クトゥルフ世界に飛ばされる一般PL君 作:冷たくて美味しい紅茶
目の前の扉に耳を近づけてみるが聞こえる音はない。鍵もかかっていないようで簡単に開くことができそうだ。
「開けるか」
ひとこと2人に伝えてからドアノブをひねる。扉を開くと最初の部屋や廊下のように真っ白な床や壁が目に入る。四角形の部屋のようで部屋はそこまで広いわけではない。部屋の中心には木製の机が置かれており部屋の奥には段ボールが積まれていた。段ボールの前には何かが立っているように見える。
「俺はあの段ボールを調べるから2人は机をお願い」
「わかった」
優たちに机を調べてもらって俺は段ボール前に立つ。雑多に積まれているようで中には様々なものが入っていそうだ。そして、段ボールの前に置かれていたのは看板であり文字も書かれているようだ。
『貴方に今1番必要なものが出てきます』
看板にはそう書かれており、裏面には何も書かれていない。何をもって1番必要なのかわからないが考えても仕方ないので適当な段ボールを手に取る。
「服?」
段ボールを開けると中に入っていたのは一着の服だった。ジーンズにTシャツに薄手の上着。ぱっと見ごく普通の服で服屋に売ってあってもおかしくないほどだ。
「これが1番必要ってどういうこと?」
他に何か必要なものに心当たりがあるわけではないが、それでも服が1番必要というのはよくわからない。お前の服のセンスが絶望的すぎるという意味だろうか? 誰が置いたのか知らないがそうだったら傷つくな……
「まあでもこの服装のままよりは良いか」
今の服装は真っ白なローブのようなものだ。起きたら家に戻されているから着替えても意味ないような気がするがここで出てきたのには意味があるだろうし着替えておこう。*1
「服を見つけたから着替えてくる」
とはいえ急に服を脱ぎ始めるわけにもいかないので2人に声をかけて一瞬部屋を出る。サクッと着替えて付いていたポケットを漁ると指輪が入っていることに気がつく。
「金色だ」
懐中電灯で指輪を照らすと光を反射してキラキラと金色に輝く。大きさは小さいため自分の指につけるのは無理そうだ。もしかしたら服は付属品でこの指輪が必要なものなのかもしれない。そっちの方が納得がいくし大切にしておいた方がいいだろう。ということで落とさないようにポケットにしまっておく。
「金……金……?」
材料が金で出来ているなら問題ないがこんな謎空間で出てくるものが普通の素材で出来ているとは考えにくい。ということは意図的に色が金色ということだ。銀色ならウボちゃんとかだし黄色ならハスターな感じがするが金色の神格神話生物となるといまいち思い浮かばないな。
「考えてもしょうがないか」
わかったところで何か変わるわけでもないしただの杞憂の可能性もあるので考えるのをやめてさっきの部屋に戻る。部屋に入ると俺が調べていた段ボールを優たちも調べたようで優は木刀を握り締め風は指輪を持っている。
「さっきの机には何があったんだ?」
2人にそう問いかけると風が指輪を見せてくる。どうやら彼女の持っている指輪は段ボールから手に入れたものではないらしい。よくよく見れば風の指輪は二重になっており、二つの指輪を重ねてくっつけたように見える。
「他に何かあるかな」
再び段ボールに近づき手頃なものを手に取る。しかし、その箱は異様に軽く振ってみても何の音も聞こえない。
「あれ?」
箱を開けるが当然のように中身は空っぽだ。
「私も開けてみたんですが何も入ってなかったんです」
その様子を見ていた風が自分もそうであったと教えてくれる。どうやら看板に書いてある通り1番必要なものが出てきてかつチャンスは一度きりのようだ。
「風はここから何も貰えなかったのか……」
指輪は机の方で見つけたものであるため段ボールの方からは何も手に入れることができなかったということになる。*2
「いえ、私はこれだけで十分ですよ。それに……お二人に助けてもらえたのが一番の幸運ですから。これ以上求めたら怒られちゃいます」
そう言って微笑む風。そのあまりの健気さに既に物を見つけたのにもう一度調べてしまった自分の浅ましさに罪悪感が湧いてくる。
「風は良い子だな」
「あぁ……私もそう思う」
思わず口から言葉が漏れるがそのことに同調する優。何なら優しく風の頭を撫でている。
「や、やめてください」
風はそうは言いつつも優の手を退けることはせず満更でもないといった様子だ。
「この部屋ももう特に何もなさそうだから戻ろうか」
2人が仲良くしているのを見守っているのも悪くはないがいつまでもここにはいるけにはいかないので情報収集を再開する。正直この部屋は情報があったというわけではなくアイテムを入手できる部屋といった感じだったな。*3
「そういえば優の木刀って何に使うんだろうか?」
最初の部屋に戻っている最中、純粋に気になったので2人に質問を投げかける。木刀って日常的に使うものではないし使い道が多いとは思えない。
「私にもそれはわからないが小さい頃は剣道をやっていてこの木刀は手に馴染む。戦いなら任せてくれ」
「えぇ……」
戦いなら任せてくれってアニメとかでしか書かないぞそのセリフ。優って黒髪黒目でいかにも優しいイケメンって見た目だけどもしかして喧嘩に明け暮れたりしていたのだろうか。
「戻ってきましたね」
そうこう話しているうちに廊下へと辿り着く。次はどこを調べるか悩むがとりあえず最初の部屋へと戻ることにする。灰色の扉を開け横にある机やベッドを無視して反対側の壁に近づく。だが、近づいてみても扉のようなものは見当たらない。ただ、壁を叩いてみると一部中身の詰まっていない軽い音が聞こえる。実は空間になっているから叩き壊せということだろうか?
「これ、ロッカーみたいになっていないか?」
俺が優に木刀を借りようとする前に優が壁に指を引っ掛けて手前に引く。するとカチャという音を立てて小さな扉が開く。中は空間となっており、一冊の本が置かれていた。
「日記かコレ」
その本を手にとってペラペラとめくってみる。中には様々なことが出来事順に書かれているが主にヌトセ=カームブルとイタクァの戦争について書かれている。日記の持ち主はヌトセ陣営だったのかところどころにヌトセ=カームブルを称賛する文章が挟まっている。しかも中々ヌトセに重たい感情を見せているようで敵を殺したから褒めてもらえるかなとかたくさん書かれている。そして最後のページには……
奴の子供を捕まえた
「ひっ」
横から覗き込んでいた風が小さく悲鳴を上げる。あまりに狂気的なそれは長時間見ていると精神を削られそうだ。そっと日記をロッカーに戻して扉を閉める。
「他の場所に行こう」
あんなものずっと持ち続けてたら呪われそうだし一度読んだら読み返すこともないだろうから早く手放すに限る。そもそも気味が悪くて持ち歩きたくないし。
「次は何処に行くんだ?」
「うーん図書館に行こうかな」
一瞬謎解きの紙の続きをやろうと思ったが図書館で何の本も見つけられていないことを思い出す。図書館なのだから本来本の一冊や二冊くらい見つかるものだろう。流石に謎解きの紙一枚ってことはないはずだ。
そう思って図書館に続く扉を開く。相変わらず数えるのも億劫になる程の本が出迎えてくる。
「そういえばこの部屋の天井は凄く高いんだな」
優に言われて今一度この部屋の天井を見上げる。最初に入った時は高いなとしか思っていなかったが今は牢屋の高さとほぼ同じであることに気がつく。そこまでみっちりと本が入っているというのだから目的の本を見つけられるかはほぼ運と言えるだろう。図書館技能があれば楽になるんだけどなマジで。
「凪都は何の本を探しているんだ?」
何の本を探してる……さあ? ぶっちゃけ作られたであろうこの空間ならここを図書館にした意味があるんだろうっていうメタ読みであってなにもない可能性も十分にある。だってあの紙出すだけならリビングに置いておけば良いだけだし。
「この空間について何かわかるかもしれないから調べておきたいんだ」
きっと何かがある。そう期待して本棚を調べる。本の並べ方は大きさやジャンルなどの法則性が全くなく何処にどんな本があるかの見当もつかない。そしてどの本がそれなのかもわからない。
「俺が調べるから2人は適当に本読んでて」
「調べ物ならみんなで手分けした方が……」
「そもそもそんな本が存在してるかも分からないんだ。俺のあってるかもわからない想像のために2人に迷惑かけたくないからさ」
この考えはこの世界が作られた……いや、シナリオだという前提の上で成り立っているものだ。だからその前提が破綻している場合全くもって無駄な時間を過ごすだけになってしまう。
「10分かけて見つからなかったら移動しよう」
その時間で見つからなかったらきっと俺の予想は外れているんだしそれくらいの時間が妥当だろう。可能ならすぐに見つかってくれることを願う。
調べ物をするならキーワードを思い浮かべるのが定石だ。cocのシナリオならPLのリアル神話技能を当てにすることはそうそうない。つまりはこの空間に来てから聞いたか読んだ言葉にしたほうがよさそうだ。
頭の中にキーワードを思い浮かべながら本棚を眺める。白い部屋、化け物、ヌトセ=カームブル、そしてイタクァ。
「見つけた」
本棚の奥の方、他の本に押されるようにその本はひっそりと置かれていた。一見すれば雑に入れたようにしか見えないが直感的にコレだと思い手前の本をどかしてそれを手に取る。その本は装飾などはされてなく無地であるのにも関わらず異彩な雰囲気を放っている。
「全くわからん」
本を開いて中身を見てみるがあの紙と同じように全く文字を理解することができない。でも、書かれている言語があの紙と同じ言語だというのはわかる。それと絵もいくつか書いてあって巨大な靄のような絵やツノの生えた人型の生き物の絵などが書かれていた。
「ただ、たぶんコレがそうなんだろうな」
絵から予想するにおそらくイタクァやそれに連なるものについて書かれている。この空間で名前が出てきたイタクァのことが書かれた本なのであればこれがこの部屋を図書館たらしめている情報なのだろう。
「私も見て良いか?」
「別に良いぞ。はい」
俺が本を手に取りながら独り言を呟いていたことに気がついたのか優が聞いてきたので本を手渡す。風に直接渡そうと思ったがやっぱり優から風に本を渡した方が良いだろう(適当)*4。
「やっぱりわからないな……風、頼めるか?」
優は本を一度パラパラとめくった後に首を横に振り、風に渡す。
「わかりました。読んでみますね」
風は本を受け取った後ゆっくりと読み始める。
「えっとあの紙に書いてあったイタクァさんとかのことが書いてあるみたいですね。えっ!? イタクァさんって神様だったんですか……」
「イタクァさんは基本北米にしかいないみたいです。そうだ! この本に色々書いてあるんだったらお子さんについても書かれてるかもしれません。探す手掛かりになるかもしれないですし調べてみますね」
彼女はそう言って本を読む手を早める。しかし、途中までは読み上げていたのに突然ピタリとその声が止まる。
「あっ……」
パサリと彼女が本を手落とす。何事かと思って風の顔を見るが血が通っているのか疑うくらい青白くなっており身体は側から見てもわかるくらい震えている。
「だいじょ「違う違う違う違う違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうチガウチガチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ! 」
声をかけるよりも先に彼女は頭を抱えて蹲る。何を言っても譫語のように否定を繰り返すだけでこちらの声は届かない。彼女は何をそんなに恐れているのだろうか。
「私……ワタシ?」
風がそう呟いた瞬間、彼女の身体がバキバキという音を立てて変わっていく。彼女の背中からは背骨が浮き上がって伸びていき10m以上あるはずの天井に程近くなる。手だったものは鋭く尖り指の一つひとつが鉤爪へと変化する。顔は父親であるイタクァに近づいたのだろう、人間態の時とはかけ離れ長く伸びた首と大きな顔のアンバランス差で不気味なものになっている。高いところにあるにも関わらずよく見え、暖かさを感じない真っ赤に染まった瞳はただじっと俺たちを見下ろしていた。
「ふ……う……?」
どうやら俺たちは踏んではいけない地雷を踏み抜いてしまったらしい。
感想とか評価が貰えるとモチベが凄い上がるのでお願いします!(乞食)
次の話で今回のシナリオは終わる予定です。ようやくタイトル回収ができる…