執筆中作品があるにも関わらず、他に手を出してしまった私をどうかお許し下さい……アーメン。
やっはろー
皆さんこんにちは。一般通過転生者です。
私は今、透き通るゴッサムシティこと学園都市キヴォトスに来ております。
皆さんご存知Yostarが開発した“透き通るような世界観で送る学園RPG”をテーマにした大人気スマホゲーム『ブルーアーカイブ』。
一応全部のストーリーは終わらせたのですが、転生した弊害か断片的にしか思い出すことができません。困った。
それはさておき、たくさんの先生が生徒達が持つ余りの魅力に耐え切れず過酷したのは最早社会現象です。私もその波に呑まれました。
そして生徒で過酷した罪悪感に苦しむ先生達の元に、ヤンクミがあちこちで大量発生したのも今では良い思い出です*1。
そして歩きスマホでトラックに轢かれ転生……見事なまでのテンプレを踏んで転生に至った私ですが、まさか転生先が件のブルアカではありませんか。
私は困りました。
いやでも今一番困ってるのはトラックの運転手かも。ごめんね、私の不注意で人殺しにさせちゃって……いやホントに。
日本の司法って結構ガバいところあるからなー。明らか歩行者の過失でも罰せられるんだから、あちら側からしたら堪ったもんじゃないよね……運転手さん無罪放免になれば良いけど……。
いやそれは一度置いといて……困ってることの1つ目は、このキヴォトスの治安がバチクソに悪い事です。悪いなんて言葉じゃ足りないくらい悪いです。
生徒達は『ヘイロー』という摩訶不思議な物体?が持つ神秘の力によって、銃弾が当たっても『痛ェ』で済む程の耐久力を誇ります。もう意味が分からないです。
そのせいで銃の持つ『人を殺す武器』という認識が薄れ、子供が玩具で遊ぶ感覚で皆さん銃をブッパします。
これにはメキシコギャングも真っ青。
まあ幸い私は転生した際、前世と同じ性別で生徒として転生しました。鏡に写る後頭部に浮かんだ天輪を見て“よっしゃ生徒や!これで勝つる!”と喜んだものです。
そして原作先生のように命の危機に晒される事はないだろうと安心した私でしたが、念には念をということで比較的治安の良い地方……トリニティ総合学園に入学することにしました。この際陰湿な虐めとかには目を瞑ります。命には代えられませんからね。
残念ながら実家が太い訳でもなく、学費も高く入学は厳しいかと思われましたが、何とか前世からの取り柄である学力で推薦を受けることが出来ました。学費も免除です。やったね。
そして入学式で新入生代表を努めて挨拶をしたり、ティーパーティーやら正義実現委員会やらシスターフッドやら救護騎士団やらと……あちこちに挨拶回りをして、当然のごとく勧誘されました。
何せ私、優秀ですから(ドヤァ)。
……でも何処も物騒だったので、謹んでお断りさせて頂きましたが((震え声))。特にツルギとかミネとか、アンタらやぞ*2*3。
そして新生活が始まり、色んな事に参加しました。1年目の校内文化祭や体育祭には実行委員会として立候補しましたし、正実の皆さんとスイーツビュッフェに行ったり、シスターフッド主導のボランティアにも。
ケーキを幸せそうに食べてるハスミさんや、ゲーム内じゃ怖がられてるサクラコ様って年は一つ上なのに、何処か幼女みたいで可愛かった。私は決してロリコンではないが。
その後もティーパーティーからはくどい程勧誘を受けてウンザリしてると、私とは別枠で入学した稀代の天才浦和ハナコにも会いました。
彼女もやはりゲーム内通り、汚い政争を見せられて心が荒んでますね~。プレイアブルの時とは大違い、だがそこが良い。
しかしあんまりにも見てられなかったので、声をかけて(無理矢理)一緒にお買い物したりご飯を食べに行ったりもしました。
これでも生徒を神視点から見続けた私、彼女が真っ直ぐな気持ちに弱いのは知ってます。
それをひたすらにぶつけたり、政争から彼女を切り離して徹底的に青春を謳歌させました。
最初はそれはもうバチクソ警戒されてましたが、一年も付き合えば慣れたのか、私が誘うまでもなく一緒に行動を共にすることが多くなりました。
でも一日連絡しなかったくらいで鬼電するのは辞めて欲しいなぁ……流石に怖いです。
それでも良いことばかりじゃありませんけどね。
成績優秀(ドヤ顔)な二人が何処の組織にも属さず遊び歩いていると、それなりに噂にはなるものです。
『
うるせぇやい、色々ちっちゃいのは気にしてんだ。あとネルパイに聞かれたら殺されるぞ。
……まぁ、結局のとこ全部嫉妬です。私みたいなお嬢様じゃないただの平民が、ハナコさんと一緒にいるのが気に入らないのでしょう。
同じ成績優秀者とはいえど、私は自分の学年のテストでなら一位を取れますが、ハナコさんの場合は一年生の時点で三年生のテスト全科目100点という頭おかしい結果を叩き出しています、それも毎回。しかも頭脳戦や駆け引きにも優れていて、そりゃ各組織が放っておかない訳です。私なんて、ただのオマケに過ぎなかったんです。心折れましたよ、ホント。
そして私みたいな平民が、数いるお嬢様を押し退けて学年一位二位の座を占拠しているのも反感を買いました。でないと私みたいなチンチクリンに態々絡むこともありませんし。
流石のトリカス具合。でも気持ちは分からなくもないです。能力があるのに、それを生かそうともしない人がいれば……私だって多少苛つくかもしれません。馬鹿にしてるのかって。だからといって私がそれをする義務もないのですが。
因みにその陰口言ってた人達は、突然ハナコさんと喋るようになりました。ハナコさんは私なんて興味なくなったのかと寂しく思ったのも束の間、そのお方達はピタリとなにも言って来なくなりました。
何かあったのかとハナコさんに聞いても『さぁ?何ででしょうね♡』と笑顔で言い放ちました。怖かったので詳しく聞く事は出来ませんでした。
まぁそんなこんなで充実した学園生活を送る事が出来まして。
モモフレのグッズを偶々持ってたら
しかし忘れてはいけません、ここはキヴォトス。透き通るゴッサムシティだと言うことを。
充実過ぎる日々を過ごして、少し舞い上がっていたのでしょう。そして銃撃戦にほとんど巻き込まれることのなかった私は、勘違いしていたのです。このまま幸せな日々を送れると。
──話しは戻って、困ったこと2つ目。
ハナコさんと出掛ける予定があって、朝早くに起きて支度をしてました。久しぶりのお出かけ、胸が踊ります。
すると、どこからともなく家の中に手榴弾が転がり込んできたではありませんか。それに気付いた時には既に遅く、意識は暗転。その後は見知らぬベットの上で目を覚ます羽目になりました。
今までに感じた事のない熱と刺すような痛さ。突然の事に悲鳴すら上げられませんでした。
後で聞いたのですが、粗相を犯したのはここら辺りで活動するヘルメット団だったらしく……私の家の近くで抗争が起きたとのこと。そしてヘルメット団員が手を滑らせて、見事に私の家の窓から侵入させてしまったと。いやどんな確率ですか。
……おほん、話が逸れました。
そう、これで分かった事は、私は一般的な生徒に比べて圧倒的紙耐久なのです。
原作先生のように腹に風穴空けられる事は(滅多に)ありませんが、手榴弾の爆発一つでノックアウトするくらいには弱いです。
これには流石の私も“え、私の耐久低すぎ……!?”と嘆きました。だってこれじゃ生徒に転生した意味ほぼないですし。
多分中身が、前世でただの人間だった事がバグの原因になっているのかも……? とか考えましたが、そんな専門外の事聞かれても分かりません。ゲマトリアに全投げします。
そして困ったこと3つ目──
「
……貴女の右足は、もう……動きません」
右足がお釈迦になりました。
いや何でやねん。
そんなこんなで私の学園生活二年目は、病院から勧められた杖と共に過ごす事になりました。つらたん。
「はっ…はっ……!」
その知らせを受けたのは、彼女と出掛ける日の朝の事だった。
最近は学校行事が重なることが多く、中々二人で遊べる日が確保できずに今日予定が空いた時には楽しみで眠れなかった。
ご機嫌で朝早くに起きて、支度を済ませる。
彼女を驚かせたくて、集合場所には約束の1時間前に来ました。少しはしゃぎすぎたと反省はしている。
それでも、それだけする理由があった。
皇ヒスイちゃん……陰謀と裏切りが渦巻くこのトリニティで、私に光をくれた
彼女は優秀だった。
私と同じ特待生として入学し、私と同じようにあの手この手で各組織に引き込もうと人生を振り回されてしまった。優秀であるが故に、嫉妬の的となり虐めの対象にもなった。
でも彼女は決して挫けず、憎まず、擦り切れず、常に笑顔を保って周りと接した。
私とは違い周りとの関係を切らず、常に皆と友達であろうとした。
その姿は、その時の私にとって眩しすぎた。
そしてヒスイちゃんの行動が、私には到底理解出来なかった。
だからこそ初めて会った時には、かなり冷たい態度を取ってしまった。どうせまた私なんか見てないのだろうと、求めているのはこの頭脳なのだろうと。
彼女は気にしてないと言っていたけれど……どうしてもそれだけが心のしこりとなって残っている。
ヒスイちゃんはそんな私の態度を気にすることもなく、自治区内やそれを越えて、あちこちに連れていってくれた。
とっくに知り尽くしたと思っていた自治区内の穴場スポットでお茶をしたり、ミレニアムの最新技術に触れて勉強したり、アビドスのアクアリウムを見て……自分が焦がれてやまなかった『青春』がそこにあった。
戸惑う私を安心させるように、その小さな背中で私の全てを背負ってくれた。
私にとってヒスイちゃんは、荒んだ心に湧いたオアシスのようだった。彼女がいなければ、私はこのトリニティを去っていたのかもしれない。それほどに彼女の存在は大きくなっていた。
──そんな思いを胸に、集合場所で待ち続けた。
しかしおかしい。
早めに来てしまったのもあったが、既に約束の時間から2時間以上は経っている。それなのに、彼女は来る気配はない。
ヒスイちゃんはしっかり者だ。もし遅れるようであれば必ず連絡をくれ、そもそもここまで遅れること自体が滅多にない。遅くても1時間以内には来る筈。
その考えに至った瞬間、私の背中に嫌な汗が伝う。
急いで彼女のモモトークにメッセージを送ったり電話に繋げようとしたけれど、何故か電源が入っておらず応答はなかった。
私は意を決して彼女の家に向かう。幸いこの集合場所からはバス二駅程の距離にあるので、タクシーを取るのも億劫で走る。
きっと彼女なら大丈夫。そう思ってもさっきから無駄に冴え渡った頭が警鐘を鳴らして止まない。
この期の及んで体力のない自分が恨めしい。
必死に走って、周りの目も気にせずに彼女の家を目指した。
ヒスイちゃんの家はよく知っている。何度もお泊まり会を開いて招いてくれたから。寮とは違う、彼女の性格が出たような可愛らしい部屋の雰囲気に羨ましくおもったりもした。
走って、走って、走って……
すると段々と銃撃戦の音と、パトカーのサイレンが鼓膜を揺らす。
スケバンやヘルメット団の笑い声、ヴァルキューレの生徒の怒号が響き渡る。
……うるさい
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッッ!!
ヒスイちゃんなら大丈夫。
きっといつもしっかりしてるから、気が緩んでうっかり寝過ごしてしまっただけ。きっとそうに違いに。
だってほら、周りには被害はそれほどない。
このままこの交差点を抜けて、右に曲がれば彼女の家が──
「ぁ……」
そこには、柱が崩れて轟々と燃え上がるヒスイちゃんの家があった。
元のこぢんまりとしつつも、綺麗な外観を擁した家は何処にもなく、白く塗装された壁は炎によって黒々と穢されていく。
「ヒスイちゃんッッ!!」
気づけば私は飛び出していた。
本来ならここで救急車を呼ぶべきだったが、そこまでの余裕はなかった。いつもなら出来た筈なのに、それほどまでに彼女の存在が大きくなっていたのを今更ながらに感じた。
「あ゛づッッ……」
ジクジクと刺すような痛みが身体を襲うけれど、腐ってもキヴォトス人。この程度で火傷なんてしない。痛みを無視して家の中を走る。
彼女の家の間取りは把握している。玄関を入れば右側にお手洗い、その隣に洗面所があり正面を進めばリビングがある。2階には彼女の自室があり、それ以外はない。
私は先ず危険度の高い2階から行くことにした。
ハンカチを口に当て、ガスを吸わないように気を付ける。姿勢を低くして、階段を登り直ぐに自室の扉が見えた。
燃えて脆くなっていたのか、扉は比較的簡単に空いた。
「ヒスイちゃん!!」
部屋の中心で倒れている彼女を見つけた。
直ぐに抱き寄せ、脈を測る。意識はないが、幸いにも息はしているようだった。
「っ……」
頭からは決して少なくない血を流しており、服は破れてそこからあちこちに痛々しい火傷があるのが確認出来る。
ヒスイちゃんがあまり身体が強くない事は知っていたけど、まさかここまでとは思わず、早くに駆け付けれなかった自分を呪う。
浅い呼吸を繰り返す彼女の口に、優しくハンカチを当てて階段を降りる。
(……軽い)
彼女とは身長差があるとはいえ、抱え上げた彼女の身体は余りにも軽すぎた。恐らく同じ体格の方と比べても。
色々と彼女に言いたい事はあったが、今は兎に角家の外に出ることに専念した。
誰かが救急車を呼んでくれてたのか、家の外に出ると救急隊員が待ち構えていた。
私からヒスイちゃんを受け取ると、迅速に適切な処置を施して救急車に乗せた。私も関係者として乗せてもらい、彼女の手を握って無事を祈ることしか出来なかった。
総合病院に着くと直ぐ様集中治療室に送られ、私は別の診察室に送られて火傷の治療をするように言われた。
治療を受けている間も気が気ではなく、飛び出すように彼女が搬送された手術室の前で待ち続けた。
何時間経っただろうか。気付けば手術室のランプは消えており、同時に医師が扉から出てきた。
話を聞くと、どうやら命に別状はないとの事だった。それだけで、私は安心感に包まれた。
扉がまた開き、そこから包帯を巻かれた姿のヒスイちゃんが、台に運ばれていくのが見えた。
私が慌てて追いかけようとするのを、しかし何故か医師は止める。
……何やらとても言いづらそうに、深刻そうに。
何でそんな顔をするのか分からず、尋ねました。尋ねて、しまった。
「ぅ、ぁ……」
「ヒスイ、ちゃん? 今目が……」
小さく、か細い声が鼓膜を揺らす。
綺麗な翡翠色の目が、小さく覗いた。
「はな、こさん……?」
「はい、私はここです!」
私の声で医師や看護師の皆さんが集まってきて診察を始めた。
朦朧とした様子のヒスイちゃんに必死に声をかけると、私が握っていた手を弱々しく握り返してきて
「はなこさんのて、あったかいねぇ」
「……! もうっ…!」
「あぅ、いたいよハナコさん」
「あっ……ご、ごめんなさい。私は……」
思わず彼女を抱き締めてしまい、苦悶の声が上がった。
慌ててヒスイちゃんから離れて、医師の皆さんの診察が終わるまで待った。
暫くするとヒスイちゃんも意識がハッキリしてきたのか、周りの見渡して、何処か納得したような顔をしていた。
時々痛みに顔を歪めつつ、何とか話を出きる状態に回復した。
すると医師があの時のように深刻そうな顔をして、ヒスイちゃんに向き合った。
嗚呼……言ってしまう。
「……皇ヒスイさん、今から言うことはショッキングな内容かもしれません。どうか、心して聞いて下さい」
「……?」
不思議そうに頭を傾げるヒスイちゃん。
ああ、どうか言わないで。
「先程の検査の結果、皇さんの脳に障害が残っている可能性があります。重度の酸素欠乏症で、その影響で恐らくもう、右足は動かないかと……」
「……ぇ」
目を見開いて、固まるヒスイちゃん。医者は詳しい経緯を話していきます。
もう、私は見ていられませんでした。
「そっ……かぁ……」
「申し訳ありません……!最善を尽くしましたが…」
「お医者さんは悪くないです……悪いのはあくまでやんちゃした生徒さんです。お医者さんは私を助けてくれました」
「っ……」
医者は息をのみました。
自分の足が動かなくなっても、混乱して、恨み節の一つも漏らさず、医者を労った。
すると突然私の方に視線をやり
「ハナコさんも、私を助けてくれたんですね。聞きました。
本当にありがとうございます」
「でも……でも貴女は……」
「正直、まだ整理はついてません。でも貴方達が助けてくれた事実は変わりませんから。
それにハナコさんに綺麗な肌に、そんな火傷をさせてしまって……私のせいで、ごめんなさい」
「なんでっ……貴女が謝るんですか…!!」
「だって、そうでもしないとハナコさん……自分のことを責めるでしょう?」
「!!」
図星だった。
翡翠色の瞳に、私の凡てを見透かされているようで、気まずくて目を逸らしてしまった。
クスッと笑って、ヒスイちゃんは続ける。
「私は本当に気にしてません。
寧ろ、私が原因でハナコさんが苦しむ方が嫌です。だから、どうか自分を責めないで下さい。貴女の親友からの、お願いです」
「……ずるい人ですね、貴女は」
「えへ……これでも学年二位の秀才ですから」
小さな身体で胸を張るヒスイちゃん。
でもそれが傷に障ったのか、痛みに顔を歪めた。
それに医者から注意を受けてしまい、風船のように萎んでしまう。不謹慎にもそれが可愛いと思ってしまった自分を恥じる。
その日の夜、私は特別にヒスイちゃんと同じ病室に泊まる事を許可された。本当にあのお医者様には頭が上がらない。
「すぅ……すぅ……」
「……」
隣で穏やかな寝息を立てるヒスイちゃん。
安心しきっているのか、隣にいる私の手を掴んで離さない。余りの無防備さに少し心配になるが、満更でもなかったので何も言わない。
それにしても……ヒスイちゃんの身体がここまで脆かったなんて知らなかった。よく風邪を引きがちだとは思っていたけど、物理的な面でも気を付けなければならないことが多くなる。もしかしたら、セイアさん並みか若しくはそれ以上に。
そんな彼女がまた、こんなことに巻き込まれたら──
「ッッ!!」
……耐えられる気がしない。
今回は大丈夫でも、次はそんな保証はないのだ。
「んぅ……」
「ごめんなさい、少し外します」
決意を固めた私は、名残惜しくもヒスイちゃんの手をほどき、病室の外に出る。
廊下には誰も居ず、静まり返ってた。
私は端末を開くと、とある方に電話を繋げた。きっとこの時間帯なら、まだ起きていらっしゃる筈だ。
『……はい、桐藤です』
「夜分遅くに申し訳ありませんナギサ様。少しご相談したいことが」
『はぁ…突然掛けてきたかと思えば貴女でしたか…。流石に時間帯は考えてほしいのですが』
ティーパーティー、フィリウス分派の一員桐藤ナギサ様。
少し前までは殆ど面識はなかったが、ヒスイちゃんとヒフミちゃんの繋がりで連絡先を交換する事になった。
初めてお会いした時は、ティーパーティー関連で余りよい感情は抱いていなかったが、ヒスイちゃんが仲を取り持ってくれて今では少し嫌味を言い合う程度の仲。
ほんの少し、自分を見せる事が出きる数少ない相手。
勿論一番はヒスイちゃんであり、そこは譲れない。
「それに関しては後で幾らでも埋め合わせはしましょう。それよりも本題に入っても?」
『私も余り暇ではないので手短にして戴けると──』
「ヒスイちゃんが襲われました」
『!』
通話の向こうで息を呑むのが聞こえた。
ナギサ様は、ヒフミちゃんの事でヒスイちゃんに嫉妬の感情を抱いているが、やはり彼女もヒスイちゃんの事がちゃんと好きなのだろう。
短い付き合いでも、それがよく分かった。
「今日の朝トリニティ近郊でヘルメット団の抗争があったのはご存知ですね?」
『…ええ、かなり大規模なものであったと』
「正確にはその抗争に巻き込まれた形です。偶然、爆発物が彼女の家を襲ってしまいました」
『ヒスイさんのご自宅の近くとは存じていましたが、まさか……いや、そうですか…
……話は分かりましたが、態々電話までして話したいことはそれだけでしょうか。私に、何をさせたいのですか?』
言い方は冷たい。何も知らない方が聞けば怒りに震えるだろう。
しかしナギサ様の言うことは正しい。話を続ける。
「トリニティ近郊におけるヘルメット団の掃討及び禁止法案──出来ますよね?」
『……私に、私兵の如く正実を動かし、その立ち役者になれと?
無茶な事は言わないで下さい。そんなこと今の私には──』
「出来ますよね?」
『……』
「正義実現委員会と太いパイプがある貴女なら」
ナギサ様は口を閉じた。
恐らく次の選択が分かれ目になると、熟考しているのだろう。
『……仮にそうだとして、貴女にそこまでする義理はありません。確かに、ヒスイさんの事は友人であると認識していますが、公私混同で武力を動かせばティーパーティーの沽券に関わります。それが分からない貴女ではないでしょう』
「……“モモフレンズ会場立て籠もり事件”」
『……!』
「覚えてますよね。数ヶ月前にあったこの事件。
自治区内で開催されたモモフレのライブ中にスケバンが乱入し金品を強奪、複数の生徒を人質にとった事件。この際妙に正義実現委員会の到着が早く、早々に鎮圧されたのは記憶に新しいです」
『……それが何か』
「その被害者の中に、ヒフミさんも居られましたよね?」
『……』
「確か、公私混同は出来ない、でしたか」
既にヒフミちゃんの為に私兵化している時点で今更な気もするが……立場上、そういう訳にもいかないのだろう。
「安心してください。何もこれは貴女にとってマイナスな事ばかりではありません」
『それは……』
「為政者には時に苛烈さも必要です。貴女がこの法案を通す際、反発は予想されますが、生徒達の目には治安の為に尽くす力強い為政者に写るしょう。
そしてそれに感化されたという大義名分のもと正実を動かし、暴力組織の根絶に成功すれば、次の会合での発言権はほぼ保証されると言って良いかと」
『……』
「政治家の務めは元より自治区の為、生徒の為に奉仕すること。貴女にとっても悪い話ではないと思いますが」
会話の主導権さえ握らせなければ、交渉は大抵上手く行く。
この無駄に冴える頭が役に立つ時が来るとは思わなかった。
ナギサ様は暫くの沈黙の後、大きく溜息をついた後に口を開く。
『……分かりました。しかし良いのですか? これでは完全に貴女が私への借りを作ったことになりますが……貴女らしくもない。
そこまでする理由は?』
理由? そんなの、決まっている。
「ヒスイちゃんの事が大好きだからです。貴女なら理解できるかと」
『…そうですね。少し、解る気がします』
きっとナギサ様も、ヒフミちゃんが同じ目に遭っているのを想像したのだろう。
その声には不快感が滲み出ていた。
『この話はティーパーティーの議題でも通しておきます。タイムリーな話題なので恐らく通るかと』
「それを聞いて安心しました。本日は夜分遅くにお騒がせしました。
それではナギサ様、良い夜を」
『本当にですよ……良い夜を』
「お医者さん、ビックリしてましたね!予定してたよりずっと早いらしいですよ!」
「そうなんですか。毎日リハビリを頑張った結果が出たんですね」
「えへへ、ハナコさんが毎日応援してくれたお陰です。
杖での歩行も慣れましたし、また遊びに行きましょう!」
「……ええ。楽しみにしておきますね」
数週間後、ヒスイちゃんは怪我の治療と杖を使ったリハビリに専念した。
片足といえど使えないのはかなり不便なようで、最初は僅かな段差ですら躓き、内心気が気ではなかった。
それでも持ち前の前向きな精神でひたすらに打ち込み、当初予定していたスケジュールをぐっと縮めて、日常生活で困らない程度には歩けるようになった。
その時、喜びの余り私に抱き付いてきたヒスイちゃんはとても可愛らしかった。
まだその喜びが抜けきらないのか、興奮した様子で話しかけてくれる。
未だ頭に包帯の巻かれてるヒスイちゃんがにこやかに言うと、少し心が痛むが。
……いえ、彼女は前を向いて歩こうとしている。それに同情するのは、ヒスイちゃんに対する侮辱になる。
浅はかな考えは捨てよう。今は彼女との時間を大切にしないと……
「……あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、あの……」
「気になる事があれば言ってくれないと分かりませんよ♡」
ヒスイちゃんは家が燃えてしまった為、学校内の寮に移ることになった。彼女は場合が場合の為、そして特待生であることも幸いして無料で寮が使えるようになった。
これからはヒスイちゃんと近くで暮らせるなんて、夢みたいだ。
そして荷物を寮に運ぶ為、そして回復報告を執務部に届け出る為に学校への道を歩いていると、突然ヒスイちゃんが歩みを止めた。
何か腑に落ちないといったように、首をかしげている。そんな仕草も可愛らしい。
私が催促すると、ヒスイちゃんは口を開いた。
「えっとですね、確かこの地区って結構治安が悪かった筈なんです。スケバンの皆さんがたむろしたり、改造車が走ったり……」
「まぁ、そうなんですか」
「なのに、不良の生徒さんが一人もいないのはどうしてでしょう? 必ず一日に三人は出くわすのに……少し不自然だな、って」
その瞬間、私の中で黒い感情が沸き上がる。
少なくともヒスイちゃんは、ここを通った際三回は危険な目にあっていたということ。
しかし、ナギサ様は上手くやってくれたようだ。
……安心してください、ヒスイちゃん。もうそんなことは起き得ませんから♡
「ハナコさんは、何か知ってますか?」
その問いに、私は努めて笑顔で返す。
「さぁ?私には分かりませんね♡」
貴女はこれからずっと、私が守りますから♡
トリニティ総合学園2年生
部活 : 帰宅部(暫定)
基本情報
トリニティ総合学園所属。容姿端麗・成績優秀であり同じく2年生の浦和ハナコと共に特待生として入学。
身体が強くなく、過去にヘルメット団の抗争に巻き込まれ右足が不自由になってしまう。日常生活において杖が必須のアイテムとなっており、ハナコが贈ったモノを愛用している。
性格は極めて穏やかであり、自身が不随になった原因の生徒に対しても負の感情を抱く事はなかったという。
年齢 : 16歳
誕生日 : 5月1日
身長 : 147cm
趣味 : 旅行、写真撮影