちょっと待っとけ」
鋼我と真白の二人が再び鍋を持ってキッチンに歩いていく。そして20分後、そこには刺激臭を放ち得体のしれない色をしたものが注がれていた。
「何……コレ……」
桃花さんの絶望したような声があたりにこだまする。彰はこのにおいで耐えきれなくなったのかトイレに駆け込んでいってしまった。
「そんなこと言うなよ桃、俺たちがせっかく作った健康になれるポーションだぞ?」
「そうだよ! いろんなサプリメントやエナジードリンクをいっぱい入れたんだから昨日の疲れもこれで吹き飛ぶね!」
「食えよ」
「飲んで?」
有無を言わさない圧に負け、意を決してその液体を口に含めば口に激痛が走る。口内炎の時にレモンのような酸性のものを食べた時のようなしみる感覚、それが口いっぱいに広がる。味の方も地獄で控えめに言って吐しゃ物と同じような味がし、あまりの味に視界が点滅し始める。
「大丈夫?」
俺の顔がカラフルに変わっていくのを見て柊夜が心配そうな声を上げる。しかし、何かを返すために思考を別のことに裂いてしまえばこの何かを吐いてしまうこと間違いないので無言で下を向き続ける。
「凪都が食べたし、一応僕も……」
「私も……覚悟は決めたわ」
「俺らも作ったからには食うぞ」
「え? 僕飲むつもりなかったのに~」
そうしてその場にいた全員が一口ずつ口にし、そして撃沈してしまった。
「これは……まぁ明日あいつに食わせれば良いか」
しばらくして鋼我が復活を遂げ、鍋をキッチンへと戻す。いったい誰に食べさせるのかは知らないが死人が出るんじゃないか?
「……口直しにケーキ食べようか」
そう言って柊夜が冷蔵庫へと歩いていき、ホールのケーキを持ってくる。俺は水で薄めたから口にはそんなに残っていないが、美味しそうなのでフォークで取ろうとすると……
「凪都、お前には特製のものがある」
「僕たちお昼のを反省してケーキを作ってきたんだ。それに、凪都誕生日だって昨日言ってたしね」
鋼我と真白にその手を止められた。そして真白が冷蔵庫に行くととあるものを持ってくる。
「俺らが丹精込めたんだ、ちゃんと食えよ」
目の前に置かれたそれは緑色の塊だった。一見すればケーキのように見えるし表面にかかっているのは抹茶パウダーのように見える。
「いや、いらん」
ただ、こいつらのことだからどうせロクでもないものだということは分かる。実際、こいつらがケーキを作っているような姿は見なかった。ともすれば持ってきた可能性が高いのだがそうすると昼の件が完全に後付けになる。
「そんなこと言うなって」
鋼我が俺の背後に回り込んで両腕を固定してくる。嫌な予感しかしなかったので逃げようと思ったのだが力が強すぎて振り解けない。
「はい、あーん」
真白がスプーンで切り取った緑色の塊を俺の口に否応なしに捩じ込んできた。その塊を口に含んだ瞬間に異変が訪れる。まず息をするたびに鼻に激痛が走る。目には涙が溜まり頭にも痛みが昇ってくる。
「おあえ、ら……」
原因は分かり切っている。あいつらが食わせた塊は表面こそ抹茶のパウダーで覆われていたがその実、内部のほぼ全てがわさびで構成されていたのだ。
「おし! ナイス作戦」
「ドッキリ大成功だね!」
ハイタッチをしている2人に対する殺意が湧き上がってくる。しかし、身体の異常がそれを許してはくれない。急いでシンクの元へと走り食わされたものを吐き出す。軽く水を飲んで口内を洗い痛みが引くまで待つ。
「ふー、ふー」
ゆっくりと呼吸を整えてから状況を整理する。あいつらは俺にお詫びと言いながら食べ物と呼ぶにも烏滸がましいほどの劇物を俺に食わせたわけだ。つまり、あいつらは完全な加害者で俺は被害者と……
よし、殺そう
そうと決まればやり返すとしよう。冷蔵庫から先程の鍋にも入れ込まれていたブートなジョロキアを取り出す。自分で買い物に行く時には絶対に買わないから今回ばかりはこれを買ってきた2人に感謝だ。
トントントン
取り出したジョロキアをまな板に乗せて刻んでいく。一般的にこの手の唐辛子は細かく刻めば刻むほど辛味成分が滲み出してくる。また、ジョロキアの辛味成分であるカプサイシンは油に溶けやすい傾向があるため油で炒めておくことでより辛さを引き出すことができる。油で炒めた始めたことによって空間に飛沫が飛び目や鼻に再び痛みが走り始める。
だが、そんなのは関係ない
俺はあいつらに復讐をしなきゃいけない。復讐は何も生まないという声もあるがどうせやられた事実は変わらないのだ。だとしたらやり返した方が得だろう。
更なる地獄にするため今さっきの鍋に炒めたものを混ぜ加熱する。カプサイシン受容体であるTRPV1は43度以上で活性化するため、それ以上の温度にしておくとより辛く感じさせることができる。火鍋などが熱い方が辛く感じるのはこれが原因だ。
戻ってきた俺が持っていたものに気がついたのか笑っていたはずの2人に動揺が走る。
「お、落ち着けよ、ちょっとお茶目なイタズラだろ? なっ?」
「そうだよ凪都! お詫びにお茶あげるから、ね?」
「……」
絶望的な命乞いとはこれほども醜いものなのか。どれだけの醜態を晒そうとも特に何も感じない。
「みんな、こいつらの身体押さえて」
「……はぁ、わかったわ」
流石この2人の扱いに慣れている桃花さんだ。俺の意図を一瞬で汲み取ってくれる。
さっき作ったものを二つに分けせっかくなのでそれぞれに先ほどの塊も入れておく。これも捨てられずに済んで喜んでいるだろう。
「待て凪都、話せばわかる」
「鋼我!? それは死亡フラ」
手に持った鍋の中身を2人の口の中に流し込んでいく。最初は飲み込まないように抵抗をしていた2人だが口に液体が溜まっていくと呼吸をするために飲み込まざるを得なくなる。嚥下していく姿をのんびりと眺める。最初は顔を真っ赤にさせ目には大粒の涙が溜まっていったがそれも長くは続かず段々と顔が青白くなっていく。喉の動きが緩慢になっていき、ついには鍋を流す速度に負け、口の淵から液体が垂れ流しになる。そして、鍋の中身が半分を切ったところで2人がピクリとも動かなくなってしまった。
「あっ気絶した」
別に蹴り起こしても良いのだが鍋が重くて腕が疲れてきた。なので、鍋を流しに置き、空いた両手で2人を掴む。流石に1人で2人を持ち上げるのは不可能なので引き摺りながら玄関の方へ歩いていき玄関から外に投げ捨てる。
「これでよし……と」
気絶した鋼我と真白を外に投げ捨てた後、手をパンパンと払い鍵を閉める。今は春だしうつ伏せになるように投げたので死ぬようなことはないだろう。身体が拒否反応を起こして明日ゲロまみれになってる可能性はあるが。
「僕、凪都だけは怒らせちゃいけないって学んだよ」
「私も下手なことはしないようにするわ」
「俺も同感」
うん、やっぱ打ち上げって地獄だわ。
その後、真白と鋼我は死体となって発見されたとか…いないとか。まあ何はともあれ無事に書けて良かった。お気に入りやコメントなどして貰えるとモチベが上がるのでお願いします!(乞食)