クトゥルフ世界に飛ばされる一般PL君 作:冷たくて美味しい紅茶
鋼我が開けた扉の先にいたのは……
「ゼットゼットゼット……」
奇妙な寝言を上げながらソファで爆睡している真白だった。
「オラっ、起きろやアホ」
一瞬のフリーズののちハッとしたように鋼我はソファを蹴り飛ばす。それにより真白は転がり落ちて地面へと叩きつけられるが……
「……起きないな」
全くといっていいほど反応を示さず、未だ気持ち良さそうに眠っていた。
「諦めなさい鋼我、こうなったこいつは起きないわよ」
いつまでも起きないので鋼我が顔に蹴りを入れようとしたがその前に桃花さんに止められる。その表情は諦めに満ちており今までに何度も似たようなことがあったことが察せられる。
「桃ー、コレよろしく」
鋼我は最終手段とでもいうように渋々地面に落ちた真白を掴むと桃花さんへと投げ飛ばす。
「え? もう……仕方ないわね……」
桃花さんは一度ため息をついたあと真白の頭を掴み上げるとそのまま引きずっていく。いいのかあれで……
「この家を調べ終わったら呼んでよね」
「だったらついでに掃除もよろしく。寝室はこの部屋出たら左曲がって突き当たりの右側の扉だよ。掃除道具もそこに置いてある」
柊夜は部屋を出ようとする桃花さんに寝室の掃除を頼む。ちゃっかりしてんな……
「わかったわ」
「……調べるか」
勝手に進んでいく話の流れについていくことができなかったので自分にできることとして部屋の調査をすることにする。
「なんだこれ?」
一見するだけでこの部屋にある不自然なものに気がつく。部屋の中心に置かれた正方形のカーペット。上に何か乗っているわけではなく埃も全く付いていない。
「なんて綺麗な四角でしょう! 舐めてんだろこの隠し方」
悪態をつきながら鋼我がカーペットの端を掴み引っ剥がそうとする。
「あっ? 取れねぇ」
しかし、カーペットは床に固定されているのか外れることはなかった。意図的に地面につけられているだろうし何かが隠されていることだけは間違い無いな。
何か見当たらないからとカーペットに近づいてみると見難いが取っ手がついていることに気がつく。鍵はかかっていないようで取っ手に手をかけるとそのまま持ち上げることができる。
「階段だな」
扉を開けると下へと続く階段が現れる。埃は被っていないがかなり昔からあるのか階段ばボロボロだ。
「旧き印にバツ印?」
扉の内側には数時間前に見たばっかの旧き印が描かれていた。しかし、これが描かれていることよりもそれを消すようにバツ印が描かれていることが気になる。まるで旧神と敵対している存在を崇拝しているかのような……
「思ったよりもヤバい組織がいるかもしれないな」
旧支配者かそれとも外なる神か……どちらかはわからないが、もしそのどちらかを信仰しているカルト集団がいた場合大変なことになるのは確実だろう。
「大丈夫?」
柊夜の心配そうな声で我に帰る。振り返ってみれば鋼我が真っ青な顔をしていることに気がつく。顔からは冷や汗をかいており手は震えており、側から見ても体調が良くなさそうなことがわかる。しかし、風の時とは違ってすぐに平静を取り戻す。流石に鋼我が神話生物ということは無いよな? というか旧き印にバツ印を描いたからって効果が消えるものなのだろうか。これで消えないなら本末転倒な気がするが……
「俺を誰だと思ってやがんだ? 大丈夫に決まってんだろ!」
鋼我は己を奮い立たせるかのように大きな声を出す。何がここまで彼を駆り立てるんだろうか……
「なら良いんだけど」
柊夜がホッとしたように息を吐く。
「話は聞こえてた?」
さっきの状態的に多分聞けていないんだろうが一応確認のため聞いておく。
「ごめん、聞き逃した。もっかいお願い☆」
わざとふざけているのかのようにテヘッと言いながら鋼我は答える。案外本当にわざとでさっきのことを誤魔化したいのかもしれない。
「しょうがないな。今度はちゃんと聞けよ?」
人間隠し事の一つや二つあるものだしそれをとやかくいうつもりも無い。なので先ほどの話をもう一度することにする。
「ここに居る奴はかなりヤバいかもしれない」
「だから、戦力として真白を起こして……」
真白が役に立つかはわからないが人を後ろから殴ろうとしたりする殺意の高さは戦いが起きた場合に有効に働くだろう。
「成程な!」
しかし、俺が最後まで言うよりも先に鋼我が階段を駆け降りていってしまう。
「あっおい!」
呼び止めようと思ったが余りにも勢いよく降りていくため追いつけそうにない。このまま柊夜と共に追いかけて後ろから閉められたりすれば大変なことになるので先に柊夜にはここにいてもらうよう指示をする。
「柊夜! とりあえず警察にだけは連絡しておいてくれ」
この先にいるのがカルト集団である可能性がある以上危険が伴う。クトゥルフ世界の警察が無能なのはよくある話だが、これが現実である以上流石に呼んでおいた方がいいだろう。
「余裕が有ったらピザの宅配も!」
先に行った鋼我の声が響く。あの野郎……呑気にピザ頼みやがって。文句を言うにも追いかけなければいけないので柊夜に色々と任せて俺も階段を降りる。
「ヤバっ」
2人でこの階段に乗ったせいか、それとも元々階段がボロボロだったせいか……きっとその両方が原因なのだろう。何はともあれ俺の乗っていた階段は崩れ落ち俺は空中に投げ出される。幸いなことに鋼我は下に辿り着けているようだ。
自らの体にのしかかる重力を感じながら落下する。地面が近づく程に死というものが間近に迫っていることを理解し恐怖心が増す。地面にぶつかる直前、俺は思わず目を瞑った。
「あれ?」
しかし、思っていた衝撃は訪れず変わりに少し弱い衝撃がやってくる。驚いて目を開けば鋼我が俺を受け止めてくれていることに気がつく。
「悪い。助かった」
元はと言えばこいつが駆け降りなければこんなことにはならなかったわけだが、それでも助けてもらったことには変わらない。不満と感謝の混じった複雑な感情で鋼我を見る。
「あいむそーすぴーでぃー」
しかし、返ってきた反応は余りにも気の抜けたもので呑気すぎると呆れながらため息を吐く。やっぱ全部こいつのせいにしちゃだめかな……
「ここは……廊下だな」
とりあえず地面に降ろしてもらってから辺りを見渡してみれば、この場所が地下通路のようになっていることがわかる。
「扉が4つある」
親切に扉の前に何の部屋か書かれている、というわけは無く扉の先に何があるかはわからない。
「そうだな。どこから行こうか」
鋼我の言葉でくまなく廊下を調べてみるが4つの扉以外に他の場所へ繋がるようなものは見つからない。扉の先はわからないのでどの扉を開けるにしても一定のリスクはあるだろう。
「戻るって選択肢は……」
一縷の希望をかけながら階段の方を振り返ってみるが完全に崩れ落ちてしまっており、登るのにはかなりの時間を要するだろう。ここに何がいるかわからない以上無防備な状態を長時間晒すような行為は避けた方がいい。
「残念ながら」
鋼我も崩れ落ちた階段を見て肩をすくめる。やはり扉以外の選択肢はないか……
「今やれることはないしな……取り敢えず手前からしらみつぶしに行こうぜ」
「……そうだな」
警戒するに越したことはないし確実にこの空間には俺たち以外の誰かがいる。
「こっちから行くぞ」
右と左どちらの扉に行こうかと考えていると先に鋼我が左の扉へと歩いていく。扉に顔を近づけ内部の音を探る。探索者としては必須技能なわけだがこの世界の住民には標準搭載らしい。
「わかった」
俺が近づいている最中に中に何もいないと判断したのか鋼我が無言で扉を開ける。ズカズカと部屋に入っていく鋼我に続いて俺も部屋の中へと入る。部屋の中は手術室のようになっており、部屋の中心にはベッド、少し離れた壁沿いには机が置かれている。
「やたら綺麗だな」
「歯医者みてぇだな」
お互いがそれぞれの感想をこぼす。地上の建物内とは違ってこの部屋はかなり高頻度で使われているらしく埃やゴミなどがほとんど見当たらない。
「俺は机を調べるからそっちはよろしく」
俺は鋼我にベッドを任せ机へと近づく。机の上には大量の紙が置かれており、側面には引き出しがついている。引き出しを開けてみると中には拘束具と思わしき物がいくつか置かれている。奥の方には力づくで出ようとしたのかひしゃげている物もあり、ここで行われていたことが同意があってやられていたのでは無いことがわかる。
「こっちも読むか……」
粗方引き出し内を調べ終わったので続いて机の上の紙に目を通す。紙は実験の資料のようで沢山の記述や写真が貼られていた。写真には黒い服を着た人間達がベッドに拘束されている人に対して注射を打ち込んでいるところや、拘束されていた人がいた場所に小さな長い偽足に覆われたナニカがいるものなどが写っていた。
「嘘だろ……」
その凄惨な光景に思わず言葉を失う。しかし、情報を集めるのをやめるわけにはいかないのでさっさと正気に戻って今度は記述を読み進める。深い内容は俺には理解できないが注射の中身が『神の力』と呼ばれるものであるということ。人に打ち込むと今のところ100%で同じ生命体になり、その生き物は自我を失いただ蠢くだけしかしないこと。この状態になった人間を元に戻す方法は存在しないこと。
「神か……」
もう一度写真に目を向ける。黒い体に長い偽足、自我を持たずただ蠢くことしかしない……
「いやいや、まさかな」
1番最初に脳内に浮かんだ神格は
「うーん情報が足りないな」
ただ、恐らくこの空間にいる人物達は下っ端だろう。いくら放置されているとはいえ人が来る可能性があるところに拠点を置くとは思えない。資料に書かれているのが神の力でしかないことを考えると大した情報は持っていないかもしれない。
「しっかし、随分と使われてんなぁ……まるで血痕みてぇな痕もあるし」
やることも無くなったので鋼我の方へ行こうと思った時、鋼我の呟きが聞こえる。
「……確かに血痕みたいだな」
近づいてみればベッドには黒い染みがついていることがわかる。一見すれば時間の経った血の跡にも見えるが、資料を読んだ俺にはそれが違う物質であるということがわかってしまう。
「だろ? そっちはなんかあったか?」
「ここで行われていたことの資料がいくつか」
あれをそのまま伝えるわけにはいかないので概要だけを伝える。これで満足してくれるのならいいのだが……
「内容は?」
流石に誤魔化されないか、あんまり内容について深掘りしてしまうと鋼我の正気が削れてしまいそうなんだよな……物凄くざっくり説明するか。
「簡単に言えば神の力を人間に与えようとしたって感じかな」
「カミサマねぇ……随分と位のお高いもんがいるようで」
そう呟く鋼我の表情は固い。まるで神に嫌な思い出があるかのような……気のせいか。きっと位が高くて偉そうにしている奴が嫌いとかそんな感じだろう。
「じゃ、次行くか」
鋼我の提案に従って部屋を出て向かいにあった扉に近づく。部屋の様子を伺い安全だと確認してから扉を開けると部屋の中にあった雑多なもの達が視界に入る。
「物置かこれ?」
「そうっぽいな」
物置であるなら都合がいい。物置に足を踏み入れると僅かに埃が舞い上がる。この部屋はさっきとは違ってそんなに使われていないようだ。
「取り敢えず何か武器になる物を……」
流石に素手で戦えるほどの戦闘力は俺にはないので武器が欲しい。そう思って辺りを調べるとちょうど良いものを見つける。
「これでいいか」
壁に立てかけられていた鉄パイプを手に取る。中に何かが詰まっているのかしっかりとした重量を感じる。これなら殴るだけでも中々の威力になるだろう。
「得物はその鉄パイプで大丈夫か?」
「うん」
使い方に癖のあるものだと使いこなせるか分からないしな。殴るだけなら簡単にできるだろう。
「まぁ、そもそも震えて力入んないけどな」
視界を動かせば小刻みに震える自身の手が目に入る。今は鉄パイプを持てているがこれ以上のことがあった場合はどうなるか……
「喧嘩は慣れだからな……ま、気張りすぎんなよ」
俺の肩にポンと手を置き力を抜くようにアドバイスをくれる。人との接触はストレスを減らすというがこういう時にも役に立つものなんだな……お陰で多少リラックスできた。
「……何で慣れてんだよ」
それはそうと鋼我が喧嘩に慣れているのが謎だ。
「? そりゃあ慣れるくらいまでやってるからに決まってんだろ」
何を当たり前のことを鋼我は続けて言う。確かにそうなのだろうけど前の世界では喧嘩に慣れてるやつなんてほぼいなかったので納得はできない。
「……。まぁいいや、鋼我は何か使わないのか?」
「俺はトンファーあるし大丈夫だな」
鋼我はそう言って腰につけられたホルダーからトの形をした棒を取り出す。ホルダーから取り出す時のスムーズさやそれがボロボロになっていることからかなり使い込んでいるようだ。
この部屋でやることも終え次の扉へと向かう。扉に耳を当て中の様子を伺うと中に人の気配を感じる。鋼我もそれを感じ取ったようで表情が引き締まるのが見える。緊張をほぐすために意味のない会話をいくつか繰り返した後鋼我がこちらへと振り返る。
「さて、今から戦う訳だが……覚悟は良いか?」
戦う上での覚悟……
「大丈夫だ」
本当に出来ているかはわからない。でも、己を奮い立たせる為にもはっきりと答える。
「3、2、1で行」\ ドゴォッ /
奇襲を仕掛けるために合図を送ろうとしたが最後まで言うよりも早く鋼我が扉を蹴破る。お互いの間に微妙な空気が流れる。
「誰だお前らは!」
「侵入者っすね!」
その微妙な時間の間に中にいた長身の男と猫目の男はこちらを認識しナイフを構える。それとほぼ同タイミングで鋼我が2人に突っ込んだ。
「……通り魔ABだコラァ!」
そう叫びながら振り下ろしたトンファーは空を切る。トンファーを避けた長身の男は鋼我の首元を狙ってナイフを差し込む。幸いそのナイフが鋼我に届くことはなかったが一瞬でも気を抜けば死に直結してしまうことを理解する。
「足が……」
戦わなきゃいけないということはわかっていたのに、目の前で起こる激しい戦いを前に足が動かなくなる。
「オイ凪都! テメェの不安はテメェを殺す! 今は耐えることだけ考えろ!」
鋼我の叫び声が聞こえるが内容が頭に入ってこない。どれだけ力を入れたくても入らずついには鉄パイプを落としてしまう。
「なんすか? 人も殺せないのに来たんすか」
猫目の男が嘲笑うように俺の方へ近づく。視界に常に入るナイフは鋭く軽く触れるだけで怪我をしてしまうことは間違いない。
「そいつは放って置け。そんな雑魚より赤髪の方が厄介だ」
長身の男が猫目の男に合図を出すと猫目の男は俺から離れていく。
「さっさと殺すぞ」
そう言って2人は持っていたナイフを構え直す。俺はただそれを見ていることしか出来ない。自身に不甲斐なさを覚え体を動かそうとするがそれでも命のやり取りなどしたことのない俺の体は動かない。
「それはそれは……お褒めに預かり光栄ですなぁ!」
男たちは翻弄するように鋼我に対して攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃は不自然なものだ。攻撃は苛烈なものでは無く鋼我が受け流せる勢いでしか仕掛けない。それに、2人して鋼我の視界に入り続け一定の距離を取りながら戦っている。まるで意図的に自分たちに意識を背けさせているような……
「今だ!」
長身の男がそう叫んだ瞬間。突然鋼我の後ろからナイフを持った長髪の男が現れ、彼を殺そうと襲いかかった。
作者はどういう位置関係で戦闘しているのかわかりません()
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