クトゥルフ世界に飛ばされる一般PL君 作:冷たくて美味しい紅茶
「ただいま」
あれから特に何事もなく家に帰ってくることができた。昨日とは違ってたった1人の家、鍵を開けて家に自身が帰ってきたことを伝える。なので、家に誰かがいるわけではなく俺の言葉は虚空に消えていくのだが……
「おかえり」
俺の言葉に反応するように柊夜が奥から顔を出す。
「うわっ、びっくりした。どうしたんだ?」
昨日の今日でまた遊びに来たということはないだろう。確かにまだ残骸どもがありはするが俺1人でなんとかできる量だ。
「こっちに来て」と柊夜の手招きを受けながら玄関を上がりリビングへと入っていく。昨日の鍋に似た何かの辛味成分は流石に学校行く前に換気しておいたお陰でどっかに行ってくれたようだ。あいつらがこぼした液体も拭くの大変だったし次あったら文句言おうかな……
「いやー君に伝えたいことがあったんだけど伝える手段がないことを思い出してね」
「あー」
言われてみればスマホ等は持っていなかったことを思い出す。この家には一応電話があるが俺が帰ってくる時間が不明だった以上直接足を運んだ方が楽か。
「それで、用件は?」
わざわざ足を運んだということはそこそこ急を要するものなのだろう。じゃなきゃ明日伝えればいいし。
「えーっと、君が働く場所が出来たからその報告をしようと思ってね」
「なるほど……出来た?」
てっきり何処かに働きに行かされるものだと思っていたが出来たという表現をする辺り最近完成したばかりということだろうか。
「あれ? 言ってなかったっけ、君は僕のカフェ経営を手伝うんだよ」
「えぇ……聞いてない」
「じゃあ今言ったってことで」
んな自分勝手な……まあいいか。それにしてもカフェか、話の感じから個人店タイプだろうし従業員も多くはないだろう。料理作ったり運んだり、掃除したりレジをしたりと仕事の種類は多種多様そうだし大変そうだな。
「それで、いつぐらいから始めるんだ?」
今は5月の中旬だし来月の頭からくらいだろうか。
「来週末のテストが終わったら本腰入れ始めるって感じかな」
思ったよりも早かった……
「カフェってそんな簡単に始められるのなのか?」
飲食店だし色々と資格が必要なイメージがある。
「必要な食品衛生責任者や防火管理者の資格はもう取ってあるからそこら辺は心配しないで。それに認可もおりてるし」
食品衛生責任者って17歳以上じゃないと取れなかった気が……いや、自治体によっては15歳からでも取れるらしいしここら辺の地域はそういうもんなのかな?
「じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」
「凪都には今あるメニューを覚えてもらうのと新メニューの開発だね。可能ならいい感じに写真に撮ってSNSにも上げていきたい」
そう言って柊夜はメニュー表の表紙とそこに挟まれた紙を渡してくる。
「せっかく来てくれるお客さんのためにもちゃんとしたものを考えないとな」
メニューを読んでみるがいくつかの飲み物と軽食があるくらいで種類はそこまで多くない。もう少しちゃんとしたご飯も必要だろうし飲み物系も増やしたほうがいいだろう。ただ、あんまり増やしすぎても自分の首を絞めることになるのでそこは弁える必要があるが。
「伝えたかったことはそんなもんかな……凪都から僕に聞きたいことはある?」
聞きたいこと……あぁ、ちょうどいいし今日貰った活動費について伝えておかないと。
「そういえば学校で呼び出されて同好会の活動費を渡されてさ」
「あー、あの呼び出しってそういうことだったんだ」
「30万のお金と教室の一室をもらった」
「おぉ! 僕はいらないから君と優の2人で分けるといいよ。それにしても教室か〜此処があるから別に必要ないっちゃない気がするよね。それに同好会の活動多分活発にできないし」
「どうしてだ?」
元々、柊夜がやりたいからと始めた同好会だというのに。それに付き合わされて学校に強制編入させられたぞ俺……いやでもそれが無かったら家でぼーっとするだけだし文句を言う筋合いはないか。
「とりあえずはカフェの方に力入れたいからね。ある程度人気が出て固定客もつき始めたら休みながら同好会活動の方をやっていこうかな」
「まっそれでもネタ探しくらいはやるけどね」と付け加えてくる。まぁ仕事があるなら軌道に乗るまではそっちを優先したほうがいいか……同好会はやらなくても誰にも迷惑かからないしな。予算奪ったって問題にはなりそうだけど……この学校なら大丈夫でしょ、多分。
「昨日の後処理は多少やっておいたよ」
「神か?」
「待ってる間暇だったしね。流石に君が帰ってくるのが早かったから終わらせることはできなかったけど……」
元々そんな多くなかったけどそれでも減らしてくれてるのは本当に感謝しかない。あっ、BBQセットの片付けまでやってくれてるじゃん……炭って落としにくいから大変なんだよな。
「それでもありがとう、お陰で今日は早く寝れそうだ」
「僕がやりたくてやってるんだし気にしないで……あーでも、お腹空いたしご飯作ってくれない?」
「了解」
昨日の材料の残りがどれだけあるのかを確認するために冷蔵庫を開ける。なるほど、そういえば牛肉や豚肉は焼いた記憶があるけど鶏肉は使ってなかったな。じゃあそれは使うとして……あと何か色々あるからオムライスでも作るか。
描写カット!
「「いただきまーす」」
完成したオムライスを前に2人で手を合わせる。上に乗せた卵を半熟にするのが中々面倒で柊夜に作り方を調べてもらったりした。そのおかげもあって米と卵がしっかりと絡んでいるいいオムライスができた自信がある。
「うん、美味しいね」
「それは良かった」
柊夜がスプーンを一口含みそう呟く。美味しいと言ってもらえるのは良いもので料理を作った甲斐があるというものだ。
「メニューに追加しておくから今度もう一回作って写真撮っておいて」
柊夜の声を聞き流しながら俺もスプーンを口に運ぶ。まず感じるのはケチャップライスの酸味でしっかりと味はあるのだがしつこくはなくさっぱりとしている。噛み進めれば卵とバターのまろやかな甘さが口に広がり幸せな気持ちになれた。鶏肉も手間だったが一口サイズに切ったお陰で食べやすく、火加減もちょうど良かったのか硬くせずにすんだ。
「ご馳走様、それじゃあ僕は帰るね」
「お粗末さまだ、また明日な」
飯を食い終わり柊夜が帰るのを見送ってから皿洗いを済ませる。そのまま昨日の後処理を全て終わらせたのだが、その時点ですでに時刻は22時を回っていた。
「そろそろ寝るか」
この後やることといえば風呂……は入れるのが面倒なのでシャワーを浴びる程度だが、をして軽く勉強をして寝るくらいだ。今日授業を受けた感じから内容自体はそこまで高難易度ではないので大してテストは心配していない。最悪わからなくなったら柊夜に勉強教えて貰えばいいしな。
「こう言うのも悪くないかもな」
寝る支度を終わらせてホットミルクを飲みながら一息つく。ホットミルクに含まれる成分は安眠作用があるため寝る前に飲むのが丁度いい。ただ、牛乳の乳糖は虫歯の原因にもなるので飲んだ後はしっかりと歯を磨かないとダメだ。
この世界に来て初めてのたった1人の夜。昼間に1人になることは何度もあったが夜は無かった。昼間には気にしていなかったことも夜の雰囲気がやってくることで少しだけセンチメンタルな気持ちになる。
「前の世界……どうなってるのかな?」
思考が穏やかになったところでそのような考えが浮かんできた。ある日突然謎空間に飛ばされてそこから脱出したと思ったら、次には見たこともない場所にいた。あの時に柊夜に出会えてなかったら今頃のたれ死んでいたのだろうか? いや、なんだかんだで生き残れそうな気もするな……まあいいか。で、どうやって来たのかもわからないのだからもう2度と前の世界には帰れないのだろうか? そう考えると寂しいものがあるな。それに、両親にも申し訳なさを覚える。心配してるのだろうか、それとも案外気にしていないのだろうか。今の生活は充実しているから帰りたいとは思わないがそれでも両親に手紙の一つでも入れて無事を伝えたい気持ちはある。というか、なんで俺ってこっちの世界に来たんだ? 誰かが俺のことを呼んだのだろうか、それとも何かに巻き込まれただけなのだろうか。呼んだのならせめて何かしらの説明が欲しかった。
「考えがまとまらないな」
何もやることがなく1人きりというのがあまりにも久々すぎてどんどん思考が巡っていく。いや、まあレシピ考えろと言われたらそうなんだけれども……だが、スマホも無ければネットもない状態で考えるというのも酷な話じゃないか? 多分、柊夜も忘れているだけなんだろうけれども。
「今週末にwi-fiの設置を頼もう」
ついでに最低限使えるスマホも買っておこう。15万からある程度減ってしまうが初期投資というやつだ。それに、優にお金を渡すタイミングも考えないとな……流石に学校で手渡しは問題あるだろうし。
「よし、そうと決まれば今日は寝るか!」
ホットミルクを飲みきりこれからの予定も決まったところで立ち上がる。しかし、昨日はみんなで布団を広げていただけだったから忘れていたがベッドを組み立てる必要があることを思い出す。めんどくさいとは思いつつもしっかりとした睡眠を取るためにもベッドを組み上げるのだった。
今回は章と章を繋ぐ間の話でした。次は『始動!オカルト研究同好会(1人)』編をやるのですが、こっち視点ではほぼ描写されることがないです。……身内よ、早く別視点を書いておくれ。
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